目次:タイトルをクリックすると内容にジャンプします
・シンセサイザーを取り巻く年表
・シンセサイザーの種類
・シンセサイザーを構成する 5つの要素
・第1回:アナログ・シンセサイザーの特徴
・第2回:バーチャルアナログ・シンセサイザーの特徴
シンセサイザーを取り巻く年表
1897年:発電機を応用した音響装置テルハーモニウムの発明
1904年:フレミングが真空管(二極管)を発明
1920年:世界初の電子楽器テルミンの発明
1928年:オンド・マルトノの発明
1934年:倍音加算合成方式を採用したハモンドオルガンの誕生
1937年:ハモンド社から減算合成方式を採用したノバコードの発表
1947年:トランジスタの発明 (映像資料NHKスペシャル 電子立国 日本の自叙伝 第2回 トランジスタの誕生がお勧めです)
1950年:デジタルコンピュータCSIR Mk1で世界初のコンピュータ音楽演奏が行われる
1957年:RCA Mark II Sound Synthesizerがコロンビア大学に設置され、歴史上初めてシンセサイザーという単語が用いられる
1959年:ヤマハ エレクトーン1号機 D-1発売
1959年:IC(集積回路)の発明 (映像資料NHKスペシャル 電子立国 日本の自叙伝 第5回 8ミリ角のコンピューターがお勧めです)
1963年:Don Buchlaがモジュラーシンセサイザー100シリーズを発表
1963年:京王技術研究所(現 株式会社コルグ)から、国産初のリズムマシン ドンカマチック DA-20発売
1964年:モーグ社初のモジュラー型電圧制御シンセサイザー発表
1968年:ウォルター・カルロスがSwitched-On Bachを発表
1970年:東京藝術大学音楽学部音楽総合研究センターが ブックラ100型を導入。日本で最初に輸入されたシンセサイザーとして注目を集める。
1970年:MOOG Minimoog 発売
1970年:大型モジュラー・シンセ ARP 2500 発売
1971年:ARP 2600 発売
1972年:ARP Odyssey 発売
1973年:コルグ最初のアナログシンセ miniKORG 700 発売
1973年:ローランド最初のアナログシンセ SH-1000 発売
1974年:ヤマハ最初のアナログシンセ SY-1発売
1974年:冨田勲「月の光」発表
1975年:ヤマハ GX-1発売。8⾳ポリフォニック、シンセサイザー35台分の⾳源を搭載。
1976年:ローランドから国産初の大型システム・シンセサイザーSYSTEM-700発売
1977年:ヤマハCSシリーズのフラッグシップモデル CS-80発売
1978年:Sequential Circuits から Prophet-5 発売
1978年:YMO 1st Album 「YELLOW MAGIC ORCHESTRA」 リリース
1979年:ニューイングランド・デジタル社 シンクラビアIIを発売
1979年:フェアライト社 フェアライトCMIを発売
1980年:ローランド TR-808 リズム・マシン発売
1980年:喜多郎 シルクロード・絲綢之路(NHK特集「シルクロード 絲綢之路」サントラ)発売
1981年:P.P.G. PPG Wave 2発売
1981年:ヤマハから4系列のFM音源を搭載したGS1発売。希望小売価格¥2,600,000(税抜)
1981年:ローランドJUPITER-8シンセサイザー発売
1982年:ローランド TTB-303 Bass Line 発売
1982年:E-muシステムズ社Emulator発売
1982年:MIDI規格1.0策定
1983年:世界初のフルデジタルシンセサイザー、ヤマハDX7発売。FM音源搭載し、一大シンセサイザーブームを巻き起こす。
1984年:ローランド JUNO-106発売
1987年:ローランド初のフルデジタル・シンセサイザー D-50リニア・シンセサイザー 発売
1988年:Akai MPC60 発売
1988年:コルグ初のミュージックワークステーション M1 発売
1989年:ヤマハ初のミュージックワークステーション SY77発売
1991年:GM規格の登場
1991年:ローランド GS規格の第1号機 SC-55サウンド・キャンバス 発売
1993年:世界初の物理モデルシンセサイザー、ヤマハVL1発売
1994年:ヤマハ XGフォーマット対応1号機 MU80 発売
1995年:Clavia DMIがバーチャルアナログシンセサイザー Nord Lead を発売
1995年:コルグが物理モデルシンセサイザー Prophecy発売
1996年:ローランドがバーチャルアナログシンセサイザー JP-8000 発売
1996年:Native Instruments Reaktor発売
1997年:ヤマハがアナログフィジカルモデリング音源を搭載した AN1x 発売
1997年:Access社バーチャルアナログシンセサイザー Virus A 発売
2000年:Alesis究極のポリフォニック・アナログ・シンセサイザー Andromeda A6 発売
2001年:ヤマハ MOTIF シリーズの初代機が発売し約15年間、フラッグシップシリーズとなる
2001年:ローランドからミュージックワークステーション Fantom 発売
2002年:Arturia modular V 発売
2004年:コルグの名機をソフトウェア音源化した KORG Legacy Collection 発売
2006年:Native Instruments MASSIVE 発売
2009年:Arturia V-COLLECTION 1 発売
2011年:KORG OASYS同等の音源に多彩なシンセシス機能が加わったミュージック・ワークステーション KRONOS 発売
2012年:ローランドのサウンド資産を1台に凝縮した音源モジュールのフラッグシップ・モデル INTEGRA-7サウンド・モジュール発売
2013年:コルグ MS-20 を86%ミニ・サイズに縮小した MS-20 mini 発売
2013年:ローランド TR-808/TR-909が現代版として蘇った TR-8 発売
2014年:ローランド名機TB-303の魅力はそのままに、新しいサウンドとパフォーマンス性を備えた現代版TB、TB-3発売
2015年:ローランド往年の名機を復刻したBoutiqueシリーズ「JP-08、JU-06、JX-03」発売
2015年:歴代ヤマハシンセサイザー、ステージピアノシリーズ名を冠したモバイルミニキーボードrefaceシリーズ発売
