パパ洋介:2021年はまさにApple Musicの空間オーディオ発表ということもあって、イマーシブオーディオ元年といっても良いのではないでしょうか。特にDolby Atmosを追いかけ続けて早7年目にしてApple Musicの対応、非常に大きな一般的なマーケットで空間オーディオ、イマーシブオーディオというものが認知されるようになった2021年に、Apple Musicが Product of the Year に輝いたというのは非常に嬉しいですね。Apple Musicが対応してくれたから皆さんがイマーシブ制作に向かったという象徴的な出来事でした。あとはSpotifyがDolby Atmosに対応して欲しいですね。Apple MusicとSpotifyで世界のストリーミングサービスのシェア5割以上になるそうなので、この2社が揃って初めて、世の中がイマーシブになって行くかなと思います。
PD安田:Apple Logic も Dolby Atmosフル対応で劇的に進化しましたね。アーティストが導入し始めて一般的に曲を作るベースになれば、3Dミックスが加速して面白くなりますよね。2チャンネルステレオの時代が終わるかもしれないという可能性もあります。新しいMacbook ProもDolby Atmos対応スピーカーになっていますしね。スピーカーの配置環境にお金をかける時代が来たと思いました。
パパ洋介:イマーシブになる事によって、単品の音のクオリティを高めないといけない方向に向かっています。マスキング効果がなくなるので素の音の良さがそのまま際立つので。
恒吉:新しい作品をどういう形で作ったら良いのか、表現の模索のタイミングに入った感がありますね。Apple Music が Product of the Year を獲得したのは、今後の表現方法を提示する一つの形になったのではないでしょうか。
BOUNCE清水:Apple Music がこれから更に進化していくと良いなと思います!
パパ洋介:RX 9は既存モジュールの進化の幅が半端じゃなかったですね。Dialogue Isolateの抜き出し精度アップには度肝を抜かれるし、Music Rebalanceの分離精度ってこんなに凄かったっけ?と再認識させられるくらいの破壊力がありました。
SCFED IBE:選択範囲だけをUNDOできるRestore Selection機能も凄いなと思いました。これまでだとUNDOすると作業全体が遡ってしまいましたが、ピンポイントで処理を遡れるのが画期的だと思います。しかもHistory Listが30ステップまで記録できるようになったので、思いついた作業をどんどん試せます。
PD安田:Spectral Editorが Apple Logic Pro ARAに対応しまして、Logic のプラグイン上だけでSpectral Repairモジュールに近い機能が利用可能になったのも大分使い勝手が良くなりましたね。
スティービー竹本:Dialogue Isolateの大幅な進化も素晴らしいですが、ハードに使用されていた方ほど部分的に工程を遡ることができるRestore Selection機能を喜ばれたと思います。2020年を通して映像制作やLive配信の分野で大幅に日本のユーザー層が拡大したこともRX 9の受賞につながったと思います。
パパ洋介:専用のハードウェア無しでインターネットを超えるというのは実はすごい事なんです。音だとAudiomovers LISTENTO とか専用のソフトウェアを介して可能でしたけど、映像となると帯域が非常に大きいので難しかったんです。Inter BEE 2021ではインターネットを使わずに遠隔地と映像をやりとりする技術が多く出展されていたんですけど、基本的に専用のハードウェア同士を繋いでSRTプロトコルを使う製品がほとんどでした。NDI Bridgeは汎用のPCで出来てしまうというのが大きくて、そこがかなり凄い技術だと思います。イーサネット規格なので特殊なケーブルも必要なく、LANケーブルをスイッチングハブに接続するだけでどこでも使えて、カテゴリー6ケーブルを使用すれば100メートル近くまで引き回せます。映像伝送がWi-Fiに対応しているのも現在はNDI規格だけで、Wi-Fi接続されたスマホのカメラを使用する事も可能です。IPオーディオのDanteとも親和性が高くて、DanteをNDIに変換する事でインターネットを超えて、その信号をVSTプラグインが掴んでDAW再生するなんていう事も可能です。
ACID渋谷:Rock oN渋谷店の地下にオープンしたイベントスペース LUSH HUB の映像機材はNDIを採用していて、複数のPTZカメラをコンピュータからフルコントロールして映像配信できるのが凄いなと思いました。
