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日本工学院専門学校蒲田キャンバスにNeumannのパートナースタジオが設立され、そこにNeumann KHシリーズのスピーカーよるDolby Atmosモニタリングシステムが導入されました。
そこで今回はNeumannを日本国内で取り扱いをしているゼンハイザージャパン真野氏と、システム導入の施工を担当したRock oN PROの日下部、さらにはRock oNスタッフでDolby Atmos導入を推していることでお馴染みバウンス清水も同行し、カレッジ長である我妻 拓氏に、スタジオ設立やシステム導入までの経緯や、Dolby Atmosの印象などを伺ってきました。
音響芸術科レコーディングスタジオ入り口にはNeumannロゴが!
音響芸術科レコーディングスタジオの入口には、パートナースタジオということでNeumannロゴがオブジェとなって設置されていました。
Dolby Atmosシステム導入の経緯
Rock oN:今回こちらの日本工学院専門学校に、Neumannパートナースタジオを導入した経緯をお聞かせください。
ゼンハイザージャパン 真野 氏(以下、真野 氏):もともと工学院さんにはDolby Atmosのシステムがなかったので、こちらのスタジオにシステムを組む代わりに我々も週一回程度使わせて欲しいということで提案させて頂きました。
我妻 氏:以前にDolby Atmosシステム導入についての話をもらったこともあったのですが、その時は正直そこまでピンと来なかったんです。ですがそれから色々なところからDolby Atmosについて見たり聞いたりする機会が増えてきたので、これはもう先送りしている場合ではないと思い始めてきたんです。そこで今回のパートナースタジオの提案をもらったので、前例がない中で導入するのは勇気がいることでもありましたがこれはとてもいいタイミングだろうと思いました。
真野 氏:我々としてもずっとスピーカーが試聴できるスペースを作りたいと思っていたんですが、現実的にそれを作るのも維持するのにもコストがかかるというのがあったので、こういった常に誰かが使って頂いてるスタジオができたのは非常に有難いなと思っています。スタジオの施工にあたっては経験豊富なRock oN Proの日下部さんや清水さんにご協力いただいた次第です。
バウンス清水:このスタジオならお客さんも30名程度なら入れると思いますしね。
Rock oN Pro 日下部:一昨年の11月くらいにこの話を頂きまして、元々こちらにはラジオ収録のシステムがあったのでそれは残しつつDolby Atmosのシステムを導入する形となりました。スピーカーは天井を加工して設置するかなど、コストとの兼ね合いを相談させてもらいながら、今のトラスを導入してスピーカーを設置しました。
真野 氏:元々は5.1chまで対応したシステムもあったので、それを今回拡張した形です。壁にスピーカーを取り付けるパターンだとかなりコストがかかって大掛かりな工事が必要であるというのが判明しまして。
KHシリーズの印象
Rock oN:KHシリーズを聴いた時のサウンドの印象はどういったものでしたか?
我妻 氏:すごくナチュラルで最初に聞いたモデル(KH 120)よりも実用的になったなという印象でした。特にDolby Atmosの場合はステレオよりスピーカーが果たす役割も変わってくると思うので、その点ではあまり変な色付けもなく、音色的なところの安心感がありました。
それと今回導入したKHシリーズのスピーカーがAES67搭載モデルだったことも大きくて、デジタル入力に対しての印象が相当良くなりました。
Rock oN Pro 日下部:今回組んだDolby AtmosシステムではPCからスピーカーまでフルデジタルで伝送しています。普通アナログ接続の場合はケーブルの長さを揃えるという話から始まるのですが、デジタル伝送だとそういったことも気にせずばらつきなく音が出てくるというところが最大のメリットかなと思います。
我妻 氏:それまでモニタースピーカーはアナログ入力がベストだと考えていたのですが、Dolby Atmosシステムの場合はデジタル入力でないとデメリットの方が多いなということも実感しましたね。
真野 氏:Dolby Atmosシステムを組むにあたって、我々の希望としてはオーディオインターフェイスにはMT 48まで統一して使って頂きたかったというのがあります。AES67に対応しているインターフェイス兼コントローラーなので、MT 48一台で7.1.4chのシステムを実現することができます。
我妻 氏:アライメントまでを含めた優位性という意味では導入した価値は相当高いですよね。これがアナログベースで位相も含めた特性だとかレベル調整とかを考えると相当大変な作業になると思うので、音を聴いた瞬間それがよく現れてるなと感じましたね。
Rock oN Pro 日下部:ボリューム調整などのモニターコントローラーをどうしようかっていう話はあって、アナログで繋いで別のモニターコントローラーを入れるという話もあったのですが、MT 48でモニターコントローラーまで出来るというのであればそれでいこうということになりました。
真野 氏:Dolby Atmosシステムを組むにはDante接続が主流なので、まだまだAES67接続は少ないんですよね。
Rock oN Pro 日下部:そういう意味ではチャレンジでもありましたが、結果的にはNeumannスピーカーのメリットを最大限活かせるという意味でMT 48にして正解だったかなとは思います。
真野 氏:同タイミングで八王子校にも同じようなDolby Atmosシステムの導入をしました。
バウンス清水:そちらでもボリュームコントローラーをどうしようというところの話になったんですけど、MT 48であればインターフェイスも兼ねているというところで、それでいこうと決めた途端話がスムーズに進みました(笑)
Rock oN:Dolby Atmosシステムは学生の皆さんも活用されているんでしょうか?
