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自分のシステムの音を良くしたいと思った時、機材を上位グレードのものに買い替える事はもちろんの事ですが、例えばスピーカーの性能を発揮させるためのスピーカースタンドが存在するように、今ある機材をより良いコンディションで鳴らすための機材『Master Clock』を導入するという方法があります。しかしMaster Clockはデジタルシステムの音質向上に絶大な効果があるわりにまだまだ「知る人ぞ知る」という機材なのではないでしょうか。
Master Clockについての基本中の基本をわかりやすくまとめました。Master Clockって何?というエントリーユーザーからプロエンジニアまで楽しめる内容でお届けします。
Master Clockって何?
・Master Clockとは?
デジタルオーディオで言うところのサンプリングレート(48kHzとか)の基準信号を供給する機器がMaster Clockです。この基準が揺れている(精度が低い)と超高域と超低域の波形に顕著な乱れが発生します。
例えば、48kHzのサンプルレートであればみなさんご存知のとおり24kHzまで録音できます。ここに24kHzの正弦波を入力したとします。精度の高い基準信号を受けていれば、各サンプルごとに「+、0、-、0、+、0…」と記録され正確に再現されると思いますが、基準が揺れるとそこに間違ったデータが混入してきます(本来は+であるはずのところがーになってしまうなど)。これでは入力された24kHzの正弦波は正しく再現されません。
以上の例はあくまで一例ですがMaster Clockによって、音の全ての領域の再現性が決定づけられるということがイメージできるでしょうか。
・インターナルではだめ?
通常デジタル機器は本体に『インターナルクロック』と呼ばれるジェネレーター(発振器)を搭載していますが、よほど高級な機材であったりこだわりのあるメーカーのものでなければ精度があまり良くありません。ジェネレーターの精度を上げるにはかなりのコストがかかってしまうからです。
「それならば最低限のジェネレーターを搭載しておくので、こだわる人はMaster Clockを導入して高精度のワードクロックを供給してください」ということで、ある水準以上のクオリティのものはワードクロックの入力端子を持っています。Master Clockを変えると同じ機材でも「別の機械になったのか!?」というくらい音が変わります。
通常のオーディオI/O(全てのデジタル機器)にはもともとインターナルクロックとして『クリスタルオシレーター』が必ず搭載されています。この水晶に電圧をかけるとプルプルと振動します。物質によって電圧をかけた時の共振周波数が決まっていて、例えばこの水晶なら12MHzです。この振動の波を取り出して利用するのがクリスタル発信器の仕組なのですがこのままではあまり良い精度を持っているとは言えません。水晶に電圧をかけると熱が発生し「氷、水、水蒸気」の関係と同じように分子運動のしやすさが変わって共振数が変わってくるためです。
より正確なClockを取り出すためには、Anteloep Audo Isochrone OCXに搭載されている『OCXO(Oven-Controlled Xtal oscillator=恒温槽付水晶発振器)』のように恒温槽(温度を一定に保ための容器)に入れるなどの工夫が必要です。このおかげで例えばIsochrone OCXクロック精度はクリスタルオシレーターの1000倍もの精度を持っています。
・ジッター抑制
まずはじめにジッターについて。超高域でいうと例えば24kHzの正弦波を記録したデジタルデータは本来01010…(符号部分)という並びになります。このときクロックが少しでも乱れるとその01010…の並びが乱れます。これが俗に『ジッター』と言われるものです。つまり”ジッターが少なければ高域の再現性が高い”ということになります。
超低域は1波調が長いためクロックが揺れるとDC(直流=直線波形)になります。非常に大きな波なだけあって波形的にはまっすぐな横棒になってしまう。そうなった時に全てのデジタル機器はこれをノイズと判別し再現されません。
このことからMaster Clockを導入して限りなくジッターを減らすことによって、これまでできなかった微細な広域に渡る音の再現ができるようになります。
録音機材でのMaster Clockの影響も大きなものです。精度が高ければ高いほど微細な音まで全て正確に記録されるため、聴感として音の立ち上がりの良さ、濁りの無さ、位相の良さに現れます。
製品による音の違い
Master Clockはメーカーや製品により接続した機材の音が変わることが知られています。
一般的に精度の高いMaster Clockほど高域の再現性が上がるので聴感上、高域のパワーが上がります。つまり音の重心が上がりそのマスキング効果で低域が消えるので、繊細ではあるが全体のパワー感が足りないと感じられることがあります。
精度だけを追い求めると広帯域にわたりフラットなサウンドに近づいていきますが、そういった音は聴き慣れなく迫力不足と感じてしまう人も多いようです。そこで肝心なのがメーカーごとのチューニングです。精度を追い求めつつも、にじませるところはにじませることで低域のパワー感を保つ。そのために開発者の耳が頼りとなるのです。
あなたのシステムにも簡単に導入できるんです!