2015年:コルグがARP Instruments社の共同創業者David Friend氏をアドバイザーに迎えARP Odysseyを復刻
2015年:ローランド アナログ/デジタル クロスオーバーシンセサイザー JD-XA 発売
2016年:ヤマハ最新フラッグシップモデル MONTAGE発売
2016年:コルグから 4ボイス・アナログ・シンセサイザー minilogue 発売
2017年:Behringer が SUPERBOOTH 2017にてアナログシンセ DeepMind と MODEL D を初めて発表し、2019年以降には数多くのクローンモデルを発売
2018年:究極のMOOGポリフォニックシンセサイザー MOOG ONE 発表
2018年:IK Multimedia UNO Synth発売
2019年:ローランド新世代FANTOMシリーズ発売のほか、JUPITERシリーズの伝統を継承したJUPITER-X発売
2020年:MIDI規格2.0の策定
2020年:コルグがARP 2600を完全復刻したARP 2600 FS発表。2021年にはコンパクトモデルARP 2600 MとARP 2600-M LTDを発売
2020年:SEQUENTIALから Prophet-5 Rev4 発売
2020年:コルグKRONOSの血統を受け継いだ最新ミュージックワークステーション NAUTILUS 発売
2020年:Arturia V-COLLECTION 8 発売。
2020年:Native Instruments KOMPLETE 13 発売
2021年:Modal Electronics から8ボイス・バーチャル・アナログシンセCOBALT8発売
2021年:ARTURIA サウンド・モーフィング機能搭載の新生ドリーム・マシンPolyBrute発売
2021年:miniKORG 700S を忠実に復刻した miniKORG 700FS を数量限定発売。コルグmodwave発売
2021年:Prophetの血統を継ぐ新世代5ボイスアナログポリシンセ、SEQUENTIAL TAKE5発売
シンセサイザーの種類
シンセサイザーは、「合成する」という意味の英語 synthesize(シンセサイズ) が語源となっており、電子楽器だけでなく電波の世界でも使用されています。
シンセサイザーには音を発生したり合成する方法、音を加工する方法が数多く存在するため、各社から様々な音源方式のシンセサイザーがリリースされています。また、それらを分類する言葉も多く、「ハードウェア・シンセサイザー」は物理的な筐体や回路を伴ったシンセサイザーの総称を指し、「ソフトウェア・シンセサイザー」はパソコンなどのソフトウェア上で動作するシンセサイザープログラムやプラグインなどの総称です。
シンセサイザーと付く言葉をカテゴリーごとに分類し、登場頻度の高い物を太字にしました。今後の記事で各音源方式の特徴を解説しながら、その魅力をご紹介していきます。
アナログ
アナログは電圧で制御する電気的な連続信号を扱います。
デジタル
デジタルで扱うデータは0と1の並びに分解され、計算によって音が作られます。
アナログ/デジタル混在
ソフトウェア・シンセサイザー
音源方式をソフトウェアプログラムで実現。シミュレーター、エミュレーターとも呼ばれます。
ワークステーションシンセサイザー
録音機能とシンセ音源を合わせ持つ、鍵盤一体型の作曲用ハードシンセ
シンセサイザーを構成する 5つの要素
シンセサイザーを完璧に習得するには学習と経験が必要なために長い時間を要しますが、普段の曲づくりで使うためにはそこまでの知識は必要ありません。シンセサイザーの機能を全て使いこなすことが目的ではなく、楽曲制作のために自分が出したい音を出せるようになることが、シンセマスターへの近道です。
シンセサイザーの基本的な部分は誕生当初からそれほど変わっておらず、音高、音量、そして倍音を時間と共にコントロールできるようにシンセサイザーは設計されています。音高とは音の高さで、音量は音の大きさ、そして倍音とは、音が明るい、暗いなど、一般的に音色と呼ばれる要素を作ります。倍音の原理はとても奥深いのですがここでは偶数倍音と奇数倍音だけ覚えておけば大丈夫です。一般的に偶数倍音を多く含む音は温かく、奇数倍音を多く含む音は明かるいと言われていますが、シンセサイザーの音作りにおいて双方の配合バランスがとても大切になってきます。
①オシレーター
オシレーターは音を作る上での一番基本となる機能であり音を生み出す元となります。オシレーターは「音高、倍音」に関係し、鍵盤やシーケンサーから受け取った音程情報を波形で出力します。オシレーターの主なパラメーターは3つです。
■シンセサイザーに搭載されている 5つの基本波形(Wave, Waveform)
波形の違いは倍音構成の違い、つまり波形が変わると音色も変わるのでまずは波形選びが重要です。
■オクターブ(Octave, Scale)
音高を1オクターブ単位で上下することができます。上下の幅は機種によって変わるものの、基本的には全音域をカバーし、音程を無段階で調節できる機種もあります。
■ピッチ(Pitch)
半音単位やセント単位で音高を選ぶことができます。
周波数アナライザーを見ながら、5つの基本波形を聞いてみましょう。偶数倍音にはカラーラベルを付けて奇数倍音と見分けやすくしました。右下に表示されているオシロスコープで波形がグラフィカルに見えるので、波形とサウンドの関係がよく分かります。パルス波は矩形波の幅を変更したもので、手動でパルス幅を変更しているサウンドもお楽しみください。
②フィルター
フィルターはオシレーターが生み出したオーディオ信号を加工します。最も有名なフィルターはローパスフィルター(LPF, Low Pass Filter)です。ローパスフィルターを訳すと「低い音を通すフィルター」という意味で、高い音を遮ることでオシレーターが作り出した音に含まれる倍音を削ります。また、ハイパスフィルターでは低い音が削られることにより、高い音だけを取り出せます。この削るという機能が ”減算合成シンセサイザー(サブトラクティブ・シンセサイザー)” と呼ばれる由来です。フィルターには主に2つのパラメータがあります。
■カットオフ・フリーケンシー(Frequency, Cutoff, Cutoff Frequency, Freq)
