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2023年4月17日に、東京・新宿歌舞伎町にオープンしたライブホール
「ZEROTOKYO (https://zerotokyo.jp/)」
「Zepp Shinjuku (TOKYO)(https://www.zepp.co.jp/hall/shinjuku/)」
地下1階から地下4階に渡る4階建ての構造で収容人数は1,500人。新たな新宿のエンターテイメントスポットとしてオープン以来、話題を集めています。訪れたことがある人ならその圧巻さに気づいたかもしれないのがメインホールをぐるっと取り囲む360度のLEDビジョンをはじめとした映像演出。サウンド面はもちろんのこと、映像にもかなり力を入れたライブ/クラブイベントを華やかに演出する設備が備えられています。今回は、「映像」側に焦点を当て、ZEROTOKYO / Zepp Shinjuku(TOKYO)のビジュアルシステム構築を担当したCOSMIC LAB株式会社(https://cosmiclab.jp/)の代表取締役 Colo Müller氏と240K氏にお話をお伺いする機会を得ました。
システム概要
Rock oN : 2023年5月27日(土)に行われたドイツのハウスDJ Dixonの来日公演にお邪魔して取材させていただきましたが、圧巻の映像演出で、素晴らしい一夜でした! ZEROTOKYO / Zepp Shinjuku(TOKYO)の映像システム構築をCOSMIC LABさんがご担当されたということで、技術面を中心にお話をお伺いしたいと思います。まずは、システムの全体像をお伺いしていいですか?
240K氏 : はい、よろしくお願いします。では、システムのダイアグラムに沿って説明させていただきますね。
(下図)システムダイアグラム
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240K氏 : まずハードウェアの話をすると、ラックの中にメディアサーバーとして
(1)コンテンツPC
(2)プレイバックPC
(3)オペレーションPC
という3つのPCがあります。
「コンテンツPC」は映像と照明の同期システムを担うサーバーです。「プレイバックPC」はラインライト用の映像のほか、ビデオクリップのプレイバックが可能で、乗り込みのVJさんのソースを取り込みLEDチャートにレイアウトすることもできます。ご覧の通り、ZEROTOKYO / Zepp Shinjuku(TOKYO)のLEDは特殊な形なので、LEDチャートにレイアウトして出力する必要があります。
Rock oN : LEDチャートは、細かに決められた仕様なんですか?
240K氏 : そうです。このLEDチャートに沿って説明しますね。
(下図)メインスクリーン
(下図)サラウンドスクリーン
240K氏 : Gと記されたのがメインスクリーンです。ステージの背後にある大きなスクリーンですね。B、C、D、E、Fがフロアを取り囲むように設置されているサラウンドスクリーンです。通常の16:9素材を使用したい場合、プレイバックPCでレイアウトすることで、いくつかのパターンが選べます。
– メインのみ使用でサラウンドは何も映さない。
– サラウンドは16:9がリピートして表示される。
などのパターンを用意しています。
「オペレーションPC」は、各種信号をコントロールしてます。3つのMIDIコントローラーがUSBケーブルでオペレーションPCに繋がっています。全てのPCはネットワーク(LANケーブル)で接続されており、プレイバックPCとコンテンツPC、スイッチャーをMIDIコントローラーでコントロールすることが可能です。MIDIコントローラーについては、後でさらに詳しく説明しますね。
(下図)LAN ネットワーク図
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240K氏 : スイッチャーにはBlackmagic Design ATEM Constellation 8Kを導入していて、このコントロールもオペレーションPCが担っています。映像をオペレーションする場所はイベントによって違います。例えば、昼間のライブイベントの場合だとFOH(Front of House)の後ろに組み、今回のような夜のDJイベントの場合は、FOHの前に組むことが多いです。ですので、オペレーション卓は移動できるようになっており、SDIケーブル、USBケーブル、LANケーブルは一束にまとまっています。そのため、ケーブルを繋いだまま移動できるように設計してます。ケーブルが20本以上は差さっているので、繋ぎ間違えを防ぐため、抜き差しによるケーブル、コネクタの損傷を防ぐためです。このシステムの一番の特徴は映像と照明の同期になります。2つの種類があり、1つ目は、ムービングライトとの同期です。ZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))の場合、Grand MAという照明卓を使用し、ムービングライトの制御を行っております。照明卓からArt-Net信号(※Ethernetを使い、DMX、RDM信号を伝送する規格)を出力、ネットワークが接続されているコンテンツPCでArt-Netを受信し、映像の中のムービングライトを動かすシステムになっています。映像の中にあるムービングライトが、実際に会場にあるムービングと同じ動きを行うことで、照明が画面に当たるとパーティクルが出現したり、照明が当たった部分のみ映像が現れたり、といった実際の世界と映像の世界を繋げた演出が可能になっています。
Colo Müller氏 : ZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))の会場を実寸でモデリングした上で、画面の奥にバーチャルの部屋を置き、バーチャルライトを配置して、リアル/バーチャルの照明を照明オペレーターが操作します。動画があるので、再生しながら説明しますね。
Colo Müller氏 : 手前側に映っている赤いビームがリアルの(実際に会場にある)ムービングライトです。スクリーンの奥の世界にバーチャルのムービングライトを設置し、画面の中のバーチャルライトとフロアのリアルライトが、光の質感も含めてシームレスに繋がります。
Rock oN : 動画だと、バーチャルとリアルの違いは分からないですね!
