多くの楽器が音源化され、打ち込み方次第で非常にリアルな演奏を再現できるようになりましたが、それでもリアルなサウンドを再現することが難しい楽器のひとつにギターが挙げられます。
これまで様々なギター音源が発表され多くのミュージシャンやプロデューサーが利用してきましたが、それでも生演奏のようなトラックを再現するのは難しいと、よく話を聞くことがあります。その中でProminyの製品はリアルなサウンドが定評を得ており、多くのユーザーに愛されています。Prominyの製品は一体どのようなビジョンのもと作られているのか。この度、Prominy代表の大川氏にRock oN SHIBUYAにご来店いただき、新製品であるHummingbirdの裏話も交えながらお話を伺いました。
Prominyを創設した経緯とは?
Rock oN(以下略 R):今回は北海道よりご来店いただき、ありがとうございます。早速Prominyという会社についてお話を聞きたいのですが、どのような経緯で元Prominyを創立されたのでしょうか?
大川 氏:よろしくお願いします。会社創立の経緯としまして、私は以前ゲーム会社のコンポーザーをしていたんですね。そこで曲や効果音を作っていく中で、前々から興味のあったギター音源を作りたいなぁ‥と考えるようになりました。そのことを社長に直談判したところ、やってみろと快く承諾が得られまして。早速アメリカに行ってProminyの前身となる会社を作りました。その後2年ほどたち、国内に戻り独立しまして、Prominy株式会社を創立しました。
R:もともとコンポーザーをされていたんですね。ちなみに、大川さんはどのような経緯でコンポーザーになったんですか?
大川 氏:私は高校の頃からバンドでキーボードを演奏しておりまして、当時はコピーバンドをやっていました。その後大学でプログレバンドに入り、プレイしていく中で音作りに興味が湧き、自然とコンポーザーになることになりました。
R:なるほど、ありがとうございます。次に、Prominyとしての開発ポリシーなどはありますか?
大川 氏:Prominyは創立当初から「世界で最もリアルなギター音源を作ろう」とうビジョンを持ち、開発を進めています。この部分は今でも変わりませんね。
Prominyプロダクトは、どのように作られる?
R:それでは次に、現在のProminyのプロダクトについてお話をお聞かせください。ProminyにはSC Electric GuitarやV-METALなど人気プロダクトが取り揃えられていますが、これらの製品ラインナップを選ぶ基準はあるんですか?
大川 氏:まず私の中で、ギターといえばレスポールが基本だろう…と思い「LPC Electric Distortion and Clean Guitar」を作りました。
その後、レスポールと同じくエレキギターのベーシックモデルであるストラトキャスターをサンプリングした「SC Electric Guitar」を作りました。
そして多くのユーザーからベース音源もProminyで揃えたいとの要望があり、ロック向けのピック弾きベース音源である「SR5 Rock Bass」を作りました。当時、すでに指弾きの音源はたくさんあったのですが、ピック弾きでガチャガチャしたリアルな音源はあまりなく、またLPC・SC共にロック向けの音源で私もロック好きなので、ロック向けベース音源を作らせてもらいました。
R:メタルサウンドに特化したギター音源「V-METAL」どのような経緯で作られたんですか?
大川 氏:「V-METAL」EMGピックアップを搭載した、メタル向けのギター音源を求める海外のユーザーの要望が多くかったので作りました。
R:Rock oNでV-metalはギター音源の中でも一番人気でなので、国内のニーズにも合っていたということなんでしょうね。エレピ音源の「PCP-80」はどういう経緯で作られたんですか?
大川 氏:あれは単純に私がCP-80が好きだったので(笑)。好きなミュージシャンも皆CP-80やCP-70を使っていたのでいつか作りたいと思っていたんですよ。また、当時リアルにサンプリングされたCP-80の音源がなかったというのも製品化の理由の一つです。とっかかりとして、作りやすかったモデルです。
R:ありがとうございます。Prominyの製品は丁寧にサンプリングされた製品が魅力のひとつですが、マイクなど含め、どのようなシステムで楽器をサンプリングしているんですか?
大川 氏:例えば、新製品のHummingbirdに関してはマイクを三種類使いました。ラージはAKGのC414XL2、ステレオペアはNUEMANNのKM184を使いまして、そこからFocusrite製のマイクプリをRME Audio Fireface 800に通してサンプリングしました。
R:シンプルなセットなんですね。DAWは何を使いましたか?
