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数年前から話題のDolby Atmos。でもなかなか自宅スタジオに導入するとなるとスピーカーの設置場所、部屋の広さを考えると、導入するのを躊躇する方も多いのではないでしょうか。
今回は現役のエンジニアとして活動しながら、自宅のスタジオにDolby Atmosの7.1.4chのシステムを組んだという前田和哉氏に、KHシリーズのモニタースピーカーを導入したきっかけや、Dolby Atmosシステムの音の感想を伺ってきました。
取材にはDolby Atmos導入を推進しているRock oNスタッフ・バウンス清水も同行!
モニタースピーカーに求める条件とは
Rock oN : 前田さんにとってモニタースピーカーに求めるものはなんでしょう?
前田和哉 氏(以下、前田氏):よく言われますけどスピーカー単体での色付けが少ないモデルを選んできました。あとはリバーブだったり空間系のかけた具合がしっかりわかる製品がいいですね。
Rock oN : 参考までにこれまでどういったモニタースピーカーを使ってこられましたか?
前田氏:最初はスタジオにあったの103(GENELEC)ですね。そのあとSM100Ak(SONODYNE)自宅作業用にはSM50Akを使ってました。それからはスタジオはYAMAHA NS-10Mを使うことが多かったですが、SC204(EVE AUDIO)とかOne 15(amphion)といった感じで機種の変遷がありました。それからスタジオでの使用を目的としてNeumannのKH 310を購入したんです。
KHシリーズ導入の経緯
Rock oN : スタジオでの使用目的でNeumann KH 310を導入したとのことですが、初めて聴いた時の印象はいかがでしたか?
前田氏:2、3年前トラックダウンのチェックにKH 310のデモ機をお借りして、One 15と聴き比べをしたことがあったんです。その際にKH 310は高域の空間の聴こえ方がそんな遠くないなっていうのと、口径も大きいので低音がしっかり聴こえていたのが印象的でした。3Wayで値段が手頃な機種を探していたのと、KH 310が密閉型だったというのも大きかったですね。NS-10MもOne 15も密閉型だったので、違和感なくスイッチできた感じです。重量も他の機種だと20kgくらいするものも多かったのですが、KH 310は13kgと軽かったのも導入の決め手となりました。
Rock oN : なるほど。そういった理由でKH 310を最初にペアで導入されていたんですね。
前田氏:それから自宅作業用にサブウーファーを導入したいなと思って、いずれはDolby Atmosのシステムの導入も見据えてスピーカーを検討した結果、MA 1での補正ができるという点も加味し、KH750とKH 80 DSPをステレオで購入しました。この時はKH 120 Ⅱもお借りして両方試してみて、KH 80 DSPを選びました。
Rock oN :2つの機種を比較してみて、KH 80 DSPを選んだ理由はなんでしょう?
前田氏:KH 120 Ⅱの方が口径が大きい分だけ表現力があるなと感じましたが、このサイズでサブウーファーまで入れてシステムを組むと、自分の部屋では鳴らし切れないかなと感じたので、最終的にはKH 80 DSPとサブウーファーKH 750の組み合わせにしました。
KH 80 DSPを設置して、自宅にDolby Atmosシステムを導入
Rock oN : それからKH 80 DSPによるDolby Atmosのシステムを導入するようになったのですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
前田氏:それまでDolby Atmosミックスの仕事をさせてもらうことが何度かあったので自分も導入したいなと考えていたのですが、いきなり全てを揃えるのは金額的にもハードルが高いじゃないですか。当時だとモニターコントローラーも高いモデルしかなくて一台で150万くらいするので、これはちょっと無理かなあ、と思ってたんです。それでもどうしてもシステムを組みたくて、Galaxy 32 Synergy Core(Antelope Audio)とかを導入したりと、少しずつ買い揃えていったんです。
そして今年の春くらいにDolby Atmosでミックスとマスタリングまでやらせてもらってアルバムを一枚制作させてもらったことをきっかけに、自分のDolby Atmosやりたい熱が高まりまして(笑)、自分でやりたいと思う時に一気に揃えてみようと、残りのスピーカーを同じKH 80 DSPで一気に導入しようとシステムを組みました。
バウンス清水:そういう熱が高まってる時の勢いは大事ですね!