PD安田:機材スペックや情報処理が益々高速化していって、今後も1.5倍、2倍、3倍のスピードでテクノロジーが進化していくのでしょうね。
SCFED IBE:テクノロジーを人間がうまく使いこなす方法を提案してくれたのが Sonnox Oxford Cralo ではないかと思います。Craloは直感的なEQで音作りができると同時にラウドネスが自動調整されるという、手動と自動のバランス感覚が今っぽいと感じました。人間の耳で行われた判断をソフトウェアがサポートしてくれる、それが今後のキーワードになるのかも知れませんね。
パパ洋介:プレイヤーが触りやすいいインターフェースを付けたというのがエポックでしたね。コンパクトミキサーのEQを触る感覚で調整して、そこから更に作り込む事もできますし。
恒吉:この部門ではUJAM VIRTUAL GUITARIST IRON 2がダントツの得票数を獲得しています。
PD安田:最近の傾向としてはループ系や、いわゆるネタ系と呼ばれる製品が多かったという印象があります。UJAMしかり、Spliceがとても流行っているので、それが結果として出ているのではないかと思います。
East West製品は老舗サンプル音源ではありますが、HOLLYWOOD BACKUP SINGERS はいわゆるR&B系のちょっと面白い路線で、East Westは個人的に好きなブランドなので今回ピックアップしました。
恒吉:店頭ではどんなソフト音源が人気でしたか?
PD安田:作家さんからの問い合わせで多いのは「最近流行りの音源はなんですか?」といった内容で、UJAMがキテますよと話すとそのまま購入されるケースが多かったです。初めてDTMを始める方は色々なソフトを購入されますけど、既に大体持っている方にはUJAMが人気でしたね。
ACID渋谷:UJAMは2021年に大きく飛躍しましたよね!使いやすいのとジャンルがキャッチーで今っぽくて、新しい音楽が好きなクリエイターが選びやすい製品でした。
スティービー竹本:UJAMはキャッチーなイメージですが、古くはWizooライブラリから始まり、IRONもSteinbergのVirtual Guitarist の流れを汲んだ製品で、初代UJAM IRONの発売からも6周年と、歴史にも裏付けられた進化ですよね。
SCFED IBE:鍵盤を1つ押すだけでカッコ良いパターンが演奏されるのも人気の理由ですが、IRON 2 はサンプルやエフェクトが刷新されて演奏や音のバリエーションが格段に増えたのと、単音弾きに対応したのが大きかったと思います。初代のIRONからかなりの成熟期間を経た大幅バージョンアップで、UJAMerからも高く評価されています。そしてUJAMのキャッチー路線とは対照的に The Amazonic は、南米アマゾンの原住民に伝えられる楽器を最新機材でキャプチャーしたという、その希少価値の高さに興味を持つクリエイターも多かったです。
開発担当者である白土健生氏とPeter Brown氏より、コメントを頂きました。上の画像をクリックしてぜひ記事をお楽しみください!
ACID渋谷:2021年は各シンセメーカーが既存の機能をブラッシュアップした製品が多かったと思います。MIDI 2.0が2020年に正式に認められて、開発から認可までに38年かかった新技術が2021年はどんな形で製品になるのか楽しみにしていたのですが、MIDI 2.0が搭載された製品の登場はありませんでした。2022年はMIDI 2.0を使用した機材の登場に期待したいと思います。
各ブランドともに正統進化させた製品をリリースしたという流れで、ローランドの SP-404MKII は2000年代くらいからビートメーカーに使用され始めて、これ1台という縛られた環境の中で曲を作るのがカッコ良いという事で人気が出てローファイの新しいジャンルを確立しました。それが今回新しくなったという事が、ある特定のジャンルではありますけどビートメーカーのシーンには大きい登場だったと思います。機能的な部分では波形表示が可能になったり、内部ストレージが増えたり、サンプリングのスキップバックができるようになったりと、特段新しい事ではないですが、耳を頼りにしての制作から波形を見て制作できるという事で更にユーザー層が広がりました。得票がSP-404MKIIに集まったのは世界的な話題でもあったので納得です。これ自体で2chのDJミックスができるという機能もあって、それは他で見たことがないですね。
恒吉:ゲストクリエイターの瀬川英史さんが Mutable Instruments Beads をノミネートされていますが、モジュラーシンセの人気は2021年どんな感じでしたか?
