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国内外のあらゆるイベントをいち早くレポート! またブランドや製品誕生の秘話に迫るDEEPなインタビューを掲載!

01
May.2013
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『伊藤圭一のサウンド・クオリア』SHUREマイクロフォン対談!!

ラジオNIKKEI 第1にて毎週日曜日22時30分より放送中の『伊藤圭一のサウンド・クオリア』にて2週間にわたるゲスト・コーナーの一部をご紹介!

SHURE正規国内代理店である株式会社オールアクセスの代表取締役・服部弘一氏をゲストに迎えたSHURE対談の模様をぜひご覧ください!!

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【伊藤圭一氏・・・以下、伊】

大切に使いながらも、常にもっと上の物を求め続けているのも確かです。しかし、なかなか自分にピッタリのものに出会うことは難しいです。

そんな時、本当に良い楽器や機材を紹介してくれる方は、とても大切なんです。「弘法筆を選ばず」と言いますが、どんな道具を使うかで、当然、仕事の出来が違ってきますから、私たちにとっては非常に重要なことなのです。音楽に使う道具は、意外と海外製品が多く、簡単に試してみる訳にもいきません。

そんな中、海外製品の輸入元は私たちにとって貴重な相談役になります。楽器を作っている方や製造しているメーカーから見ても、彼ら輸入元の存在は業績を直接支えることになりますし、「アーティスト側の製品に対する要望をメーカーに伝える掛け橋」という意味でも、アーティスト・リレーションとして非常に重要です。まさに陰から音楽業界の音や、音楽のクオリティを支えているわけです。

今夜はそんな、楽器、音響機器の輸入元である株式会社オールアクセスの代表取締役・服部弘一様をお招きしております。

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【服部弘一氏・・・以下、服】

伊:服部さん、こんばんは。お久しぶりです。

服:こんばんは。よろしくお願いします。

伊:早速ですが、服部さんは、世界中を飛び回っているイメージがあるんですが・・・。

服:あぁ、そんなに大袈裟なものじゃなくて、誰かに呼ばれて行くのが一番多いですね。同業他社の社長さんに、「どうやって商品を探してくるんですか?」って聞かれたんですよ。

伊:あー、そうそう。すごく不思議!

服:「どうやって探してくるんじゃなくて、向こうから来るんです」

業界が長いですから、友達がこんなことをやり出したとか…、製品になる前に大体話が来るんですね。今、ワールドワイドのディストリビューションもやっているstrymonというエフェクターも、実はそんな始まりだったんです。コンピューターとDSPボードから出て来たサウンドが素晴らしくて、『これはビジネスになるぞ…』と実感したんです。そういう例が多いですよ。

伊:なるほどねぇ〜。

服:だから、自分が欲しい、使ってみたい、弾いてみたいという音をイメージできる物に巡り会って、それにビジネスになりそうだ…という予感からですね。

伊:それって多分、こういう業種じゃなくても、何でもどんな仕事も言えると思うんですけど、普段からそういう気持ちでいると、気づくものってありますよね。

服:そうでしょうね。

伊:でも、ボーッとしてると、スッと見逃しますよね。あと、常にアンテナを張り巡らせていると、そのアンテナに吸い寄せられて、向こうからも来ますよね。

服:名だたるブランドって世の中にいっぱいあるじゃないですか。車でも、オーディオ機器でもそうなんですが、じゃぁそのビジネスをやりたいかっていうと、それはあまり興味がないんです。誰かが作り上げた形があるので、案外メジャーな部分は今まであんまりやってないですね。

伊:要するに、既に評価されているメーカーを売りたいっていうよりも、発掘してきたり、育てたりするのが好きってことなんですよね。未来を見越すセンスというか、服部さんが手掛けてきた製品群ってスゴイですよ。うちのスタジオでもKEYになるような、t.c.electronicとかFocusrite、AKG、BEHRINGER、そのへんは全部、服部さんが日本に広めた物ですよね。

服:うーん、まぁ偶然そうなったんでしょうけど(笑)

伊:いわゆる、目利きということなんでしょうかね。

服:結果的にブランドの名前が知れてヒット商品がいっぱい出てっていうところで、大体関係は終わっていますね。だから、フォア・ランナーっていう感じで(笑)

伊:僕のイメージだと、服部さんってすごくいい物を見つけてきて、日本中、世界中にそれを広めて、ブランド・イメージがドンと上がったら、もう他の人に譲って次のことやっているっていうイメージがあるんだよね。

服:ウチは会社小さな会社ですから、販売力とか、業界をまたいでビジネスを広げるようなキャパはないので大きな会社へ移って行くパターンですね。

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伊:ちょっと復習すると、服部さんは、デンマークのt.c.electronic、イギリスのFocusrite、オーストリアのAKG、ドイツのBEHRINGER、そういう各国のおもしろい物を見つけてきては広めていらっしゃって。で、今回は僕のところにアメリカのSHUREを持ってきてくれたじゃないですか。マイクって今まで、あんまりやっていらっしゃらない?

服:マイクを扱った歴史は長いですね。実は、AKGが初めてだったんですけど……。AKGは代理店を11年やりました。

伊:あぁ、そうですか。

服:実は、AKGの仕事を始める前に、ドイツのショーで、AKGの大きなブースを見たんですよ。フランクフルト・メッセ。憧れましたね。「うーん、こういうの扱えるのはどんな会社なのかなぁ」って思っていた、その1〜2年後に、そういうお声がかかって「じゃあ、やってみよう」と決断しました。

いろんな勉強して、メーカーにも行きましたし、製造現場も見せて頂きました。当時は、414なんかを設計された方がまだお見えになったんですよ。

伊:へぇ、そうなんですか・・・

服:で、その方にいろんな話を伺ったりして11年もやらせて頂きました。AKGは、大戦直後の1946年からスタートしているんですよ。実は、今のノイマンのOEMをやっていたんです。

