あなたの楽曲制作にヒントをもたらす数々のノウハウ記事に加え、膨大な動画コンテンツは制作トレンド&Tipsの集大成!
正しいモニタースピーカーの設置方法とは?
「DTM部屋にて、正しいモニタースピーカーの設置方法はどうすればよいのか?」
こういったモニター環境の悩みを解決すべく、昨年の7月に現役のエンジニアである森﨑雅人氏を招いて、DTM部屋のモニタースピーカー設置手順や、お金をかけずにモニター環境を向上するテクニックをご紹介しました。
こちらの記事は大変多くの反響を得まして、今も沢山のユーザーにご愛読して頂いております。
その第2弾をぜひ!というご要望も多数頂きまして、そこで今回新たなDTM部屋でモニター環境チェックを実施しました。
前回はRock oNスタッフの部屋でしたが、今回はこれから活躍が期待される若手ミュージシャンのDTM部屋を訪問!よりユーザーに身近な方法で、モニター環境の改善方法をご紹介します!
講師は前回に引き続き、マスタリングエンジニアの森﨑雅人 氏です。
DTM部屋を訪問するのはこの方!
今回お訪問訪問させて頂いたのは、女性シンガーソングライターのELLEYさんです。
診断前
今回はモニター環境をチェックするDTM部屋は、ワンルーム型マンションです。防音などは特にされておらず、机の両サイドに吸音材が貼ることで、壁からの反射を防いでいる状態です。
所有機材
○ オーディオインターフェイス Focusrite Scarlette 2i2
○ モニタースピーカー YAMAHA MSP5
○ マイク sE Electronics SE2200aⅡ
Mac BookにオーディオインターフェイスをUSB接続したシンプルなセッティング。Rock oNでもおなじみの定番機材で、接続しているケーブルや電源なども標準的なものです。
改造に向けて
森﨑氏に、お部屋の第一印象を伺ってみました。
森﨑 氏「まず部屋の板目が、モニタースピーカーに対して縦目になっているのがいいですね!この方が音が通ります。僕のスタジオも同じように縦目でスピーカーを置いています。」
早くも細かいところにチェックが!
森﨑 氏「モニタースピーカーの下に金属のネジ、コンクリートブロック、一番下に滑り止めシートが敷かれているという工夫も素晴らしいですね。一つの素材の台、例えば金属のスタンドの上に直にスピーカーを置くと、どうしても高域が硬い印象になりがちですが、色々な材料を組み合わせてスピーカーを置くと共振しにくく、バランスの良い音を再現出来ます。部屋に入った際に、嫌な響きも感じませんでしたので、モニタースピーカーの置き方を色々と試して行きましょう。」
ここでELLEYさんのがこちらのお部屋で制作した歌を聞いてみました。
森﨑 氏「声の透明感が心地よいですね。音のフォーカスを整えて、立体感を出せばリバーブのかけ具合などもさらに分かりやすくなります。低音も十分に出ていますし、部屋鳴りしている印象はないです。現状ではスピーカーの足元で鳴っている感じがしますので、それを前に押し出す工夫を試してみたいと思います。」
モニター環境も比較的よくまとまっているということで、前回よりもだいぶ高評価!
ここからさらなる改善をすることで、どう変わるのでしょうか?
いよいよモニター環境改造!
1)机のセンター位置を決める
前回もやりましたが、まずメジャーで机の長さを図ります。このセンター位置はこのあとリスニングポイントを決めたり、Reference 4などのモニター補正ソフトを使ってキャリブレーションをする時などにも目安にもなります。机の長さは140cmでした。
森﨑 氏「スピーカーを正確に置くためには、まず最初にメジャーを使ってきちんとセンターを出すことが大切です。」
中央は70cmです。ここに養生テープを貼ってマジックで印を付けましょう。
2)スピーカー台の置き方
次にスピーカー台、コンクリートブロックとネジ(インシュレーターの代わり)の置き方についてです。
・ブロック:穴が空いている面が正面だったのを、穴のない平らな面を正面に持ってきました。バッフル効果を使って低域を前に押し出す工夫をしてみました。
・ネジ(インシュレーターの代わり):今までとは反対に水平な面を上に、設置面積が少ない方を下にしました。3点支持の場合は正面から見て後ろのネジがスピーカーの真ん中に来ているかチェックしてください。音質について、3点支持はスピーカーの底板が振動しやすいため低域が出やすいです。タイトな低域を再現したい場合には4点支持がおすすめです。
3)スピーカーを置く位置を調整する。
次に実際に音を聴きながらスピーカーを動かし、ベストポジションを探していきます。
間隔が広すぎると中抜け、狭いとセンターに定位する音が大きく聴こえすぎますので、センターとサイドのバランスを意識しつつ5㎝ぐらいずつ間隔を広げたり狭めたりしながら確認していきます。良い位置が見つかったところでスピーカーの位置を計測すると、机の端から30cm前後になっていました。今回はスピーカーの中央部分(ウーファー、ツイーターの箇所)が30cmジャストになるように位置を微調整しました。
4)スピーカーの角度を調整する。
左右のスピーカーの間隔が決まったら次は角度の調整です。