これまでに挙げた単体MasterClockは特別な仕様でなくとも多くのオーディオI/Fなどで仕様可能です。高級機になるとBNC端子のClock Inが存在しますが、そうでなくとも多くのオーディオI/Fに搭載されているS/PDIFからMasterClockの供給を受けることができます。BNC端子であろうがS/PDIF端子であろうがクロックの制度に違いはありません。いまお使いのオーディオI/Fのサウンドを向上させたいならMasterClockを導入するという方法があることをよくおぼえておいてくださいね。
Rock oNで購入できるMaster Clockジェネレーター
Antelope Audio
開発者が「耳でクロックをチューニングしている」と明言している唯一のメーカーなだけあって、非常にオーディオ的なサウンド。通常、高精度なクロックは音が軽くなる傾向があるが、同社製品に関しては低域(パワー感)が増す。かといって解像度が低いわけでもない。精度よりも音質を追い求めている。
APOGEE
Audio&Design
通常クリスタルより1000倍の精度を持つTCXOオシレーターを搭載している。Rock なサウンド。音の芯がぎゅっと引き締まり、奥行き感、空気感、立体感が圧倒的に再現されるようになる。多くの人にぜひ一度聴いてもらいたい。某著名エンジニアも愛用者の一人。彼の音を聴くとリバーブの空気感、分離が良く解像度も良い。その秘密の一つがこの製品。解像度を高めたい、本当の意味のハイファイを極めたいならこれ。
Black Lion Audio
BRAINSTORM
放送局、MAで大定番。MA系はデジタル化が進んでいるためデジタル端子を持ったものが多い。これはリンク端子を持っている。オールデジタルのスタジオのクロック管理をするのに有効。いっぱい使える。音質は高い精度とクリアな音質。非常に分かりやすく解像度が高くなるが、重心が高くなりすぎない。一枚膜がはがれる感覚。
LAVRY Engineering
MUTEC
ROSENDAHL
Steinberg
TASCAM
Toneflake
上空2万kmにあるMaster Clock
導入したMaster Clockの精度をさらに高めるために「Atomic Clock(アトミック クロック)」の存在があります。これはAntelope Audio社が独自に使っている呼び名ではありますがその正体『ルビジウムオシレーターを使って10MHzの矩形波を出す発振器』です。ルビジウムの出している10MHzというのは工業規格として一般的なもの。工業用ロボットのように「モーターを何秒動かしたらこの位置に行く」など高い精度が求められるものは高周波の正確なClockが必要となるためです。
この10MHzの信号を受ける端子にはAntelope Audio製品なら「Atomic」と書かれていて、それ以外のAUDIO DESIGN社、Brainstorm Electronics社のものには「GPS」と書いてあります。
GPSは『Global Positioning System(全地球測位システム)』の略。離れた場所に浮いている3つの衛星から届く電波の時間差(ディレイ)を測ってそれぞれの衛星までの距離を割り出し、3次元測位を行えば自分の位置が分かるという仕組みで、みなさんも日頃からお世話になっていると思います。GPSは高度20,000kmに浮いている約30個の衛星全てが同期していて、地表に対して放射状に電波を飛ばしています。このために高精度な同期、すなわちクロックが必要なわけです。また、もし仮にClockが簡単に狂ってしまっても宇宙空間までメンテナンスをしに行くわけにはいきません。そのGPS衛星から送られてくる信号が非常に正確なClockソースを含んでいるというのはわかると思います。
GPSにはルビジウムより精度が高く「1億年に1秒程度の誤差」と言われる超高精度なセシウムがオシレーターとして使われています。
GPSのClock信号は10MHzで送られています。それを地上で受ける『GPSアンテナ』とその信号をMasterClockで受けられる10MHzの電気信号に変換する『GPSレシーバー』を手に入れれば非常に高精度なClock信号を手に入れることができます。一戸建てにお住まいの方はぜひ。
記事内に掲載されている価格は 2017年11月1日 時点での価格となります。
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