伊:そうなんだ、中身を作ってたんですね。

服:そうなんですよ。ヨーロッパで「クラシックを録る」っていうと、AKGのマイクやノイマンのマイクがズラッと並んでましたね。

オーストリアでは、新年にクラシックのニューイヤー・コンサートをライブで録音するんです。そこではAKGのマイクがざっと使われますよ。クラシックの都ウィーンで作られたマイクですから、それが音のベースにあると思います。2年前からSHUREの代理店をやらせて頂いています。ベースはクラシックじゃないですよね。

伊:うーん、まぁイメージ的には違いますよね。

服:大統領がアナウンスする時に、SM57が2本並ぶ画像は皆さんもよく見られますよね。クラシックじゃないですね。「骸骨マイク」って呼ばれるマイクも知っておられる方々は多いと思います。

伊:そのへんの話、知らない方のためにちゃんとお話すると、骸骨みたいな顔をしているマイクで、お洒落だからって理由で使ったりしている人もいますけど・・・。あれが、いわゆる単一指向性マイクとしては、世界初らしいですよね。

服:そうですね。

伊:そして、その当時の大統領、恐らくルーズベスト大統領が、それを使ってお話しされたというのが歴史なんでしょう。それ以降に、今お話に出たSM58ですが、皆さんが、カラオケボックスでもどこでも見かけるような、マイクのスタイル。丸いアイスクリームを、コーンの上に乗っけたみたいな形で、そのアイスクリーム部分が金属の網になっているっていう、あのスタイルを初めて作ったのが・・・。

服:SHUREですね。

伊:SHUREのSM58ですよね。それが今でも大統領のスピーチに使われている。うーん。確かに、クラシックではないけれど、すごく重要なポジションにありますよね。

服:そうですね。さっき、AKGマイクでオーケストラを録音するお話をしたんですが、SHUREは録音用のマイクにしても、録音する素材がヨーロッパと違うので、そういう音作りや特性、また、時代をも反映している設計思想がありますね。

伊:そうですね。確かにクラシックは、基本的にマイクとの距離をある程度あけて録るイメージがありますが、POPS、ロックになってくると、かなりクローズドで、近い距離で録ることが多いですよね。

例えばSM58なんかも、ハンドマイクで唇が触れるような位置で歌うのが基本で、1mも2mも離して歌う人はまずいないですよね。でも、AKGのマイク、たとえば414とかで楽器を録音する時は、距離があって録るっていう印象がありますよね。

服:そうですね。だから、そこに特性の違いが必要です。

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服:今はSHUREのコンデンサーマイクとリボンマイクを使いながら、伊藤さんとお話していますけど・・・。

伊:これ、すごく抜けが良くて聞き取りやすい!

服:そうですね。SHUREは、圧倒的にダイナミックマイクのイメージが強いですよね。

伊:そうですね。SM58がまさにそうですよね。

服:実は、SHUREも30年くらい前からレコーディング用のマイクを作り出しているんですよ。大体30年くらい前に、アナログからデジタルの時代に変わりました。今では、コンピュータをベースにしたハードディスク・レコーディングが基本です。

SHUREはアナログをベースに考えていないんです。録音媒体が変わった後、デジタルの時代になってから、レコーディング用のマイクやブロードキャスティング用マイクの製作を始めたんです。

伊:確かに、SHUREは、ダイナミックマイクのイメージが強いですよね。代表されるってことでいうと、あれはもう、いわゆるスタンダード、世界標準ですよね。57、58の2種類あれば、とりあえずっていう感じですよね。

服:そうですよね。実は本社から伺ったんですが、SM58は45年間ずっと右肩上がりだそうなんですよ。

伊:へぇ・・・すごいマイクだね!! 一体今までに何本出荷したんだろうね(笑)

服:どこに行くんだろうって思うんですけど。去年のSM58のセールスが史上最高であったと。本当にマイクロフォンの代名詞ですよね。皆さん、姿は簡単に想像できますよね。「あ、あれがSHUREだ」「SM58だ」って。

伊:普通にハンドマイクで使っている、あのスタイルだと思えば、間違いないですよね。

服:そうですね。ほとんど間違いなくSHUREですね。

伊:手元に資料があってちょっと調べたんだけど、1965年に生まれているんですね。それからずーっと右肩上がり。すごい商品ですね。

服:すごいです。

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伊:あとSHUREといえば、最近、皆さんがテレビやライブステージを見ると、アーティストが耳にインナーのイヤフォンを入れていますよね。その時、耳たぶの上にケーブルを回して、背中の方に垂らしているのをよく見かけると思うんですけど、あれは、我々の業界では「SHURE掛け」って言って、ああいう風にするとすごく安定するし、ちょっとぐらい引っ張られても外れないんですよね。

服:イヤーモニターの使用は、日本では電波法の関係で制限がありますけど、海外の場合、特にアメリカではそういう制限がないので、割とローカルなバンドでも使っているんですよ。

5〜6万も出せば、そういう電波を飛ばすイヤー・モニターができるシステムを買えるのです。SHUREは、そういう用途のイヤフォンの開発に力を入れたわけですね。日本ではプロよりも一般の方々が、音楽を聴く用途で使われていることが多いです。日本では、イヤー・モニターはツアーに出るようなバンドの方々しか使ってないんですよね。

伊:そうなんですよね。

服:あれ、いいんですけどね。ステージってどんどん音量が上がっちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、自分の好みのミックスをあまり音量を上げないで送ってもらえますから。ステージが静かですよね。

伊:僕はそのへんは専門分野なので、そのお話をするとね、ライブステージとレコーディング、一番の違いはそこなんですよ。スタジオでは、ミュージシャンはヘッドフォンで聴いているから、マイクにはその人の楽器、その人の歌声だけが届きますよね。

ところが、ライブステージでは、床に「コロガシ」というスピーカーがあって、演奏者や歌っている人の耳にも音楽を返してあげないといけないから、当然そこに音楽を流しちゃうわけですよ。

ヘッドフォン無しでやられちゃうと、実はマイクで歌っていても、そこに関係ない音がいっぱい入ってきちゃうわけです。例えば、音量の小さいアコースティック楽器なんかだと、ドラム、ベースの方が大きな音量でマイクに入ってきちゃったりする。それをPAエンジニアは、うまくその音だけが聴こえるように調整しながらやってく。それでも、あと問題になるのが、ディレイとか位相の問題があって……。

