モニタースピーカーに求める条件とは
Rock oN : ESME MORIさんがモニタースピーカーに求めるものは何ですか?
ESME MORI 氏 : ヘッドフォンのみで音作りしていると、どうしても全体的な音像が縮こまってしまうことがあります。ヘッドフォン、スピーカー両方で行き来しながらのチェックが大切なのですが、特にモニタースピーカーではボーカルの大きさや定位がしっかりわかるものが望ましいです。
シンセやウワモノなどのバランスも、ヘッドフォンで聴いているとちょうど良く聞こえてもスピーカーで聞くと少し大きすぎるということが起こりうるので、全体の最終の音量やEQバランスを調整するのにモニタースピーカーは欠かせません。あとは単純にヘッドフォンのみで長時間作業していると耳が疲れてしまうので、長時間聴いていても耳が疲れないことも大事かと思います。
KHシリーズ導入の経緯
Rock oN : これまでに色んなモニタースピーカーを使ってきたと思いますが、参考までに、機種名とその印象をお聞かせください。
ESME MORI 氏 : 元々はFocal CMS40を使っていました。部屋のサイズ的にもちょうどよく、ウワモノのバランス感が好みで使っていたのですが、新しく引っ越した作業部屋で比較的大きな音が鳴らせることになり、新しく大きめなスピーカーの導入を決めました。
その際、KH 80 DSPのインタビューでも登場されていたエンジニア小森さんに色々相談し、いくつかスピーカーのデモ機(ATC SCM20ASL PRO、GENELEC 8330 & GLMキット、そしてKH 310、KH 750 DSP)をお借りしました。
SCM20ASL PROは音が非常にまろやか、かつイコライジングをした時にどこがどう効くのかがかなりわかりやすく、MIXがしやすいスピーカーだと感じました。
GENELECに関してはGLMでのルームチューニングが魅力的でデモを試しました。自分がよく作るジャンルの楽曲を聴くと少しハイが立つ印象でしたが、ボーカルの定位感やローのバランスはかなり好きでした。そして最終的なバランスを判断した結果、KH 310 & KH 750 DSPの導入を決めました。
Rock oN : モニタースピーカーの設置位置、チューニングについて気をつけてらっしゃることはありますか?
ESME MORI 氏 : 自分の作業部屋にも吸音材、拡散材などは一応貼ってはおりますが、一般の住環境だとプロユースのスタジオなどとは違い部屋の間取りや家具などもまちまちで、吸音材を適当に貼るだけではルームチュニングは難しいと感じました。
KH 310については検討している時期にルームチューニングマイクMA 1※が発売されたことも決め手として大きかったです。MA 1で補正する前はバラついていた音像が一気にしまって、かなり聴きやすくなりました。ルームチューニングに関しては、個人的にはスピーカー自体の音量も大事だなと感じました。ある時期デフォルトで鳴らしている音量より2dbほど下げたところ、抜群に定位がしまって聞こえました。
(注※ KH 310でMA 1を用いたルームチューニングを行うにはKH 750 DSPが必要です。)
KH 310の印象は?
Rock oN : 製品の印象をお聞かせください。まずKH 310についてはどんな印象でしたか?
ESME MORI 氏 : 第一印象は「音作りをしていてかなりテンションが上がるスピーカー」でした。エンジニア的MIXというよりはトラックメイカー的MIXが出来るスピーカーを求めているので、ビートの鳴り方がパキッとしているところ、ボーカルがかなりバランスよく聴こえるところ、ハイの伸び方など、デモ機を試せば試すほど理想的だったので導入を決意しました。
またKH 310は、音量を下げてもしっかりバランスを保ったまま下がってくれます。トラックダウンの際にカセットデッキでMIXチェックするような感覚で、一回作ったものを音量を下げて聴くこともあります。
KH 750 DSPの印象は?
Rock oN : 最近、自宅スタジオ環境でもサブウーファーを導入されている方が増えているように感じますが、サブウーファー導入のメリットはどんなことがありますか?
ESME MORI 氏 : 一般的なスピーカーでサブウーファーなしに30~60Hzのサブ帯域をしっかりと確認するのはかなり難しいと思います。今まではDENON AH5200とヘッドフォンアンプMP421-Mの組み合わせでその帯域を確認しておりましたが、スピーカーの大きい音像でその帯域を確認出来れば自分の音作りはかなり進化するのではないかと考えました。
実際導入してからは、複数レイヤーしたキックのトランジェントや808ベースのアタックなど、低音のバランスがかなりわかりやすくなりました。ローを聴かせたい時、適当にベースを大きくするのではなく、その帯域の整理をして住み分ける必要があります。サブウーファーはその作業をする時に大いに役立っています。
Rock oN : KH 750 DSPについてはどんな印象でしたか?
ESME MORI 氏 : デフォルトで鳴らすと作業部屋のサイズ感からするとかなりローが大きく聴こえてしまったのですが、サブウーファー側の設定で少し抑えめにしたところかなり理想的に鳴ってくれました。低音の動き(キックのトランジェントやベースのサブ帯域、ミッドローの伸び方)がかなり確認しやすくなりました。
ロー帯域の音色をイコライジングした時の違いがわかりやすくなったので、ただサブ帯域を足すだけではなく、場合によってはもう少し上をついた方が聴こえがよくなるなども学ぶことができました。そういう特性もあるので、ナチュラルなものよりは、少し大袈裟に低音を再現しているところもあるのかなという気もしていますが、その部分が音を作る上で大変役に立ってます。
こんなユーザーにおすすめ!
Rock oN : 最後に、KH 310 + KH 750 DSPをどんなユーザーにおすすめしますか?
ESME MORI 氏 : 音を作りながらその音をMIXしていくトラックメイカーにとって、作っている現場でテンションが上がることはすごく大事だと思うので、その点に関してKH 310はかなり理想的なスピーカーでした。このスピーカーにはさまざまな魅力がありますが、特に私はビートの鳴り方に惹かれてKH 310を導入しました。
トラックメイカー的な少し尖ったMIXをしつつ、しっかりとボーカル含めてバランス良くなってくれるスピーカーなので是非たくさんのトラックメイカーやプロデューサーに試してもらいたいと思います!
メーカーHP
Neumann
https://ja-jp.neumann.com/
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記事内に掲載されている価格は 2022年5月18日 時点での価格となります。
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