
IBC2026速報 Index
1. IBC2026 速報①「MXL」が概念から実装へ 〜ソフトウェア定義制作の共通言語を各社が製品搭載へ〜
2. IBC2026 速報②|併走するもう一つの標準化:NMOS BCP-008
3. IBC2026 速報③|Audio新製品まとめ 〜小型一体型のST2110コンソール、Neumann新3ウェイモニター、Pro Toolsのステム分離
4. IBC2026 速報④|A業界ニュース : 製品以外で押さえておきたい動き
5. IBC2026 速報⑤|AIは「生成する」から「操作する」へ 〜 ELEMENTSとDaVinci Resolveに見る、MCP対応が業界標準になった年 〜
6. (本記事)IBC2026 速報⑥|プラットフォーム発想のAI : Dalet Dalia、Avid、Adobe
プラットフォーム発想のAI : Dalet Dalia、Avid、Adobe
Dalet Dalia ── 「囲い込まない」エージェンティックAI基盤

MCP対応製品とは少し違う角度で注目したいのが、Dalet(7.A43)のDaliaである。Daletはこれを「メディア対応のエージェンティックAIプラットフォーム」と位置付け、4月のNAB 2026で商用提供開始を発表、IBC2026ではその実運用例を前面に出していた模様だ。IBC Acceleratorの「AI for Live Sports and Beyond ── meCast」プロジェクトでは、Astro/MBC/TCS/AWS/ITV/Google Cloudがチャンピオンとなり、AIオーケストレーションによるライブスポーツワークフローのデモにDaletも参加していたとのこと。
Daletはもともとラジオの制作システムからスタートし、テレビ・ニュース制作へと領域を広げてきた会社で、「プラットフォーム」を作ることに長けている。Daliaの面白さは、個別のAI機能を売るのではなく、複数のAIエージェントとメディアシステムを繋ぐ土台として提示している点にある。周りのものを自社に取り込んで囲い込むのではなく、「みんなが繋がる」ための基盤を作る。この発想はELEMENTSのプラットフォーム思想にも通じるところがあり、個人的に注目している。あわせて、Dalet FlexにNVIDIAのSynthetic Video Detectorを統合し、AI生成コンテンツの検出をレビュー・承認ワークフローに組み込む取り組み(EU AI Act第50条対応、POC提供中)も発表されている。AIで作る側と、AIで作られたものを見分ける側。その両方をプラットフォームに載せているのがDaletらしい。
Avid ── Avid AssistとGoogle Cloud、ブラウザ版Media Composer

Avid(7.B59)は「エージェンティック・メディアプロダクション」を掲げ、Media Composerを「エージェンティック・オーケストレーション層」で各種AIと接続する構想を公式リリースで示している。報道ではこの統制付きのエージェント層がAvid Assistと呼ばれている。Media Composer 2026.8(9月1日提供開始)では、話者識別で自動マルチカム編集を行うPhraseFindAI Multicam Auto Cut、自然言語プロンプトで編集の下ごしらえをするReady to Editパネル(プレビュー)、Google Geminiパネル、Content Coreとの連携、ブラウザベース編集(プレビュー)が案内されている。
そして会期中の9月11日には、Google Cloudとの提携拡大として、Chromeブラウザで動作するMedia Composer(Gemini Enterprise+BigQuery統合、Content Coreのセマンティック検索、Site Engineによるハイブリッド構成)が発表された。GA時期は未定。Content Core自体はAWS(S3/Bedrock)、Google Cloud、Azureの3クラウドに対応するとのこと。AvidのAI戦略は、MCPのようなオープンなプロトコルというより、自社のオーケストレーション層とハイパースケーラーのAI基盤を密に結ぶ方向に見える。アプローチは異なるが、「AIが編集システムを操作する」という到達点は同じだ。
Adobe ── Premiere Proのタイムラインに「生成」を直接持ち込む

Adobe(13.D501/7.B35)は9月8日に、Premiere ProのGenerative Media Toolを発表した。タイムライン上のギャップを指定すると、映像、SE、Soundscape(β)、Music(β)を生成して埋めるというもので、生成モデルはFirefly、Google Veo、Kling、Runway、Lumaから選択できる。他社モデルを含めて選べるようにした点が、Adobeとしては大きな方針転換である。音声関連では、Enhance Audio、Separate Crosstalk、Dynamic Auto Duckingが追加され、After Effectsには自然言語で操作する「AI Assistant」がPublic Betaで搭載された。Frame.io Mounted Storageは全アカウントに提供されるという。こちらは「生成AI」の王道を行く製品群だが、After EffectsのAI Assistantのように、自然言語でアプリケーションを操作する方向にも足を踏み出している。
ライブ運用のAI : 音声ミキシング、伝送、トラブルシューティング
Jünger Audio flexAI ── 自律ライブミキシングが製品に

