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Rock oN:今回、ぜひ、杉山さんに使って頂きたいという製品がありまして紹介させて頂きます。これなんですが、KERWAXというフランスのブランドの Kerwax Replicaという2chチューブ・ライン・アンプです。今日は実際に音を出しながら、この製品の印象を伺っていこうと思います。よろしくお願いします!
2段の真空管とBaxandall EQでトーンをコントロール
杉山勇司 氏:結論から言うと、とても面白い製品だと思います。あえてわかりやすく言うと、この製品は、オーディオ機器的な表現ですが「トーンコントロール製品」という表現がぴったりくるかもしれません。2段の真空管のドライブ具合と、その間に入ったBaxandallタイプのEQで音質を変化させるんですが、今の時代に、あえてこの製品を作ったメーカーはかなりマニアックですね。
実際にツマミを触っていると、前・後のどちらの真空管で音が変わっていくのかがわかりやすく、とても面白い。真空管とEQという組み合わせは、回路的に見ても基本的な部類ですが、今時の新製品で、こういうものはあまり見かけないですね。でも、この絶妙な変化をコントロールして楽しめるようにな耳を持つことができたら、通常のプラグインなどを使ったEQ操作においても、しっかり耳で判断して、希望の音を作っていけるようになると思います。現在のDAW/プラグイン世代にとって、真空管をドライブさせることによって音がどのように変化するのかということを勉強できるとてもいい製品かもしれません。また、ツマミの回し方によってはとても乱暴に変化させることもできます。
Rock oN:なるほど。DAWを主体にしたミックスを行う場合、Kerwax Replicaをマスターにインサートして最終音作りを行う使い方になると思いますが、ちょっと懸念するのが、ツマミがノッチ式じゃないのですよね、、
杉山勇司 氏:そうですね。もしかしたら左右のわずかなずれが生じるかもしれませんが、アナログデバイスの特性や曖昧さも含めて「楽しめ!」とこのメーカーは言ってるような気がするんです。大前提として「音楽ってそういうものだったでしょ」と思います。確かに0.5dBもずれていたら嫌だけど、ちゃんとした耳を持っていれば、頑張れば合わせられるはず。厳しい言い方をすると、使い手を選ぶ製品かもしれませんね。
Rock oN:渋い製品ですね、、、
杉山勇司 氏:渋すぎる(笑)。でも、かなり面白い。真空管は、1つはプリアンプステージ用、もう1つはサチュレーション用として12AX7が使われてるんですが、これは多くのオーディオ製品で使われる3極管で、秋葉原に行けばいろんなメーカーのものが簡単に手に入ります。僕は、自分が持っているtelefunken製に取り替えてみて、音の変化を楽しんでみたいと思いました。
サウンド「トリートメント」の重要性
杉山勇司 氏:以前のスタジオ作業では、このようなアナログ機材などの特性を活かして、レコーディングした素材に音作りを施し下準備をする作業のことを「トリートメント」という言葉を使っていました。ミュージシャンが自宅で作った音などをベーシックやオーバーダビングとしてマルチトラックレコーダーやDAWに取り込む際に、スタジオでエンジニアが「トリートメント」、つまりグレードアップを図っていたんです。トラック全体の整合性を取るという意味でもエンジニアが「トリートメント」することはとても重要です。そう言った意味で、この Kerwax Replicaは「トリートメント」を行うにあたって、かなり使い勝手の良い製品と言えるでしょう。ちなみに、この製品の値段はいくらですか?
Rock oN:税込で495,000円です。
杉山勇司 氏:なるほど。さっきも言ったけど、使い手を選ぶ製品だと思いますが、「前段、後段、どちらの真空管でこれぐらいドライブしたらこういう変化をする」といったことが自分の耳で聞き分けられるようになれば、イメージした音作りをできるようになれると思います。試しに、音を出しながら真空管をドライブしてみると、(ここで実演しながら)低音のブーストされる帯域が次第に変わってきたでしょう? これは、真空管のグリッド~カーソード間の電圧を変化させる結果として起こっていることなんです。単に、EQを触って特定の帯域を上げ下げするアプローチじゃなくて、こう言った風に、真空管をドライブさせることで音に変化を加えることもできるんです。ちなみに、今回DPA4011を用意してもらったのは、僕にとって最も色付けのないマイクだからです。その録り音に対してこのように変化をつけていけるということは、今では大変高価でレアなチューブマイクを数多く試してベストなものを選ぶという行為にとても近いのではないかと思います。また当然ながらドラムマシンやシンセなどのライン入力の音源にも変化をつけられる。その観点からすると、今回試したセットはとてもリーズナブルと言えるのではないでしょうか。
忘れちゃいけないのは、真空管は、歪みを加えてローファイを生むためだけのものじゃない。当時の真空管が今でも残っていて、経年変化した音になっているから「真空管 イコール 温かみのある音」という言葉を使って勘違いされているけど、本来真空管の音はむしろハイファイなんです。
今回の試聴機材構成
Rock oN:アナログデバイスにあまり馴染みがない若い世代の方にとって、この製品を紹介する際に、音に「アナログテイストを加える」といった説明は妥当ですかね?
杉山勇司 氏:もちろん、真空管の倍音をはじめ、アナログ的サウンドを取り込める製品なのは間違い無いです。今、多くの人がプラグインを使っていると思うので、わかりやすくするためにプラグインを例にあげてみると、僕が使っている製品にPlugin AllianceのBlack Box Analog Design HG-2というプラグインがあるんですが、
杉山勇司 氏:これは五極管の真空管で発生するサチュレーション・サウンドを特徴としてます。まずはこういう製品を使ってみて、アナログサウンドの感触を掴むのはいいかもしれませんね。そこでアナログデバイスの面白さに触れ、さらに追求していけば、このKerwax Replicaの良さがわかってくるかもしれません。今聴く限りS/Nは悪くないし、M/Sモードも搭載されているので、面白い使い方もできそうです。
搭載されているEQはBaxandallタイプで、これは1950年代にPeter Baxandall氏が考案/設計したトーンコントロール用のEQで、低音と高音のシェルビングで音を作る極めてシンプルな構成で、できるだけ原音のニュアンスを保ったままEQを行うのが特徴です。2段の真空管とBaxandall EQのそれぞれのツマミの位置を動かすことによって変化する音の変わり方を、一個一個、丁寧に判断して操作できるようになると、それらの組み合わせが突然、完璧に噛み合い、自分が思い描く音を作れるようになる。そういった感触が得られるようになると、本当に愛着が湧く、自分にとってなくてはならない機材になるのではと思います。
記事内に掲載されている価格は 2022年7月28日 時点での価格となります。
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