大川 氏:DAWはCubaseを使いました。私が慣れているので曲も録りもそれで。
R:ハミングバードのサンプルは24bit/44.1kだと思うのですが、ハイレンジのものは録っているんですか?
大川 氏:「Hummingbird」のサンプル録りの際、最初のうちは24bit/96kHzで録っていたんですが、結局将来的に96kHzのサンプルを出すのかと考えたときに、莫大な容量になってしまうので、多分出さないと思いまして止めることにしました
R:なるほど、44.1kHzでも80GBありますもんねぇ‥ちなみに、単音やコードストロークのサンプルなどは、大川さんが演奏しているんですか?
大川 氏:はい、大部分は私が演奏しています。ただ、ビブラートなどコントロールが必要な奏法についてはギタリストに頼みました。
Hummingbirdはどのように作られた?
R:続いて、発売してから大人気のアコースティックギター音源「Hummingbird」について教えて下さい。今回、新製品としてアコースティックギターのハミングバードを選んだ理由は?
大川 氏:いろいろな人に聞かれるのですが、一言で言うと”ビビっと”きたからですね(笑)。前々からアコースティックギターの音源を作るときはビンテージのハミングバードが良いかなぁ‥とは思っていたんですよ。Martinだと定番すぎますし、ハミングバードにはオーラがあるので(笑)
R:確かに(笑)。サンプリング元のハミングバードはどこで手に入れたんですか?
大川 氏:状態の良いビンテージのハミングバードを探しに、ビンテージの流通量の多い東京へハチドリ探索ツアーに出かけたんですが、なかなか見当たらなくて。その後、北海道に戻り行きつけの楽器店にふらっと寄ったら、状態の良い1963年製のモデルに出会いました。
R:スペックとしても特徴のあるモデルですよね。他社の製品では数多くのギターをサンプリングしたのもが見受けられますが、そのような考えはなかったんですか?
大川 氏:そうですねぇ、Prominyの製品は全てそうなんですが、一つの製品を徹底的にリアルに作ろうというのが基本にあるので、そうはならなかったですね。もちろん色んな音源を作りたいんですが、そうすると10年単位で時間がかかってしまいます。
R:リアルさを追求するとそうなりますよね。過去の製品(SR5やV-METAL)とHummingbirdの異なる点はなどはありますか?
大川 氏:ギター音源について大きく変わったのは、いろんな奏法をKONTAKTに複数のインストゥルメントを読み込むマルチというのものを使っていたんですが、今回はマルチをやめてひとつのインスツゥルメントに内包させることができたので、全てまとめて操作をシンプルにすることができるようになりました。
R:Hummingbirdの使いやすさは新しいシステムのおかげなんですね!今回のHummingbird開発に苦労した点は?
大川 氏:やっぱり繊細な楽器なので、ちょっとの加減で相当音が変わってしまいます。完成までに相当な数のリテイクが発生しましたよ。3年半かかった理由は、ほとんどそこですね(笑)
R:サンプルが録れたあとはスムーズに事が進んだんですか?
大川 氏:いえ、そこからプログラム部分も結構変えているので、そっちの試行錯誤も通常よりも時間がかかりました。
R:以前のモデルよりもサンプルもプログラムも新しくなっているんですね。Hummingbirdユーザーに体感してもらいたい部分はどのあたりですか?
大川 氏:これはですね、Prominyがずっとこだわっていることなんですが、サンプルされたリアルなコードとレガートですね。レガートは全サンプル取ろうとすると凄いサンプルの数になってしまうのですが、そこまでやっているのはProminyしかないはずです!
R:あのレガートの音、すごいリアルですよね。実際に指を滑らせているような。
大川 氏:あれもリテイクの嵐でした。あのようなリアルな音はピッチ変換のポルタメントでは出せないので大変でしたね。
R:Hummingbirdはリアルなコードストロークが特徴ですが、このサウンドを作る秘訣は?
大川 氏:ギター音源としてそのサンプルを鳴らす状況を想定し、その時可能な限り自然に鳴るよう、弾き方を考えてレコーディングしています。
R:どんな風に弾いてくれと言われたんですか?
大川 氏:すいません、そこは企業秘密で(笑)ただ、レコーディングの時点から組むことを前提に演奏を工夫しているというのはあります。
R:なるほど、どんな演奏なのか気にはなりますが次の質問に。シンセサイザー等についている、アルペジエイターなど自動演奏機能は付けない?
