製品レビュー、試聴からサポート情報、キャンペーンまで製品別にフォーカス。活用のヒントがここに集結。
Rock oNで取り扱いを初めて早1年半。カスタムタイプ、ユニバーサルタイプとも非常に大きな反響を呼んでいるイヤーモニターブランドがFitEarです。
中でも耳型採取により完全な密閉を実現しS/N比を飛躍的に向上した「MH335DW Custom」「MH334 Custom」は、制作やステージなどプロユースでその威力を最大に発揮しています。
ラージに匹敵する音場の再現力やスケール感、またルームアコースティックの影響を受けない独自の構造は、ある意味究極のリファンレス環境と言えるでしょう。これまでもRock oNではFitEarを紹介する記事を掲載してきましたが、今回はブランドヒストリーや開発ストーリーに加え、現場の製造の様子からユーザーインタビューまでの魅力を余すところなくご紹介いたします!
カスタムイヤーモニターと補聴器技術の出会い
元々イヤーモニターと呼ばれるものが開発されたのは、ヴァン・へイレンのドラマーであるアレックス・ヴァン・へイレンが、ステージ上でのモニタリングに問題を感じ改善を要求したのがきっかけと言われています。
当時のUltimate Earsの創立者ジェリーハービー氏はアレックス氏の耳型を採取したカスタムモデルを製作。これが音楽用途で最初のカスタムイヤーモニターとなりました。
その後SHUREがステージ用にバランスドアーマチュア(以下BA)搭載のE1、E5 を開発。PSM500、PSM600 などのワイヤレス機器を経ながら、イヤーモニター市場はBA型のモデルが一般化されていきました。
まずイヤーモニターとしてBA型のドライバーが標準となっている理由ですが、これは人間の耳の構造にあります。
人間の鼓膜は振動幅が狭いため、仮にダイナミック型ドライバーでシングル&フルレンジを目指すには、低い音を出すために面積を大きく、高い音を出すに薄い構造が求められるのです。
そのように設計されたドライバーを気圧変化の無い環境下で動かそうとすればドライバー自体が撓んでしまい、本来の性能を得られません。そのため市販のダイナミック型インイヤーモニターをよく見ると必ず空気抜きの穴が設けられ、気圧による動作規制をさせないようになっているのです。しかし実はこの穴が音漏れや外部雑音侵入の原因となってしまっているのです。
その点BA型は、振動板に薄いステンレスを採用し、アーマチュアに直接ピンで接続されており、外からの気圧に対する剛性が高く、駆動力が高いのが特徴で、まさに密閉空間で動作させるための理想的なスピーカーユニットと言えるのです。
BA型は小型で高出力、筐体への外部雑音侵入も防げるため、イヤーモニターのスタンダードとなっているのです。
耳へのいたわりこそ、須山氏のこだわり
さて、皆さんは損失した聴覚細胞は” 決して元に戻らない “という事をご存知でしょうか。
受容感度の低下は補正できても、人間は年齢とともに高域から徐々に感度の低下を起こします。たとえば工事現場などに長時間身を置いていると低域障害が出るなど、外的要因によっても細胞機能は低下もしくは欠損が生じます。
この症状は人間の耳のダイナミックレンジを実現している耳自体の周波数帯別感度調整機能に起因します。この機能が壊れてしまうと、例えば小さい音が聞こえなくても、大きい音は煩く感じてしまうなど、単純な帯域別の音量調整だけでは対応できない状況が生まれます。
「音楽、そして大音量に触れる前に、聴覚細胞は戻らない事を知り、まず耳を守ってほしい」と須山氏は語ります。
大きい音を瞬間的に聞く分には致命的な影響はありませんが、長時間の大音量リスニングには大いに影響が伴います。須山歯科技工に40年務めている職員も、器具が定期的に発する音の周波数帯域だけ聴覚感度が落ちてしまっているのです。
そういった点からも須山氏は「補聴器とはマルチバンドの音量調整機ではなく、人間の内耳という感覚機能をシミュレーションする機能」と言います。
ステレオ感や前後感などの情報をキャッチしたり、視覚情報との融合など、様々な情報を付加しながら今聞きたい音との切り分けが最新の補聴器では既に行われているのです。近年では逆相を当ててノイズをキャンセルしたり、マルチマイクでの集音を行っている点などからも、音響機器との親和性が高い分野と言えるでしょう。
もしこの技術で音楽用途のインイヤーモニターを作れば、マイクが必要無い分筐体スペースに余裕ができ、もちろんハウリングの心配もありません。当時ポータブルオーディオがブームとなっていたこともあり、補聴器技術を活かした「耳を守り、環境に優しいイヤモニター」の開発ができないかと須山氏は考え始めましたのです。
インイヤーモニターであれば、補聴器とは比べられない広帯域のカバーが必要となりますが、耳を密閉する事でS/N を稼ぎ、モニター音量を稼ぐ事で聴覚への影響を避ける事ができるのです。須山氏は耳型を採取するカスタムイヤーモニターの世界に飛び込むことで、そのクリアな音質以上に、耳を守る事へのメリットが感じられたと言います。
リファレンススタジオ環境を持ち運ぶ感覚
カスタムインイヤーモニターの最大のメリットのひとつは遮音性です。FitEarを試してみると、これまでのヘッドフォンは外部の音がここまで聞こえていたのかとその違いに驚きます。