音を削り始める周波数を調整するのがカットオフフリケンシー(以下カットオフ)です。ローパスフィルターではここで設定した周波数から上の音が削られます。カットオフ値を小さくすればするほど周波数が下がって音が暗くなり、値を大きくすると周波数が上がりより明るい音になります。カットオフで決めた周波数よりも高い音が削られるのですが、その周波数よりも高い音がばっさりと切られるわけではなく、カットオフ周波数からカーブを描いて音が削られます。そのカーブの鋭さが12dB/Oct (decibel、デシベル)や、24dB/Octと表記されます。数字が大きいほど鋭く音が削られますので、12dBよりも24dBの方が高い音が残りません。別の表記として2 pole、4 poleとも書きますが、2 pole は 12dB/Oct で、4 pole は 24dB/Oct です。切れ味が鋭いほど良いという訳でもなく、12dBの方が楽曲制作に生かせる絶妙な音が生み出せるケースもあります。
■レゾナンス(Resonance, Peak, Emphasis)
フィルターで倍音を加える/持ち上げることも可能です。レゾナンスの値を大きくすると、カットオフで指定した周波数周辺の帯域が持ち上がり、さらに値を大きくすると発振してそれ自体が音の中心になります。シンセサイザーによっては音が歪み出すため特にアナログシンセサイザーの場合、発振する/歪む少し手前の音はとても心地良い音がします。この歪みのキャラクターはシンセサイザーの個性を決める重要な要素です。ローパスフィルター以外にも低い音の成分を削るハイパスフィルター(High Pass Filter, HPF)、高い音も低い音も削るバンドパスフィルター(Band Pass Filter, BPF)などがあります。音が派手すぎる/暗すぎると感じた場合は、まずフィルターのカットオフを調整するのが良いでしょう。音がミョンミョンしてクセが強いと感じた場合にはレゾナンスの値を確認しましょう。
Arturia Mini V のノコギリ波とローパスフィルターを使用。カットオフ・フリケンシーは20KHzからスタートして徐々に周波数を下げていくことにより、音色が暗くなって行きます。カットオフつまみの右側にあるEMPHASISつまみはレゾナンスを意味しています。EMPHASISを上げるとカットオフ周波数付近の周波数が増幅され、サウンドにキャラクターが生まれます。
③アンプ
アンプは、オシレーターやフィルターを通過した音のボリュームをコントロールします。水門のように全開にすると音が大きく、締めると小さくなり、その開け閉めは後述するエンベロープなどで行います。ほとんどのシンセサイザーではアンプと一緒にエンベロープのパラメータが含まれています。
④エンベロープ
エンベロープはオシレーター、フィルター、アンプに時間的な変化を加えます。エンベロープのパラメータは主に4つです。
■アタック (Attack, Attack Time, A)
■ディケイ (Decay, Decay Time, D)
■サステイン (Sustain, Sustain Level, S)
■リリース (Release, Release Time, R)
アタックは鍵盤が押されてエンベロープがスタートして、値が最大になるまでの時間です。ディケイは値が最大になったあとにサステインの値にまで下がる時間。サステインは鍵盤を離すまで保持される値。リリースは鍵盤を離してエンベロープの値が0になるまでの時間です。
エンベロープは原則、キーボードなどを演奏する度にアタックからの時間変化を出力します。エンベロープがアンプをコントロールするおかげでシンセサイザーは鍵盤を押すと音が鳴り、離すと音が止まります。エンベロープの設定によって、ゆっくり音量が上がり鍵盤を離すとゆっくり音が消える、あるいは音が鳴ったと思ったら音量が小さくなる、そして鍵盤を離すとすぐに音が消えるなどの音量変化を作ることができます。エンベロープをフィルターのカットオフにかけると、鍵盤を押すと徐々にフィルターが開いて明るい音になったり、または徐々にフィルターが閉じて暗い音になったりします。オシレーターのピッチにかけても同様です。
⑤LFO
LFO は Low Frequency Oscillator の略です。日本語に訳せば低周波数のオシレーター、つまり遅いオシレーターです。オシレーター同様に様々な波形を備え、周期性をもった信号を発生します。
LFOの代表的なパラメータは2つです。
■ウェーブ(Wave, Waveform)
オシレーターと同様に、LFOに使用する波形を選びます。主にサイン派、三角波、ノコギリ波、矩形波が搭載されたシンセサイザーが多く、ソフトシンセでは自分で波形が描けるモデルもあります。
■スピード(Speed, Frequency)
波形が周期的に繰り返されるスピードを調整します。超高速になると通常のオシレーターと同様に可聴ピッチとなって、音程を発生させます。
LFOはオシレーターのピッチを揺らしてビブラートにしたり、フィルターのカットオフフリーケンシーを揺らしたワウ効果、アンプをコントロールしたトレモロ効果が得られます。LFOやエンベロープなどが、ピッチやフィルターをコントロールする事を「変調」や「モジュレーション」と呼びます。
LFO と エンベロープ によるモジュレーション例
第1回:アナログシンセサイザーの特徴
アナログシンセサイザーの特徴は「音が太い、温かい」と言われ、絵に例えるならば油絵の色彩に近い感覚です。濃くて立体感があり低音でも滲まずクッキリ、それぞれの色が埋もれず存在感のある音がします。アナログのオシレーター、フィルター、アンプのほか電子回路のノイズや歪みが音に大きく影響しており、その有機的で表情豊なサウンドがクリエイターのクリエイティビティを刺激してくれます。アナログシンセを代表するハードシンセは、ミキサーやオーディオインターフェイスに接続してリアルタイムでDAWに録音する作業が必要ですが、その手間をかけてでも手に入れたい魅力的なサウンド、音楽を作りたくなる音があるのです。
アナログ・シンセサイザーの音源方式
アナログ・シンセサイザーは原則的に電圧(Voltage)によって オシレーター、フィルター、アンプ、エンベロープ、LFO をコントロールします。
音高・音色=VCO (Voltage controlled oscirator)
音色=VCF (Voltage controlled filter)
音量=VCA (Voltage controlled Amplifire)
オシレーター
