OEKSOUND SOOTHE2、SPIFF をレコーディングエンジニアの サカタコスケ氏がレビュー!! 実践動画もあり。
OEKSOUND
フィンランドを拠点とし、現代的なプロダクションのニーズに対応した新しいミキシング&マスタリングツールを展開するプラグイン・エフェクトデベロッパー OEKSOUND。従来のオーディオ・エフェクト技術にとらわれず、現在のコンピューターテクノロジーによって実現可能となった新たな手法を製品に導入し、サウンドエンジニアが「使いやすい」と思えるようなテクノロジーとソリューションを追求し続けています。
今回は OEKSOUND からリリースされた2製品 「SOOTHE2」 と 「SPIFF」 をレコーディングエンジニアの サカタコスケ 氏にレビューして頂き、レコーディングやミックスの現場で実際どのように役立つのか、実践的な使用方法をご紹介! ミックスやマスタリングのヒントが得られますので是非ご参考にして下さい。
サカタコスケ Kosuke Sakata / Recording Engineer
京都府出身。2000年より bluesofa に参加。2013年自社スタジオ 「HINATA STUDIO」 チーフエンジニアに就任。現在はアイドル、バンド、大編成オーケストラまで様々な音楽作品を手がけるなか、アーティストプライベートスタジオ構築などにも関わり密度の濃いエンジニアリングを実践中。
レコーディング参加アーティスト
Porno Graffitti/Perfume/NAOTO/TEAM NACS/柚希礼音/さくら学院/宇都宮隆/横山だいすけ/神田莉緒香/佐藤健/高田夏帆/majiko/ポケットモンスター/宇宙まお/瀧川ありさ/Galileo Galilei/Яeal/岸谷香/佐香智久/NOBU/広瀬香美/ウソツキ/武藤彩未/ヲタクに恋は難しい/石井竜也/DEPAPEPE/ダイスケ/井口裕香/中谷優心/オカダユータ/Ailee など
サカタ氏のインタビュー記事はこちら
メーカーデモ動画:YouTube設定で日本語翻訳字幕を設定可能です。
ミックスをしていると、この音耳障りだなーっていう時がありませんか? 例えばキンキンして耳が痛いエレキギターや、モコモコしてコード感がよく分からないアコギ、ある音程だけが飛び抜けて大きく聞こえるベースなど、、でもSOOTHE2を使えば、ミックスを邪魔してしまうような音でも上手く混ざる音に変えてくれるのです。
なぜ耳障りな音が聞きやすい音に変化するのか?
特定の周波数帯が突出している、ピークと呼ばれる音を人は耳障りな音として捉えます。キンキンするなら2-4Khzあたり、モコモコするなら100-200hzくらいが突出しているということが良くあります。そのピークを削りフラットな周波数特性にすれば、聴きやすく混ざりやすい音になってくれます。SOOTHE2はそういう耳障りなピークをリアルタイムで自動に検出してくれて、ユーザーはどのくらいピークを除去するか設定をするだけで、簡単に聞きやすい音にしてくれます。
EQとの違い
EQでピークの帯域をカットしてしまえば、それでうまく処理できてしまうこともあります。しかしEQではその帯域が常に減少していることになるので、音量が小さい時には更に音量が下がってしまいます。SOOTHE2ではリアルタイムに減少量が変化するので突出した音だけが小さくなり、元から小さい時には変化しません。また、例えばベースのA音が飛び出して聞こえるからとEQで440hz辺りをカットしても、音量は小さく聞こえますが楽器は単音でも倍音があるので、本来なら440hzだけでなくその倍音も同じようにカットしないと元の音色とは変わってしまいます。SOOTHE2であれば、440hzだけでなくその倍音も同時にカットしてくれるので、EQよりナチュラルに音量が下がったように感じることができます。
SOOTHE2 の使い方
白線のカーブは見た目EQみたいですが、サイドチェインEQと同じような考え方で、自動検知をしてくれる範囲を表しています。山が高いほど他の周波数帯より大きくカットします。後ろのアナライザーはどれくらいカットされたか分かるようになっています。左のノブ類はは効き具合の調整です。Depthの値を大きくするとカット度合いが大きくなります。デフォルトはSoftモードですが、より強くカットしたい時はHardモードに変更できます。SharpnessはカットのQ幅で、周波数をピンポイントでカットしたい時に使えます。Selectibityは値を大きくすると大きなピークにのみ反応するようになります。Qualityを上げるとよりナチュラルな変化をしてくれますが、CPUへの負担もかなり増えるので要所要所で上げて使うのが良さそうです。SOOTHE2は耳障りなサウンドを簡単に馴染みがいい音にしてくれますが、聴きやすくなるのは良いことだけではありません。かけすぎると演奏者のニュアンスをそぎ落としパワー感や勢いを失ってしまうので、まずはSoftでの使用をお勧めします。
SOOTHE2 の使用例
使用例:Bass