音楽制作の現場ではスピーカーからの出音をしっかり聴きとるために少し内ぶりにするのが一般的です。この際、リスニングポイントからスピーカーを見て、内側の面が見えるようにしてください。(※内側の面が見えなくなっている時は角度がきつすぎてリスニングポイントが前にズレてしまいます。)角度を緩くする(平行に近づける)と広がりが出て、きつくするとまとまりが出ます。
少し難しいかもしれませんが、左右のスピーカーの音を別々に聴くように意識します(片方ずつOFFにして聴くのでは有りません)。それで左右のどちらの聴こえ方が良いかをチェックします。例えば左側の方が広がりが有って、右側も広がりを出したければ、右側のスピーカーの角度をほんの少し緩く(数mm平行に近づけます)します。角度を変えるときにはスピーカーのフロントバッフルの、左側のスピーカーは右端、右側のスピーカーは左端を軸に動かします。
位置が決まりましたらメジャーで計測して微調整します。(※バッチリだったらそのままでもOKです。)最終的に机の端からブロックの外側が30cm、内側が35cmになるように置きました。
図解すると下記のようになります。
森崎 氏「スピーカーの高さも自分が椅子に座った時、ツイーターが耳の高さに来ていますのでばっちりだと思います。」
森崎 氏「モニター調整をする時は同じ曲を繰り返し再生して、演奏よりも音の聴こえ方、フォーカス、バランス、奥行、広がり、音色に注目しながら聴いていきます。」
他にも前回同様、新聞紙を壁に貼って反射を抑える作業もしましたが、今回は音が地味に聴こえてしまったため、外すことにしました。
(こうしたトライ&エラーの積み重ねも大切です)
診断後
それでは調整したあと、改めて音源を聞いてみることに!
聞いた時の模様はこちら!
ELLEYさん 「自分の部屋じゃないみたい(笑)!思わず笑ってしまいました。」
森﨑 氏「平面的だった音が活き活きと立体的に聴こえるようになりました。ボーカルの音像も大きく、歌のニュアンスが分かりやすいですね。
先ほどもお話ししましたが、スピーカーを置いているスタンドが金属(ネジ)、石(ブロック)、クッション材という、違う素材を組み合わせることで、スピーカー台が共振しにくく、癖が出にくいため、ナチュラルで聴きやすいボーカルにつながりました。こちらはぜひのユーザーの皆さまにも応用して頂きたいテクニックです。」
Reference4で視覚的に違いをチェック!
参考までにモニタースピーカーの特性を測定すべく、この日のために用意したSonarworksの音響補正ソフトウェアのReference 4で測定してみました。
【診断前】左右にバラつきが見られますね。
【診断後】まず低域(赤の丸部分)ですが100Hz以下の左右のばらつきがなくなり、見事に揃っているのが大きな変化です。高域(紫の丸部分)で見られた左右のばらつきも抑えられているのがわかります。
参考までに、前回のお部屋訪問企画で実施したReference 4の測定値です。今回のELLEYさんのお部屋の方がより広い帯域で鳴っているのがわかります。
感想・総評
作業を終えて、ご自身の曲を聞き見た感想を伺いました。
ELLEYさん「全体的に音がスッキリしたのと直接音楽が耳にストレートに来るようになって、こんなに変わるんだと思って本当に驚きました。今まで作ってきた曲を聞くのが恐いくらいです(笑)。でもここで新しく音楽を作っていくのが楽しみになりました。」
森﨑 氏「大きな音を出さなくても歌と演奏が分かりやすいので、長時間の作業でも耳が疲れにくいと思います。どのような環境であってもスピーカーを計測しながら設置することで、より精度の高いモニター環境を構築することが可能になります。
クリエイターのモニター環境で一番大事なのは、「音楽作りたい!」と思うモチベーションが上がることなんです。今回はそのことを意識して、シビアすぎず楽しく音楽を製作出来るモニター環境を目指してみました。」
今回のポイント
・モニタースピーカーは、左右の間隔や角度をきちんと計測して設置することで出音の精度が上がる。
・分かりやすいモニター環境は、大きな音を出さずにモニタリングが出来るので、長時間の作業でも耳が疲れにくい。
・クリエイターのモニター環境で一番大事なのは、「音楽作りたい!」と思うモチベーションが上がること。
今回は実際にクリエイターの自宅スタジオにてモニター環境を調整するということを試みましたが、正確な計測とプラスアルファの調整を試みることで新たに機材を追加することなくモニター環境を改善することができました。
こちらの記事を参考に一度きちんと距離を計測して、正しい位置で置くということをどれだけ変わるかを試してみて頂ければ幸いです!
安心して長い時間楽しく音楽制作に没頭できるようになるのではないでしょうか。
ELLEYさん、この企画にご協力頂きありがとうございました!ぜひ新しいモニター環境で音楽制作に励んでみてください。
そして森﨑氏も今回またも大変有意義なコメントやアドバイスを頂けたことに深く感謝を申し上げます!
Writer.Miyazaki
関連記事
記事内に掲載されている価格は 2020年4月8日 時点での価格となります。
最新記事ピックアップ