アナログシンセには前回シンセサイザーを構成する 5つの要素で紹介した5つの基本波形が搭載されています。そのほかサイン波を搭載せず三角波で代用する機種、矩形波の幅をPulse Width パラメーターでコントロールしてパルス波を生み出す機種、波形のモーフィングができる機種、そしてノイズ波形を搭載してパーカッションサウンドや風の音を作れる機種などがあります。
ノイズオシレーターは全ての周波数で同じ強度となるホワイトノイズが一般的ですが、ソフトシンセの中にはノイズの高域が抑えられたピンクノイズや、そこから更に中高域が抑えられたブラウンノイズを搭載しているモデルLuSH-101などもあります。
IK Multimedia UNO Synth Proのオシレーターを試聴してみましょう。基本波形は三角波、ノコギリ波、矩形波、パルス波が用意されています。隣り合う波形とモーフィングする事で、様々な波形を無段階で得られるのが特徴的です。アナログの電圧感ある波形と、モーフィングによるWavetableのような波形変化を聞く事ができます。
アナログシンセらしさとは
芳醇なノイズ、高密度なサウンド
REON driftbox SEには三角波、ノイズ波、ノコギリ波、矩形波、そして2種類のパルス波を搭載。惜しくも2018年に生産完了となりレジェンドシンセとなったこの driftbox SE は、動画をご覧の通り大量のノイズ成分を含んでいます。これは非整数次倍音と呼ばれ、ピッチとして認識できないノイズを含んでいます。オシレーター、フィルター、アンプ、その他電子回路で発生するノイズが原音波形にマスキングされる形で加わり、非整数次倍音が整数次倍音(偶数倍音と奇数倍音)の隙間を埋めて 濃密な周波数スペクトル=音の塊 を形成しています。平たく言うと、かつお出汁には主な旨味成分のほかに雑味成分が豊富に含まれているイメージです。この章の始めにアナログシンセは「油絵の色彩」と書きましたが、ノイズを含んた濃密なサウンドは他の音にマスキングされにくい力強さを持っています。
電気のパッション、常にアクセル全開のオシレーター
アナログシンセの原始体験をした事のない方には、ぜひ上のdriftbox SEを使用した動画を最後までご覧ください。不安定なピッチとノイズ成分はダイナミックな躍動感を与えてくれ、アナログシンセ初期の荒っぽいサウンドとはまさにそれです。そしてエンベロープのディケイを短くしていくとアタックの頭にパチッというインパルス音が聞こえ、これを私は「電気のパッション」と呼んでいるのですが、それはまるでダムの水門を一気に開放したかのような力強さがあります。ソフトシンセは発音信号を受けてから計算して音を作りますが、アナログシンセは鳴りっぱなしのオシレーター音をアンプ部で開閉しているため、オシレーターは常にアクセル全開の状態です。動画 1:24 以降はdriftbox SEを3回に分けて重ねたトラックで、ベース、コード、アルペジオだけで音空間が十分に埋まる力強さを持っています。
MOOG Mother-32 と Subharmonicon オシレーター聞き比べ
各周波数帯に表示されるグラフィカルなバーの下部にノイズがチラチラと見られます。波形を見るとsquare波(矩形波)の横軸が水平でなく若干傾いていて、そのため本来は奇数倍音のみを持つsquare波が偶数倍音も発生している事が確認できます。同様にsaw(ノコギリ波)も緩やかなカーブを描いており、アナログシンセは完全な波形が出力されていないという事がわかります。そしてその不完全な形がアナログシンセサイザーの個性を生み出しています。
Mother-32 に比べてノイズが減っています。square波では垂直軸と水平軸の角度が直角に近づき、偶数倍音のレベルが小さくなっています。波形の端にギザギザのトゲが見られ、ここがSubharmoniconのきらびやかなサウンドを象徴しています。そして Mother-32 にはない pluse波が搭載されているのも特徴です。Subharmoniconのクリアーで澄みわたる音色は、波形の歪みとノイズを削ぎ落とした成果といえるでしょう。
アナログフィルター
レゾナンスで自己発振するまでの美味しい帯域が広く、音色作りに大きく役立つアナログフィルターです。音圧を上げるために途中でアナログ・ドライブを少し足し、さらにディレイとリバーブでエモーショナルに演出しました。レゾナンスを上げても破綻しにくく、音程を持つ楽器音に向いています。アナログドライブの恩恵もありますが、濃密な非整数次倍音が荒々しさを演出してくれます。
アナログシンセの聞き所として、フィルターを開けるエンベロープ適用量(アマウント)が低い状態も要チェックです。アタック感が出てきた時の音の太さと艶もアナログシンセの醍醐味。エンベロープ・アマウントはシンセベースのキャラクターを決める重要な要素です。そういえばアナログシンセ好きにはベースフェチがかなり多いです。
アナログフィルターを通せば、何でもアナログシンセの音になる!?
上の「アナログシンセらしさとは」で紹介した driftbox SE のオシレーター部は、実はデジタル回路でありながらアナログシンセらしいサウンドが得られます。1984年に発売された ローランド JUNO-106 もデジタルオシレーターを採用しており、アナログシンセサイザーの核心はフィルター以降のアナログ回路にあると言えるでしょう。これはつまり、ソフトシンセのオシレーターをアナログフィルターに通せはアナログシンセの音になる事を意味しています。ここで、XFER RECORDS SERUM のノコギリ波を MOOG Mother-32 のアナログフィルターに入力して、Mother-32 本体のノコギリ波と SERUM の音を比較する実験を行いました。
この結果に衝撃を受けた方もいるのではないでしょうか。SERUMのノコギリ波が見事にMOOGサウンドに生まれ変わっています。アナログフィルターはメーカーやモデルによってサウンドのキャラクターが大きく変わるので、自分好みのアナログフィルターを手に入れて、ソフトシンセの音を加工してみるのもお勧めです。一番使われるフィルターと言えばローパスフィルターで、高域をカットするのが本来の用途でありながら、フィルターが完全に開いた状態でも回路を通過した音色変化が得られます。過去に大量のアナログフィルターをチェックした事がありますので、下の記事をご参考ください。(バナーをクリックするとジャンプします)
シンセ音色作りに欠かせないフィルターの定番から個性派まで徹底比較!