8分音符で音程が上下に激しく動く、低音成分の多い比較的太めのベースにSOOTHE2を使ってみました。低い音程はよく聞こえるものの、高めの音程に行った時に音が見えづらかったので、飛び抜けて聞こえてしまう70hz付近と160Hz付近を中心に、ローのみコントールするようにしました。ミックスにおいてベースはローの支えの中心になりますので、極力太さを削がないようにしたいところです。なのでCPUパワーを惜しみなく使って oversample の値を高く設定、繊細に設定が反映されるようにし resolution を ultra まで上げてよりナチュラルに変化するようにしています。
使用例:オーディエンスマイク
ライブ会場のオーディエンスマイクのマスターで使用しました。会場によっては特定の周波数にピークがあったり、打ち込みオケのライブであればアレンジャーも時代もバラバラなことが多く、曲ごとに音像にバラツキがあることも多いです。そのため同じEQ設定では全編を対処できないことがほとんどで、以前は曲毎にEQや音量を細かく調整していました。しかし、SOOTHE2 を使えば耳障りな周波数帯を綺麗に引っ込めてくれるので、不安定なオーディエンスマイクの音も簡単にフラットな音像にしてくれました。今回は70hzくらいのロー帯域が特に不安定だったので、sensを思い切って上げEQで整えることによって、ライブ全編にわたってオーディエンス感を統一することができました。
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単独で聞いていた時にはいい感じの音だと思っていても、ミックスを進めていくと何だか他の音に埋もれてしまったなっていう時がありませんか? 逆にタンバリンが聞こえすぎるけど、音量を下げると寂しくなるしなーっていう時ありますよね?? そういう場合、フェーダーを上げ下げするよりもアタックをコントロールしてあげると、うまく聞こえてくる時があります。それはつまり、他の楽器とミックスした際にアタック成分がかき消されたり、もしくは他の楽器よりもアタックがありすぎるため、いい感じに聞こえなくなってしまうということです。そんな時は SPIFF を使えばアタックが簡単に調整できます。
SPIFF の使い方
SPIFF ができることはアタックを足すか引くかの二種類で、boostでアタック増強、cutでアタック減少です。周波数バンドでアタックをコントロールしたい周波数帯を選択してdepthノブで変化量を調整します。周波数バンドカーブの山が高いところは boost/cut の変化量が大きく、boostの場合はアタックが大きく増強され、cutの場合はアタックが大きく減少します。sensitivity は値を小さくすれば音量が大きい場合のみ変化するようになります。sharpnessはQ幅で、decayは元に戻る長さ、decay lf/hf はローとハイでdecayの長さが変えられます。設定値5でローハイのdecayタイムが同じになり、5以下だとローのdecayタイムが伸び、5以上だとハイのdecayタイムが伸びます。
自分の場合はノリを統一させるイメージで使う時が多いですね。アタックを増すことで音量変化を大きくしノリを大きくしたり、タンバリンなら「チャカチャカチャカチャカ」の「チ」を抑え「ャカ」がみえることにより、スピード感を感じられるようにします。
SPIFFの使用例
アコースティックピアノに使用
元がアタック多めのイントロピアノメロ音源でした。そのままミックスしてみるとアタックは良く聞こえるけど細めの音に聞こえがちだったので、ハイ成分を中心にアタック成分だけをカットしました。その結果、芯ののあるピアノメロになりました。
打ち込みハイハットに使用
KickやSnareがちょっと見えづらかったため、あえてHatのアタックを少し削ってKickとSnareが聞こえるようにしました。ハット本来の音は失われないよう、depthは軽めにしています。
アコースティック・ギターのストロークに使用
ミックスが進み全体の音の輪郭がハッキリしてきた時に、アコギのストロークが埋もれがちになってしまいました。キラッとした部分を強調しほんの少しアタック感を増やすことにより、ギター演奏の強弱が強調され、不明瞭になったアコギが見えるようになりました。
いかがでしたでしょうか? エンジニア目線による具体的な使用法が参考になります。
SOOTHE2 はダイナミックEQに近いプラグインのようでありながら、狙った帯域だけでなく倍音成分も変化させる事により自然なレベルコントロールを可能にしていますので、音色を極力変化させたくないミックスやマスタリングの場面などでも威力を発揮してくれます。SPIFFは任意の周波数帯のトランジェント成分を増減させ、楽曲のグルーヴ感をコントロールする秘密兵器としても重宝しそうです。楽曲ミックスの詰めが強力になるだけでなく、楽曲制作が更に楽しくなるこれらの次世代プラグインをまずは試してみてはいかがでしょうか?
デモ版のインストーラーはこちら
SOOTHE2 デモ版インストーラー (OEKSOUND本国サイト)
SPIFF デモ版インストーラー (OEKSOUND本国サイト)
Rock oN スタッフの SCFED IBEが SOOTHE 2 と SPIFF を試してみました!
