
IBC2026速報 Index
1. IBC2026 速報①「MXL」が概念から実装へ 〜ソフトウェア定義制作の共通言語を各社が製品搭載へ〜
2. IBC2026 速報②|併走するもう一つの標準化:NMOS BCP-008
3. IBC2026 速報③|Audio新製品まとめ 〜小型一体型のST2110コンソール、Neumann新3ウェイモニター、Pro Toolsのステム分離
4. IBC2026 速報④|A業界ニュース : 製品以外で押さえておきたい動き
5. (本記事)IBC2026 速報⑤|AIは「生成する」から「操作する」へ 〜 ELEMENTSとDaVinci Resolveに見る、MCP対応が業界標準になった年 〜
はじめに:去年までのAIと今年のAIは別物
IBC2026のオープニング基調講演に登壇したのは、AI俳優のTilly Norwoodであった。会場の話題をさらったこの一件は、放送業界におけるAIが「話題」の段階を抜けたことを象徴していたのかもしれない。ただ、本稿で取り上げたいのは、生成AIやデジタルヒューマンの話ではない。各社のブースで具体的な製品仕様として並んでいた、もう少し地に足の着いたAIの話である。
キーワードはMCP(Model Context Protocol)だ。ClaudeやChatGPTといったAIエージェントが、外部のツールやシステムを操作するための共通プロトコルである。昨年のIBCでは、AIといえば「自動文字起こし」「メタデータの自動付与」「ハイライトの自動生成」といった、AIが何かを生成・解析する機能が中心であった。今年は違う。ストレージ、MAM、NLE、ファイル転送、送出、制御系まで、ありとあらゆるレイヤーの製品が「MCPサーバーを搭載した」「MCP経由でAIエージェントから操作できる」と表明してきた。AIが制作システムの脇で何かを生成する存在から、制作システムそのものを操作する存在に変わった。これが今年のIBCで起きたことだと理解している。
本稿では、弊社が国内代理店を務めるELEMENTSと、DaVinci Resolve 21.1を筆頭に、MCP対応を表明した製品群を紹介し、その後にプラットフォーム型・ライブ運用型のAI製品を製品目線で見ていきたい。
MCPとは何か : AIエージェントとツールをつなぐ「USB-C」
MCPはAnthropicが2024年末に公開したオープンなプロトコルで、大規模言語モデル(LLM)ベースのAIエージェントが外部のデータソースやツールと安全に接続するための共通仕様である。よく「AIにとってのUSB-C」と喩えられる。それまでAIに外部システムを操作させるには、システムごとに個別の連携を開発する必要があったが、MCPサーバーを一つ用意すれば、Claude、ChatGPT、Copilotなど対応するAIエージェントのどれからでも同じように操作できる。
ポイントは「AIが判断して、ツールを呼ぶ」という点にある。ユーザーは「先週撮影したこのプロジェクトの素材を、監督向けにレビューリンクにして送って」と自然言語で伝えるだけでよく、どのAPIをどの順番で叩くかはAIエージェントがMCPサーバーから提供されるツール一覧を見て判断する。これまでスクリプトやワークフローエンジンで人間が組んでいた部分を、AIが都度組み立てる、というイメージだ。

ELEMENTS MCP Connector ── ストレージとMAMを、自然言語で

まず筆頭に挙げたいのが、ELEMENTS(7.B45)のELEMENTS MCP Connectorである。8月10日の公式ニュースで発表され、IBCのブースで展示されていた模様だ。
公式の説明によれば、ChatGPTやClaudeを基盤とするAIエージェントがELEMENTSプラットフォームと直接対話し、ユーザーが自然言語で目的を記述するだけで、必要なワークフローの手順をAIが判断・設定するとのこと。手動での設定やコーディングは不要とされている。例として挙げられているのは、セキュアなレビューリンクの生成、アーカイブ処理の自動化、ユーザーおよび権限のプロビジョニング、そして複数の連携ワークフローのオーケストレーションである。
同社CTOのHeiner Lesaar氏は「AIはもはやメディアワークフローを支援するだけでなく、能動的に参加できるようになった。我々の役割は、その対話を直感的で、安全で、統制されたものにすることだ」とコメントしている(プレスリリース版の引用。同社IBCページ掲載版では「直感的で安全な」という表現になっている)。この「統制された(governed)」という言葉は重要で、ELEMENTSがもともと持っている細かな権限管理の仕組みの上でAIエージェントが動く、という設計思想と読める。「誰がどこまでAIに操作させるか」を決められることが、ポストプロダクションや放送局のような環境でAIを使う際の前提条件になるからだ。
ELEMENTSは元来、高性能ストレージ(ONE/BOLT/SAN/GATEWAY/GRID/CUBE/NAS)の上に、Media Library(MAM)、Rough-cut Editor、BLINK、Cloud Platform、Satellite、Media Archiveといったソフトウェアを載せ、周辺のツールを取り込んで「つながる」ことを重視してきたプラットフォームである。今回のMCP Connectorは、その「つながる」相手にAIエージェントが加わった、と捉えるのが正確だろう。あわせてスマートメタデータ・エンリッチメント/AI Searchの強化、Eagle Studioのイマーシブ制作向けプロダクションスレート「Eagle Slate」とMedia Libraryの連携も案内されている。
IBCに合わせて、Archiware P5 ArchiveとELEMENTS Media Libraryの直接統合も発表されている(Archiware公式資料は2026年9月付、業界メディアでは9月7日以降に報道)。Media LibraryのUIからLTO/クラウド/NASへ直接アーカイブでき、既存のTape Archiveモジュール/Tape Workerを段階的に置き換えていくとのこと。P5 Archive DLMモジュール、LTFS、並列テープ動作に対応する。日本のポストプロダクションや放送局ではLTOによるアーカイブ要件が根強く、「ELEMENTS+Archiware P5」という組み合わせが標準構成として提案しやすくなったのは、国内代理店としては大きな進展である。