ELEKTRON / Digitone で低音~高音まで含んだ音をフィルターに通し、FM音源のデジタルサウンドがフィルターでどの様に変化して行くか各モデルの特徴をお楽しみいただけます。
エンベロープ
アナログシンセはエンベロープが高速なのも特徴。キックサウンドには高速なエンベロープが必要になるため、シンセサイザーのキャラクターを見極めるのに良い題材です。
レゾナンス発振キックは高速エンベロープ無しには作れないサウンド。レゾナンスピークが高周波から一瞬にして低周波に落ちるそのスピードがアナログキックの醍醐味でテクノをはじめ、サイケデリックトランスなどでよく聞かれるサウンドです。
ピッチにエンベロープを使用したキックサウンド作りを実践。UNO Synth Proのフィルターエンベロープでピッチを変調し、キックの音になるまでを動画にしました。
フィルターカットオフをエンベロープで変調すると、カットオフツマミを回す動作がエンベロープに追従します。エンベロープをカットオフにどのくらい適用するか、それを決めるのがアマウント値です。動画では、フィルターが閉じた状態をエンベロープでどう開くか、そのさじ加減を右手でツマミ操作しています。左手はフィルターカットオフを操作して、アマウント前の開き具合を変えています。
フィルター全閉でレゾナンス無し、アタック、ディケイ、サスティン設定が0という状態で、ディケイノブを上げていくとフィルターが開く設定です。ディケイノブをだんだん上げていくとゼロアタックのパチパチ音が聞こえ、これもアナログシンセによく見られるサウンドです。
ディケイつまみ以外は0の設定。ディケイは11時辺りにして、エンベロープアマウントつまみを徐々に上げて行きます。するとディケイエンベロープがカットオフにだんだんと適用され、音がこもっている状態から明るくなっていく変化とアタック感をの変化が楽しめます。フィルターの粘っこさがとても太く温かく心地よいです。
LFOとFMの関係
LFO(Low Frequency Oscillator)はピッチを上げて行くと通常のオシレーターと同様の周波数になるため、LFOとは、オシレーターでオシレーターを変調するFM(Frequency Modulation)の仲間という事がわかります。Prophet-5のポリ・モジュレーションもこのFMで、非整数次倍音を生み出す事ができます。
UNO Synth Proのオシレーター1で、オシレーター2と3をFM変調する実践動画です。オシレーター1のピッチで変調する方法と、波形で変調する双方をそれぞれ試しています。波形変調で倍音の多い音が連続変化していくサウンドはUNO Synth Proの大きな特徴です。
オシレーターシンク
オシレーターA、オシレーターBがあったとします。Bのオシレーターの波形周期をAのオシレーター波形の周期で強制的にリセットする事を、オシレーターシンクと呼びます。下の動画では、オシレーターAに相当する三角波で、オシレーターBをリセットしています。オシレーターBはピッチを上げて自身の周期が短くなってもオシレーターAの波形で1周期がリセットされるため、オシレーターAと同じピッチを保ちます。そのためオシレーターBのピッチをどんどん上げて行くと、三角波1周期の中にオシレーターBの波形がいくつも現れるようになります。オシレーターBが三角波、ノイズ、ノコギリ波、矩形波、パルス波でシンクしている様子をご覧ください。
アナログシンセのメリット・デメリット
メリット
デメリット
アナログシンセのお勧めモデル
最も荒々しいビンテージアナログ感を手に入れるなら MOOG GRANDMOTHER が最高!
MOOG GRANDMOTHER は、アルペジエーター、シーケンサー、スプリング・リバーブ・タンクを内蔵したセミモジュラー・アナログシンセサイザーです。パッチングしなくてもすぐに演奏可能。無限の可能性を秘めたフロントパッチパネルにより、際限なき音の探求が実現します。 Grandmotherの回路やスプリング・リバーブ、そしてそのスピリットは、クラシックなmoogモジュラー・シンセサイザーの影響を受けています。Grandmotherは、Mother-32、DFAM、さらにユーロラックのモジュラー・システムを強力に拡張するキーボードです。
とにかく出音が素晴らしいです! サウンドを初めて聴いた時、私が初期型 Minimoog サウンドを追い求め続けた20数年間への回答を得た思いでした。Grandmother は Minimoog とは仕様もパネル構成も異なりますが、音はまさにMinimoog のビンテージアナログサウンド。太さに加え高音のエッジ感が加わり現代の音楽にもマッチするでしょう。新品で10万円台前半という価格にも驚きです。
40年のヴィンテージ伝説を超えた、一生物のシンセサイザー SEQUENTIAL Prophet-5 (Rev4)
世界中のシンセマニアが数十年待ち続けた本家本元によるSEQUENTIALProphet-5の復活。Prophet-5の生みの親であり、現在も精力的にシンセサイザーを作り続けるDave Smith氏が「すべてのProphet-5の中で最高のProphet-5」と宣言するこのRev4は、現代の技術によってヴィンテージシンセの本質が完全に貫かれています。
ポイント①:伝説のRev1、Rev2サウンド
中古市場でもほぼ手に入らない Rev1、Rev2 の太く荒々しいサウンドの復活は、Rev3のオーナーにとっても衝撃のニュースとなりました。入手がほぼ不可能なRev1/Rev2のサウンドが現代に蘇り、それが安定して演奏できるだけでも非常に価値ある事なのです。 最新のRev4にはフィルターが2バージョン搭載され、Rev1/Rev2と Rev3 から選択できます。何度も言いますがこれ、本当に凄い事なんです! これまで幸運にも Rev1やRev2を手に入れられる機会に恵まれた方でも、不安定動作と故障の懸念から購入断念したケースが多かったのです。もはや楽器としてではなく工芸美術品としての評価も高いRev1とRev2が、Rev3とセットで付いて来てしまうのです!
