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慣れたワークフローはそのままにスタジオをグレードアップしたいと思ったらモニター環境のレベルアップが最適。一番効果があってミックスの仕上がりが変わるところだと思います。
ここでは、改めてスピーカーの選び方を指南します。一般的にスペック表に用いられる用語を使い、基礎知識からあまり知られていないスペックの読み方まで、実用性を考慮して端的にまとめました。スピーカー選びは何と言っても自分の耳で聴いて決めることが大事ですが、視聴の前にこの記事を読んでおくと候補を決めやすくなります。ぜひお役立てください。
スピーカー選びで気にしたいポイント
1. あなたはどっち? エンジニア向け or アーティスト向け
2. 数字にごまかされない、再生周波数特性の読み方
3. 無理をするより小型スピーカーを上手に使おう
4. アンプの方式を知って、傾向を探ろう
5. 店頭で試聴。最後は自分の耳で確かめる
1. あなたはどっち? エンジニア向け or アーティスト向け
まずはここからスタートしましょう。Rock oNはこれまで、モニタースピーカーは「エンジニア向け」と「アーティスト向け」の2タイプで分類できるとしてきました。
エンジニア向け
エンジニアが必要とするフラットな特性と高い解像度、そして全帯域に渡りダンピングの効いた特性を持ち、ボーカルの吐息やリバーブテールの切れ際まで、精細なサウンドを映し出すことが求められます。その分、サウンドの傾向は耳障りが地味に聴こえる印象になる傾向があります。
アーティスト向け
アーティストの気持ちをアゲてくれるスピーカー。モニタースピーカーとしての仕事を行える高い性能を持ちながらも、意図的にある程度の色付けがされていて、パワフルな低域や天高く明るい高域で、最後までグングンと曲作りを進めてくれるスピーカー。派手なスピーカーでミックスをすると相反しておとなしいミックスになってしまうこともあるので、特徴を把握することが重要です。
ここでは先入観を避けるためにどのスピーカーがどの方向性に分類されるかは明記しません。もちろんこれらの特性は心理テストの結果と同じくどちらかに偏るわけではなく、両特性のバランスを見極めることが肝心です。しかしこのような特性で基準を持つことができれば、数種類のスピーカーを視聴する際に、始めは違う特性のスピーカー同士を試し、そのあとに気に入った方向性のものをチョイスしていくことができます。
2. 数字にごまかされない、再生周波数特性の読み方
スペックを読む上で最も冷静に見つめたいのが「再生周波数帯域」です。読んで字のごとく製品が再生する音の周波数帯域を数値で表したものですが、単純に下から上まで幅広く数字が書かれていればいいわけではありません。
NF-01Rと2000年に発売されたNF-01Aのスペックを比較してみましょう。
![]() NF01R |
![]() NF-01A |
---|---|
57 Hz~25 kHz (±3dB)![]() |
55Hz〜40kHz (±10dB)![]() |
高域に注目してみると、旧モデルのNF-01Aが40kHzまで出ているので勝っているように思えます。しかし周波数特性を表すグラフをしっかり見つめると単純に数字を読むだけではダメなことがわかります。
まずはNF-01A。黒いドットを55Hzと40kHzに置きました。すると、その間の帯域がフラットに出ている約90dB(紫)から-10dBの位置にある(緑)ことがわかります。
これは「フラットから△dB落ちたところが○Hzですよ」という意味で”55Hz~40kHz (-10dB)”と表記できます。NF-01AはJIS規格で定められた-10dBを基準にスペックが作られたようです。
続いてNF01Rは、FOSTEX独自の(-3dB)を基準としてるということ。
NF01Rはフラットな約90dBから-3dB落ちたところに57Hzと25kHzがありますね。同じ3dB基準で測ると、NF-01Aは20kHzほどになります。それはグラフの形を見ても明らかです。
「どちらがよりフラットに、高い周波数まで再生できますか?」となるとその答えは
55Hz~40kHz (-10dB)のNF-01Aよりも
57Hz~25Hz (-3dB)のNF01Rだとなります。
NF01Rの方がより厳しく性能を見ているということですね。
低域も同じです。もしNF-01Aを-3dB基準で測ると60Hzあるかないかの値です。