例えば、バスドラムが鳴ると、それが部屋に響いたり、モニターからも聞こえたりする。それがまた、どこかのマイクで拾ってくると、ダラララッと、すごくいっぱいのパスドラムの音がずれて聴こえちゃうわけですよ。それをそう感じさせないようにしないといけないわけで。いい音とか、いい音楽を作る以前に、すごく無駄な作業があるんですよね。

服:そうですね。

伊:それが、ステージ上の演奏家がヘッドフォンとかイヤフォンで聴いている場合、そういう余計な回り込みを考えなくていいから、純粋に音楽を作れるんですよね。

ただ、それを嫌がる演奏家もいて、その理由が「オーディエンスの声が聞こえないから」だと。でもそんなことはオペレーターが、ちゃんとオーディエンスマイクを立てておいてあげて、曲間で拍手が来たらバッとフェーダーを上げてあげれば済むことで。ただ、気の利いたエンジニアと組まないとダメなんですけどね。

服:そうですよね。そういうモニターミックスの技術が要りますよね。それに、シンガーは自分の声がちゃんと聴こえるので、歌いやすくなりますよね。

伊:全然違いますよ、それは。

服:スタジオでは、ヘッドフォンをかけて、モニターしながら歌えますけど、同じことをステージでやるわけにいかないですからね。ちゃんと返してもらえば、ピッチも良くなりますしね。

伊:そうそう。そういう意味では、イヤモニを付けるようになってから、歌が上手な方が増えましたよね。あれは、技術的に上手になったというより、ちゃんとしたピッチで歌えるようになったってことなんだけどね。
でもそれも、ちゃんとしたオペレーターと組まないと、急に爆音を返して、耳が痛い思いをすることもあるだろうから。

服:気をつけないと耳を痛めちゃいますよね。

伊:そういうことが報道されたりすると、また「イヤモニ嫌だ」なんて人がいたりするんだけど。それはもう、どんな物であれ、正しい使い方をしないとね。

薬だって毒薬にもなるし、車だって人を殺すことはできるわけで。イヤモニだろうがなんだろうが、正しい使い方をすることは、大前提ですよね。

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伊:SHUREはマイクやヘッドフォン、色々な分野を扱っているんだけど、今回服部さんが「SHUREのレコーディング用のコンデンサーマイクいいよ」っていうことで、今回こうして使わせていただいているわけですが。

確かにSHUREはダイナミックマイクの印象があって、「SHUREのコンデンサーマイクってどんな音?」というのは、実は僕の中であんまりなかったんですよ。

服:なるほど。

伊:今回、KSM 353っていうリボンマイクとか、KSM 44Aっていうコンデンサーマイクとか、早速試させていただいたんだけど・・・、コンデンサーマイクが、いい意味でアメリカ的な、明るい、気持ちいい音してますよね。

服:初めて聴いた時、「これ、ダイナミックマイクなのかな」っていう妙な錯覚はしました。いわゆるヨーロッパのハイ上がりで、繊細っていう印象が耳に浸みついていたので、ちょっとびっくりしたんですね。

でも、実際に音を入れてみると、ダイナミックマイクのいわゆる悪い部分はもちろんありませんし、表現力も豊かですし、ちゃんとハイも伸びてるので、「やられたな〜」って実感しました。

後からアメリカのエンジニアに「実はこういう背景があるんです」っていう説明をしてもらったんですね。先ほどの説明の内容…『デジタル時代になってから、コンデンサーマイクを作るようになりました』 アナログ・マルチはフラットではないんです。ハードディスクへの録音とは特性が違う。それに対して音を入れていくわけですから。

いい意味でのピークとかハイ上がりの部分とかが必要ないと、彼らが言っていたんです。「なるほどなぁ」って納得しました。

伊:その通りですよ。アナログテープって、良い意味でまろやかになるんですけど、悪く言えば、抜けが悪いわけですよね。

ましてマルチ・テープって、何度も何度もこするんですよ。普通、一般の家庭でテープレコーダーに録音する時、1回録音して終わりだろうけど、マルチで録る時って、ベーシックを録って、ダビングして、歌を録って、ミックスして・・・って何度もこするから、どんどんハイが落ちてくんですよね。

だからマイクが、ちょっとハイ上がりで、しかもちょっとエッジが効いているところがあったりすると、その丸くなる部分を補ってくれるので、最終的にちょうどいい感じになるんですよね。それが今までは、AKGやノイマンだったと思うんですけど。

確かに、デジタルレコーダーの時代になるとその必要がなくて、ハイ上がり部分が妙に気になったり、それが抜けがいいっていうより、その倍音が耳に付いたり、どちらかというと線の細さになっていることもありますよね。

服:そうですよね。レイオーディオの木下さんが、先日伊藤さんのラジオ番組のゲストで、おっしゃっていましたね。『音を作られる時に、エンジニアっていうのは、悪く言うと、さばを読んでる』と。

つまり、皆さんちゃんとした技術があるので、結果を予測しながら音を録っているじゃないですか。今はミュージシャン自身にアイディアがあって、曲を作ったり録音する環境が整ったので、本当の意味でのレコーディングエンジニアの技術ってないわけですよね。

伊:そうですねぇ。

服:「そういう道具なのか」って見られがちですけど。必要がない部分にまで気を遣わなくても使いやすいわけです。その点、「なるほどな」って納得させられましたね。

伊:あと今、服部さんの話を聞いて気づいたんですけど、今までのヨーロッパのコンデンサーマイクは、かなりオフマイクでクラシックを録音することを前提に設計してますよね。

だから、音を収録する時の音圧感とか、距離感、あと周波数測定とか、オフマイクを想定して作ってますけど、それを近年では、勝手にボーカルマイクとして、オンマイクで歌ったりしてるわけですよ。設計者はそんなこと考えてもいないし、「それ違うぞ」っていうことですよね。