ポイント②:最先端のヴィンテージシンセサウンド
世界を変えたアナログ・ポリシンセであるProphet-5への回想と愛情から誕生した特別な機能の一つ「VINTAGEノブ」!
Rev4の安定動作は当然のことながら、新たに開発されたVINTAGEノブによってヴィンテージシンセの醍醐味、つまり不安定な挙動が味わえます。これはDAVE SMITH INSTRUMENTSで採用されてきたOSC SLOPとは一線を画す最新機能で、オシレーターのピッチ、フィルター、アンプ、エンベロープに至る部品単位の不安定さを再現し、有機的でリアルなヴィンテージ感が最新機の中に蘇るのです!
正統派で無骨とも言えるパワフルな音質と現代のテクノロジーによる高い信頼性により、芸術的な領域へProphet-5を昇華させることに成功したProphet-5 Rev4。当時のままのアナログサウンドを蘇らせることが時代のニーズであり、それを待ち望んでいたシンセファンには迷わずお勧めしますが、特にこれからアナログシンセを導入したい若きクリエイターにお勧めしたいです。40年の伝説を超えてきた唯一無二のサウンドは、計り知れない表情と存在感をみせ、これから一生付き合えるだけの価値をあなたに与えてくれることでしょう。太く立体感があり、温かく鋭い、その音楽的なサウンドは美しい旋律を呼び降ろし、最高の名曲を生み出してくれるに違いありません。
Prophetユーザへ特にオススメのオーバーハイムサウンド OB-6
デイヴ・スミスと並ぶ伝説的なシンセサイザー開発者”トム・オーバーハイム”との共同開発により、Dave Smith Instrumentsから生まれたOB-6。オール・アナログ・シグナルパス、ディスクリート VCO と VCF を搭載。OB-6 が誇るサウンドエンジンはオリジナルの Oberheim SEM にインスパイアされており、現代のテクノロジーの安定性と柔軟性を持ち合わせながらヴィンテージ SEM トーンを提供します。OB-6 の機能はボイス毎に2つのディスクリートVCO(サブオシレーター搭載)、連続可変波形(ノコギリ波とパルス幅可変のパルス波、オシレーター2には三角波を搭載)、ボイス毎にクラシック SEM にインスパイアされたステイト・バリアブル・フィルター(ローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチ)を搭載。VCA のシグナル・パスは全てアナログです。「クラシックで、大胆な SEM サウンドの全てがそこにあります。」とトム・オーバーハイムは言います。
私は長年Prophet-5の信者ですが、このOB-6のサウンドを聴いた時にしびれました!Prophetサウンドの方向性がカレーライスだとしたら、OB-6の音はヨーグルトなのです。発酵食品が醸し出す奥深い味で、フィルターがとても豊かなレゾナンスの倍音を生み出すのでメロディーが導かれて来ます。店頭でシンセを試奏している音が聞こえてきて、なんだあの良い音は?と覗きに行くといつもOB-6でした。楽器としての存在感も素晴らしく、これでたくさん曲が出来そうな予感を与えてくれる神マシンです。カレーとラッシーの組み合わせが絶妙なように、ProphetとOberheimの相性は抜群です。
第2回:バーチャルアナログ・シンセサイザーの特徴
バーチャルアナログ・シンセサイザーはアナログシンセサイザーをシミュレート、エミュレート、モデリングなどのデジタル技術で再現したシンセサイザーの総称です。
1993年に発売された世界初の物理モデルシンセサイザーヤマハVL1は”物理モデル”をベースにしたバーチャル・アコースティック音源で、電子音楽という位置付けとは少し異なりましたが元祖バーチャルアナログ音源です。そして1995年、アナログのオシレーターやフィルターをデジタルで再現したヴァーチャル・アナログ・エミュレート・シンセシスを搭載したClavia DMI Nord Leadが登場。同年にはコルグが物理モデルシンセサイザーProphecyを発売、その翌年1996年にはローランドがバーチャルアナログシンセサイザーJP-8000発売、さらに翌年1997年にはヤマハがアナログフィジカルモデリング音源を搭載したAN1x発売、そしてAccess社のバーチャルアナログシンセサイザーVirus A発売によって、バーチャルアナログ・シンセサイザー創世記が一段落しました。その後、ミュージシャンがバーチャルアナログ・シンセサイザー各製品の特色を生かした音楽ジャンルを続々と生み出して行き、現在の音楽シーンに多大な影響を与えています。
今回は、4つの音源方式を搭載した Clavia DMI Nord Wave 2のバーチャルアナログ・シンセサイザー音源部を題材に、バーチャルアナログ・シンセサイザーの特徴やサウンドをご紹介します。バーチャルアナログ・シンセサイザーは文字が長いため以下 VA(Virtual Analog)シンセサイザーと表記します。
VAシンセサイザーの音源方式
音作りの概念はアナログシンセサイザーと同じです。アナログシンセサイザーのシミュレート、エミュレート、モデリングをバーチャルに行なっている事から Voltage controlled を VA に置き換えます。
音高・音色=VAO (Virtual Analog oscirator)
音色=VAF (Virtual Analog filter)
音量=VAA (Virtual Analog Amplifire)
VAオシレーター
基本的な部分はアナログシンセと同様に5つの基本波形とノイズ、そして各モデルごとに多彩な波形が用意されています。Nord Wave 2では波形間を無段階でモーフィングできるほか、Half Sine、Parabolic、Squeeze、Fold、ESaw、ESquareなどの独自波形が搭載され、同じ波形を複数同時に鳴らしてディチューンできるマルチオシレーターも用意されています。ノイズはホワイト、ピンク、レッドの3つがあり、単体で使用したりアタックにノイズを混ぜてアナログ感を出すのにも活用できます。