そもそも”◯Hz”とは「1秒間に+-の波が◯回繰り返されたか」を表す単位。スピーカーならば、1秒間に何回コーンが前後に動いたかということです。そう考えると極端な話、どんなスピーカーであっても1秒間に1往復させると1Hzということになりますよね。つまり極論、スピーカーはいくらでも下を再生することができるのです。しかしNF01Rのようなコンパクトなウーファーでは可聴可能な音圧を稼ぐほどの空気振動を生むことはできません。いくらでも下は出せるけど音にならない。ここで(-△dB)の値が必要となるというわけ。
以上が再生周波数帯域を最も冷静に見つめないといけない理由です。この (-△dB)に関しては表示しているものはあまり多くなく、メーカーによって独自の基準を設けられている場合もあるので、やはりスピーカーの実力は実際に耳で確かめる必要があります。
3. 無理をするより小型スピーカーを上手に使おう
スピーカー選びは、スタジオに適したキャビネットの大きさ、ユニットの数やアンプの出力など総合的なサイズ感を見極めることが大事です。個人宅のホームスタジオなどでは住居建物と近隣に配慮したスピーカー選びが特に注意が必要です。
極論ですが、しっかりと力強い低域が聴きたいと8インチウーファーと150W越えのパワーアンプを搭載した大型ニアフィールドを購入したとして、そのポテンシャルを発揮させる音量まで上げて使うにはそれなりの防音&調音された部屋が必要です。また帯域ごとにデバイドされたツイーターとウーファー間の音を切れ間なく聴くためにはそれなりに離れる必要があり、結局大きな部屋が必要になります。
ホームスタジオの場合、日本の住宅事情では近隣の苦情でプロジェクトが止まってしまうことも無いわけではありません。このような場合は作業を早い時間にするとか、スタジオを騒がしい繁華街や人里離れた場所に移転するのも手です。しかしあえて苦情が出ない小さい音量でも最適な働きをする小口径スピーカーを選ぶことも考えて欲しいと思います。
小口径となると低域の聴き取りができないのではないか、という不安がありませんか?実際にはその通りなのですが、思い出して欲しいのがYAMAHA NS-10Mです。スペックは最低再生周波数帯域60Hz。さらに聴感上は100Hz以下がほぼ聴こえてこないような感覚のスピーカーです。しかしこれで数多くのパワフルな楽曲がミックスされています。どうしているのでしょうか?
NS-10Mはレスポンスが非常に良く歪みないサウンドが特徴です。密閉型のキャビネットが採用されているためバスレフのような位相の乱れや極端なディップもなくダンピングの効いた自然な中低域が持ち味です。そして先の再生周波数帯域のスペックの読み方でも説明した通り、60Hz以下は無いわけではなく、感じ取れる程度には存在しています。NS-10Mの高い解像度のおかげで、エンジニアはNS-10Mを使って低域を聴くのではなく感じることで低域をコントロールすることができたのです。
例えばエレキベースの4弦開放E音は約40Hz。聴感的に低域の膨らみはほぼ聴こえませんが、それにつながる金属弦の響きや倍音が聴こえるため、慣れてくると感覚的に40Hzあたりまでの調整ができるようになります。さすがにベースミュージックのように低域に多くの情報が偏った楽曲やマスタリング用途では厳しいとは思いますが、NS-10Mの高い解像度はミックスや作曲用途で充分な仕事をしてきたのです。
以上の例から、スタジオのスペースが小さいとか近隣への音漏れが気になる、という方は低域のパワフルさよりも、低域まで感じ取れる解像度の高いスピーカーを狙うといいと思います。候補を上げるなら、ちょうどNS-10Mのように高レスポンスと高解像度を持つFOSTEX NF01RやFocal CMS50などです。NF01Rはダンピングの効いた輪郭がはっきりと 浮かび上がるローミッドが魅力で、NS-10Mの置き換え機としてRock oNがおすすめしているスピーカーでもあります。
[eStoreClipper1A mdin=’42353′ img=’LINK’]NF-01Aの正当な後継機となる新たなNFモニタースピーカー。
[/eStoreClipper1A] [eStoreClipper1A mdin=’34592′ img=’LINK’]GET[/eStoreClipper1A]4. アンプの方式を知って、傾向を探ろう
昨今ニアフィールドモニタースピーカーといえばパワードが主流。小型化できる以外にもスピーカーとアンプで音を作り込め質の高い音が望めるというのがメリットです。例えばスピーカーユニットやクロスオーバーのクセも電気的に補正するといった具合に、メーカーの意図した音を製品化することができます。
