あなたの楽曲制作にヒントをもたらす数々のノウハウ記事に加え、膨大な動画コンテンツは制作トレンド&Tipsの集大成!
1928年の誕生から現在に至るまで、レコーディングシーンの歴史と共に輝かしい歴史と技術を持つNeumannマイクロフォン。その中でもトランスレス回路を搭載し、比較的入手しやすい価格帯でもあるTLMシリーズは、比較的最近登場したラインナップということで定番モデルU 87 Aiなどと比べるとどんな機能があってどういう音の特性なのか、イメージしづらい方もいるかと思います。
そこで今回はTLMシリーズにスポットを当てて、手に入りやすい価格帯の3種類(TLM 102、TLM 103、TLM 107)、そしてリファレンス用に定番マイクロフォンとして多くのスタジオでも愛用されているU 87 Aiを用意し、その音を比較試聴してみようという企画です。
今回の収録はビクタースタジオ全面協力のもと、日頃Neumannマイクロフォンを愛用しているボーカリスト・ずま氏をお招きししてレコーディングを実施しました。
今回は歌の収録順序やテイクの出来で音質が変更することのないよう、マイクロフォン4本同時にセッティングした状態でレコーディングしました。
●エンジニア紹介
制作者の意図を読み取るうえでの正確さと勘の良さは、彼にリピートして任せられる安心材料である。レコーディングと同時進行的に完成図を描いているが、相手にどこまで提示するのか、そのさじ加減が絶妙だ。バンドや歌ものを得意とし、徹底した歌い手ファーストの姿勢と、これまでに蓄積された数々のアイデアは、作品づくりを強力にバックアップする。年長のアーティストから可愛がられるのも、彼の気遣いの賜物である。
ある程度の派手さを残し、太く大胆な音が特徴的で、そこには思い切りの良さが感じられる。
クールな風貌に反してオープンで、クライアント想いであるのははもちろん、仲間想いの熱い一面も。野球観戦や将棋が趣味。野球は熱狂的なソフトバンクホークスファンである。
エンジニアとして現場をデザインするという意味において、優れたバランス感覚を持つ。音楽を“音が楽しい”と書くように、楽曲制作の過程を全員が楽しめることが重要であるとし、彼の俯瞰的な視点は、クライアントとの関係構築のなかで強くプラスに作用する。これまで、プレイヤーとして音楽にのめり込んだというよりは、一般消費者に近い感覚で音楽との距離を保ってきたからこそ出せる色があり、それが、アーティスティックな世界では、彼の独創性にもなる。
引っかかりを持ちつつ透明感を帯びたサウンドは、楽曲の主役の存在をはっきりと浮き上がらせる。
休日は丁寧にコーヒーを淹れたり、料理をしたりすると、良いリフレッシュになるという。十分な睡眠も、良いパフォーマンスのために欠かせない。
2023年6月よりフリーに転身。
各マイクのインプレッション
収録後に音源を聴きながら、歌ってくれたずま氏とビクタースタジオ所属エンジニアのお二人と共に、TLMシリーズ3種類プラスU 87 Aiそれぞれの音の印象を伺ってみました。
●TLM 102
ずま 氏 : TLM 102は録り音がシャキっとしていて、歌声がオケに馴染みやすく、最近のJ-POPや洋楽で好まれる音色だと思います。コンプやEQなどのエフェクトをかけなくても、ある程度オケに混ざりやすい音で撮ってくれるので、MIXの専門知識があまり無い人でも、コスパよく、自宅で高音質な歌ってみた動画等を制作できるマイクですね。
僕は普段U 87 Aiでレコーディングしているけど、MIXでTLM 102っぽい音にしている時もあるなと思いました。
宮沢 氏 : 中域の情報量とかちゃんと聴こえてほしいところが聴こえてくる感じがしたので、今日レコーディングした中でずまさんの声に合うのはTLM 102かなって思いました。
川人 氏 : シャキッとしてますけど細い音だという印象はないですね、中身はちゃんと詰まっているという感じはします。ロックとかヒップホップとか、照準が絞られたレンジを必要としないジャンルに使えそうな気がします。
●TLM 103
ずま 氏 : TLM 103は温かみがあって艶が出て芯がある感じです。そういう意味ではU 87に近い印象でした、U 87プラスアルファというか、令和のU 87的な印象。理由は特にないですがバラードなんかに合いそうな感じがします。
川人 氏 : 位置付けとしては難しいけれど、ちゃんと調整すれば良い音になるかなって印象でした。
宮沢 氏 : 個人的にはTLM 102とTLM 103は音の感じがすごい似ているなって思いました。余分なところを精査すれば上手く聴こえる音になるかなって感じです。
ずま 氏 :TLM 103はU 87に憧れている人で、価格帯で買うのを躊躇している方におすすめしたいですね。
●TLM 107
ずま 氏 : TLM 107はTLM 102に似ているけど、自分色に染めやすい余白がある印象。声の芯が通っているけれど、TLM 102ほど味付けがないと思います。
