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コロナ禍の影響もあり、プロのエンジニアさんの中でも、自宅でミックス作業を行われる方が増えている、ということを聞くようになりました。そこで問題になるのはモニタリング環境。日本における住宅環境の問題もあり、スタジオと同様の環境を準備することが難しいのは当然です。
またアマチュアクリエーターの方で日々、自分の楽曲のサウンドクオリティを上げるために、オーディオインターフェースを買い換えたり、各種プラグインを買ったりしているが、なかなか成果が出ずに悩んでいる方も多いと聞きます。しかし、多くのプロの方が、「一番重要なのはモニター環境」であるということを知っています。
今回NEUMANNのモニタースピーカー、サブウーファー、キャリブレーションツールという組み合わせで、理想的なモニター環境を構築された作曲家の和田貴史さんにお話をお伺いすることができましたので紹介します。
モニタースピーカーに求める条件とは
Rock oN : 和田さんがミックスの際に、モニタースピーカーに求める条件は何ですか?
和田 貴史 氏まずは正確性です。騙されることなくどういう音が鳴っているかということが正確に確認できることが前提です。例えばシンセサイザーなどで生音に差し替えずに完パケまで残る音もありますので、最終系をイメージしてローエンドまできちんと再現できることが前提です。それはアレンジでもミックスする際にも同じです。
Rock oN : これまでに色んなモニタースピーカーを使ってきたと思いますが、参考までに機種名とその印象をお聞かせください。
和田 貴史 氏:最初はYAMAHA NS-10Mでした。専門学校に入ったときに現行製品だったということと、価格も安かったのでそこまでこだわりなく選びました。NS-10Mもチューニングがしっかりされているスタジオでは、とてもいい音をしていたのを聞いたこともあったので、人気があるのはそれなりに理由があることも知っていました。ただ今思うと低音がジャッジできないというのがネックでしたけど。
パッシブの場合、アンプによる組み合わせで音が変わるので、その影響を減らしたいと思い、アクティブスピーカーのTANNOY Revealを使いました。大御所マスタリング・エンジニアのテッド・ジェンセンが使っているというのを聞いて、B&W 705を使った時期もありましたけど、やはりこれもパッシブなのでアンプが別途必要なので不満を抱いてました。色んなモニタースピーカーの試聴を繰り返したのですが、「これだ!」と出会ったのがmusikelectronic geithain RL904でした。
RL904を導入してから10年くらい経ちますが、最大の利点は、いい音・悪い音をきちんとジャッジできる正確性です。
Rock oN : 割と最初から作曲や編曲と合わせて、エンジニア的にミックスもされていたのですか?
和田 貴史 氏:いや、最初は宅録で曲を作ることだけをやっていました。ミックス作業はエンジニアがやるものだと思っていましたから。ただエンジニアの方に音源を渡してもイメージ通りの音にならなかったりすることもあって、それから自分でやることが多くなりました。
作曲時は悩んだり、辛いこともあったりしますが、ミックス作業は楽しくやれることが多いんです(笑)。イメージしているサウンドに近づける作業が楽しいんですよ。
Rock oN : モニタースピーカーの設置位置、チューニングについて気をつけていることはありますか?
和田 貴史 氏:このスタジオの設計は外部に頼んだのですが、方針として、モニタースピーカー背面の壁からの反射、または吸音を考慮した設計になっています。その設計理念を実現するため、壁にはAcoustic Reviveのパネルを配置しています。また、後方にはSHIZUKA Stillnes Panelを配置し、心地いいライブ感を保ったまま、音が吸音/減衰されるようになりました。このスタジオで弦楽器や管楽器も録るので、デッドすぎることで起きる弊害がなくなりましたね。
Rock oN : モニタースピーカーの設置位置や角度調整などは細かくやりますか?
和田 貴史 氏:結構やります。ステレオ感が広すぎてもダメで真ん中がしっかり見えるのが大事かなと思ってチェックしています。
KH 80 DSPのファーストインプレッション
Rock oN : 今回、ご使用された NEUMANN KH 80 DSPを使ってみていかがでしょうか?