このパワーアンプにもいくつかの種類があります。「A級」「B級」「AB級」「D級」とよばれる4種類が主なもの。パワードモニタースピーカーにはあまり馴染みのないB級、AB級のアンプもご紹介しますが、いくつかの種類があることと、最近特に注目されているD級アンプのところを理解しておいてください。
A級
アンプひとつで電気信号を増幅する「シングルアンプ」方式。最大効率は理論値で50%程度しかありません。消費電力の約半分は熱になってしまうため発熱が大きいのが悩みの種。回路が熱を持つと抵抗がノイズを発生することもあるため、放熱のためシャーシが大型なものが多いです。仕組みがシンプルなため、素子やパーツの性能が色濃く出ます。俗にお金をかければかけるだけ良いものができるとも言われ、高級オーディオアンプに多い。昔から「音が良い」と言われやすいのはこのタイプです。
B級
「プッシュ/プル」と呼ばれる方式を使っている製品の大半がB級アンプ。(中にはプッシュプルでClass Aを実現する回路もあります)
音の波の+側と-側を分けて、片方づつ増幅する。そうすると、音が+側の時は-側は待機する。最大効率は78.5%、そうすると電気消費量が最小限に抑えられるという仕組みです。
+と-でスライスしたものを後でひとつにするため、精度が低いとそれぞれの増幅率が変わってしまい歪んでしまうこともある。
AB級
AB級はA級とB級の両方の特徴を持ちます。実際は、Class Aでは行かないところまでバイアスを深くかけたプッシュプルの回路設計。電気効率と低歪を両立しPA用のパワーアンプ等での採用例が多いが、オーディオ用としてはあまり現実的ではありません。
D級
D級は「PWM(Pulse Width Modulation)変調」という方式。入力された音に対してTRI(三角波)を掛け合わせて矩形波を生成するPWM変調技術を使っています。(DSDと同じPDM方式のものもあります)
仕組みを解説すると、音の波に対して、例えば10MHzなどの高周波TRIを掛け合わせる。音波とTRIを比較して音波が大きければ『+』、小さければ『ー』を出力する(これがPWM変調)。出力された波形は矩形波に変換されます。この矩形波は音の強弱が濃淡で表現されているようなもの。それをスイッチング回路で増幅します。そして増幅した矩形波を積分回路(L.P.F:コイルとコンデンサーの回路)に通して元のアナログ波(音波)を生成しスピーカーを駆動します。このスイッチング回路で増幅するところがとても効率が高く、低電力で高出力を可能にしています。最近のモバイルアンプなどで電池駆動させられるものはほとんどこれが採用されています。発熱が少なくトラブルや熱ノイズも少ないのも特徴の一つでしょう。
D級アンプは音の波に忠実な矩形波を作るために高い周波数のTRIが必要です。そしてそれを増幅するために高速なスイッチングトランジスタも必要となります。D級アンプはこのスイッチングパーツの進化によって実現したと言ってもいいアンプです。
カタログスペックを読んだだけではアンプの種類までは掲載されていない場合が多いのですが、D級アンプに限っては効率の良さを謳うために明記されている場合が多いです。続いて『ホームスタジオに最適なニアフィールドモニタースピーカー』では、カタログスペックでわかる範囲でアンプの種類も記載していきます。参考の一つにしてみてくださいね。
ホームスタジオに最適なニアフィールドモニタースピーカー
5. 店頭で試聴。最後は自分の耳で確かめる
ここまでの情報を元に聴いてみたいスピーカーがある程度決まったら、Rock oN店頭で試聴してみましょう。Shibuya、Umeda共に音響の整ったリファレンスルームで精度の高い試聴が可能です。
お目当のスピーカーがすぐ試聴可能か、まずはお電話かメールでお問い合わせください。その際にご使用の環境や目指している音を伝えていただけると他の候補もオススメできるかもしれません。
そして試聴の際はお好みの音源をお持ち寄りください。SACDプレイヤー完備。ハイサンプリングのオーディオデータもPro Tools HD上で再生いたします。また、気軽にポータブルプレイヤーのアナログアウトから鳴らすことも可能です。もちろん、音源がなくてもRock oNで厳選した試聴用音源をご用意していますのでご安心ください。
もしお悩みのことや不明なことがあればお気軽にスタッフにお問い合わせください。長年の経験とホームスタジオから業務レベルのスタジオ構築ノウハウのあるRock oNスタッフが一緒に考えて最適な提案をいたします。
記事内に掲載されている価格は 2017年3月16日 時点での価格となります。
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