ところがSHUREは、そういう背景を理解したうえで、レコーダーがデジタルになって、さばを読む必要がなくなった時に、「あなたの欲しいの、これですよね」ってコンデンサーマイクを出してくださったわけですよ。

服:はい、そういうことです。

伊:だから、この44を初めて使って、普通にボーカルマイクとして立てて、何もしなくても歌の音になるんですよね。SHUREのコンデンサーマイクって、こういうイメージなんだっていうのが、すごく明確になりましたよね。

服:もうひとつは、圧倒的にダイナミックレンジが変わりましたね。

伊:そうですね。

服:ですから、伊藤さんご愛用のビンテージの67、あの時代のスペックは、ヘッドルームが108dBいかないんですが、今のマイクって、みんな136〜7dBいくようになってますよね。

これは、悪くいうと、誰が使っても歪まない。オンマイクで歌っても歪まないんですが、いい意味では、そのダイナミックレンジに耐えられるという点も考えられていますよね。早い音が録れるし、媒体がそれだけ変わっているわけです。

伊:ノイズレベルも昔の物に比べて低いから、今のマイクは、本当にいい加減な設定で録っても、大体問題ないですもんね。

服:そうですね。その2点だと思いますね。

伊:あとは、67のようなチューブマイクっていうのは、メンテナンスが大変なんですよ、実は。しかも、ステレオで2本の特性を揃えるなんて、不可能に近い。

そういう意味では、新しいマイクで自分の好みの音で信頼できる物を、エンジニアやアーティストは、常に探しているはずなんですよ。それなのに、昔の物の方がいいっていう風潮は、困りますよね。

服:そうですね。

【翌週に続く】

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伊:さて、この番組は、上質な音楽をお届けするということでお送りしていますが、質が高いものを求めているのは、音楽の世界だけではないでしょう。

あらゆる分野に、質の高い物があり、そこには、それを支える「本物のプロフェッショナル」がいるのです。ここでは、そんな方々をゲストとしてお迎えしていこうと思っています。

音楽番組のゲストというと、ステージやテレビで活躍する音楽家が中心となってしまい、結果的に芸能色の濃い番組になりがちです。しかし私は、知る人ぞ知る、真のプロフェッショナルに本物を語っていただきたいのです。あえて言うなら、話題の宇宙飛行士をお呼びするのではなく、その宇宙ロケットを飛ばしたり、宇宙ステーションを設計している方に興味がある訳です。

実は、宇宙飛行士の命を預かっているのは彼らであり重要な仕事でありながら、名前や顔が紹介されることはありませんよね。いわば裏方です。でも、その成功の鍵を握っている立場の人がすべての分野にいるのです。宇宙飛行士が音楽家やアーティストであるなら、私はそれを支える裏方と言えましょう。

私と同じような考えを持ち、そうしたポジションで活躍されている方に詳しくお話しいただいたり、その裏話をうかがったり、さらに人生観やライフスタイル等々、じっくりうかがっていこうと思っています。

そして、この番組を通して、さまざまな職業があることを知っていただいたり、その仕事に興味を持ったり、もしかしたら、このサウンド・クオリアを聞いて自分の将来を見つけてくれたりしたら嬉しいですね。

今夜は、先週に引き続き、楽器、音響機器の輸入元である株式会社オールアクセスの代表取締役・服部弘一さまをお招きしております。

私は、彼の輸入する数多くの機材に支えられ、日々仕事をしています。私にとって楽器や音響機器は、音楽を作り出すための道具です。その道具を世界中から探し出し、私のスタジオに持ってきてくれるのです。

彼は、“目利き”と言えるかもしれません。先週から、彼が持ち込んだ、SHUREのマイクロフォンとヘッドフォンを使いながら、放送しておりますが、古くからのパートナーですから、今日は、どんなお話になることでしょう。

お楽しみに。

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伊:服部さん、こんばんは。

服:こんばんは。今週もまたよろしくお願いします。

伊:服部さんは、ミュージシャンとのアーティスト・リレーションをご担当されていたわけですけど、そういうのって、誰でも入れてもらえるわけじゃないですよね。

服:そうですね。まぁ若い時の話なんで、80年代前半くらいまで遡りますから。波長が合うというか、皆さんに可愛いがられましたね。

皆さん信じない話かも知れませんが、ジェイ・グレードのスタジオに遊びに行ったら、カウチでアル・ジャローがレコーディングの合間に昼寝してたりとか。別の日に行くと、「今日はデビッド・フォスターがオーバーダブやってるから、見てっていいよ」と。コントロール・ルームに入れてくれて、ギターのオーバーダブやってるわけですよ。30年近く前のデビッド・フォスター、カッコ良かったですね。

伊:そうですねぇ。

服:で、若いギタリストと仕事してたんですけど、「彼、これから売れるギタリストになると思うよ」って紹介されたのがマイケル・ランドーでした。

伊:へぇ〜!

服:簡単な譜面があって、エアープレイ風のギターのハーモニーのオーバーダブを、延々やってるんですよね。

そんな時に、「あ、こうやってオーバー・ダブするんだ」「譜面が全部あって、その通りに弾いているわけじゃないんだ」っていう体感もしましたし。

伊:あの頃のエアープレイが出しているギターサウンドのハーモニーって、すごくチューニングが綺麗だったでしょう? あれって、どうやってたんだろうなぁ。

服:あれは、ジェイ・グレイドンは誰にも見せないみたいですよ。

伊:やっぱり?

