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自らを「現“在”美術家」と称して、映像、グラフィックデザイン、VJ、文筆など、複数の領域で活動を続けるアーティストの宇川直宏氏が手掛ける日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネルのDOMMUNE(ドミューン)。音楽/アート/映像/クラブ・カルチャーなど多様なジャンルを横断し、国内外のアーティストやクリエイターを迎えたトークやDJ/ライヴなどの番組をインターネットで生配信しています。そのDOMMUNEが手掛ける新しいプロジェクト「声帯AI中原昌也」は、当初は、病気の合併症で半身不随となったアーティストの中原昌也氏が新たな方法で再び執筆活動を復活できるように画策したもの。
同プロジェクトのDOMMUNEでの配信、さらには今年の8月に品川ANOMALYでの展示映像にもBlackmagic Designの製品を導入しました。ここでは宇川氏に加えてDOMMUNEの清水健太氏に同社製品についての魅力について、さらにはこのプロジェクトを立ち上げた理由についても伺いました。

Rock oN : 「声帯AI中原昌也」を発起した経緯について教えてもらえますか?
宇川 : 僕と中原君は35年来の友人でして、ご存じかもしれませんが、中原君は小説家であり映画評論家でもあり、ミュージシャンとしても活動していました。その彼が2023年に糖尿病の合併症で脳梗塞を引き起こして入院しました。その時に僕たちも支援番組をやったりして、できる限りのサポートをしてきたのですが、左半身に麻痺が残り、視力を大きく失ってしまいました。つまり、映画が観られないから評論もできないし、文字も書けないから小説の執筆も難しく、また彼の音楽は電子音楽なので、シンセやエフェクターをパッチングしなければならずなかなか演奏も困難になってしまった。そんな彼にどうにか小説を書く表現を復活させることはできないかというプロジェクトを2025年の9月にDOMMUNEで立ち上げ、「Konel」というクリエイティブ・チームを率入れて、“中原昌也のAIを作る”というのがはじまりでした。
Rock oN : 中原さんのAIは具体的にどんなAIなのですか?
宇川 : RAG(ラグ:Retrieval-Augmented Generation / 検索拡張生成)という方法で、中原昌也がこれまでに書いた小説やライフログとしての作業日誌をすべて学習させることで中原昌也の“知識ベース”を構築したあとに、大規模言語モデル(LLM)に接続しているので、“中原脳”を通じて世界が見えているAIです。加えてボイス・クローニングも果たしたのであのニヒリズムもそのままに中原君そっくりに喋ります。このプロジェクト自体が生成AIの日進月歩な進化とも連動しているから中原君が病を背負ったタイミングで「声帯AI中原昌也」を作ることができた。これは、時代精神が伏流したすごく稀有なプロジェクトだと思っています。つまり、今後もまだまだ進化させることができる。
Rock oN : 資料の映像を拝見しましたが、高橋源一郎さんと「声帯AI中原昌也」が“対話をしながら”、新しい物語を書いていくという方法が印象的でした。
宇川 : 一番最初は、中原君本人と「声帯AI中原昌也」対話をしながら長編を書こうとしていたんですよ。でも、中原君の障害の負担もあって、集中力が途切れがちになってしまって。僕も改めて気が付いたのですが、ある程度の長さを持った文章って視覚を通じて活字を黙読しながら、部分的に物語を心の中で反芻するという作業を普通に経て記されるじゃないですか? でも中原君は今、音読したものを流して聞く以外に方法がない。視覚的な文字情報を通過せず、耳から入る情報だけで、リニアな時間を通じて物語が流れていく。なので過去に戻ってディテールをアップデートするというノンリニアな作業が途方もなく大変なのです。それで、長編小説の制作には向かないことが分かり、短編を作るようになっていきました。短編の長さだとある程度脳内で記憶しておくことができますから。