アナログシンセに比べてノイズが全くない事がわかります。波形のモーフィングで基本波形とは異なる倍音構成が生まれ、まるでフィルターを操作しているかのような音色変化が得られるのもVAならでは。正確なピッチと波形を活かした現代的なサウンドをはじめ、波形の角を丸くしてビンテージアナログ感を出したりと、高い透明感と力強さを兼ね備えた独特のサウンドです。
シンセベースから高音シーケンスまで十分対応できる太さを持っています。モーフィング適用量や波形を制御するつまみ(動画内左下で回しているツマミ)はLFOやMIDIでコントロールできるので、時間的な音色変化が生み出せます。あらゆるアナログ波形が用意されているほか、波形を複数鳴らしてディチューンしたり、オシレーターシンク、振幅変調(AM)など、音作りの可能性が大きく広がっています。
VAシンセらしさとは
バーチャルアナログ・シンセサイザーの特徴は「アナログシンセとソフトシンセのイイとこ取り」です。音が太く温かく、立体感がありピントがクッキリ、それと同時に上に突き抜ける劇的な明るさ、ソフトシンセのようなド派手さを兼ね備えています。透明感と力強さが大きな魅力で、音楽を作りたくなるサウンド、クリエイターを刺激する音が確実に存在します。音色を保存しておく事ができるので音の再現性もバッチリです。
VAには人工的なフレーバーがありながらも人間臭さもあり、AIが自我に目覚めたかのような未来感を持っています。動画のサウンドは Nord Wave 2 の内蔵ディレイを使用し、音が消えていく余韻の滲みがコーラス効果を生み出しています。強さと奥行き、そして儚さまで表現できる繊細さを持ったシンセサイザーです。
Nord Wave 2 は完全独⽴4パートシンセサイザーで同時発音数は48音あるため、動画では4パートを使ってゴージャスなレイヤーサウンドを作りました。コード弾きだけで全体域が鳴り、鋭いアタックとキレの良いリリースが16分音符のスピード感を演出し、VAシンセならではのサウンドに仕上がりました!
VAフィルター
Nord Wave 2 には 3種類のローパスフィルター、ローパス/ハイパス複合フィルター、ハイパスフィルター、バンドパスフィルターを搭載し、ローパスMフィルターはMoog Minimoogに搭載されたフィルターをエミュレートしています。下の動画では全てのフィルターを試し、レゾナンスを上げた際に生み出される倍音がフィルタータイプによって異なる様子が分かります。アナログ的な荒々しさと太さを持ち、音作りに積極的に使いたくなるフィルターです。
VAエンベロープ
レゾナンス発振キック
Moogタイプフィルターのレゾナンス最大&カットオフ最小、その状態でフィルターエンベロープを適用していくとレゾナンス発振キックが作れます。高速エンベロープ無しには作れないこのサウンドは、フィルターのキャラクターを見極めるのに良い題材です。アナログシンセにかなり近い挙動で音もファットです。
ピッチエンベロープキック
ピッチ専用エンベロープ (アタックとディケイ/リリース) が搭載されているので簡単にキックの音が作れました。搭載された波形全てがキックの音にできるので、ジャーマンテクノのようにキックにこだわった音作りが可能です。曲調に合わせたセレクトや大胆なフィルイン作成にも役立ちます。
フィルターエンベロープ、アンプエンベロープによるアタック感
フィルターエンベロープ適用量を決める「エンベロープ・アマウント」を調整し、フィルターが生み出すアタック感を確認。また、アンプエンベロープで作り出すアナログ特有のアタック感も聞いてみました。閉じ気味のフィルターをエンベロープでゆるく開くと、まるでゴムのように伸びのあるサウンドが得られます。
サウンドのアタックを劇的に強調するTRANSIENT機能
Nord Wave 2 特有の機能「TRANSIENT」は、アタック開始時に短いトランジェント・スパイクを追加します。トランジェントをコントロールできるエフェクトは数多くありますが、シンセサイザー自体に搭載されている事が重要です。ノートONで強制的にトランジェント・スパイクが入るので、オーディオエフェクトでのコントロールとは全く違ったキレのある演奏表現を可能にしました。
VAシンセのメリット・デメリット
メリット
デメリット
VAシンセのお勧めモデル
最もアナログシンセに近く、アナログシンセの先へと進化した世界的超定番モデル Nord Wave 2
歴代 Nord Keyboard の中で最も⾃由度の⾼い⾳作りの性能を持つシンセサイザー
Nord Wave 2 は上でご紹介したバーチャルアナログをはじめ、ウェーブテーブル、FM、そしてサンプルの 4つの⾳源を搭載しており、それぞれの⾳源の特性を⽣かした⾳作りができます。(ウェーブテーブル音源、FM音源、サンプル音源については今後この記事で取り上げて行く予定です)
ウェーブテーブル⾳源ではサンプルの元波形の読み出し順序を変えて新たな倍⾳を⽣み出し、独特な⾳像を構成可能。FM ⾳源では2〜4オペレーターを組み合わせ整数次・⾮整数次倍⾳を⽣み出すことができ、FM らしい⾦属的な響きや、スムーズに⾳⾊が変化するサウンドを作ることができます。また、1GB のメモリに、Nord Sample Library 3.0 の豊富なライブラリを⾃由に読み込むことができ、リッチなストリングスやマリンバ、ビブラフォンといった Clavia 社こだわりのライブラリや、正式なライセンス契約の元、制作されたメロトロン、チェンバリンのライブラリなど、必要とするライブラリをピックアップして本体に転送することができます。
そして Nord Sample Editor 3.0 を使えば、⾃分で録⾳した⾳素材や、オーディオファイルから⾃分だけのライブラリを作ることもできてしまいます。
Nord Wave 2 はこれら4つの⾳源を⾃由に選び、最⼤4パートまでレイヤー、スプリットして⾳作りをすることができ、ファットなベースやテクスチャの違うパッドを4パート重ねた壮⼤なパッド⾳⾊まで、様々なキャラクターのプログラムを作ることができます。