服:テープ・・・っていうかデータもらって。夜中に自分で一人で籠もってやるらしいですよ。だから、細かいチューニングだとか、どうやってハーモナイズするとか全然見せないんですよね。

伊:あれね、いくらチューニングをしっかり合わせた楽器でも、フレーズとかポジションによっては、やっぱり色々あるじゃないですか。

服:そうそう、音が違いますよね。

伊:彼は、一音ずつチューニングしてんじゃないかなと思うくらい、綺麗だよね。

服:えぇ、完璧ですよね。ギターは大音量でメインスピーカーから出てくるんですけど、ギターを弾いてる人はコントロール・ルームで弾いてましたね。だから、昔から彼らはそんなやり方でしたね。

伊:いや、ちなみに、僕がこのスタジオ作った時も同じ発想で、ブースの中にはアンプだけ置いて、コントロール・ルームでギターを弾くという発想をしていたんですよ。だって、仕上がった音を聴かないと意味ない・・・っていうことで。

このスタジオを作った時に、小さいブースと大きいコントロール・ルームを作っちゃったわけですよ。その当時逆でしたからね。

服:そうですね。

伊:当時は、コントロール・ルームってエンジニアが入れれば良くて、あとはディレクターくらいが入れば十分で。

ブースが広いと。そこでとにかくすべての演奏をすると。シンセを持ち込もうが、何を持ち込もうが、全部ブースに組み立てるっていう時代でしたから。でも今は、僕のスタジオのようなこういうスタイルが普通になりましたけどね。

服:そうですよね。

伊:でも、その当時その考え方は日本ではまだ全然普及してなくて、来てくれたギタリストみんなに「変だ、変だ」って言われて。「マーシャルの横とかで、腹に響く音を聞きながら弾かないと俺はいいギターソロを弾けないんだ」って言うんだけど、録音してスタジオモニターで聞くと、ピッチが悪かったりするんですよ。

だから、お客さんに届くのと同じ感覚で、録っている僕と同じ音を聞きながら音作りしてやって欲しいっていうのが・・・。

服:まさに、デビッド・フォスターはそれをやっていましたね。だから、テープを止めて「あそこはどう」とか「ここはどうだ」と説明をしながらランドーが弾いてました。

伊:そうすると、コミュニケーションも近い距離だし、いいですよね。

服:そうですよね。80年代前半ですから、今、伊藤さんが言われた通りそんなことを日本じゃ誰もやっていなかったんでしょうね。現場に入れてもらって音を体で覚えましたね。

伊:あぁ、それですね。それが「見る目」を養ったんですよ。だから今、服部さんが持ってくる物を、僕らが面白いと思えるんですよ。

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服:アメリカ赴任して間もない独身の頃ですから、やる事がなくて週末になるとタワーレコードに行くわけですよ。あれもこれもって、5枚も10枚も、毎週買って帰るんです。それらを延々聴いてました。数年経って「こんなにいっぱいアナログ盤持ってたのに、CDに変わるんだって…」ショックでしたね。

今は、実はそんな頃に持っていたのは全部CDで持っているんですけど、古いCDとリマスターしたCDと、しつこく2種類も3種類も持ってたりするんですよね。やっぱ音違いますよね。

伊:当時、CDの出始めの頃ってね、技術がなかったというか、確立されてなかったんで、単純にアナログのマスターをコピーしてたんですよね。だから当然、音が悪いっていうか、今CDとして聞いたらいい音じゃないですよ。

最近、リマスターしてほしいという仕事を依頼されるんですけど、今の流行りの音にするわけじゃないんだけど、今の再生装置のポテンシャルを最大に引き出すようなマスタリングをするんですよ。そうすると、当時アナログで聞いていたエッセンスを感じられる。

服:はい、なるほどね。

伊:実はちょっと積極的にEQしてたりもするんですけど、それはもちろん、ミックスしたエンジニアの気持ちをうまく汲んで、あまりディティールを失わないようにしつつ、「でも本当はこうしたかったんでしょう?」っていう風にやってあげるっていうのが、いいマスタリングだと思うんですけどね。

服:なるほど。伊藤さんと同じ世代じゃないですから、聴いてきた音楽がオーバーラップすると思うんです。良かった音楽って、今でもやっぱり頭の中で鳴りますよね。

伊藤さんのラジオ番組を聴かせて頂くと、「あ、いいなぁ…」って〜〜。そういう共通した音楽ベースってあるんでしょうね。それが、さっきの機材から出て来る音とか、ギターの音とか、エフェクターのかけ方とか…。エンジニアリングがじゃないですから、実際にはやりませんけど、「あ、こんなことやってる」っていうのは、良く解りますね。

すごく幸せなのは、ビートルズから始まって、それからL.A.あたりの音楽が世界中で売れたところを経て来ていますから、音楽の変化が蓄積されてきていて、それを知らない人より幸せだと思いますね。

伊:そうなんですよ。そういう意味では、我々の世代は、ちょうど過渡期に一番自分がいい時代を過ごしてきているから、そういう意味では幸せですよね。例えば、今の学生さんだと、もうその過渡期の後に、今から活躍するわけですから。

聴く機械も違いますよね。イヤフォンだったり、MP3プレーヤーだったり、我々の10代はコンポ時代でしたから、ちゃんとスピーカー鳴ってたし「あ〜、割といい音で聴いてたんだな〜」と思います。

そうですよね。だからそういう部分でもね、情緒がない人間が増えちゃってるんですよね。いやぁ、本当にこれは笑い話じゃなく、真面目に考えないとね。すごく悪い音を聞かされていて。

食べ物でいうと、干物(ひもの)とかドライフルーツ食べさせられてるようなものなんですよ。「もっと瑞々しい、美味しい物食べてくださいよ!」って言いたくなるし。それがまた、困ったことに、もう作る側がそういう物を作らなくなってきているんですよ。

だって、「干物でいいんでしょう。ドライフルーツでいいんでしょう。そういう物の方が日持ちするし、かさばらないし、楽だから」って、そういう商売しちゃってるでしょう。だから、欲しくても買えなくなってきている。それも問題ですよ。

服:ちゃんとスピーカー鳴らして、近所からうるさいって言われるくらいの音量で聴くと、音楽のライブ感を感じますよ。力や息づかいまで聴こえますから。そういう音楽の聴き方をしてほしいですよね。

伊:僕は、この番組でよくお話しするんだけど、音って空気振動なんでね、その振動を全身で浴びるような聴き方と、耳の中でチャラチャラ鳴っているだけの聴き方って、根本的に違う。