Colo Müller氏 : ほんとうに面白い効果を生み出していますよね。乗り込みのVJさんの中には、奥に、さらに部屋があると思った人もいたぐらいで、見た目にはわからない感じですね。
240K氏 : リアルの照明に対して、バーチャルの映像の方が遅れてしまう遅延の問題があるので、照明卓から直接ムービングライトへDMXを出力するのではなく、オペレーションPCにArt-Netを入力、TouchDesignerを使って5フレームの遅延を追加し、Art-Net to DMXインターフェースでDMXに変換してムービングライトに送っています。DMXに遅延を与えることで遅延している映像にタイミングを合わせることができます。
壁面ラインライトについて
240K氏 : 映像と照明の同期システムの2つ目は、ZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))の特徴的な壁面ラインライトとの同期です。実際のラインライトとバーチャルのラインライトが同期しているので、ラインライトが画面の奥から手前に流れてきたりといった連動が可能になっています。会場のラインライトは、MADRIXにより制御されています。プレイバックPCからラインライト用の映像をMADRIX PCへ出力。MADRIXにはピクセルマッピングの機能があるので、映像を会場のラインライトへ流し込むことができます。それとは別にバーチャル用のMADRIX PCを用意しており、こちらは、画面の奥の世界に配置されたラインライトに映像を流し込みます。プレイバックPCから映像をバーチャル用MADRIX PCに出力して、映像をピクセルマッピング、Art-Netに変換。バーチャル用MADRIX PCからコンテンツPCにArt-Netを出力して、バーチャルのラインライトを制御という流れです。ラインライト用のチャートは、リアルとバーチャルが繋がるようにレイアウトしました。
(下図)ラインライトチャート フィジカル(実際のラインライト)
240K氏 : 真ん中がステージで、右半分が実際のライト、左半分がバーチャルライトが配置されているエリアですね。黄色や赤色になっているところが、実際に投影してみるとこのような感じで光る訳です。このチャートを考慮して映像を出力することで、リアルとバーチャルが繋がるような演出が可能です。例えば、左から右に流れていくような映像を出力すると、画面の奥から実際の世界に流れてくるようなラインライトの演出を行うことができます。
Colo Müller氏 : このシステムは、私が知る限りでは、他で見たことないシステムです。ラインライトがメインフロア中に張り巡らされてるのですが、これだけたくさんの数をコントロールするのは結構な課題でした。どうやって映像と照明を統合して世界観をまとめるのか。それが課題としてあったのですが、私たちが提案したのが、「バーチャルの映像と、フィジカルのラインライトや照明がシームレスに同期して変化する」というアイデアでした。以上が照明同期の部分に関するシステムの特徴になります。
Rock oN : 想像以上に複雑ですね! 本当にびっくりしてます。
映像システムについて
240K氏 : 次は映像の部分を話しますね。この部分は、主に乗り込みのVJさんや、出演バンドの映像オペレーション担当の方が使う機能になるので、その前提を想定して設計しています。イベント当日、私共がオペレーションしてたディスプレイが2枚配置してある卓が映像卓になります。映像卓にBlackmagic Design Micro Converterが4つ設置してあり、乗り込みのVJさんはここにケーブルをつなげて映像を出力します。映像卓から映像ラックのATEMConstellation 8Kまでは、15mのSDIケーブルで接続されています。
今回、ATEM Constellation 8Kを選定した理由としては、4つのMEをサポートしており、ME1、ME2と複数のスイッチングができるところが凄く大きかったです。VJさんが16:9で出したいのか、それともLEDチャートに配置された素材を出力したいのかで使用するMEが変わります。
240K氏 : 遅延を極力なくすためには、LEDチャートにレイアウトした素材を直で、最終スイッチャーへ出力することが一番です。もし、16:9素材で出力する場合は、プレイバックPCかコンテンツPCに入力して、LEDチャートにレイアウト、最終スイッチャーへ出力する流れになります。直でファイナルスイッチャーに出力したい場合とメディアサーバーでレイアウトし直したい場合の2通りを両方できるように、ATEM Constellation 8Kを選定しました。2つのスイッチングを1つのハードウェア上できるのは大きいですよね。ただし、映像と照明の同期のシステムはコンテンツPCにしか入ってないので、映像と照明の同期のシステムを使いたい場合は、コンテンツPCを経由することになります。ATEM Constellation 8Kには凄く沢山のインプットとアウトプットが装備されているので、ご覧の通り(写真)たくさんの機材が繋がっていて、複雑なシステムをコントロールするハブになっています。
(下図)ダイアグラム スイッチャー