大川 氏:他社のライブラリーでパターン演奏などがついているのを見て、やりたい気持ちもあるんですが、そういった機能をProminyユーザーが求めているのかという疑問が残ってしまいまして。
どっちかというと素材があって、そこを自由にコントロールしたいという人の方が多いと思うので、自動演奏に時間を使うよりもリアルさの追求ですとか、”こういった楽器を作ってもらいたい”という要望に力を注ぐようにしています。
R:確かに、おっしゃる通りかもしれませんね。最後に、どのようなユーザーにHummingbirdを使ってもらいたいですか?
大川 氏:まずは、インスツゥルメントでもリアルさを追求されている方に使ってもらいたいですね。実際に、Prominyユーザーはひとつ買ったら別のモデルをもうひとつ買っていただいている方が多いようなので、そういったリアルなものを求める方がProminyユーザーになっていただいているのかなと思っています。
R:とにかく、リアルな音源を求めている方に使ってもらいたいと?
大川 氏:そうですね、他社のライブラリーでも良いところはたくさんあるんですが、Prominyはとにかくリアル志向ということかなと思います。
今後のProminyの取り組み
R:それでは、今後の取り組みについてお聞かせください。いきなりですが、今後取り組もうとしている新たな製品は?
大川 氏:そこはちょっと言えないんですが、次の構想はすでに用意しております。
R:ありがとうございます(笑)テレキャスターなど作らないんですか?
大川 氏:そうですねぇ、作りたいんですがそこはシングルコイルというところで、SCとかぶってしまうかなと。
R:確かにそうですね。個人的にテレキャスユーザーだったので発表されたら胸が熱くなるかなと…。とはいえ、ギターは種類がたくさんありますもんね。ES-335のようなセミアコから、カントリーウェスタンやホワイトファルコンのようなフルアコまで。
大川 氏:そうですね、335あたりのセミアコもそうですが、GibsonのES-175なんかも将来的に作ってみたいです。
R:40-50年代のGibsonのビンテージの音は、欲しい人はたくさんいると思いますよ。
大川 氏:あの辺のビンテージの音って全然違うっていいますもんね。ピックアップや素材などで。
R:50年代のGibson信者として、是非期待させてください!ちなみに、Prominyではモデリング音源を作る予定はないんですか?
大川 氏:そうですね、サンプリングとは異なった技術があるというのもあるんですが、現在巷に出ているモデリング・ギター音源を聴いていると、ギターについてはモデリングではまだ無理があるのかなぁと思いまして。やっぱり、ギターというものは複雑な現象がたくさん発生している楽器ですので、モデリングよりはサンプリングのほうが優位性があるのかなぁ‥と。
R:将来的にモデリング技術が向上したら可能性もありそうですか?
大川 氏:そうですね、注目していきたいですね。
R:モデリングのProminy…なかなか楽しみですね!最後になりましたが、ユーザーへ一言お願いします。
大川 氏:Prominy製品は曲を作るために作っているので、Prominy製品でたくさんの曲を作ってもらいたいですね。
R:なるほど、締まりのいいお言葉ありがとうございます!「たくさんの名曲を作ってください」ということですね?
大川 氏:より良くなりましたね(笑)。素晴らしいと思います!ProminyではデモソングのMIDIファイルなどを公開しているので、製品の使いこなしやギターの打ち込みをよりリアルにするための技やフレージングを盗んでもらって、多くの人にたくさんの名曲を書いてもらいたいです!
大川氏の話を聞けば聞くほど、Prominyには”世界で最もリアルなギター音源を作る”という、ビジョンにブレがないことが分かりました。納得ができるところまで妥協せずに、その時に最善な術で音源を作っていく姿勢には、これまでの製品に敬意を示すとともに、今後のプロダクトにも素直に期待が持てます。
Prominy製品としては、新製品「Hummingbird」が多くのユーザーに好評されています。Rock oNでは新たなニュースが入ってきましたら随時ご紹介していきます!!
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[LinkButton shop=” type=’1′]https://store.miroc.co.jp/p/search/search?criteria.makerName=Prominy&criteria.limitCriteria.max=20[/LinkButton]記事内に掲載されている価格は 2015年7月16日 時点での価格となります。
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