服:違いますよね。体で感じるから楽器を弾いている人達は、いい演奏もできたりするんですよね。

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伊:服部さんの印象で「この人面白いなぁ」と思ったのは、自分で会社を立ち上げられて、海外の名だたる商品を扱い、プロマーケットを相手にしているのに、本社は愛知県の郊外のご自宅に置いたまま。これも面白い。

服:あぁ・・・確かに、あまり外へ出るのが好きじゃないんですよね。

伊:海外飛び歩いているクセに?(笑)

服:ええ。とにかく我がままな生活スタイルを保ちたいというか….、あまり長い時間、人と一緒にいられないんですね。朝5時頃に起きるんですよ。超朝型なんですよね。

以前は事務所の裏が田んぼだったんですよ。振り返ると田んぼ…..。そういう環境じゃないとどうも具合が悪いんですよ。

伊:そのへんも、服部さんと僕の波長が合う理由かなぁと、今思って聞いてました。

僕が生まれたところは、すぐ横に田んぼが広がっているような田舎だから、そういう雰囲気が馴染むし、その良さがわかる。今の僕は、こんな南青山なんていう東京の真ん中で仕事してますが、僕の身近な人は、「伊藤さん、南青山っていう山に籠もってるでしょ?」って、言われるくらいに、外に出ないんですよ。

まぁ僕の場合は、放送局とかのやりとりもあるから、郊外ではなかなか現時点では難しいけど、もっとオンラインが進んだら、僕もそういうのが出来たらなぁ…と思ってるけど。

服:便利な世の中ですから、メール、スカイプ、電話、どこにいても結構、仕事はできますね。

伊:流通とかを考えたって、半分以上が業務用ってことは、都心に倉庫を構える必要がないでしょう。考えてみると、それがハンディにならないですよね。

服:そうですね。東海地区からは日本中何処へでも、商品は一日で届きます。最近、Amazonが岐阜県の多治見市に倉庫ができましたよ。高速なら30分位のとこなんです。

伊:でもなんか、話を聞いていると、ちょっと羨ましいなぁと思いますね。そういうところで、自分のペースで仕事ができているっていうのは。

服:端から見ていると優雅に見えるかも知れないですね。よく海外に行きますし…. 。

伊:でもそれも仕事を続けていくための、服部さん流のやり方なんですもんね。だって、服部さんがもっとビジネスライクで、数字だけを追っかける性格だったら、多分本社を東京に移しちゃいますよね。

服:その通りだと思いますよ。で、もっと会社大きくなっていると思いますけどね(笑)

伊:そういうとこが服部さんの魅力だから、僕とかスティーブ・ルカサーとか、そういう人たちが長く服部さんと仲良くしてるんだろうなぁ。

服:スティーブ・ルーカサーは、知り合ってから30年くらいなりますね。今でもメールやりとりしますけど。今度のアルバムにクレジットを載せてくれたんですが、名前が、“Cozy Hitori”になってました。綴り間違ってるんですよ。“Hitori”になってる。

「これ、aloneって意味だよ。」 そしたら、「I meant well. so sorry man. Haha” 」とメールが来ました。そんな調子で、他のミュージシャンもお付き合いみんな長いですね。とにかくいつもマイペースです。

伊:アッハッハッハ・・・!!

そういえば、ルカサーのニューアルバム、いいですよねぇ。

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伊:今回の対談では、SHUREのコンデンサーマイク「KSM44A」を中心に使っていますが、このシリーズは他にもラインナップがあるんですよね。

服:ボーカル用で、44に非常に近いモデルで42があります。KSMシリーズは、プロフェッショナル・ユースに作られているシリーズなんです。他にもコンデンサーマイクは、BetaシリーズにもSMシリーズにもあります。

伊:SMにもコンデンサーマイクがあるんですか?

服:あります。PGっていうシリーズもありますよ。実は、エントリーレベルからプロフェッショナルまで、ラージダイヤフラムのコンデンサーマイクは10種類以上あります。

伊:そうなんですか。ふ〜ん。

服:面白い形でしょう? いわゆる昔のコンデンサーマイクと違うじゃないですか。

伊:そうですね。

服:実は、昔は筒を買ってきて、それを切って、ダイヤフラムを据えて中に回路を組上げる構造でした。ほとんどがパイプ型だったんですけど、SHUREはちゃんと鯨型のシャーシを起こして、SMT基板をしっかり収まる様にしています。それに今はRFの影響も考えないといけないので、いい加減な構造では音に影響が出ます。

アメリカ的な工業製品の良いところも取り入れているので、ツアーに持っていけるコンデンサーマイクなんですよね。少々手荒に扱っても心配いりません。

伊:今まで、ダイナミックマイクだったらマイクスタンドを倒しても大丈夫だけど、コンデンサーマイクだとお釈迦になっちゃうみたいな。それがないってことですよね。

服:そうですね。

伊:確かに、大統領の演説に使っているくらいだから、SHUREっていうブランドに対する信頼性も高いってことですよね。

服:そうですね。アメリカでのブロードキャストライブとかライブレコーディングとかを見ていると、SHUREのコンデンサーマイクは非常に多く使われてますよ。

伊:そうですね。そういう意味では、先日、グラミー賞を受賞されたRoland創業者の梯郁太郎さんにもゲストとしてお越しいただいたんですけど、実はグラミー賞で使っているマイクも、全部SHUREなんですよね。

服:そうですね。

伊:グラミー賞のように世界レベルで放送されるものは、ノイズが出たとか、壊れたっていうわけにはいかないわけで、そういう人たちがSHUREを選んでいるということは、ブランド・イメージとしては最高なんでしょうね。

服:そうですね。レコーディング・カテゴリーになると、ビンテージ・コンデンサーも使われますけど、ライブで使われるコンデンサーマイクやワイヤレスマイクでは、SHUREは圧倒的に強いですよ。先ほどご紹介した通り「丈夫な」マイクですから。コンデンサーでもツアーに持っていけますよ。

