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1176LNコンプレッサーやLA-610 MkIIチャンネルストリップに代表される、ビンテージスタイルのアナログ機器から、UAD-2やApollo 8シリーズのようなデジタル/ソフトウェア製品まで。Universal Audio社の幅広い製品ラインナップと高い品質の製品群は、いまや制作シーンでは欠かせない存在となっている。メーカー創立より58年を経た今、改めてUniversal Audio社の歴史を見つめてみたい。
Univarsal Audio社(以下略 UA社)は1958年に創立。創設者は当時シカゴで最高のレコーディングスタジオと呼ばれたUniversal Studioの設計者であり、そこのレコーディングエンジニアでもあったBill Putnam(ビル・パットナム)。のちに「現代レコーディングの父」とも呼ばれるその人である。
彼を語るときには「レコーディングエンジニア」「音響機材/スタジオ設計者」「起業家」という3つの顔を理解しなければいけない。
シカゴで最高のレコーディングエンジニア
まずは「レコーディングエンジニア」としての顔。60年代のシカゴといえば、ブルース/ジャズ/ソウルなど黒人音楽の良盤が大量に生まれた街として知られる。その街にあるUnivarsal Studio Aは、教会や工場を改築したものではなく、「最高のスタジオを作る」という目的で、一から設計/施工された。場所はシカゴ繁華街Rush Streetのプレイボーイクラブの2Fが選ばれた。ここのトップエンジニアとしてBillは日夜、名盤となる録音を続けた。
※当時のシカゴの様子
Univarsal Studio Aといえば「売れてるアーティストはみなここで録音している」と言われるほどの知名度と繁栄を得ていた一級のスタジオだ。そこのメインコンソールに座っていたのがBillである。Billはフランク・シナトラ、ナット・キング・コール、レイ・チャールズから指名がかかるほどの仕事ぶりを発揮していた。
ほしいものは全て自分で作る
続いては「音響機材/スタジオ設計者」の顔。当時は現代のように便利で豊富な録音機材は無く、レコーディングスタジオで使用される機材はエンジニア自らが(オーディオエンジニアとともに)設計する必要があった。幼い頃から電気的知識が豊富で、アマチュア無線の免許も取得していたBillはUnivarsal Studio A自体の設計までこなし、必要な音響機材は全て自分で作り上げた。たとえばここのメイン録音コンソールも彼自身の作だ。
彼はレコーディングエンジニアとして機材を作り、それらを使い現代のレコーディング技術の基礎を築いた。ヘッドホンキュー、エフェクト センド/アウト、録音ブースとエンジニアブースを分けたスタジオなど。そして彼は商用録音としては初めて、人工的なリバーブをアコースティック楽器にかけ、積極的な空間演出を行った。その記念すべき初の曲がこれだ。『The Harmonicats / PEG O’ MY HEART(1947)』
このリバーブはUniversal Studio Aのトイレのタイルにスピーカーとマイクを立てて録音されたものだ。
3つの伝説のブランド
このように常に斬新なアイディアで録音機材と録音方法を生み出したBillは、起業家としても才能を発揮した。Universal Audio 社、Studio Electronics 社、UREI 社の3つの音響機材メーカーを立ち上げ、みなさんもご存知の610チューブコンソール、LA-2A、1176コンプレッサーを世に送り出した。
Billはその後もシカゴ、ハリウッド、サンフランシスコに録音スタジオを建設し、音楽ビジネスを拡大させ若手エンジニアを育成することに注力した。
BillからBillへ。Univarsal Audioの伝説は続く
Bill Putnamは1989年に逝去。
その身辺整理をしていた2人の息子 Bill Putnam Jr.(スタジオ設計者)と James Putnam(ツアーミュージシャン)は、倉庫でBill Putnam Sr.の書き遺した設計ノートを見つける。Bill Sr.のそれまでのノウハウが詰まったノートを見て、息子2人はUniversal Audioの再建を決心し、その10年後、1999年に見事Universal Audioは復活を遂げることができた。
父Bill Putnam Sr.がスタジオ業務を通して作り上げた、優れたアナログ機器を踏襲しながら、現代のDAWベースのワークフローにマッチするソフトウェアによる新しいスタジオ機材も必要だと確信したBill Jr.とJamesは、今や製作者なら知らぬ者はいないDSPベースのプラグインプロセッサー UAD-1と後継機種UAD-2を開発し、大成功を収めた。スタンフォード大学で電気工学博士号を取得し、信号処理技術を専門とするBill Jr.の才能が、世界有数のDSPエンジニアたちの努力とともに華開いた結果だ。
それからはみなさんご存知の通り。UAD-2搭載オーディオI/FのApolloシリーズは世界中から熱烈ラブコールを受けている。世界初のハードウェアとソフトウェアのハイブリッドマイクプリモデリングや、録音時にUAD-2のアナログモデリングプラグインをリアルタイムにかけ録りできるなど、クリエイターにもエンジニアリングの魅力と音楽の素晴らしさを伝えるという、Apolloシリーズにしか持ち得ない特性がその理由の一つだろう。
デビュー当初、Firewire接続のみで発売されたUAD-2は今やWindowsユーザーにも門戸を開き、USB3.0接続モデルを発売。デスクトップモデルApollo TwinもThunderbolt接続のみならずUSB3.0接続モデルが若いユーザーに人気です。そしてUADアナログモデリングプラグインは他者の追従を許さないクオリティを誇る。
いまや多くのレコーディングスタジオで、録音時にはアウトボードラックケースの1176やLA-2Aを使い、ミックスはUAD-2プラグインを多用するというスタイルが増えている。音の入り口からミックスダウンまで。それはBill Putnam Sr.自身が望んだ「最高の環境で作る音楽」を実現したスタイルと言えるだろう。
カリフォルニア州シリコンバレー近く、スコッツバレーにあるUniversal Audio社は80人を超える従業員と共に、これからもエンジニア/アーティストの問題を解決する新しいワークフローを生み出すため、ハードウェアとソフトウェアで最高の技術を持って製品開発を続けていく。
Writer : Tuneyoshi.ua
記事内に掲載されている価格は 2016年7月20日 時点での価格となります。
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