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ゲーム、アニメを中心に活躍される作曲家 伊藤翼さんと、ビクタースタジオを中心に活躍されるサウンドエンジニア 渡辺佳志さんがタッグを組み、都内にスタジオを設立。作家事務所でもなく、エンジニアさんが所属するスタジオでもなく、この2人がパーソナルに設立したスタジオ。このユニークな経緯で誕生したスタジオですが、お二人の趣向を反映しつつもいろんな困難があったようで、、、地下にありながらも、タイミングよく窓から覗く満開の桜。そんな好立地にあるSync Studioにお邪魔しました。
前後編のレポートに分け、まず前編では Sync Studio設立の経緯について、お二人にお話を伺ってきました。
Roc : 作曲家とサウンドエンジニアのお二人でスタジオを作るのはユニークな形態だと思うんですが、スタジオ設立の経緯をお伺いできればと思います。もともと、お仕事をご一緒されていた関係だったと思うんですが。
伊藤氏 : そうですね。ビクタースタジオで渡辺にエンジニアをお願いすることが多く、年に数回はオーケストラをレコーディングするセッションもあり、渡辺のサウンドを信頼してます。
渡辺氏 : 「一緒にスタジオ作らない?」と誘ったのは僕なんですよね。僕にはプラットフォームとしてビクタースタジオがあるわけですが、それと別に、自分だけの音が出せるスタジオをやりたいという思いがずっとあったんです。
伊藤氏 : 僕も作業場として自分のスタジオを持つことを考えていた時期だったので、「じゃあやろう」ということになり、合同会社Syncを2018年8月1日に設立しました。スタジオを作るにあたって金融機関にお金を借りるためにも法人化する必要がありましたし。このスタジオが出来たのが2018年10月になります。スタジオ始動に向けて、去年の前半はずっと打ち合わせをしている感じでした。
Roc : Syncスタジオの稼働形態はどんな感じですか? 作曲家さんとエンジニアさんという立場なので、お互いでどういった使い分けをしてるのでしょう?
伊藤氏 : 僕の場合、作曲はヘッドホン作業でも出来るので、ここでも自宅でもできるんですよ。スタジオが空いてる期間をお互い共有し、僕がプリプロで使ったり、渡辺が編集で使ったり、最終的なミックスをここで二人でやったりと、適宜二人のスケジュールを合わせて使っている感じです。
渡辺氏 : 歌、ギター、ベースのダビングはここで録りますし、ドラムやオーケーストラはビクタースタジオをはじめとする外部スタジオで録るのでプロジェクトによってケースバイケースですね。まぁ、二人なので、伊藤が曲を作って僕のスケジュールが空いていれば流れで僕がミックスをやったりと、そんな感じです。
Roc : その形態もユニークですよね。作家事務所が所有するスタジオではなく、エンジニアさんが所属するスタジオでもない。仕事のフローにも関係してくる訳ですよね。
伊藤氏 : そうですね。仕事の種類も食い合ったりせずスケジュールがぶつかることもないし、僕から渡辺へのセッションデータの流れもスムーズに行えるので、コミュニケーションの中で少し面倒くさかった部分がこのスタジオをハブにして解決してるんですよ。
Roc : 都内でこの物件を探すのに苦労されたと思うんですが、見つけるまでどれぐらいかかったんですか?
渡辺氏 : 色々経緯があり、途中休止してた時期もありますが、延べでいうと2年くらいは探してたことになります。ビクタースタジオへの経路導線と二人の自宅からのアクセスのしやすさを考えたら、最終的にとてもいい場所を見つけることが出来たと思いますが、当初は防音にこだわっていて、なかなかいい場所が見つからなかったんです。
Roc : 物件を探すにあたって外せない条件はありましたか?
伊藤氏 : 広さが50平米くらいは欲しかったですね。10畳程度のコントロールルームと3~4畳程度のブース、あとラウンジの構想は頭の中に描いていました。この物件を見つけた時はスケルトン物件だったんですが、正直、ラウンジがこんな広くなるとは思ってなかったんですよ。やっぱり、レコーディング中に電話で中座するプロデューサーさんがいらっしゃったりと、スペース的クッションとしてラウンジが欲しかったんです。テーブルは僕のこだわりで一枚板でお願いしました。
渡辺氏 : 物件探しはお互い仕事の合間にやって大変だったんですが、伊藤からの提案で防音物件にこだわらず地下物件でもいいんじゃないかということでここに行き着いたんです。ここは上が駐車場なんですよ。防音のことよりも調音の方が重要だと途中で気づいたんです。大家さんがすごくいい方で、運がよかったとも言えます。スケルトンの状態でスピーカーを持ち込み、音を出して上階の事務所で聞いていただいたら「ぜんぜん聞こえないので大丈夫。」と言ってくださったんです。
Roc : 施工会社さんはの株式会社アコースティックラボさんですね。選ばれた経緯は?
渡辺氏 : もともと株式会社アコースティックラボの草階さんと面識があり、手がけられた案件から信頼できる人だと知っていたんです。草階さんは物件を見た時点で懸念事項をさっと挙げてくれ、それに対するアイデアを提案していただきました。計測とシミュレーション結果をもとに、コントロールルーム後方側の音をよくするためにも部屋の縦方向を短くする提案を受けましたが、僕ら的には居住性を損ないたくなかったのでその案には躊躇しました。それを受けて、草階さんからは天井を抜いて部屋容積の増大を図り音響調整する案を提案してくれました。最終的に天井高が2.7mくらいまでになっています。
伊藤氏 : 内装の見た目にも関わる事項として、僕からは「吸音材を壁の上から貼り付け、せり出してしまう感じが嫌だったので、吸音材自体が壁に見えるような形で仕上げて欲しい」と伝えました。また、地下ということで湿度がちょっと高かったので、吸音材の中に羊毛素材を入れてもらいました。湿度が高い時は水分を吸ってくれ、低い時は逆に出してくれるらしいんですよ。厚さも含め色々と調整を重ねやり直したりもしましたが、最終的に満足な結果になりました。やっぱり窓を残したのは大きいですね。この窓を残したおかげで、地下にも関わらず陽光が差し込んで気分がだいぶ違いますよね。アーティストのみなさんも喜んでくれます。丁度、この時期は公園の桜が見えてとてもいいですよね。「桜が見えるスタジオ」はいいキャッチフレーズになります(笑)。
Roc : Sync Studioがスタートされてしばらく経った訳ですが、手応えは?
伊藤氏 : 施工時から作曲家とサウンドエンジニアの両方の意見が入ったスタジオはなかなかないと思うので、曲のアイデアを育む居住性とサウンドを追い込む客観性。この二つを兼ね備えるスタジオを作ることが出来たと思っています。
Roc : ところで、Syncの名前の由来は?
渡辺氏 : 作曲家とレコーディングエンジニア。違う周期で動く二人がこのスタジオで同期し、同じベクトルを目指す。そんな感じですかね? 実は何も考えてなかったんですが(笑)。
後半はスタジオの使用機材を説明してもらいました。
記事内に掲載されている価格は 2019年4月19日 時点での価格となります。
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