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スタジオ構築における音響設計ノウハウ、ソリューション構築を、CreatorとDesignerの両視点から毎週お届け、第一回Daisuke Suzuki Studioではスタジオ完成による鈴木大輔氏の機材環境変化、そしてスタジオワークフローを改善するカスタムファンクション。音響設計における三神氏のセオリーから業務ポリシーまで必見のBuild Up Storyが今始まる!

地下のパーソナルスタジオとして、メインスタジオと隣接のマシンルーム、スタジオ向かいの収録ブースという基本構造になります。 今回地下を掘る段階から建設会社とSONAさん、avexのチームが一体となってミーティングを行いました。中でもスタジオ内の音響設計はSONA三神さんに今回全 面的にサポートいただいてます。 音響加工の詳細は三神さんにお任せしますが、この建物自体が鉄筋構造に加え地下は銅板で覆う構造になっており、吸音と反射のみ、防音施工をしていないこと もポイントです。一般的に地下室は普通に掘ってコンクリートだそうなんですが、この部屋では掘った後銅板BOX構造で覆うことで、その後のワイアリングや電源関連に伴う施工& 加工コストを抑えることができました。費用がかかる防音施工をしなくて済んだのは地下のポイントですね。(コントロールルームの音が響かないよう向かいの収 録ブースだけ防音施工をしています。) しかし地下の場合一坪掘る工事費としてそれなりの予算がかかりますので、建設会社が掘るだけ(内装費別)でこのスペースでも多額の予算が必要になります。その後の音響施工を考慮して数十cm多く周囲をとるだけで一坪分の予算が増えてしまったり…。地下の分防音施工予算は必要ないですが、地下室を作 ること自体はお金がかかるのも事実です。
デザイン面で言えばメインスタジオは地下である以上窓がないため、暗すぎないようにしたかったのですが、同時に白壁だとやや面白みがないとも思いました。 その当時新色だったグレー系統の素材(三神さん確認)を用いて、仕事の場として落ち着いた雰囲気を出しました。ブースは私が入るわけではなくプレイヤーの方 のためのものですので、何よりもテンションを上げられるよう赤を基調としたカラーになっています。
マシンルームはavexのチームのこだわりが素晴らしくて、家電関連と音楽用途で配電盤から完全にスプリット構造にしてもらいました。(写真:1 , 2)私の好みのスタジオ名を聞かれ答えた後、そのスタジオの電源構造を調べ、三菱とシーメンスの電源を聞き比べて、ケーブルも吟味してより近いサウンドになるよう選んでくれました。 ステップアップトランスとノイズカットトランスもマシンルーム内に備えており(写真:4)、スタジオ内の壁コンには、異なる電圧機器を即座に使用できるよう100V、115V、 120Vなど選択肢がすでに用意がされています。(写真:3)ブースとのケーブル配管も用意されていますので、今後機材などスタジオ機能が変化した際にも対応が可能です。 またラック機材は使用頻度も限られるので、壁内に収納できる構造をとりました。スタジオZaor iDESK左側にラックマウントしているメインインターフェース Apogee Symphony I/Oとパッチベイを通じて、シンプルかつ自由にルーティング出来るようにしています。
スタジオが出来てからの変化としては音楽自体ではなく機材の変化が大きいですね。できた当時はご存知の通り本当に数多くのシンセサイザーを配置していました。しかし出先での仕事が多く機材運搬に問題を抱えていたこともあり、Rock oN CompanyでZaor iDESK(写真:6)と出会ったのをきっかけに、この机基準でスタジオ機材構成を変えようと思いました。今や海外のスタジオもシンプルなものが増えてますからね。スタジオはクライアントが来た際の話の場としても重要ですから、キーボードは必要なものに大幅に絞り込んで今の構成にしています。(写真:5 ,7)最初Zaorを入れるときはそれこそキーボードとPC1台とも思いましたが、それでもVIRUSやMoogなどは使用頻度問わず外せませんでしたね。スタジオが出来、機材を入れ替え、よりビジネスにフィットする形へ変化したと言えます。
ブースとの連携機能はこだわりのポイントです。スタジオはPCディスプレイ上段に、メイン液晶ディスプレイを設置しており(写真:8)、ブース内カメラを通じて、プレイヤーとの会話だけでなく表情も見て取ることができます。(写真:9)またブースとのトークバック兼モニターコントローラーとしてSPL model2381を使用していましたが、トークバックスイッチを押した時の『カチッ』という大きい本体音が気になるとアーティストさん方から多く言われ、某スタジオのメンテナンスの方に遠隔でノイズなくオンオフできる外部スイッチ(写真:10)を作っていただきました。しかもスタジオデスク用と後方ソファー用の2系統あるんですよ。この方にはマシンルームとの機材接続でUSBケーブルの長さが足りなかった時に、アダプターなどではなくUSBケーブルをカットして延長処理していただいたこともあり非常に助けられました。あとは地下スタジオでもあるのでお客様が家に来られた際にインターホンと連動して光るランプを左上前方の角に埋め込んでいます。(写真:11)地下モニタリングの中では気づけませんからね。