宮沢 氏 : TLM 107は一番現代的な音がするっていうか、音のスピードが速い印象ですね。音の余分なところが少なくてEQで削らなくても耳に飛び込んでくる音が早い印象がありました。U67と比べるとSONY C-800G寄りっていうか、色々できる分、一般の方がファーストチョイスで使うのはちょっと難しいかなと思いました。あと人の声の特性にもよりますかね。レンジ的に美味しい部分が下にあってローミッドが欲しい人はちょっとスッキリしすぎて、ロックみたいな曲調で歌を前に前に出したい人には向いてるかもしれません。
川人 氏 : 自分の好みで言うとTLMシリーズではTLM 107を選びますね。関係性が成立しているアーティストだとTLM 102を使うというのもありですが、初めての方だとエンジニアとしての安心感もあってTLM 107かなと思いました。
ずま 氏 :TLM 107は指向性を変えられたり機能がたくさん付いているので、長く使えそうですね。自分はU 87 Aiを使ったことあるから言えるんですけど、色々なことに対応できそうなマイクって気がします。
●U 87 Ai
ずま 氏 : いつも自宅でのレコーディングはU 87 AiとApolloTwinを使ってるんですが、この環境で聴いてみるといつものと違う印象がしました。たぶん今日使っているマイクプリアンプとかの影響もあると思うんですけど。
宮沢 氏 : 今日はSSLのコンソールとNeumannのヘッドアンプV 402で通した音とそれぞれ聴き比べてみたんですけど、SSLは味付けがなくて馴染んでくる音だったんですけど、V 402は主張があって一歩前に出てくる感じで倍音が伸びてSilkyな印象がありました。
ずま 氏 : 僕はTLM 102の音をとても気に入りましたけど、やはりU 87の音も捨て難いとは思いますね。とてもきらびやかな感じで丸みがあって暖かい音で、ここからどうにでも味付けできる印象でした。プラグインを使ってU 87をTLM 102っぽい音にすることは出来ても、TLM 102をU 87のような素直な音にすることは難しいと思います。シャキッとした音にしたい場合はEQで補正したり、コンプをかけて色をつけていくこともできるという感じがします。
総評
ずま 氏 : TLM 102の価格を聞いて、とてもコスパがいいマイクだなと思いました。エントリーモデルをまずは買って上手くなったら上位機種を試そうって考えている方にはピッタリですね。声の特性というか美味しいところもきちんとレコーディングしてくれて、Neumannらしさもあると思います。今日のテイクで自分なりに選ぶならTLM 102で録ったテイクかなと思いました。
川人 氏 : たしかにTLM 102を10万円で買えるのは大きいなって思いますね。変に補正された感じもないから、ホームレコーディングで使うことで自分の歌とか基準となる音を知るというのにはいいですよね。
ずま 氏 : ビンテージっぽいデザインもいいし、ポップガード付きなのに抜けがあるっていいですね。最終的にミックスでEQやコンプをいじって削ぎ落とすのなら選択肢が多すぎるより、この値段でここまでの音が録れるのは潔いというか自宅DTMで使う人には最適解かも。僕もNeumann U 87 Aiをずっと家で使ってますけれど、情報が少なくて十分なときや、オートチューンをかけたい時はAudio-Technica AT3300を使ったりしますから。
宮沢 氏 : 総じてTLMシリーズは抜けが軽やかな印象で、それぞれマイクごとにキャラクターがあると思います。オケにそのまま混ぜても抜けてくる感じというか、値段的にも手が届きやすいですしね。個人的にTLM67がすごい好きで、アコースティックギターや歌のレコーディングで使うとトランスレスらしいすっきりした音で録れるんです。
川人 氏 : たしかにTLMシリーズはどれもU 87 Aiに比べてシャキッとしていて、面で聞こえる印象がしました。TLM 107、TLM 103、TLM 102の順番で音像の面積というか照準が絞られる印象がありました。TLM 102、TLM 103、TLM 107となるにつれて歌のレンジが広がっていく感じでしたね。
宮沢 氏 : この中でTLM 107は機材の組み合わせで効果を発揮できそうなマイクという印象でした。選択肢が多い分、難易度が高いのかなって。それが使いこなせる人には合うかなと思います。TLMらしいすっきりした感じは好印象でした。
関連記事
NEUMANN創立90周年特別企画: 25 Microphone Review with Onkio Haus .Inc
90周年を迎えたNEUMANNマイクロフォン現行主要機種を社音響ハウスのエンジニアが各機種の特徴と活用方法をレビュー!
永久保存版NEUMANNライブラリーです!
Neumann TLM102のファーストインプレッション by ZOMBIE-CHANG
記事内に掲載されている価格は 2023年6月14日 時点での価格となります。
最新記事ピックアップ