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240K氏 : 「館内映像」というのがZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))ビルの映像システムのことで、ホール内の映像システムから映像を送って、ビルの壁面に映し出す事もできます。過去には、ホール内のカメラからのライブ映像を、ビルの壁面ビジョンに映し、パブリックビューイングを行った事もありました。逆に、館内システムからの映像をメディアサーバーに入れてLEDビジョンに出力した事もあります。テレビ局からの中継をLEDビジョンに映し、アナウンサーの方から「次はZepp Shinjukuです!」という紹介の後、ライブが始まるという演出もありました。あとはステージからも映像が出力可能なので、音と映像を同時に出力するアーティストやバンド専属のVJがいる場合も対応できます。スイッチャーのインプット/アウトプット数が多いので、モニタープレビューのためだけにアウトプットを使うこともできたので凄くよかったですね。また、マルチビューアウトを4つ別々に出力、それぞれカスタマイズできるので、全てのソースを一覧で見ることができて重宝してます。複雑な信号系統を便利に使うことができているのは、ATEM Constellation8Kのおかげだとも言えますね。
240K氏 : MIDIコントローラー は、2台のAKAI APC miniと1台のNative Instruments Launch Control XLを使用して、コンテンツPCとプレイバックPC、ATEM Constellation8Kをオペレートすることができます。1台目のAPC miniは、ATEM Constellation8Kのコントロール、16:9の素材をどこに割り当てるかといったLEDチャートへのレイアウトモードの変更が可能。2台目のAPC miniはラインライトの色や形、パターンを変えれるラインライトの制御用、また、照明オペレーターが映像と照明の同期用の映像パターン変えることができるビデオプレイバック用として使用しています。Native Instruments Launch Control XLは、照明同期のパーティクルエフェクトのパラメーターのコントロールのほか、パラメーターで変化するグリッドコンテンツのコントロールが可能です。例えば、「パーティクルA、B、C」は、ムービングが当たったところから出現するパーティクルの種類を3つ選べるのですが、パーティクルのライフタイムなど、つまみを調整することで、同じ種類でも色々なパターンをつくることができます。
Colo Müller氏 : オペレーションPCから他の各PCに対しては、OSC(OpenSound Control)プロトコルを使ってコントロールしています。なぜかというと、MIDI信号の場合、1台のMIDIコントローラーにつき1台のPCしかコントロールできない制約が発生するので、このシステムみたいに複数台のPCをまたいでいる場合はOSCを使う必要があるんです。普段は、もっぱら2台目のAKAI APC miniをオペレートすることになりますが、加えて、自分のMIDIコントローラーも持ち込んだので、先日のイベント当日では合計5台のMIDIコントローラーを操作していました。ただ、一見、複雑なシステムなんですが、MIDIコントローラーを使うことで、オペレーターとしてはわりとシンプルにコントロールができると思います。
音声について
240K氏 : ここまでの説明は映像の関しての話になり、音声に関しては触れていませんので、次に音声に関して説明します。会場の音響卓からマスターのステレオ音声を、オーディオインターフェイスのNative Instruments Komplete Audio 2を経由し、オペレーションPCに入力しています。オペレーションPCで音声信号をOSCに変換して、ネットワーク経由で送信することができます。COSMIC LABがVJの場合、LANケーブルを映像卓のLAN HUBに接続することで、音声のOSCを受信して、オーディオリアクティブ映像コンテンツに反映させています。
ZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))の特性を活かす独自システム
Rock oN : かなり複雑なシステムが構築されていますが、ZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))の独自性に大きく貢献していると感じました。
Colo Müller氏 : ありがとうございます。その時々のプロジェクトに応じたシステムを構築している映像チームを何組か知ってますが、このようにZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))の特性を活かすために、自分達でシステムを作り、かなり独自性を持ったものを作ることができたと思います。
240K氏 : 私たちCOSMIC LABでは、一晩のイベントのために、例えばPCを5、6台を現場に持ち込んでシステムを一から組んだりすることはよくあるんですが、このZEROTOKYO(Zepp Shinjuku(TOKYO))のシステムは、常設として作り上げたことで、今後もさらに拡張していくことができる、素晴らしい場所だなと思ってます。今回、システムの中核を担うスイッチャーとしてBlackmagic Design ATEM Constellation 8Kを採用しました。まず、4K60Pに対応しているという前提がかなりの壁だったんです。ME1から4まで使えることが、ATEM Constellation 8Kを選んだ理由の決定打でした。照明卓の下のスペースにラックで納める必要があったので、ラックに収納できる事も大きな理由ですね。Blackmagic Designのコンバーター類は以前から使用しており、HDMI-SDIコンバーターは全てBlackmagic Designの製品に統一しています。
Blackmagic Design 関連製品情報
記事内に掲載されている価格は 2023年8月30日 時点での価格となります。
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