ACID渋谷:Rock oN ですと1010music や Endorphine が人気でしたが、Make Noise製品は部品が全く調達できなくて、日本に何台入荷したのだろうかという状況でしたね。ステイホーム需要でモジュラーを新たに始めたという方も多かったです。
SCFED IBE:2021年は機材の小型化が特徴的で、IK MULTIMEDIA UNO Synth Pro Desktopが小型アナログシンセとして魅力的だったのと、KORG Modwave は Wavetableの行き着く所まで極めた感がありました。
スティービー竹本:小型シンセではロングセラーを続けているTeenage Engineering OP-1 が2021年7月にアップデートされて、オーディオインターフェース機能が追加されたのも大きなトピックでした。
PD安田:2021年は有名ブランドからもプラグインエフェクトが数多くリリースされました。Waves CLA Nx / Nx Ocean Way Nashville は Rock oNスタッフのCOOPER天野が試して非常に気に入っていまして、導入されたお客様も多かったです。
BOUNCE清水:Eventide の SplitEQは帯域ごとのトランジェントを調整できるのが画期的でサウンドエンジニア向けな人気製品です。そして何と言ってもDAWでは Avid Pro Toolsのバージョンアップが見逃せないですね。
パパ洋介:Pro Toolsのハイブリッドエンジンが一番大きかったなと思います。
PD安田:既存のHDXユーザーがバージョンアップした際に、DPSプラグインが無くなったというお問い合わせが結構ありました。ハイブリッドエンジンはAvid Carbonを使っている人が一番恩恵を受けているのではないですかね。
パパ洋介:そうでしょうね、Carbonを作るためにハイブリッドエンジンを作ったような物だから。ハイブリッドエンジンはPro Toolsにとっては画期的な、DSPとCPUの融合したテクノロジーが搭載されたというのが非常に大きいと思います。ユーザー的な目線で見てもボイス数の増大というのはPro Toolsユーザーの悲願だったと思うので、頑なに制限のあったボイス数がこんなに増えちゃうなんて、全てのPro Toolsユーザーが喜んだポイントなのではないでしょうか。
BOUNCE清水:あと32チャンネルのI/O制限も64チャンネルまで増えたので、それも大きかったと思います。64チャンネル録音をしたいからHDXを入れる必要があった人からすると、大きな進化というか、縛りが取れたという感じですね。64チャンネルあれば大抵の事は出来るようになるでしょう。
BOUNCE清水:Sym・Proceed SP-MP500 はセールスもさることながら、500シリーズで実現されたクリアーな音質がプロフェッショナルから高く評価されまして、何本も買う方が大勢いました。500シリーズで複数買いをするケースは本当に希なのですが、皆さん音質の良さを知っていてまとめ買いする人が多かったです。
SCFED IBE:SP-MP500はシンプルな本体デザインも優れていますよね、ルックスだけでも音がクリアーに録れそうなオーラがあります。生産完了になったラックマウント版 SP-MP2 や SP-MP4 と比べて音質はどうなんですか?