オーディオ側のAIとして取り上げておきたいのが、Telos Alliance傘下Jünger AudioのflexAIである。今回のIBCで、自律ライブミキシング機能「CastCompanion」が追加された模様。あわせて12G-SDI(AIXpressor、商用提供は2026年末)、NDI接続、TVU MediaMeshとの連携に対応し、Fraunhofer IISのブースではクラウドネイティブMPEG-H制作チェーンの構成要素としても名を連ねている。TVBEuropeのBest of Showも受賞した。
「AIがライブの音声をミックスする」と聞くと身構える方も多いと思う。実際のところ、これは音楽ライブのFOHをAIに任せるという話ではなく、ニュースやスポーツ中継のように、話者が入れ替わりながらも一定のバランスを維持したい場面で、レベル管理やダッキングを自律的に行う、という用途と理解している。Jüngerはもともとラウドネス処理や自動レベル制御で放送局に深く入り込んでいるメーカーであり、その延長線上にこの機能があると考えれば、唐突な話ではない。「こういう製品が出始めた」という段階ではあるが、放送の音声運用に確実に入ってくる領域だと見ている。
swXtch.io「abbe」 ── 会話で伝送系を組み立てる「AI放送エンジニア」

swXtch.ioは9月8日にabbeを発表した。「AI放送エンジニア」と銘打たれたこの製品は、会話で要件を伝えると、SRT伝送、クラウドリソース、NVIDIAの音声モデルの連鎖を自動で構築するという。AWS/Azure/OCIに対応。同社は専用コーデックハードウェア不要でAoIPトランスポートを実現するソフトウェア定義マルチキャストオーバーレイ「groundSwXtch」も発表しており、クラウド側のcloudSwXtchと合わせて、「ネットワークの構築そのものをAIに任せる」という方向に進んでいる。
そのほか
GB Labs(1.D24)は新プラットフォームCore.ONEとともに、RAIDの状態やレプリケーションの状況を自然言語で答える対話型AIアシスタント「Kora」を発表。Moments LabはMXTの約50%高速化とDiscovery Agent連携の「Studio」を、CuezはOpen AI Agent FrameworkとMOS対応のAutomatorを案内している。ライブ制作のAIエージェント活用については、ITN・BBC・Channel 4主導でCuez、Shure、EVS、Google Cloudらが参加した「AI Agent Assistants for Live Production」が、IBC Accelerator Project of the Year 2025を受賞した。
TVU Networks ── MediaHubの「エージェンティック・トラブルシューティング」
TVU Networks(5.B86)は、MediaMeshに「Build(ノーコードのワークフロー構築)/Operate(役割別ワークスペース)/Observe(統合監視)」を追加し、SIerと選定顧客向けにLimited Availabilityを開始した模様。そしてMediaHubでは、プロトコルを学習済みのAIエージェントによる「エージェンティック・トラブルシューティング」を実演していたとのこと。伝送のトラブルは「どこが原因か」の切り分けに時間を取られるのが常であり、そこをAIが担うというのは現場の負荷を直接下げる話だ。ReutersとTVU MediaMeshを核とした「Capacity that follows the live news story」は、今年のInnovation Awards Content Distribution部門を受賞している。
まとめ : 「エージェント+MCP」が来年の共通語になる
今年のIBCのAIを振り返ると、二つのことが言える。
一つは、MCPという共通プロトコルが、放送・ポストプロダクションのほぼ全レイヤーで同時に採用されたこと。ELEMENTS(ストレージ/MAM)、DaVinci Resolve(NLE)、iconik(MAM)、Signiant(転送)、Telestream(トランスコード)、Imagine(制御)、Ateme(配信運用)、Veset(プレイアウト)、Aximmetry(VP)。これだけの製品が同じプロトコルでAIエージェントから見えるということは、ベンダーの壁を越えてAIエージェントがワークフローを横断できる、ということを意味する。
もう一つは、AIの役割が「生成・解析」から「操作・運用」へと移ったこと。Jünger flexAIの自律ミキシング、swXtch.io abbeの伝送系自動構築、TVUのトラブルシューティング。いずれも、人間がこれまで手で組み、手で直していた部分をAIが担う製品である。
MCP対応の製品が増えれば増えるほど、「どのAIエージェントに、何を、どこまで任せるか」という統制の設計が重要になる。ELEMENTSのHeiner Lesaar氏が「直感的で、安全で、統制された」対話と表現したのは、まさにこの点だろう。ROCK ON PROでは、ELEMENTS MCP Connectorの国内提供に向けた準備を進めるとともに、Resolveをはじめとする各社のMCP対応製品を組み合わせた検証環境を構築し、「MCPでつながるポストプロダクション環境」がどこまで実用になるのかを、改めてお伝えしていきたいと考えている。
出典・参考リンク
公式サイト
IBC2026
記事内に掲載されている価格は 2026年9月29日 時点での価格となります。
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