サイモン・フィリップスから聞いたんですが、彼はずーっとSHUREのマイクを、ドラムキット用に自分で全部持ち歩いています。「何で?」って聞いたら、「ツアーに持っていっても安心して使えるから….」と話してました。

伊:プロにとって、信頼性って大事なんですよね。

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服:実は15年くらい前から数年前までAKGの輸入元をやってました。その頃と比べると、音楽も、録り方も、録音している人達も、随分変わりましたね。現状の条件を考えると、SHUREはものすごく使いやすい製品をいっぱい持っていることを実感します。

伊:うーん。確かに、時代背景や楽器、録音媒体、聴かれ方も時代によって全然違うのに、マイクだけが変わらないはずがないですよね。

服:そうですね。そう思います。

伊:他のメーカーでは、昔の印象をあんまり裏切っちゃいけない制約もあると思うんですが、SHUREの場合、SM58の音しか皆さんの頭にないとすれば、コンデンサーマイクを作る時も、何でも作れたわけで、そういう意味では、その時代に合う一番ベストな物を作れたかもしれないですね。

服:他社の製品はそれぞれ個性があります。中でも古いスタイルよりに作られた製品は、本物のプロエンジニアの技術が必要だと思いますから、そういう意味で難しいマイクだと思いますよ。

伊:SHUREは、ダイナミックマイクとしては、大統領の演説で使われたりとか、すごく昔から活躍していますけど、そのSHUREが満を持して出したコンデンサーマイクってことですよね。

服:そういうことですね。

伊:今、特に日本のスタジオでは、すごく先入観とか固定観念があって、こういう時はノイマン、こういう時はAKGみたいなのがあるでしょう。それを覆すのは大変でしょう?

服:はぁ、そう思います。日本はどこのスタジオに行っても87がありますよね。

伊:ありますね。

服:海外では少ない選択肢です。67ですよね。国内では固定観念が根強いですから、まだまだ我々も普及活動を頑張っていかないと、なかなか使ってもらえないかも知れないですね。

伊:ウチのスタジオも、87よりも67の方が多いんですよ。日本のスタジオだと、そんなことはまずないですよね。

僕は自分の耳で聞いて、良いと思う物を購入するのは、オーナーでありチーフ・エンジニアだからそれができるけど、普通はオーナーとチーフ・エンジニアは別なんですよ。そうすると、チーフ・エンジニアが音で聞いて「これがいい」って言っても、オーナーは別の観点で選びますよね。そうすると・・・。

服:お客さんのリクエストには応えないと、仕事にならないですよね(笑)

伊:そうそう。他のスタジオの機材リストとか見て・・・。

服:「あれ、ないんだ」とかって…(笑)

伊:そうなんですよ。そういう風に、日本独自の文化になっちゃってる物はいっぱいありますよね。

服:ありますね。

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伊:このマイクと一緒にヘッドフォンを聴かせて頂いたんですけど、僕はインナー・タイプのSHUREヘッドフォンは今までも使ってましたけど、いわゆるオーバーヘッド・スタイルのヘッドフォンって初めて使うんですが・・・これ、めっちゃめちゃ気に入っちゃいましたよ。

服:ありがとうございます。

伊:聴きたい音が聴こえて、いい意味でヘッドフォンらしさがない。ヘッドフォンって、耳に張り付くじゃないですか。

服:はい、わかります。

伊:耳元で「ここで振動してる!」っていうのがあって・・・。

実は、僕らがミックス・ダウンする時って、そうじゃないものを目指して作るんですよ。広がりや奥行きがあって、高さまで感じるようなミックスが理想なんです。ヘッドフォンで自分とか、あるいはお客さんが聴く時、どれだけ頑張ってもなかなか奥行き感が出ないんですけど、このヘッドフォン、確実にそれを感じますよね。

服:はい。使っていただいているのは1840っていう、現行モデル中の一番上位機種です。

SHUREはかなり前からヘッドフォンを作ってまして、840を最初のスタジオ用モデルとして発売して、さらに1年半くらい前に、その上の940が出ました。これは個人的にも愛用しています。オープンとクローズ・タイプがありますけど、940はオープンの良いところを再現しています。940はクローズでありながら、少しオープンの匂いがして奥行き感と空間のサイズも感じられるんです。

1840はオープンタイプなんですよ。ですから、トラッキングには使えないんですけど、マスターの時とか最終ミックス時に使っていただいて、音の定位や広がりを確認できる性能のヘッドフォンですね。

伊:実は、昨日工場に出すマスタリングがあったんですけど、自分の中でOKを出した後なにの、このヘッドフォンでも聴いてみたら、ミックスし直したんですよ。

服:えぇ、そうなんですか。

伊:マスタリングのチェックをしていただけなのに、どうしても気になってミックスまで戻ったんですけど、そういう意味でも分解能というか、情報量が圧倒的に多い感じがしますね。

服:うーん、そういう意味で素晴らしいモデルですよね。それに軽いのがいいですね。

伊:そう。軽いし、装着感がすごくいい。このパッドの中に耳たぶが気持ち良く収まって、この圧迫する強さといい、すごくいい感じなんですよ。

服:フレームが壊れないように作ろうとすると、どうしても重くなってしまいます。リスニング・マーケットもターゲットに入れて、長時間掛けても疲れないように軽量化もしているんです。日本人、いわゆるアジア系と西洋人の頭の格好って随分違うんです、以前のSHUREヘッドフォンは、掛けると結構、東洋人には窮屈だったんですよ。

伊:あぁ、そっかそっか・・・日本人、横広いもんね。

服:そうなんです。SHUREはアメリカ製品ですから・・・。

伊:彼らは前後が長いんだよね。

服:そうなんです。その頭に合わせて作っているので、我々が掛けると頭の横にものすごくスペースができたんです。それが改善されて、かなり軽くなって、アジア人の頭の形を意識したので、うんと掛けやすくなりましたね。

伊:それから、レコーディングスタジオではラージ・モニターも鳴らすじゃないですか。僕一人だったら、ラージ・モニターを切ってヘッドフォンを掛けるんだけど、他の人がいたら、ラージ・モニターを切らずにヘッドフォンするんですよ。

