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【8】LFOをサンプラーで制御する
今回の手順は自身を持ってお届けする。 フォルマントを発生させるモジュラーシンセのパッチにDAWからLFOを送って「ウォブル」を作成。ただし、LFOそのものをサンプラーのようにMIDI鍵盤から生演奏。MIDI鍵盤に限らず、「Maschine」や「Launchpad」などのコントローラーからも実践できるテクニックである。
DAWからモジュラーシンセに直接CVを出力できるプラグイン「Silent Way」はすでに筆者の日常のワークフローに深くエンベッドされているが、直流電圧(DC)をどれほど柔軟に扱えるかは、実験してみるまで想像だにできなかった。
「Ableton Live」の汎用サンプラーの一つである「Drum Rack」はそれぞれのキーで個別のサンプラーをトリガーする構造になっているが、結論から言うとこの中に異なるスピードや波形のLFOを格納し、任意に再生してモジュラーに送ることができる。つまりCVのサンプラーが作れるのだ。
動画をご覧いただくのが手っ取り早いので、まずはこちらから、
即興演奏できるLFO
(画像クリックで再生)
順を追って解説しよう。
0)大前提としてDAWからハードウェアのインターフェイスを通じてCVやGateが送れる環境が必要になる。関連情報は記事の末尾にリンクした。
1)「Silent Way」プラグインを使ってさまざまな速度や波形のLFOを作成。1小節で1周期のサイン波、16分音符で少しランダムが混じったパルス波…などを作ってはそれらをDAW内で音声としてキャプチャーする。収録後、個別の波形を確認すると行儀よく頭が最初のサンプルにそろっているのがわかる。可聴域をはるかに下回る周波数なので音声としては聞こえないが、パルスなどとがった電位の変化があるところではスピーカーから「ぶちっ」という音が出る。ただしスピーカーをいたわるためにはあまり繰り返し再生しない方がいいだろう。「Silent Way」の中では「DCオフセット」を加えることもできるので、例えばモジュラー・シンセが「0ボルト」から「5ボルト」までしか認識しない場合、波形がマイナスの極性に行かないように限定することも可能だ。
個々にキャプチャーしたLFOをドラムラックに格納し、CVを出力するサンプラーを構築。ランダムが加わって電位が少しずつ上下している波形も確認できる。
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2)これらのLFOに管理しやすいように名前をつけていく。筆者は「1/1」「1/8 triplet」「1/16 random」などと命名している。さらに「nothing」という、電位が動かないサンプルも一つ作っておくと、あとで役に立つ。これは生演奏中にLFOをポーズさせる「スペースキー」のような使い方ができる。
3)各サンプルをサンプラーにロードする。DAWによってサンプルをロードした時のデフォルトが異なるが、「Ableton Live」では音量が「-12db」でポリフォニックに初期化されるので、音量は「0db」に、和音の数はモノフォニックに設定する。ロードするLFOの数だけこの単純作業を繰り返すのは、少々消耗する。そこでショートカットとして、最初に作ったサンプルを複製し、中身だけ入れ替えると作業量を短縮できる。最後に全サンプルを一つの「チョーク・グループ」にまとめて、一度にひとつのLFOしか出力できないように設定する。
※「チョーク・グループとは何か」の解説はこちらの記事で
4)LFOをCVとして受けられるようにモジュラー側でパッチを組む。今回はダブステップの「トーキング・ベース」風味にした。ローパスの設定にしたVCFだけでも十分に効果を確認できる。また、VCOのピッチにLFOをかければ「ダブ・サイレン」の音になる。
5)MIDIキーボードや「Launch Pad」「Maschine」「Push」などのコントローラーからMIDIノートをDAWに送り、サンプラーがLFOを出力してくれるかを確認する。サンプラーは一度にひとつのLFOしか出力しない設定になっているため、途中で次のLFOを割りこませる「リアルタイム」演奏が可能になる。また、このパフォーマンスをMIDIとしてDAWに収録しておけば、後ほど細かいエディットもできる。念のために追記すると、これはメロディーではなくLFO専用のサンプラーだ。もしもメロディーとLFOを同時に制御したい場合は別途、工夫が必要になる。
リアルタイム演奏したLFO波形をDAWでキャプチャー。
BPMに合わせてきちんと並んでいる。
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6)MIDI情報をDAWに取り込んだ後、繰り返し再生しながらモジュラー側のパッチを少しずつ変更し、色々なバリエーションを録音するのがいい。モジュラーは「一期一会」の世界なので、再現性にこだわるよりその場の即興的なアクシデントをキャプチャーするように心がけた方が発見も増すだろう。
7)実際の曲で使う時にはモジュラー・パッチの音がなじむようにEQやコンプレッサーなどを使うことをおすすめする。特にベース音を作る時には100Hz前後をくり抜いてかわりにサイン波の「サブ・ベース」を加え、全体をコンプレッサーでぎゅっと圧縮すれば、芯の強い音になる。サチュレーションや空間系のエフェクトは高周波域に限定したほうがいいだろう。
今回のパッチに関する手書きメモ。2つのVCOと2系統のVCFおよびサチュレーションを使用。DAWからのLFOはCVとしてVCFが受け取る。
(画像クリックで拡大)
次に今回のパッチを解説する。ツボになったのは同一のVCO(パルス波)から信号を二手に分けてローパスのVCFとバンドパスのVCFに送り、両者の動きをDAWからのLFOで制御する仕掛けだ。ローパス、バンドパスそれぞれのカットオフが逆方向に動くよう、極性を反対にすればフォルマント効果が得られる。このフォルマントをさらに誇張するには、2つめのVCOを高周波に設定し、そこからカットオフのモジュレーションに加える。つまりDAWから送られてくるLFOのウォブルと高周波のモジュレーションが合成され、くせのある倍音や歪みが生まれる。
さらに双方のVCFから出力した音を微量のディストーション・サチュレーションにくぐらせると、またさらに派手さが増していく。欧米のティーネイジャーたちが今、愛してやまないスクリレックスのようなダブステップではこのサチュレーションをやり過ぎというぐらいに使い、さらにコンプレッサー・リミッターで潰したりしている。モジュラーシンセで歪ませる場合とDAW内のプラグインで歪ませる場合では効果が微妙に異なるので、好みに応じてお試しいただきたい。
この手順で自作したサンプラーは、エキスポートもできる。アナログシンセを持つ友人にプレゼントしたなら、おそらく喜ばれるだろう。それだけではない。自分でウォブルをリアルタイム演奏する動画をYouTubeに乗せれば、今まさに時代の先端を行くモジュラー奏者としてドヤ顔ができるのだ。
【参考資料】
前回のコラムを読む>>
モーリー・ロバートソン プロフィール
日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学に現役合格。日本語で受験したアメリカ人としてはおそらく初めての合格者。東大に加えてハーバード大学、MIT、スタンフォード大学、UCバークレー、プリンストン大学、エール大学にも同時合格。1988年ハーバード大学を卒業。在学中に作曲家イワン・チェレプニンに師事、モジュラー・シンセを専門的に学んだ。現在はテレビ、ラジオ、講演会などで活躍中。
2014年4月に独自の英語塾「リアル・イングリッシュ」を開催。