BOUNCE清水:実はなんとSP-MP500 の方が優れているんですよ!周波数特性が更にフラットになって、応答特性の安定性がナノ・セカンド単位で向上して原音忠実度が更に高まっています。
パパ洋介:SP-MP2ではゲインアッテネーターの固定抵抗をやめて基盤付けされた部分が、SP-MP500では固定抵抗に戻されているんです。SP-MP4が生産された当初のこだわりがSP-MP500で復刻されていて、それは基盤を見ただけでも分かりました。
PD安田:500シリーズではその他に WesAudioから _RHEA(レア)が発売されまして、TITANケースとの組み合わせでリコールが可能になるという、DAW環境でアナログアウトボードを積極的に使いたくなる製品でした。
BOUNCE清水:2021年はオーディオインターフェースの豊作年でしたが、その中でもRME Audio Fireface UCX IIは大人気です。クロックとAD/DAが進化して音の解像度が上がり、DURecが搭載されて素晴らしく生まれ変わったのですが在庫がなかなか入らなくて、、、お待たせしている方も大勢いらっしゃいます。APOGEE Duet3 や Universal Audio VOLTシリーズのリリースもあり、そして個人的にはBlack Lion Audio Revolution 2×2が好みでした。Prism Sound製品がリリースに間に合わなかったのが惜しかったです。
PD安田:あとはコントローラーの SSL UF8とUC1が立て続けにリリースされて、そちらも人気が高かったです。SSLが果敢にトライしたハードウェアコントローラーの2製品には大きなインパクトがありました。完全なコントローラーでありながら質感とデザインにこだわって、アナログのフィーリングを感じさせてくれるアナログ没入型コントローラーです。SSLが「In The Box」ミックスへ向かうと見せかけて、2021年最後にアナログミキサーのBIG SIXを出してきた流れも印象的でした。
COOPER天野:音楽制作向けの機材を作っていたメーカーが配信向けマイクやスピーカーをリリースして、これまで音楽をやっていなかった方がそういった製品を手にする機会が増えました。EarthworksのICONやEthos、Antelope Audio のAXINO、そしてSONTRONICS PODCAST PROなどなど、音楽用マイクの特性がUSBマイクに生かされて市場全体がレベルアップするいい流れだなと思いました。10万~20万円台のマイクはリリースが非常に少なかったので、2021年はユーザーの裾野を広げる方向に向かったという事かもしれませんね。
COOPER天野:個人的にはHEDD AUDIO のHEDDPHONEを聞いた時の感動がとても大きくて、サイズも重さも相当のインパクトがありました。
BOUNCE清水:Presonus Eris Sub8は 2.1チャンネルの流れが主流になりつつある中で小型安価に2.1を始めやすく、サブウーファー導入への抵抗をなくしてくれる製品でした。2チャンネルスピーカーはメーカーを問わず使えますので、サブウーファーに興味があるお客様が店頭で試してローエンドを実感して、そのまま購入されるというケースが多かったです。最近サブウーファーは注目されているジャンルで、その中でもコストパフォーマンスの高い製品で人気でした。
PD安田:Rock oN リファレンススタジオではFocal Alpha Evoの試聴も多かったですね。プロエンジニアからの評価も高いFocalがハイコストパフォーマンスモデルをリリースしたという事で店頭展示前から問合せも多かったのですが、確かにFocalらしさが感じられるしっかりとしたモニタースピーカーです。これからスピーカーを導入される方やグレードアップを検討している方にはぜひ試聴して欲しいですね。音を聞けば革新的なプライスゾーンだとお分かり頂けるかと!
ファジー日下部:2021年もステイホーム需要が続いたこともあって、吸音材 SHIZUKA Stillness Panel SHIZUKA SDM や Viccoustic VicStudio Box、そしてSonarworks SoundID Reference といった、再生環境を整えるアクセサリに注目が集まりました。
SoundID Referenceがアップデートした際には問い合わせがとても多かったですよ。SoundID Referenceは補正能力と操作性の向上以外にも、カーステレオやパソコンスピーカーなどの再生環境シミュレートが簡単に出来るようになって、今までマルチモニターで確認していた作業がメインスピーカーだけで賄えてしまうのも魅力です。Windows用ドライバが開発されてニアゼロレイテンシーでの補正が可能になったので、Windows環境での音楽制作や動画鑑賞など、幅広いシーンで活用できるようになりました。
strymon CONDUITはペダルボード用のMIDIインターフェースでスタンドアロンで動きます。そのような製品はこれまでなかったので、マルチエフェクターなどで制御していたMIDI周りのコントロールをCONDUITだけでコンパクトに行えて大好評でした。そして Cranborne Audio N22Hが簡単なボーカルブースを作るのに人気がありました。2021年は録音環境を整えるアクセサリが多かった印象です。
ファンキー松本:録音環境を整えるアクセサリは KAOTICA EYEBALLにも依然として根強い人気がありますよね。
PD安田:音響補正システムでは NEUANN MA 1とスピーカーがバンドルされたキットが数量限定で発売されまして、これまでになく売れていますね。