その時、ヘッドフォンをして聴いたり、ヘッドフォンを外して聞いたりと、掛けたり外したりするわけですが、このヘッドフォンだとあまりイメージが変わんないんですよ。もちろん、まったく変わらないわけじゃないけど、普通は全然別の世界に行くんですよ。

服:嬉しいですね、そういうお話をいただくと。

伊:たとえば、ライブステージで聴いていたのに、いきなり自分の部屋に入っちゃったみたいな、グッとスケール・ダウンする感じがあるんですよ。その違和感があるので、僕はミックスダウンとかマスタリングでは、最後の最後までヘッドフォンをしないんです。途中過程でヘッドフォンを聞くと、イメージが変化しちゃうから。これなら、途中で聞いてもけっこう大丈夫ですね。

服:いいですねぇ。

伊:聴いていただくとすぐわかると思うんです。普通のヘッドフォンって、本当に耳元でへばりつくんだけど、これは、ちゃんとスピーカーみたいに距離感を感じるんです。外観は、ハウジングがそんなにデカくはないのに、ステレオ・イメージが広がりますよね。

服:普通、ドライバーと耳の位置ってカップが大きくないと後ろには持ってこれないですよね。でもそれが、奥行き感がこの距離で出るっていうのはちょっと驚きですよね。

伊:オープン・エアなのに、低域もしっかり出ています。

服:はい。通常、オープン・エアだと低域があまりタイトじゃなかったりしますよね。遅いというか。
伊:そう、普通はスコンスコンと抜けちゃうんですよね。密閉型に慣れてると、特に寂しい感じがしますよね。

服:そうですね。

伊:そういう意味でも、ちょっと画期的だったなぁ。服部さん、こうやってお話させていただいてると、楽しいですねぇ。機材の話、音楽の話、昔の話、今の話。

普段、服部さんと一緒に同じものを生み出すっていうことはしてないじゃないですか。ミュージシャンとか、プロデューサー連中と違って。だけど、やっぱり同じ発想の元に生きてる人っていう感じがしますよね。

服:うーん、そうですね。私も普段は販売が仕事ですから、これをどんなふうに売るのか、どんなふうに宣伝するか、色々考えます。

でも、まったく使ったことのない、興味もないものを扱っているわけではないので、結局、この機材でどんなふうに音が録られるのか、どんな音楽を作られるのかなぁっていう考えが先に湧いてきますね。随分長い間お会いしていなくても、またお会いすると、ご紹介した機材から良い音を作る話につながりますね。

伊:僕なんかスタジオに籠もっていると、世間の人が思うより情報不足になりがちなんですよ。だって、毎日自分たちの音楽作ってるわけだから・・・。

ですから、今回ご紹介いただいたSHUREのマイクだって、正直言って初めて使ったんですよ。SHUREがコンデンサーマイクを最近出してるなぁ、ぐらいは知ってるけど、わざわざテストに行かないし。でもこうやって聴かせていただくと、「あぁ、こんないい物なんだ」って改めて思ったし。服部さんの情報を、僕はもうすごく待ち遠しく待ってますから、これからもよろしくお願いしますね。

服:はい、これからもよろしくお願いします。

伊:じゃぁ今回はホントに長い時間、ありがとうございました。

服:ありがとうございました。

伊:おやすみなさい。

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ということで、2週間に渡るゲスト・コーナーの一部をお楽しみ頂きました。『伊藤圭一のサウンド・クオリア』はラジオNIKKEI 第1にて毎週日曜放送中ですので、ぜひご覧ください。

GW特別企画:SHUREマイクロフォンコンテンツはこれだけでは終わりません!伊藤圭一氏によるKSM44Aレポートをはじめ、WEB試聴ができるコンテンツをご用意させていただきました!ぜひSHUREマイクロフォンのリアルに触れて、その魅力を体感してください!

●伊藤圭一氏によるKSM44Aレポート
●店頭で、WEBでSHUREマイクロフォンのリアルに触れてその魅力を知る!!
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番組タイトル   :『伊藤圭一のサウンド・クオリア』
放送局      :ラジオNIKKEI 第1
放送エリア    :全国
パーソナリティー :伊藤圭一
放送日時     :毎週日曜  22:30~24:00
番組HP        :http://www.radionikkei.jp/qualia/
番組内容     :
”音の魔術師” と呼ばれる株式会社ケイ・アイ・エムの代表でありサウンド・プロデューサーの伊藤圭一がお送りする、未体験の音楽ゾーン。
商業主義の音楽や、効率的な作品づくりとは一線を画した、上質な音楽をお届けします。
伊藤圭一がサウンド・プロデューサーの感性で選ぶお勧めの楽曲を、全て自らの技術でミックス、或いはリマスタリングし、できるだけフルサイズでお聞きいただきます。
ジャンルを超えた、あらゆる音楽を取り上げるほか、単に音楽番組としての枠に収まらず、
美しい音、やすらぐ音、幸せを感じる音をお聞かせします。
また、その一方で、ゲストをお呼びして、ビジネスマンや大人の聴取者が多いラジオNIKKEIならではの、社会・経済などあらゆる話題について、対談を繰り広げます。
番組の最後には、心安らぐ音楽に包まれて深い眠りに就く、そんな贅沢な日曜の夜をお過ごしください。
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ラジオNIKKEI は、全国放送している、唯一の民放局です。
(他に全国放送しているのは、NHKと放送大学のみです。)
以前は、短波放送と呼ばれ、株式市況などビジネス中心の放送局でしたが、
radiko(ラジコ)によって、コンピューターやスマホでも聞けるようになり
音質がFM放送と同等になったことで、本格的な音楽番組を送り出すことになりました。
日経が贈る、大人のための全国放送の音楽番組が『伊藤 圭一のサウンド・クオリア』です。
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ラジオNIKKEI第1放送の番組は、ラジオの短波放送は勿論ですが、
ラジコによって、パソコンやスマホからもご聴取いただくことができます。
(パソコンは、アプリなど不要。スマホのアプリは無料です。)
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