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立体音響技術として世界中の映画作品や劇場で採用され、没入感のある映像体験をもたらすとして人気を博しているDolby Atmos。近年では映像だけでなく音楽の分野においてもその広がりはめざましく、2021年にApple MusicがDolby Atmosに対応したことで、より一般的なマーケットでイマーシブオーディオというものが幅広く認知されるようになり、サウンドクリエイターもステレオからDolby Atmosを使ったミックスへの導入を検討している方も多いと思います。
ただ、いざミックスするとなると予算や設備の関係で、Dolby Atmosミックスの導入を躊躇している方がまだまだ多いのも現実ではないでしょうか。
今回こうした敷居の高さを解消すべく、NeumannのモニタースピーカーKH 80 DSPをメインに用いてDolby Atmosのモニターシステムを構築したということで、エンジニアの米津裕二郎氏にお話を伺いました。
システム構築にあたっての選定基準や設置について、さらには海外作品から感じているDolby Atmosの可能性についてなど、幅広くお話をお伺いしましたのでご紹介します。
モニタースピーカーに求める条件とは・・・?
Rock oN : 米津さんがミックスの際に、モニタースピーカーに求める条件は何ですか?
米津裕二郎 氏: 平面的に聴こえず、あまり味付けがなく、音がよく聴こえすぎないスピーカーを選んでいますね。派手な音がしないスピーカーを選んで使っていることが多いです。
Rock oN : 参考までにNeumann製品導入以前に使っていたニアフィールドモニタースピーカーは何ですか?
米津裕二郎 氏: ステレオでは今はATCのSCM25A PROを使っています。その前はYAMAHA NS10MやDYNAAUDIO BM12Aを使ってました。総じて音が脚色されないスピーカーを選んでいますね。
Rock oN : それでは今回、Neumann製品を導入した経緯をお聞かせください。
米津裕二郎 氏:まず可搬性があるDolby Atmosのサウンドシステムを組もうと考えて、それに際して、サイズが小さくなったとしてもスピーカーは全部同じモデルで揃えたいなと考えました。作りたい音像は人それぞれあると思うんですが、私としては水平も天井もイーブンな鳴らし方をしたいと考えたからです。
その上で天井に設置するスピーカーもマイクスタンドに立てられるくらいのサイズにしたいと思ったので、そこである程度機種を限定した中からいくつか聞き比べたところ、音が好みだったのでNeumann KH 80 DSPを選びました。
KH 80 DSPで組むDolby Atmosシステムとは
Rock oN : KH 80 DSPのサウンドの印象をお聞かせください。
米津裕二郎 氏:実際に聞いてみて脚色のない素直な音で、いい意味で喜ばせる音がしないというか(笑)これなら真面目に仕事に打ち込めるなっていう印象でした。周囲のエンジニアの評判も良くて、信頼できる方々がKH 80 DSPを選んでいたというのも大きかったです。
Rock oN :Dolby Atmosのシステムを組むにあたって 11本のスピーカーを使われているとのことですけど、どのようなことに留意して設置されているのでしょうか?
米津裕二郎 氏: これまでDolby Atmos対応の既設スタジオで作業をしてみて、スピーカーはなるべく円周で設置されている部屋の方が好みだと感じていました。TRIAD ORBITのマイクスタンドに立てて円形で7本、天井部分に4本モニタースピーカーを設置しています。スピーカーの距離や角度は設置する部屋によって変えていますが、上のスピーカーの高さは今日は1.8mにしていますね。部屋の規模によってそこはフレキシブルに変えられます。
このシステムでミックスまで完結することもあるし、8割くらいこのシステムで作り込んで、最後はDolby Atmosを常設しているスタジオで仕上げることもあります。
Rock oN :このシステムは設置するのにどれくらい時間がかかりますか?
米津裕二郎 氏: 設置時間はアシスタントと二人でやって2時間弱くらいで、今後の課題はそれをどう短くするかってことですね。
Rock oN : モニターの補正などはされているのでしょうか?
米津裕二郎 氏: モニターの補正はTrinnov MC12を使っていて、STEREOでも使用しています。
STEREOもATMOSも一貫して補正できるのでとても重宝しています。サブウーファーはFocalのSub6を使っていて、特にベースマネージメントはしていませんね。
これからのDolby Atmosの可能性
Rock oN : このDolby Atmosのシステムは、どういった用途で使用されることが多いですか?
米津裕二郎 氏: 当然Atmos Musicのミックスで使うこともありますが、Blu-ray用のライブ映像やゲーム音楽など割と幅広い用途で使用することが多いです。Atmos Musicはまだ発展途上のジャンルだと思いますし、海外の普及と比較するとまだまだこれからだと思いますけど、こうした制作環境があればやる人も増えてくると思うので、まずは数多く制作してノウハウを積み上げることが大事かなと思っています。
たしかに映画とかゲームのように物語が付属するものの方が、Dolby Atmosみたいなシステムは生きてくると思いますが、そんな固定観念を吹っ飛ばすような新しい発想を持って、若い子たちには新しい音像の音楽作品を作ってもらいたいですね。既設のスタジオは数が少ないですし料金も割高なので、自分達がこういう環境を用意することでハードルを下げて、少しずつ作品を増やしていけたらと思っています。
Rock oN : Dolby Atmosに強い将来性を感じたことから、こういったシステムを作られたのですね。
米津裕二郎 氏: はい。Dolby Atmosで何より大きいと感じたのはスピーカーがなくてもイヤホンで聞いてもその効果を体験をできるということで、これはまさにフォーマット革命だなと思って取り組んでいます。
音楽に関していえば、海外のDolby Atmosは最近本当に素晴らしい作品が多いです。一年前だとステレオの方がいいな、と思うものが多かった印象ですが、ここ半年くらいでDolby Atmosの方が良い!と言える作品が増えましたね。海外のアーティストやエンジニア、制作フローの中にノウハウが確立された感じがあります。
Dolby Atmosっていいじゃん!って感じられる作品が世の中の8割くらいにならないとみんな聞いてくれないと思うので、予算の問題もあるとは思いますが、日本でももっと気軽にそういう作品が生み出せる状況を作りたいです。日本だけが特段遅れているという気はしないですけど、まだまだ積極的にやれてるとはいえないと思いますので、エンジニアとしてもハードルを下げてアーティストの人にどんどんDolby Atmosの音楽を作ってもらいたいです。これからはDolby Atmosだけでなく360 Reality AudioもKH 80 DSPを使ってシステムを組みたいと考えています。
Rock oN : KH 80 DSPをどんなユーザーにすすめたいですか?
米津裕二郎 氏: KH 80 DSPは4インチですけど特にサイズ的に気になることはありません。ペアで揃えてステレオミックスするのにも十分使えますし、音を脚色することがないスピーカーなので、どんなジャンルでもおすすめですね。逆にこれで鳴らして音がカッコよくならないんだったら、どのジャンルでもそのミックスは不正解って気がします。
今回のインタビューで強く感じられたのは、Dolby Atmosミックス作品作りへの熱い想い。特に音楽の分野で海外に負けない作品を生み出したいという強い情熱を感じました。
今後益々拡大が予想されるイマーシブオーディオの分野で米津氏の取り組む姿勢や考え方は、新しい音楽を作りたいと考えるクリエイターやエンジニアの方々にも刺激的で共感する部分があったのではないでしょうか。
今後の米津氏の活躍に注目しつつ、魅力的なDolby Atmosミックス作品を生み出すことを願ってやみません。
関連製品
●KH 80 DSP設置に使用した、マイクスタンドはこちら
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