とかく「経験とカン」が重宝されることの多いスタジオ音響で、それだけではなく、なぜそうするのかという理由と、その結果との対応がはっきりし、結果をデータで 客観的に示せるようになることを目指しています。また、音響設計する際には、もちろん出来上がるスタジオの音にかかわる 全てに目を配る必要があるのですが、 特に容易にやり直しがきかない、遮音と低域の吸音処理には気を遣っています。
遮音については、必要な遮音量の見極め、必要な遮音量を確保するための荷重に建物が耐えられるかどうかのチェック、工事の前に遮音の性能をお客様に“体感 で”理解しておいて頂くということに重点を置いています。 コントロールルームやブースでどれくらいの音圧レベルが出るのか、あるいは外部騒音がどれだけあるのかを実際に測定したり、時には録音するなどして必要な 遮音量を把握します。その上で、それを数字で提示するのはもちろんですが、数字だけで理解して頂く事はなかなか難しい事ですので、できれば弊社試聴室まで お客様にお越し頂き、遮音シミュレーションシステムを使って遮音量を聴感的に体感して頂いた上で、遮音の仕様を決定します。 また、近年は遮音のための大きな荷重に耐えられる建物もそれほど多くなく、決めた遮音の仕様が建物内で実現できるのか、建築的なチェックも非常に重要です。
低域の対策、いわゆる“モード対策”は色々な“ノウハウ”、“経験談”を業界誌等々で見る事ができます。ソナでは[モード合成法]という方法を用いて、低域特性を予 測計算し、事前に音響障害を回避するための方策を検討しています。[モード合成法]を用いると(特に直方体の部屋では)かなり正確に低域の特性を予測できる のですが、この方法の更に優れている点は、原因と結果が明快に結びついているロジカルな方法である所です。なぜ、どのように明快であるのかは、ここでは説明 しきれませんので、是非Proceedマガジンで好評(?)連載中の「パーソナル・スタジオ設計の音響学」をご覧頂けたら幸いです。ソナのHPからもDLできますので、是 非ご覧下さい。
http://www.sona.co.jp/sitemap.html#downlord
予測に対し、実際の現場では「音圧吸収型」吸音構造という手段を積極的に用いています。 一般に良く知られているグラスウールなどの吸音材は「粒子速度型」の吸音機構で、低域を吸音するには非常に分厚くしなくてはなりませんし、壁際では機能しづ らいという性質があります。ソナでは、壁際で最も有効に機能し、吸音する周波数特性を設計、制御できる板や膜を振動させることによって吸音を行う「音圧吸収型 」の吸音構造(※写真参照 )を用いて低域の対処を行っています。
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「音圧吸収型吸音構造」による低域特性の制御
先ほどお話した、膜振動型の吸音構造を用いて、低域から高域にかけてフラットな吸音特性を実現することができました。近頃はかなり標準的に用いている工法で すが、おそらく本スタジオがこの工法の最初の実施例だったと思います。(コントロールルームの平均吸音率データ参照)
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コンパクトながらも、高い静粛性を実現したブース
階段下という狭いスペースでしたが、(設計担当の高山が)何とかやりくりして浮き遮音構造を採用した遮音性の高いブースを設けることができました。(C/R – Booth間遮音特性データ参照)
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リーズナブルな木製遮音扉
当たり前の話ですが、扉は部屋の数だけ必要です。スタジオに用いる 遮音扉は非常に高価な扉ですので、パーソナルスタジオでは扉のコストが 大きなウエイトを 占める事が多いのですが、Daisuke Suzuki Studioでは業務用でよく見られる鋼製の遮音扉ではなく、木製の遮音扉を採用して頂き、浮いた費用を 他の部分に回す事ができました。 鋼製の扉に比べますと遮音性は若干低いのですが、今回は「家庭内への漏れ」はある程度止むを得ないという大輔さんの“割り切り”で、良いチョイスになったと思 います。鋼製は遮音量が大きい反面重量も大きく、安全面で配慮が必要ですが、木製であれば心配は少なくなります。 この木製遮音扉も扉メーカーとソナの共同開発品ですが、ご採用頂いたのは やはりこのDaisuke Suzuki Studioが最初だったと思います。
遮音、低域処理について、技術的に力を入れている事の一例としてお話しましたが、最も大切にしている(しなければと心がけている)事は、自分の思いや、やり方 を押し売りするのではなく、どのようなスタジオを作りたいかというお客様の(予算や意匠デザインも含めた)ご希望、ご要望を共有することです。お客様が遮音量 や音場について、数値的に表現していただけることはあまりありませんので、お話を丁寧に伺い、それを実際の数値的な仕様、図面、建築物へと置き換えて行ける かが最も大切な事だと心がけています。
記事内に掲載されている価格は 2016年3月1日 時点での価格となります。
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