我妻 氏:もう使ってますね。最初にスタジオで聴いたときの反応を見るのが楽しみで、『おおーっ!』って感じでみんな一様に感動するんです。このスタジオを使えるというのが喜びに繋がっているのか、今度はこんなことをやってみようっていう発想が膨らんでいくようで、みんな満足そうに取り組んでます。
それらを通じてDolby Atmosで納得のいく作品を作るために次はこういうことを勉強しようという感じで課題が見えてくるので、教育の環境としてもいい循環を生んでいます。これから若い学生たちがどういう作品を作っていくかというのが非常に楽しみです。
真野 氏:学生の皆さんが卒業制作などにこのスタジオを使ってくれているのが嬉しいですね。
Dolby Atmosシステム導入効果
Rock oN:施工にあたって苦労した点はありましたか?
Rock oN Pro 日下部:もともと部屋の特性も良かったので、無理なく設置できました。基本的にDolby Atmosシステムに関してはデジタル伝送にして、ProTools HDXのシステムでニアフィールドとラージモニターを使って切り替えて使えるようになっています。Dolby Atmosもまだこれといったルールがないのでどんどんチャレンジしていって欲しいですね。
多様化した時代で発想力を伸ばすというのが一つの課題で、ステレオの2chだと知識がないと表現できないものがありましたけど、Dolby Atmosだとその辺がとてもフリーというか、今の時代は簡単に使えるものをどう使いこなすかっていうことが大事になってくると思うので、そういう意味ではマッチしているなと感じます。
Rock oN:ちなみにこちらのスタジオはMA 1でのDSP補正は実施しましたか?
Rock oN Pro 日下部:はい、やりました。
真野 氏:フィジカルではなかなか調整が難しいと思うんですけど、MA 1のようなアライメントを使えばあまり調整の時に苦労せずスタート地点に立てるのではないかと思います。
Rock oN Pro 日下部:そうですね、アナログでマイクを立ててちゃんと測定して調整すると3日間くらいかかりますから。
真野 氏:MA 1アライメントも最初はステレオまでしか対応できなかったんですけど、7.1.4chまで対応するようになってからさらに多くの方に導入して頂けるようになりました。
バウンス清水:MA 1がマルチチャンネルの補正ができるようになってさらに需要が増えた印象ですね。KH 80 DSPとKH 750のセットで2.1chのシステムで自宅で使っていた方が、そこから7.1.4chに拡張したいと希望されるユーザーも多いので。
今後の展望について
Rock oN:工学院の学生さん以外もこのスタジオを使うことはあるのでしょうか?
真野 氏:そうですね、こちらのスタジオに講師の方をお招きして今後イマーシブセミナーなどを積極的に開催していけたらいいなと思っています。技術を確立していない方に学生さんですとか若い方に向けてアプローチしてイマーシブの良さや面白さを発信していきたいと考えています。
Rock oN:こちらのスタジオはどういった学生さんが使われているのでしょうか?
我妻 氏:今は音響芸術科のエンジニア志望の学科が使っているんですけど、今後はアーティストの学科、特に最近はゲーム音楽を作ったりしていることも多いのでそういう部分での親和性が高いかなとは思っています。まだ導入したばかりで手探りでやっていっている段階ですが、Dolby Atmosのシステムを導入したことで急に未来の可能性が広がってきている感じもありますね。
真野 氏:このスタジオを通じてさらに多くの方が出会えたり繋がっていけたらいいなって思いますね。
我妻 氏:体験するということは何者にも変え難いものが得られますからね。
Rock oN:最後にこのスタジオをこれからどのように活用していきたいか、教えて頂ければと思います。
我妻 氏:エンジニア教育が我々の柱ではあるんですけど、そういうものを使ってのモノづくりだとか、最終的には人材育成というのがこの学校の1番のメインなので、そう考えると『自分達がどういうものを作りたいのか』ということを自立して考えられる人材の育成が要求されると思うんです。能動的に自分はこうしたいと考えられるような環境を提供していきたいと思っているので、そこにDolby Atmosってとても親和性が高いように思うんです。
世の中に要求されていることも変わってきている時代ですので、そうした時代の変化に適応する人材を育てる意味でも『Dolby Atmosを通して人材を育てる』ということで新たなツールを導入して、能動的にチャレンジングできる環境を提供していきたいなって思います。
真野 氏:我々としてはKHシリーズのスピーカー全シリーズをこちらのスタジオに設置することができたので、デモルームとして非常に有難いものができたと思っています。やはり音楽って楽しいものだと思うし、技術の進化と共に表現力を増していくということが実感できると思うので、若い方にDolby Atmosのシステムを体験してもらって、率先して使っていってもらえたらいいなって思います。
Rock oN:大変有意義なお話を、ありがとうございました!
今後こちらのスタジオはセミナーやイベントなども開催されるということで、どのような催しが展開されるかとても楽しみです。
いつの時代も音楽は技術の発展と既成概念に囚われる事ない斬新な発想とで、優れた作品を生み出してきたように思います。まだまだ未知な部分が多い、発展途中の技術であるDolby Atmosは、これからの時代を担う、新しい可能性を秘めたツールになり得るのではないでしょうか。
次の世代を担う若い学生の方々がこのスタジオでイマーシブミックスの魅力を体感し、Dolby Atmosを駆使した作品作りを考えたり学ぶことを通じて、新たな可能性を秘めた作品が生まれてくることを願ってやみません。
Writer.サチュレート宮崎
メーカーHP
NEUMANN
https://www.neumann.com/ja-jp/products/monitors/kh-80-dsp-a-g/
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記事内に掲載されている価格は 2025年3月28日 時点での価格となります。
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