ファジー日下部:GenelecもGLMとセットになったGLM Studioが人気なので、価格面で計測マイクとモニタースピーカーのバンドルは成功していると思います。
ファンキー松本:配信機材については2019年から続くトレンドを継承しまして、各メーカー共にBlackmagic DesignのATEM Miniを意識した商品をリリースしています。
Blackmagic Design製品では既存モデルを進化させた ATEM Mini Extreme や ATEM Mini Extreme ISO の販売数や投票数が非常に多かったです。カメラについてはPocket Cinema Cameraシリーズの最新モデルの 6K Proが好評でした。おそらく今回ノミネートした中で一番売れているのがこの6K Proだと思います。
RolandのV-02HD MK IIも既存製品が進化したモデルで、パソコンと接続できるUSBストリーム機能が加わってOBSなどで配信できるようになりました。
面白い製品としては、ライブ配信に必要な機能を全て備えつつプラスアルファのあった Yololiveのyolobox Proですね。ただのディスプレイに見えますが本体にバッテリーとSIMが入っていまして、カメラを入力すればテザリングを使ってどこでもライブ配信ができてしまいます。実際に私も野外でyolobox Proを使ってライブ配信をして来たんですけど(ライブ配信アーカイブはこちら)問題なく配信できて、個人的にはこれが一押しです。
ノミネートではTech Awardに入っていますが DaVinci Resolve 17 も話題になったかと思います。300項目のアップデートがある中でも一番のトピックはApple M1 ProとM1 MAXにネイティブ対応した事です。4K、8Kの編集がラップトップで出来るようになったのが非常に強かったのではないかと思います。2021年は有償版のDaVinci Resolve Studioが非常に売れた年で、StudioのライセンスにSpeed Editorという専用コントローラーをセットにしたバンドルが非常に売れました。
恒吉:DaVinci Resolve 17のリリースタイミングも非常に早かったですね。
ファンキー松本:M1 ProとMAXに至っては発表と同時にサポートしていまして、Blackmagic Designはこれから更にシェアを伸ばしていくのではないでしょうか。DJIやYololiveも非常に面白い製品を出してきていますが、Blackmagic Designが圧倒的に強いです。
恒吉:配信関連機器の2022年の予想みたいなものはありますか?5Gが普及したら配信機器の市場も変わって行きますかね。
ファンキー松本:プラットフォーム次第だとは思いますが、4K配信がカギですかね。Blackmagic Designの Web Presenter HD / 4K は10万円以下で配信できるので、この辺りは次の流れの布石になるのではないかと。5Gになれば4Kの受信にもストレスがかからなくなるイメージはありますが、まだ見る側が受け取れないのでこれからだと思いますね。
パパ洋介:モバイルデバイス自体が4Kネイティブでなかったりするので、4Kのパネルを持ったタブレットが必要なのと、4Kのスイッチャーがまだ高額な物しかないので手頃な価格帯に下がって来ると良いんじゃないかな。カメラはほとんどのモデルが4Kに対応しているので、Atemシリーズが4Kに対応してくれると嬉しいです。テレビ以上の映像クオリティが簡単に実現できる、そんな環境がすぐそこまで来ていますね。
恒吉:Blackmagic Designが2021年も継続して総合力を発揮したという事になりますね。
パパ洋介:順当な進化を遂げているDolby Atmos Production Suiteが3.5、3.7と2つ出てかなり音楽制作向けになって、これまでDolby Atmosコンテンツ制作はPro Tools 一択だった市場に変化が訪れました。それと Virtual Sonic 360 Reality Audio Creative Suiteは国内リリース前ではありますけれど既に話題を集めています。Dolby Atmosが映画から派生して音楽制作に活用されているというスタンスに対して、360 Reality Audio Creative Suiteは逆方向で、音楽配信をスタートラインにした新フォーマットとして立ち上がっているのが非常に面白いと思います。
360 Reality Audio Creative Suiteについてはこちら
360RAはDAWトラックに360 Reality Audio Criative Suiteプラグイン(AAX、VST3、AU対応)を立ち上げると、チャンネルをプラグイン内でオブジェクト化して360度仮想空間に自由に配置できます。一つのプラグイン内で全オブジェクトを俯瞰してそれぞれの定位を一括していじれるのが便利です。360RA 全天球サウンドフィールドを表現する推奨スピーカーレイアウトは13.0(5.0.5+3B)ですが、2.0 Stereoをはじめ、4.0、5.0、5.0、7.0、9.0などなど様々なスピーカーセッティングに対応出来るのも良いですよね。360RAでは、スピーカーも仮想化され出力チャンネル数は自由です。スピーカーの数が増えるほど360RAの再現性は高くなりますけど、自宅でスピーカーを10台以上設置できる環境を持っている人は多くないと思いますので、少ないチャンネル数、特にヘッドホン用にバイノーラルレンダリングしてれくれるので、まずは普段使っているヘッドフォンで作業を始めることが出来ます。特別な機材の追加なく、プラグインの導入だけで360RAのミックスにチャレンジできますよ!