和田 貴史 氏:以前、NEUMANNのスピーカーを聞いたことがあったんですが、今回、使ってみたKH 80 DSPは、当時の印象とだいぶ変わり、かなり改善され進化していると感じました。この部屋との組み合わせによる補正を実施し、しっかりチューニングを行うことで、この小さなサイズながらも、想像以上の音量が鳴ります。目の前で「面が見える」という感じで音像が広がりますし、加えて位相感がすばらしいという印象を感じました。
プロじゃないユーザーからすると、もしかしたら「高いな」という印象を持つかもしれませんが、この価格以上のさらに上位機種の音が出るので、買って損はないと思いますよ。住宅環境の都合で鳴らせない5インチのモニタースピーカーを使うよりは、この4インチで鳴らした方が、音がわかりやすいと思います。また、しっかり補正を行い左右差を揃えれば、抜群の位相感が出ますので、ここまでクリアーな音を再現できるものはなかなか無いと思います。
サブウーファー導入のメリット
Rock oN : コロナ禍の影響もあり、最近、自宅スタジオでもサブウーファーを導入されている方が増えているように感じますが、サブウーファー導入のメリットは何ですか?
和田 貴史 氏:やはり低音がジャッジできるところです。サブウーファーはそんなに使った経験がなかったんですが、KH 750 DSPだと補正が入ってるのでローエンドの繋がりがいいですよね。
サブウーファーのKH 750 DSPを導入し、自分の低音の出し方が変わりました。導入以前は、ニアフィールドモニターで確認できる40Hzくらいまでで十分だと思ってました。仕事で納品する際、そんなに問題になる部分でもなかったですし。ただ、自分としては、低域のトリートメントをもっと精密にやっていきたいという思いがあったので、サブウーファーは必需品です。住宅環境も関係してくるので、手放しに、みなさんにおすすめできないですけど、これからの音作りとして、サブウーファーは絶対あった方がいいと思います。住宅環境の問題もあるので手放しにおすすめはできないですけど、これからの音作りとしては絶対あった方がいいと思います。
MA 1の効果とは・・・?
Rock oN : 続いて、キャリブレーション用測定マイクのMA 1についてお伺いしたいのですが。モニター設置の計測ツールがいくつかありますが、計測やチューニングを実施することによって得られる利点はどんなことがありますか?
和田 貴史 氏:実は、MA 1を使うまで、計測ツールを使ったルームチューニングには否定派だったんです。計測をしてスタジオや部屋のピークやウィークポイントを知った上で物理的に対処しようと思ってたので、あまりプラグインでの補正で対処しようとは思わなかったんです。DAWから出る音だけが変わってしまい、違う音がするのが嫌だったんです。同じ理由でスピーカーの前に何かしらのハードウェアをインサートするのも、そのAD/DA部分で音が変わってしまうのが嫌でした。ただ今回MA 1を使って、考えが大きく変わりました。
Rock oN :MA 1を使って変化はありましたか?
和田 貴史 氏: 実は以前からこのスタジオの弱点というのがあって、60Hz~120Hzあたりにちょっとピークがあって、音階で言うとちょうどシ(B)の音だけ聞こえる印象があるんです。それはおそらく部屋の形状が原因だと思いますがずっと気になっていたんです。モニタースピーカーをもう少し壁から離したいんですが、録音するスペースの都合もあってそれも出来ずにそのままにしていたんです。それがMA 1を使って補正したら、それが解消されたんです。気になるところがなくなったのでそれは驚きでした。
Rock oN : MA 1でのチューニング作業自体はどうでしたですか?
やり方をあらかじめ調べてやったので難しくなかったです。測定するポイントには床にバミリも入れたので、2回目からは慣れて短い時間でできました。
こんなユーザーにおすすめ!
Rock oN : 和田さんは、KHシリーズをかなり高く評価をされているようですね。その上であえて伺いますが、製品に対して要望などあったりしますか?
KH 80 DSPよりもワンサイズ大きくて補正ができる「KH 120 DSP」みたいなモデルが出ると嬉しいです。ニアフィールドだけどラージくらいの感覚で聞きたい時がありますので。あとKHシリーズにホワイトカラーモデルが出るといいんじゃないですかね。スタジオに合わせてカラーリングを選びたい方もいると思いますから。
Rock oN : 最後にKH 80 DSP + KH 750 DSP + MA 1をどんなユーザーにおすすめしますか?
和田 貴史 氏:自宅環境など色んな理由でルームアコースティックを調整するのが難しい人ほど、サブウーファーとキャリブレーションツールを使った方がいいと思います。KH 750 DSPはKH 750 DSP、MA 1と組み合わせることで、一般の部屋で使えば、僕がスタジオで得られる以上の改善パフォーマンスを発揮すると思います。あえて例えると、「視力が悪い人が初めて眼鏡をかけた時の感じ」を音でも味わえるんじゃないでしょうか。それくらいの効果があると思います。
10万以内でモニタースピーカーを考えてる人はもう少し頑張ってこれを導入してほしいです。いろんなジャンルに対応できるから幅広いユーザーにおすすめできます。
メーカーHP
NEUMANN
https://ja-jp.neumann.com/
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