Focal Professional が新たに進出したラージモニター「UTOPIA MAIN」。注目の本製品が日本初上陸、アジア初にもなる試聴体験会が2025年9月25日(木)、Victor Studioにて、完全招待制で開催されました。この日の模様をお伝えします。
Focal社の歴史と製品ラインナップ
イベントはFocal社の成り立ちと製品ラインナップの紹介からスタート。Focalはジャック・マフル氏が1979年に設立。設立の動機は、当時彼の耳に十分な性能を持つスピーカーやドライバーが存在しなかったためであり、「境界を突破して向こう側に行く」という思想が背景にあります。FocalはイギリスのNaim Audioとから成るVervent Audio Group(https://www.vervent-audio-group.com/en/)に属し、主なビジネス展開はホームオーディオ、モバイル(車、ヨットなど)、プロフェッショナルオーディオで構成されています 。その中で、特にトップラインの製品群は、一切の妥協のない製作品として「Utopia」の名を冠しており、プロフェッショナルラインナップは進化を継続。2005年のSolo 6やTwinといったヒット製品から、その5年後のSM9を経て、今回のメインモニターであるUtopia Mainにたどり着きました 。
Focal製品は効率の高さに重点を置いており、Atmos環境などスピーカーを多数動かす環境での電力コストにも配慮した高効率な設計がなされています 。会場には、エントリーレベルのAlpha Evoシリーズ、Shapeシリーズ、そしてトップラインのSTシリーズが展示され、また、Utopia Main 112と212の試聴環境が構築されました。
理想的なトランスデューサーと素材への探求
Sylvain Gondinet氏
Sylvain Gondinet氏から、最高クオリティのトランスデューサー(ドライバー)を作るための素材特性についての説明がありました 。理想的な素材には以下の3つの特性が不可欠であるとされました。
1. 軽い: 軽ければ軽いほど、動きが早くなる。
2. 硬い: 振動板の剛性が高いこと。
3. ダンピングする: 入力信号が止まった時に素材自身がすぐに停止し、音に色付けをしない性質。
これらの特性を実演するため、会場ではアルミニウム、チタン、そしてベリリウムの3つのチューニングフォークが用意され、参加者はそれぞれの重量、剛性、そして叩いた後の共振の収まり具合(ダンピング)を体験。Focalが使用するウーファー素材としては、エボシリーズに使われるリサイクルカーボンファイバーのスレイトファイバー、天然の麻生地にファイバーグラスを挟んだフラックス、そしてユートピアメインにも使われているWサンドイッチ(グラスファイバーとダンピング材で構成)が紹介されました。
さらに、サスペンション(ドライバーの周囲のラバー部分)の挙動による音への悪影響を軽減するために、TMD(チューンドマスダンパー)テクノロジーを開発。これはサスペンション内にウェイトを取り付けることで、ディストーション(THD)を50%も削減するFocalの特許技術です。特にツイーターの素材として使用されるベリリウムは、ダイヤモンドに次ぐ世界で2番目に硬い、非常に軽い素材であり、金の30倍から50倍の価格であるとのこと。Focalのツイーターはインバーテッドドーム(スイートスポットを広げる)に加えて、ツイーターの後ろを解放することで不要な振動を避けるIAL技術を搭載し、正確な高音再現を可能にしています。
Utopia Main 112 / 212 の核心技術
Vincent Moreuille氏
Vincent氏より、Utopia Main 112と212の技術的詳細が語られました。このスピーカーの正確性は、軽量ドライバーによるミッドレンジの正確性や、ベリリウムツイーターとIAL技術の組み合わせによって、トランジェントの正確な再現を可能にし、コンプレッサーの効き具合まで詳細に見えるように設計されています 。
① アンプ アンプにはクラスHを採用し、さらに電流制御の形を統合しています 。これはFocal史上最低のTHDを達成した技術であり、電圧ではなく電流を直接コントロールすることで、コイルの抵抗値の変化(温度や周波数で変動する)による挙動の変化をなくし、スピーカーの挙動をダイレクトに制御します 。アンプは完全にアナログで、設置条件に応じてアナログ回路内部で補正が可能です。
② ツイーターとミッドレンジ ツイーターとミッドレンジには、従来のインバーテッドドームではなく、Mシェイプが採用されました。Mシェイプにすることで、素材自体の剛性を高め、ツイーターは最大音圧125dBまで対応可能になりました。また、サスペンションにはTMDテクノロジーが導入されています。ミッドレンジは深さを持たずに高い剛性を保ち、完璧なピストン運動を実現 。背面が空いている構造と、平に近い形状により、ポイントソースのような音方(非常に狭い範囲から音が出ているかのような出力)が可能になります。
③ ウーファーとキャビネット キャビネット設計では、「音はスピーカーから出るべきであり、キャビネットから出るべきではない」という哲学に基づき、キャビネット自体の共振を抑える徹底的な研究が行われました。フロントパネルは5cm(50mm)の厚さがあり、内部にはパイプを組み込むことで強心エネルギーを吸収する構造となっています。ポートについても研究が重ねられ、ポートノイズが一切ない形状(フレアポート)が実現し、高いSPLを達成しています 。また、バスレフポートを塞ぐためのアクセサリーも販売されており、その場合もアンプ側で補正を行うことで、正確なモニタリングが可能です。Utopia Mainは、ナッシュビルのブラックバードスタジオ(https://blackbirdstudio.com/)のスタジオCに持ち込まれ、グラミー賞ノミネート経験を持つ多くのエンジニアによるテストとレビューを経てブラッシュアップされた製品です。
エンジニア グレゴリー氏よるインプレッション
普段、FocalのSub 6とTwin 6を使用しているエンジニアのグレゴリー氏(https://www.gregory-germain.com/)がゲストとして登壇。Utopia Mainの試聴体験について語りました。グレゴリー氏は、Utopia Mainの遠近感の表現がすごいこと、そして難しい音源でも「潰れるような音が潰れずに見える」点に感動を覚えたこと、長時間聴いても疲れないことに加え、どのジャンルでも情報量がしっかりある点を評価。このスピーカーからは、Focalの「本当に完璧なスピーカーを作りたい」という意思が強く感じられるとインプレッションを語りました 。特に印象的だったのは、(正確な音を求める)エンジニアと(楽しい音を求める)ミュージシャン/プロデューサーの両方の要求を満たすような音作りを目指して作られた製品であるという点でした。
イベントの最後には、展示されたすべてのスピーカーの試聴環境が提供され、この日のためにフランスから持ち込まれたワインが振る舞われ、盛況のうちに閉幕しました。
Focal
記事内に掲載されている価格は 2025年10月21日 時点での価格となります。
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