パパ洋介:Focusrite RedNet R1 は Red 16 Lineと組み合わせることで非常に低コストにイマーシブのモニター環境を構築することができる製品で、製作者向けに是非ともオススメしたいです。Dolby Atmosの7.1.4というフォーマットは12チャンネルのスピーカーを制御するということになるんですけど、ボリュームコントロールを一括して行えるコントローラーは高額な製品しかなかったので、このR1とRed 16 Lineの組み合わせは非常にコストパフォーマンスが高いです。他の製品だとAvidのMatrix StudioやMatrix、あとはGrace Designのm908と、100万円コースになってきますが、それが約半額の50万円くらいで実現できます。
Nugen Audio Paragonは高さ方向を持ったリバーブプラグインで、立体的な広がりを表現できるリバーブ製品が少ない中でこのParagonをピックアップしてみました。他だとExponential Audioくらいしか思いつかない所だと思います。
Flux Spat Revolution Essential はSpat Revolutionのバリエーションで、これもイマーシブミックスを始める上で1つ持っていると役立つ製品です。例えばDolby Atmosのスピーカー配置でスタジオを組んだ後に360 Reality Audioの仕事をしたいという時にこのソフトがあると、スピーカーのオブジェクト化ができて仮想的にスピーカーの位置を動かすことが出来てしまいます。これもイマーシブを始めるなら忘れないで欲しいソフトで、今まで高額だったソフトが安価に手に入るようになりました。
Austrian Audio AmbiCreatorはマイク2本を使ってアンビソニックスが取り出せてしまうという、謎のプラグインソフトが出ていましたので面白いなと思って取り上げました。アンビソニックマイクは独特で、アンビソニックスしか録れないのが普通なんですけど、普段使いも出来るマイクを2本組み合わせるとアンビソニックスが取り出せてしまうプラグインは面白いのではないかと。出力されたアンビソニックスの音も試聴しましたが、かなりしっかり広がりのある音だったのでこれは面白いなと思いました。
Sound Particles Space Controllerはスマホのジャイロセンサーを使って3Dパンニングをするのですが、3Dのパンニングって意外と難しいんですよね、ジョイスティックだけだと平面的にしか動かないので高さ方向はどうするのみたいな。だからスマホを振り回すことによって左右と高さを直感的に動かせるので非常に面白いプラグインだなと思いました。
WAVES CLA Nx / Nx Ocean Way Nashvill はイマーシブの中でもバイノーラルの技術ですよね、バイノーラルでここまで空間再現が出来るという可能性を見せつけてくれたソフトだと思います。このプラグインを通す事で空間オーディオ、バイノーラルになるので、まずは自宅環境で体験をするという意味でもありなんじゃないかと思います。
COOPER天野:僕は クリス・ロード-アルジ のスタジオを再現した CLA Nx を試してみたんですけど、エア感や定位感が確実にスピーカーでの体験に近くなって感動しました。単純に左右を少しずつクロスオーバーするような方式とは違って、しっかりと頭の外に音像がある感じです。ヘッドトラッキングがある事によって、例えば自分がどの方向を向いても音源は常に一定の場所から聞こえて来るので、よりスピーカーで再生しているような感覚で作業できました。これは他社製品では得難いメリットだと思います。個人的にイチオシです。
参考記事:ヴァーチャルモニタープラグイン Waves CLA Nx レビューby AMANO(試聴音源あり)
恒吉:昨今は操作を単純化するなどして、アーティストが創作に集中できる事を目指したプロダクトが増えて来ている印象ですね。