SOOTHE 2 をディエッサーとして使用
SOOTHE 2 プリセット「De-ess and that’s that」を使用し、はじめにバイパス、次に SOOTHE 2 をON、そして最後は delta monitoring を ONにして、SOOTHE 2 がカットしたサウンドのみを試聴しました。普通に聞くと聴感上、歯擦音があまりカットされていない様に感じますが、delta monitoringを使用すると確実に耳に痛いサウンドをカットしている事が確認できます。ちなみに、SOOTHE は スーズ と読みますので、音をスムーズにするスーズと覚えやすいです。
SOOTHE 2 で低音をトリートメント
使用した音源はベース音源をフィーチャーしているため、必要以上に大きいベースの帯域を SOOTHE 2 で整えています。SOOTHE 2 の大きな特徴は、指定した帯域内で起こる様々な周波数ピークに追従してカットできる事です。これまでのダイナミックEQの場合では、指定した周波数とQ幅でカット・ブーストを設定し、音量を動的に処理する事はできますが、周波数ポイントを動的にピークへ追従させる事は不可能でした。SOOTHE 2 は、ざっくり帯域を指定しておくだけで、ピークをリアルタイムで検知し追いかけてカットしてくれるのです。
SPIFF でパーカッションを引き立ててノリを良くする
リズムセクションの金物が特に際立ってくる設定で、大きく目立つ depth ノブでブースト量を調整しています。ゆったりした16ビートの中で金物のトランジェントをブーストすると、アクティブな雰囲気が出せたりサウンドが明るくなります。これは逆に、設定をブーストでなくカットにすれば、ドラムレコーディングで厄介なハイハットのカブりをコントロールするのにも有効です。「mix」パラメーターで原音とエフェクト音をブレンドできるパラレル仕様ですので、アタックが欲しい周波数を見つけたらmixの値を上下して、ちょうど良い配分を微調整できるのも嬉しいです。
SPIFF で ドラムサウンドが激変!パンチを加えた ゴリゴリ、バッキバキに!
ダンスミュージック・クリエイター必携プラグインがここに誕生!
今回素材として使用した UJAM Beatmaker HYPE は、ダンスミュージックの土台を築くパワフルで最新のエレクトロニック・ドラムサウンド。EDMにおいてドラムはトラック完成度の半分は占めているのではないでしょうか。特にドラムの音圧感、グルーヴ感がトラックを大きく印象付けます。そこでダンスミュージック・クリエイターが非常にこだわるのが音圧処理。
ドラムにEQ、コンプレッサーを駆使してド派手なサウンドに仕上げる訳ですが、約20年前に SPL社から登場した Transient Designer というアウトボードがクリエイターに衝撃を与えました。音のアタックとサステインをコントロールする事でトラックにパンチとグルーヴを与える、というその衝撃的なコンセプトで音作りを新次元に導き、Transient Designer Model 9946 はダンスミュージック・クリエイターのマストアイテムとなったのです。
その後、トランジェントをコントロールするエフェクトは各社からアウトボードやプラグインで多数リリースされており、技術が平均化されつつある現代に突如現れたのがこの OEKSOUND SPIFF です。何が凄いか、これはもうサウンドを聴いて頂くのが一番早いと思いますが、狙った帯域をドカンと盛り上げサステインも自由自在、ドラムのサウンドが変幻自在に操れるのです。特に、90年代にMANLEYやNEVE、UREIを始めとした高価なアウトボードを多数使って制作されたテクノ、ハウス、ブレイクビーツのような濃密で前に出てくるサウンドが SPIFF で実現できてしまうのです。
動画では SPIFF に搭載された2つのドラムバス用プリセットを使用。ab比較で、aチャンネルに 「add punch to drum buss」 を読み込み、タイトでパンチあるドラムを作成。上物のサステインが短いディープなサウンドになりました。
bチャンネルには 「add punch to drum buss2」 を読み込み、説得力のあるキックと全体的に破壊力を持つサウンドに。
今回はドラムトラックでの試聴ですが、ベースが入ったり、リフが入ったり、様々なパターンでの使用に期待が持てます。サイドチェインが新ジャンルを生み出したように、SPIFFがダンスミュージックのサウンドに新たな一石を投じるのではないでしょうか。SPIFFをぜひ試してみてください!
SOOTHE2 デモ版インストーラー (OEKSOUND本国サイト)
SPIFF デモ版インストーラー (OEKSOUND本国サイト)
オンラインイベント「SONICWIRE CREATIVE WEEKS 2020」 DTMに活かせる技術や楽曲の配信方法に関する無料ライブ配信セミナーにて、【サカタコスケ氏 × Rock oN SCFED伊部氏】ミキシング&マスタリング講座! が行われたアーカイブ映像もご参考にしてください。