Rock oN : 短編の小説を生み出す存在となった「声帯AI中原昌也」になることで、宇川さんのなかでも捉え方が変わりましたか?
宇川 : 短編を対話で構築するので、登場人物の数など物語の構成要素も限られます。だからこそ、例えばコントラストの強いふたつの記号を与えことによってその世界観が奇妙に絡んだ独自の物語として生成してくれします。それらを単純に接続するのではなく、異質な世界観同士を奇妙に交配させ、こちらの予測を逸脱する独自の物語を生成していく。つまり、物語をゼロから構築しているというよりも、異なる文脈や記憶の断片が衝突することで、そこから第三の世界が発生していくような感覚なんですね。そして、この構造が何かに似ていると思ったとき、気づいたのが「口承文芸」だったんです。民話や神話、伝説のような、小説という近代的な形式が成立するはるか以前から存在していた物語の在り方です。そこでは物語は、特定の作家によって書き上げられた完成形ではありません。人から人へ、土地から土地へ、時代から時代へと語り継がれる過程で、絶えず編集され、変形され、ときには誤読や脱線さえ取り込みながら生成され続けていく。つまり、物語とは本来、固定された作品ではなく、伝達されるたびに変異する、生きたプロセスだったわけです。
民話とか神話とかのような小説以前の物語……最初は長編を描こうと挑戦していたものの先ほど述べた理由で、障害を背負った生身の人間側が対峙困難で、だからこそ小説が誕生するよりはるか前、それどころか文字の発明以前から語り継がれてきた、文字通り「物語」の在り方を考えていけないかと、プロジェクト自体の舵を大きく切り直しました。つまり一般の語り手を横断するドキュメント的なアプローチになりました。重要なのは、その生成の根底に、生身の中原昌也が積み重ねてきた文学的経験や言語感覚があることです。しかしそれは、過去の作品を再現するためだけのものではない。中原昌也という作家性を、異なる人々の声や経験と衝突させることで、本人すら書いたことのない物語へと変異させていくための装置なんです。つまり、ここで生まれたのは、単なる「小説を書くAI」ではありません。過去の文学を記憶し、現在の人間と対話し、その場で生まれた物語を未来へと運んでいく、21世紀の口承メディア。言ってみれば、「声帯AI中原昌也」自体が、デジタル時代の吟遊詩人になったんです。そして、それはAIによる文学の自動化ではなく、AIによって文学が再び「声」と「身体」と「場所」を取り戻す試みでもあったんです。

Rock oN : その考えが、品川ANOMALYで開催された一般のオーディエンスと「声帯AI中原昌也」が対話して短編を制作するという、インスタレーション&ワークショップにつながったのですね。
宇川 : はい。展示で生まれた小説は一般の方々と「声帯AI中原昌也」、つまりは病前の中原昌也との共作になりますが、パブリックドメインにしていて、感熱紙に印刷されてレシート状の紙を持ち帰ることもできるようにしました。それを読んだ人がそこから映画を作ってもいいし、どう拡張していってもらってもかまわないという。このときのワークショップはドキュメンタリーとして映像も収録しています。
Rock oN : このプロジェクトに際してBlackmagic Designの製品を導入されています。最初はこのプロジェクトのティーザー動画に使用されたと伺っています。
宇川 : 僕が中原君の車椅子を押して、自宅からDOMMUNEがある渋谷パルコの9階まで一緒に移動するのですが、まずはその撮影にBlackmagic Designのカメラを使いました。なので、あのティーザーの原型となる映像はBlackmagic Designなんです。で、その後、ドキュメントっぽく撮った映像とプロンプトをAIに渡して、車椅子と一体化して巨大ロボット化するヒューマノイド中原昌也になるという。まさに最前衛な実験現場地としての現在、生成AIを使って映像を拡張するという、今回のプロジェクトの手法の原点となるものにBlackmagic Designを使いました。

清水 : このティーザー制作はBlackmagic Design Pocket Cinema Camera 6K Proを2台で撮影しました。
宇川 : それ以降も現段階だと7回のライヴ配信、展覧会とワークショップなどでもドキュメント撮影に使用していて、今後、このプロジェクト自体もまだまだ続いていきます。「声帯AI中原昌也」は物語の拡張であって、たとえば物語から歌が生まれてもいいし、今回のように映像が生まれてもいい、また、僕らは中国のUnitree G1の日本代理店とコラボしていて、中原昌也のフィジカルAI展開も披露していて、車椅子から立ち上がり一緒にダンスをするというパフォーマンスも行っていたりします。そうやって物語自体がマルチモーダルな展開をしていくのが、今回のアートプロジェクトの中心となるコンセプトです。