音像の精度以上に遮音の心地よさ、従来のカナル以上に鼓膜の近くで鳴る事により、定位間も奥に入り長時間のリスニングにも耐えうるのです。ルームアコースティックの影響を全く受けないという点では、真の「ポータブルスタジオ」と言えるのはないでしょうか。
完全遮蔽のアドバンテージはリスニングだけでなく、制作においても大きなメリットとなります。例えば大きなスタジオで収録をする際にも外部の音を遮るために爆音ヘッドフォンで作業するなどという苦労も無く、目の前の音だけに集中できるのです。外の音と切り分けられる事は、代え難いメリットと言えるでしょう。
こうした音響特性を通常のイヤーチップを使用するユニバーサルモデルに応用し、身近なものにしたのが「TO GO! 334」です。高域再生に最も理想的な条件で高域ユニット専用のポートを設け、これをステムの中心を通るよう配置することで二重構造を設け、各ユニットに音の通り道を個別に確保。限られたケースやステム径の中でカスタムMH334と同様のレシーバー構成と周波数レスポンスを実現しています。
このステムを削る加工技術や発想は歯科技工士である父親や補聴器部門の優秀なスタッフらのおかげだと須山氏は語っています。ユニバーサルであってもカスタムに近い遮音性を得るため、年間1万を超える補聴器用耳栓(イヤーモールド)の製作ノウハウから、耳に無理なく納まりカスタムに迫る遮蔽性が得られる形態を試行錯誤しました。まさに須山歯研と須山補聴器の技術があったからこそ成し得た作品というわけなのです。
最大30db という次元の違う静寂、ラージモニターのスケールにも及ぶBA側レシーバー、周囲の騒音に左右されず適正な音量で耳を守ってくれるFitEar はアーティスト、エンジニア、そしてリスニング用途であっても、音楽に関わる全ての方にお勧めします。
耳型採取から製品の仕上げ、検品測定まで
Rock oNでは、お客様からカスタムイヤーのオーダーをお受けした後、銀座にある須山補聴器での耳型採取のスケジュール調整をさせていただいています。
実際に耳型を採取する時間はわずかで苦痛も全くありません。
ここからは採取された耳型からどのようにしてFitEarが制作されるのか、写真とともご紹介します。
1. 採取した耳型をシリコンで型取りし、耳の複製模型を製作します。
2. 耳の複製模型で装着状態などを確認しながら設計、耳型をシェルの形へと削っていきます。
3. シェルの形になった耳型をシリコンで型取りし、シェルのひな形を製作します。
4. シェルのひな形に樹脂を流し込み硬化させ、シェルを作成します。
5. シェルのバリ取りや内部に部品を組み込むためのスペースを確保するための加工を施します。
6. 機種にあわせてドライバーやネットワーク部品を組み込んでいきます。
7. フェイスプレートを貼付け、表面を整えて仕上げます。
8. 最後に、設計通りの特製が得られているか、また左右差が無いかなどを測定装置で確認します。
ユーザーレビュー&最新情報
FiTEaRオフィシャルサイトでは、「Professional User’s Interview」コーナーで実際の現場からの声をインタビュー形式で掲載しています。是非チェックしてみてください。
■ドラマー 江口信夫氏
数多くの著名アーティストをサポートする日本屈指のドラマー、江口信夫さん。FitEarの製品開発に深くご協力をいただく同氏に、カスタムイヤーモニターについてお話を伺いました。
http://fitear.jp/music/develop/prouser/eguchinobuo.html
■ギタリスト 古川望氏
数多くのアーティストのレコーディングやライブに参加、また中島みゆきさんのツアーサポートメンバーとしても活躍する古川望さんに、ギタリストの視点から見たカスタムイヤーモニターについてお話を伺いました。
http://fitear.jp/music/develop/prouser/furukawa.html
■サウンドエンジニア 佐藤公一氏
多くのミュージシャンから厚い信頼を受けているサウンドエンジニア・佐藤公一さんに、インイヤーモニターを使ったモニターシステムの運用や、FitEar Pro Audioシリーズについてお話を伺いました。
http://fitear.jp/music/develop/prouser/sato.html
FitEar MH335DW Studio Reference Upgrade Service
また須山補聴器銀座店での直接対応のみとなりますが、「FitEar MH335DW Studio Reference Upgrade Service」が開始されています。
こちらは、既存のFitEar MH335DWに対するアップグレードサービスです。MH335DWの周波数レンジ、特に高域の拡大ならびに中低域解像度の向上を目的に、ネットワークのオプティマイズとアコースティックチューニング(高音担当ユニットサウンドポートのチタンチューブ化)を施します。詳細は、下記URLでご覧下さい。
http://fitear.jp/music/product/mh335dwsr.html
製品ラインナップ
記事内に掲載されている価格は 2014年9月5日 時点での価格となります。
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