SCFED IBE:ソフトウェアではAIを使った製品や演奏パターンが用意されている製品のほか、Sonnox Oxford Craloのように表向きは非常にシンプルでありながら裏では複雑な処理が行われているプラグインもありますね。ハードウェアだと、手のひらサイズに収まるORBAがまず頭に浮かびます。
スティービー竹本:昨年リリースされたiOSアプリOrbacamを使えば、ORBAの演奏に合わせてカメラ映像にエフェクト効果を入れる事もできてiPhoneとOrbaで簡易MVが出来ますよね。
SCFED IBE:叩くとか押すとかシェイクするとか、アコースティック楽器みたいな演奏方法が10種類あって、それぞれの演奏方法を何に使おうか考えるモジュラーシンセ的な楽しみがありますよね。とても単純な遊びから本格的な音楽制作、そしてライブパフォーマンスに活かせそうな技を生み出す可能性を秘めています。
まずはドラマーが常に持ち歩くツールとしてアリなんじゃないかと思います。バンドだとバーカルをはじめギターやベースはアンプ無しでも音が鳴るので、野外でもどこでもメンバーが揃えばセッションできます。しかしドラマーはドラムセットが目の前に無いと膝をスティックで叩くくらいしかできなくて、一番存在感ある楽器のはずが何も出来ないという、、そこでこのORBAを使えばバッテリー駆動してスピーカーも入っているので、指ドラムをするのにうってつけなんです。ボリュームを最大にすると結構な大きさで鳴るので、ポケットサイズで携帯できる指ドラムマシンとしてかなり良いんじゃないかと思っています。
パパ洋介:そういうユーザーのクリエイティビティを刺激する製品を、今後どうやって作っていくかが模索されている時代だなと思います。このツールを使って何をやりますか?みたいな新しい事に挑戦するメーカーの姿勢を讃えたいですよね。
Rock oN AWARDスタート以来、初めての、製品ではなくサービス受賞(Product of the Year / Apple Music)といった結果になりました。やはり、コンテンツ制作の現場でも「空間オーディオ」、「配信」という無視できないトレンドの存在比率が大きくなっていることを素直に反映し、「Immesive AWARD」、「Video Equipment AWARD」を新設しましたが、この流れは、私たちRock oN スタッフが、お客様と接する現場で感じている意識を自然と反映した結果でもありました。この記事を読んでいる方の中に、Dolby Atmos、360 Reality Audioといったキーワードをきっかけに、「空間オーディオ」について「今年はやってみたい」と思っている方がたくさんいらっしゃると思います。「空間オーディオって何?」という方でも大丈夫です! まずは体験することで意識が一変する場合もあります。お気軽にRock oN店頭に、ご予約の上、お越しください!
もちろん従来のカテゴリーでも優れた製品が、日々、メーカー様から発売されました。特にiZotope、UJAMといったブランドは、技術力、アイデア、そして継続的な新製品リリースで良好なセールス実績を伴いましたが、ユーザー投票数の多さからも伺うことができました。一方、半導体不足の流れを受けてか、残念ながらハードウェア製品のリリースが少なく感じましたが、1日も早く、このコロナ禍の状況に光が見える日が来ることを祈っています。
技術要素として「AI」はもう一般的になりましたよね? さて、今年は「メタバース」? クリエーターの想像力を刺激する革新的なアイデア、技術をもった製品が登場し、新たな音楽/映像の世界を切り開く製品が登場することを期待しています!
この度の審査にあたり、投票やレビューで参加してくださったユーザーの皆様とゲストノミネーターの皆様。そのほか関係者の皆様へ感謝の言葉を述べ、Rock oN AWARD 2022 座談会を終了いたします。ありがとうございました。
Rock oN AWARD 2022 ノミネート製品はこちら
Rock oN AWARD 2022 クリエイター推薦プロダクト記事内に掲載されている価格は 2022年2月16日 時点での価格となります。
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