なお、ELEMENTS MCP Connectorの提供時期・価格・対象バージョンについては、会期終了後の現時点でも公式には発表されていない。弊社としてもELEMENTS本社に確認を進めており、国内向けのデモ環境の準備とあわせて、続報を改めてお伝えしたい。
Blackmagic Design DaVinci Resolve 21.1 ── NLEにネイティブMCPサーバー

もう一つの必須項目が、9月8日に発表・即日提供されたDaVinci Resolve 21.1である。最大のトピックは、AIアシスタントとの連携のためのネイティブMCPサーバーを搭載したこと。設定は「File > Setup AI Assistants」から行い、Claude、Claude Code、ChatGPT Codexなどを接続できるという。Resolveのスクリプティング環境はこれまでもPython/Luaから操作できたが、それがMCP経由でAIエージェントに開かれたことで、「このタイムラインのカット点を全部書き出して」「このクリップ群にこの命名規則でマーカーを打って」といった作業を、Claudeなどのエージェントに対話で依頼できる素地が整った。なお高度なスクリプティングはStudio版限定で、21.1ではPython 2のサポートが廃止されている。
21.1では他にも、Inspectorプリセット、25種類以上のシェイプ/3Dツール、DRFXマルチテンプレート、OpenPBRシェーダー、DJI D-Log2/GoPro Log/Leica L-Logの対応、Dolby Vision/HDR10+/HDR Vividの個別トリム(Studio)、HTJ2K EXR書き出し、GPUによるJPEG2000/HTJ2Kデコードなどが追加されている。Studio版は€305。21.1で作成・オープンしたプロジェクトは20.3系では再オープンできないので、共有環境でのアップデートには注意が必要だ。Blackmagicブース(7.C49)ではこの21.1に加え、Blackmagic Cloudの拡張、SMPTE ST2110ネイティブ対応製品群が展示されていた模様である。IBC向けの新ハードウェアの発表は確認できていない。
ELEMENTSとResolve、この2つがどちらもMCPに対応したことの意味は大きい。ストレージ/MAMとNLEが同じプロトコルでAIエージェントから見えるということは、「素材の検索と取り出し」から「タイムラインの操作」までを一つのAIエージェントが横断できる、ということだ。「MCPでつながるポストプロダクション環境」は、単なる機能の足し算ではなく、ワークフローの組み方そのものを変える可能性がある。弊社でも早期に検証環境を組み、その実際をお伝えしていきたいと考えている。
MCP対応の広がり : ストレージからMAM、転送、送出、制御系まで

ELEMENTSとResolve以外にも、IBC2026でMCP対応を表明した製品は多い。報道と公式リリースから確認できたものを、レイヤー別に整理しておく。
MAM/クリエイティブオペレーション:Backlight iconik(1.D09)は新たにMCPサーバーを搭載し、AIアプリケーションをメディアライブラリに直結できるようになったという。あわせてAIによる提案メタデータ(編集者の承認制)、自然言語検索、Publish Panel(YouTube/Instagramへの直接配信)のGA、収録中ファイルのグローイング編集、Wildmokaとの連携による「AI Moments」(β)も発表されている。
ファイル転送:Signiant(5.C74)はSigniant MCP ServerをClaude/ChatGPT/Copilot対応で既に提供中とのこと(導入は同社プロフェッショナルサービス経由)。Media Shuttle Intelligent Transport、無償の横断検索Pulse Essentials、マルチステップのエージェントを組めるPulse AI Studio、aiQC「Verify」(TV Tech Best of Show受賞)など、ポートフォリオ全体をAI前提に組み替えてきた印象だ。
トランスコード/ワークフロー:Telestream(7.B21)はクラウドネイティブ基盤「Telestream UP」の次フェーズ(UP.Capture/Lens/Review/Workflow/Ingest)でMCP対応を掲げている。NVIDIAと共同開発した「Vantage Super Resolution」(SD/HD→HD/4K/UHDアップスケール、Blackwell GPU搭載Lightspeedサーバー、Q4 2026提供予定)のプレビューも行われていた模様。
制御系:Imagine Communications(1.B73)の新コントロールサーフェスMagellan PanelFlexは、PanelFlex-AIがシステム情報をMCP経由でAIに提供するという。放送設備の制御パネルがAIエージェントの操作対象になる、という点で、MAMやNLEとはまた別の意味で興味深い。
配信運用:Ateme(1.D55)は運用基盤PILOTを「MCPによる相互運用性を備えたAIコントロールプレーン」へと進化させると位置付け、ハイライト自動生成、9:16リフレーム、遅参視聴者向けリキャップを実演していたとのこと。VesetはクラウドプレイアウトNimbusにMCP対応とセルフサービスFAST/OTTプレイアウトを追加した(同社は日本のPLAY, Inc.のOTTプラットフォーム「STREAKS」のグローバルデビューも発表している)。
バーチャルプロダクション:Aximmetryは、事前の案内(同社メールマガジン)でAI Assistant+MCP対応と、Gaussian Splatsのネイティブ対応を予告していた。公式サイト上のリリースは確認できていないため、詳細は同社の続報を待ちたい。
こうして並べると、MCPは特定のカテゴリーの流行ではなく、放送・ポストプロダクションのほぼ全レイヤーで同時に採用されたことが分かる。「AIエージェントから操作できるか」が、来年以降の製品選定の一項目になるのは間違いないだろう。
AIに関するニュース、引き続き、次の記事に続きます。
公式サイト
IBC2026
記事内に掲載されている価格は 2026年9月28日 時点での価格となります。
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