Rock oN : MA 1によるDSP補正を使ってみた印象はいかがでしたか?
前田氏:もうバッチリでしたね。自宅でのミックス作業が当たり前になったので、もう今はDSP補正は必須じゃないかと思いますね。スタジオに行って最終チェックする機会も昔より減っているということもありますし。
スピーカーの台数が多くなると位相が暴れるとか、鳴らす部屋でのスピーカーの調整が大事なのでそういう意味でMA 1はこういう小さい部屋でミックスするときはむしろあった方がいいですね。それがないと全部のスピーカーが鳴っているなっていう印象で、センタースピーカーの聞こえ方や奥行き感が変わってしまいますので、MA 1で補正するときちんと真ん中で聴こえるようになるっていう印象に変わります。
Rock oN : Dolby Atmosのシステムを構築するにあたって、苦労した点は何でしたか?
前田氏:やはり部屋の広さがそんなにないので、スピーカーの置き方ですね。特に上に設置してある4本は清水さんに「マイクスタンドだとうまく設置できますかね?」というご相談をしたところ、この突っ張り棒をご提案いただきました。トラスというのも考えたんですけど、ここは賃貸なので引き払う時にバラすのが大変かなと。
Rock oN : 突っ張り棒は音響機材ではないものですか?
前田氏:そうですね。日用品として売ってるものです。設置してから何回か地震も来てますが、大丈夫でした(笑)新たに設置したスタンドも高級品ではないですが、元々ステレオで置いていたスピーカースタンドと高さを合わせて調節できるものを買い足しました。
バウンス清水:実際にスタジオを拝見させてもらったところ、とても安定感があるので自宅でのDolby Atmos導入も一気に身近になった感じしますね。
Rock oN : 6畳くらいの部屋で音楽制作されている方も多いと思うので、それくらいの広さでもこういうレイアウトでDolby Atmosのシステムを組めるという事例は参考になると思います。
バウンス清水:リスニングポイントまではだいたい1mくらいですか?
前田氏:1m3cmとかくらいです。上に設置したスピーカーはもう少し距離がある感じですね。
自宅にDolby Atmosシステムを導入した効果は・・・!?
Rock oN : 現在のところ、Dolby Atmosのミックスの依頼はありますか?
前田氏:少しずつご依頼を頂けるようになってきました。やはりこの部屋の様子を見てもらうと皆さん興味を持ってくれて、「やってみたい!』というお声を頂くことが増えてきましたね。Dolby Atmosのミックスは高価なスタジオを使って予算がかかるイメージがあると思うので、そういったハードルを下げてDolby Atmosのミックスがもっと身近なものであると知ってもらいたいなと思っています。
Rock oN : Dolby Atmosのシステムを実際に導入して気づいたことはありますか?
前田氏:色々リファレンスとなる音源も聴いてみましたけど本当にスタイルがいっぱいあるなと感じました。ステレオベースの音源もあれば、完全に包み込むような広がりのある音源もあって、千差万別でこれという確立したものがまだないところが面白いなと思っています。
これまではヘッドホンで仕込んだものをスタジオ持って行って確認してみると、やはりほとんど全部やり直しということが多かったんですが、KH 80 DSPでこのシステムでやり始めてその差がだいぶ減りましたね。
Rock oN : 今後このシステムでやっていきたいところはありますか?
前田氏:個人的には全体で包み込むようなサウンドが好きなので、そのアプローチを色々と突き詰めてやっていたいです。それとせっかくここまでシステムを組んだので、これからさらにスピーカーを買い足して360のミックスとかもやっていきたいですね。
Rock oN : KHシリーズによるDolby Atmosのシステムを、どんな方におすすめしたいですか?
前田氏:MA 1でのアライメントもいいですし、スピーカーが再生する帯域のバランスもいいですので、小さい部屋でミックス作業されている方におすすめですね。KH 80 DSPはよく言われることかもしれませんがリバーブとかの調整も把握しやすいですし、空間の広がりも見えて下の厚みもしっかり聴こえるので、サイズの割にしっかり確認することができます。
メーカーHP
NEUMANN
https://www.neumann.com/ja-jp/products/monitors/kh-80-dsp-a-g/
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記事内に掲載されている価格は 2024年12月20日 時点での価格となります。
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