Clavia DMI Nord Lead 初代と Nord Lead 2 は90年代後半〜2000年代前半、サイケデリックトランスの最重要モデルとして一世を風靡し、東京の一部では「赤様」と崇め奉られた唯一無二のバーチャルアナログ・シンセサイザーサイザーです。それから25年以上、現行モデル Nord Wave 2 は歴代の Nord Keyboard の中で最も⾃由度の⾼い⾳作りの性能を持つシンセサイザーとして、バーチャルアナログシンセサイザーの先頭を走り続けています。Nordの歴史はこちら>>
私は初代 Nord Rack を使用していましたが、Nord Wave 2 では Clavia の個性と新しい音源方式が融合して、全く新しい音楽表現が可能になっています。Nordサウンドは音の中心がはっきりと見える「ど真ん中」の音像で鳴るのが特徴です。本来モノトラックならばどんなシンセでも真ん中で鳴るのが当然ではありますが、Nordは定位の体感が他のモデルと異なり、波形にy軸オフセットがかかったようなサウンドが定位の前後左右感に影響を及ぼしている、と私は推測しています。
Nord Wave 2はサンプル音源も使えるので楽曲制作の幅が格段に向上し、いま新しい音楽ジャンルに挑戦するならば Nord Wave 2 が最高に面白いでしょう。4つの音源パートをレイヤーできるだけでなく、Nord Wave 2の凄い所は4つの音源パートのフィルター、エンベロープADSR、エフェクトをグループ化して連動できることにあります。同グループ内のフィルター開閉やエンベロープが連動できるという事は、4オシレーターを持つシンセサイザーのように使用でき、バーチャルアナログ、ウェーブテーブル、FM、サンプル音源パートそれぞれをオシレーターとして捉え、それらが混在した複雑な音作りを可能にします。また、グループから外したパートで音の芯を残しながら、グループパートだけでフィルター開閉を行なうといったパフォーマンスも可能になります。
トルク感のあるツマミと鉄のモジュレーションホイール、そして61鍵ウォーターフォール鍵盤がとても弾きやすく、ハードウェアとサウンドの全てにおいて完成されたシンセサイザーです。
アナログモデリングシンセの殿堂入り37鍵バージョン ACCESS Virus TI2 Polar
Access Virusシリーズはアルペジエイターの進化した刻みフレーズと鉄の塊の様な重量感あるサウンド、そしてエッジの効いたド派手なサウンドが特徴。EDMの原型を形作り、その後のソフトウェアシンセサイザーの方向性を確定した歴史的シンセサイザーです。高いフレキシビリティと強力なサウンドで数々のアワードに輝き、世界中で高い評価を獲得。Virusは数多くのアーティストに愛用されていおり、Depeche modeやMadonna、Linkin Park、the Prodigyなどのアーティストは Virusをツアー・セットに組み込みました。SashaやPete Tong、Roger SanchezやDr. Dreなどのプロデューサーは自身のスタジオのメイン・シンセサイザーとしてVirusを導入しています。さらにHans ZimmerやJames Newton Howard、John Powell、Mark Ishamといったコンポーザーは特に熱狂的なVirusユーザーとして知られており、ハリウッド映画のサントラなどにもVirusサウンドを耳にすることができます。
Virusハードウェア・シンセサイザーとDAWとの間のオーディオをリンクするVirus Controlバーチャル・インストゥルメント・プラグインは非常に画期的でした。しかし現在のパソコンOS対応状況に関する情報がないため、パソコンとの連動は考えずに単体ハードウェア・シンセサイザーとして捉える事をお勧めします。私はVirus Cを使用していましたが、ACCESS VirusシリーズがEDMの基礎を完成させたと言っても過言ではない、殿堂入りのバーチャルアナログ・シンセサイザーです。
Waldorf史上最強のバーチャル・アナログ・ビースト KYRA
2018年のMusikmesseで発表されたFPGAベースのデジタル・シンセサイザー、Exodus Digital Valkyrie。そのサウンドに惚れ込んだWaldorfのCEO、Joachim FlorがExodus Digitalにコラボレーションを持ちかけ、Waldorfブランドとして発売されることになったKYRA。そして2020年、最大8パート/128ボイスを同時に使用できる史上最もパワフルなバーチャル・アナログ・シンセサイザーが誕生しました。
KYRA(カイラ)は最大8パートを同時に使用できる、Waldorf史上最もパワフルなバーチャル・アナログ・シンセサイザーです。真のマルチティンバー・シンセサイザーとして、パートごとに最大32ボイス/全体で最大128ボイスを同時に使用でき、それぞれのパートを完全に独立した「1台のシンセサイザー」として使用できます。パワフルなオシレーターやフィルター、EG, LFO, モジュレーション・マトリクスなどのモジュレーターは8パートすべてで同時に使用でき、従来のバーチャル・アナログ・シンセやソフトウェア・シンセのように本体の処理能力や CPU 負荷といった煩わしい概念を気にする必要は一切ありません。KYRA には「マスター・エフェクト」という概念は存在せず、パワフルな9種類のエフェクトはパートごと独立して搭載しており、その全てを同時に使用できます。
KYRAにPADを作らせたら最強シンセなのではないかと私は思います。「このシンセは何が得意ですか?」と聞かれたらPADの壁ですと即答したいバーチャルアナログ・シンセサイザーです。
記事内に掲載されている価格は 2023年11月14日 時点での価格となります。
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