Rock oN : Blackmagic Designのカメラを実際に使ってみてどんな印象でしたか?
清水 : Pocket Cinema Cameraはドキュメンタリーの撮影や配信でもかなり使いやすい印象がありました。手軽にシネマルックが撮影できるのも良かったですね。Studio Cameraは配信に持ってこいという印象でした。どちらもパッと触って使えたので操作性の良さを感じました。
Rock oN : DOMMUNEの主軸でもある配信時のシステムについても具体的に教えてください。スイッチャーにATEM Mini Extreme ISO G2を使用しているようですが、こちらの使い勝手はどうでしたか?
清水 : Blackmagic Design Pocket Cinema Camera 6K Proを2台とStudio Cameraが1台、URSA Broadcast G2 が1台で計4台です。すべて三脚に設置して全景と出演者のヨリと狙っています。スイッチングも含めてスタッフは多くて5名ですね。ちなみにスイッチャーはATEM Mini Extreme ISO G2でモニター兼レコーダーとしてBlackmagic Video Assist 7” 12G HDRを使いました。導入してからバタバタしてしまい、いきなり本番という感じでしたが、テストなしでも使えるあたりからも、セッティングを含めてわかりやすい体感がありました。ATEM Mini Extreme ISO G2はスイッチングした情報も含めたプロジェクトを保存できるので、今後はDaVinciと合わせて編集にも導入したいと思っています。



Rock oN : 長年に渡ってライブ・ストリーミングを行ってきたDOMMUNEが、このタイミングでBlackmagic Designの機材を導入しようと思った理由を教えてください。
宇川 : 現代は“シネマティック”という記号が、普通に世の中に広まっていると思うからです。映像にリアリティを求めるときは映画レベルのクオリティが強く求められている。普通に生成AIのプロンプトとしても“シネマティック”は一般的に使われます。つまり高解像度でシネマティックな映像がSNSに溢れていることからも、それが世界標準になっている印象もあります。家電で例えるとIOTの進化系としてAI搭載モデルが必須になっているのと同じです。そう考えると、DOMMUNEもドキュメントを撮る段階からシネマティックでないといけない。このタイミングでBlackmagic Designの機材を使うというのは僕らにとって必然だったと思っています。
清水 : 宇川が言ったようにシネマティックであること、あとはどのモデルも配信での使用を想定しているというのも僕らにとっては大きな魅力ですね。
Rock oN : 生成AIの進化ともリンクする「声帯AI中原昌也」は、今のタイミングでしかできないプロジェクトであるのと同時に、人間の表現を根本から見つめ直すものでもあるようにも感じました。
宇川 : まさにそうで、人間が今まで積み上げてきた表現はどこに向かうのか?プロンプトのみでAIが簡単に作品を生み出してしまう。そんな現在、作家性とはどこにあるのか?つまり今世紀的な芸術の成立条件そのものを問うているプロジェクトでもあります。クリエイティブという角度から見たら、AIによって人間の表現領域は狭められているとも言えるし、そのなかでどんな新たな創作のあり方を獲得できるのかを考えないといけない。だからこそ、現在、障害を背負ってしまった中原君をモチーフに、僕たちは彼をサポートしながら、一緒にどのようにコンテンポラリーな作品を残せるのかっていうことを考えています。
Rock oN : その作品を記録するためにもBlackmagic Designの機材は有効ですね。
宇川 : 僕はDOMMUNEのことを“ライフログアート”プロジェクトだと位置付けています。その確信にあるのは、いまここに生きている生身の自分、そして自分自身と関係性を持つ人々との営みを絶えず記録し続けるということです。この時代、生きていることそのものが人間の表現でありひいては生命を持つものの特権でもある。そのような生身の記録を残せること自体、我々にしかできないことだと思うんです。AIはもうすでに意識と呼びうるものを獲得しているかもしれません。しかし少なくとも僕たちのように肉体を持ち、老い、衰え、やがて死を迎える存在ではありません。となると、僕らが最期に迎える“死”も同じく特権だと思います。じゃあ、死ぬまでの限られた時間に何を残せるのか?それは、生の密度を極限まで高め、その痕跡を記録し続けることだと思うんです。生き生きと対話している姿から、やがて衰え、枯れて死んでいく姿までを残し続ける。記録とは、不可逆な時間の流れのなかで、失われゆく現在を未来へ送り届ける行為でもあるわけです。そのようなシンプルで、だからこそ根源的な表現に、僕はBlackmagic Designのカメラを使いたい。まず“Blackmagic(黒魔術)”ってブランド名に触れたときから衝撃を受けていました。黒魔術とは、古来、生と死の境界に介入し、ときには死者の召喚や呪術的な再生さえ試みてきた、人間の根源的な欲望の象徴です。そんな名前を冠したBlackmagic Designの世界観は、実際にカメラを使ってみて分かったというか。今、目の前で展開している生々しい現実を、何でこんなにもドラマチックに撮影できるのか。やっぱりそこには魔のスキルが関係しているに違いないって。僕はBlackmagic Designは、まさに現代のテクノロジーが導き出した黒魔術だと思っています。


メーカーリンク
Blackmagic Design
https://www.blackmagicdesign.com/jp
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記事内に掲載されている価格は 2026年11月2日 時点での価格となります。
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