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これまで数多くのエンジニアやクリエイターの方に、Neumann KHシリーズの導入事例をご紹介してきました。とりわけ6.5インチウーファー搭載モデルの2ウェイパワードモニターであるKH 150は、ゲームサウンドを手掛けるスタジオでも導入されるケースが多いように感じます。
今回は日本を代表するゲームメーカー・セガのサウンド開発部スタジオに訪問させて頂き、サウンド開発部のセクションマネージャー大谷 智哉氏とレコーディングエンジニア宮 吉忠氏のお二人に、KH 150を導入した経緯や音の印象などを伺いました。
※今回の取材にはKH 150導入やMA 1によるキャリブレーションに協力した、ゼンハイザージャパン・真野 氏も同行して頂きました。
●プロフィール
シニアサウンドプロデューサー
セクションマネージャー
1999年、現セガに入社。「ソニック」シリーズを中心に数多くの家庭用ゲームタイトルの制作に携わる。サウンドディレクター、リードコンポーザーを担当した『ソニックフロンティア』ではCEDEC AWARD 2023 音楽部門 優秀賞に選出されたほか、経済産業省が発行する報告書内記載の「米国において人気の日本の楽曲・アーティスト(2023年)」でアーティストとして10位、手掛けた楽曲「Undefeatable (feat. Kellin Quinn)」が15位にランクイン。2023年からスタートした『Sonic Symphony World Tour』では、ベーシストとしてロンドン、ロサンゼルス、東京、パリ、ボストン公演への参加を果たす。
レコーディングエンジニア
(株)ミックス→セガ・エンタープライゼス→株式会社ウェーブマスター→デルファイサウンドの後、
18年間のフリーランスを経て2024年より株式会社セガのサウンドスタジオに復帰
コンシューマーからアーケードまで、これまで録音やMIXを手がけたゲーム音楽は1200曲以上
最近の参加作品
『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』
『ソニックフロンティア』
ゲーム制作の現場で、求められるスピーカー
Rock oN:まずこのスタジオ自体はもうどれくらい前にできたのでしょうか?
セガ 大谷 智哉氏(以下、大谷 氏):2018年頃にセガ・グループ全体がオフィスを1つに集約する動きがありました。我々サウンドチームも大崎ガーデンタワーに移転し、ビル内に新しくスタジオを作ることになり、4つのコントロール・ルームとブースを新設しました。
Rock oN:お2人ともずっとセガのエンジニアとして勤務されているのでしょうか?
大谷 氏:私はセガに入って、もう25年ぐらいになります。コンポーザー、サウンドプロデューサーとして、「ソニック」シリーズを中心に担当し、今はマネジメント業務も兼任しています。宮は私が入社した頃に、アシスタント・エンジニアで入っていた先輩だったのですが、一度、退職しているんです。
その後、2018年の本社移転に伴いこのスタジオを作った時には、ハウス・エンジニアは不在で、現場のクリエイターたちで運営していくようなプライベートスタジオに近いような形でした。ですが、やはりプロフェッショナル・ユースのスタジオとしてハウス・エンジニアを入れてきちんと再建したいと思いがあって、彼にもう一回セガに来てくれないかと打診をして入ってもらったのが1年前です。
セガ 宮 吉忠氏(以下、宮 氏):私は退職してから18年ぐらいフリーランスをやってたんですけど、縁あって、このスタジオの面倒を見てくれないかと言われたんです。それで戻ってきて最初の仕事が、Neumannのモニタースピーカーに入れ替えるというものでした(笑)。
Rock oN:こちらのスタジオにもモニタースピーカーはNS-10M(YAMAHA)がありますが、これについてもやはり宮さんの意向が反映されているのでしょうか?
宮 氏:そうですね。私が一番最初に音楽業界でエンジニアのキャリアをスタートさせたのが90年代で、普通のレコーディングスタジオに入った時、NS-10Mは業界標準というかどこのスタジオに行ってもありました。
Rock oN:NS-10Mは長い期間使って慣れていることもあって、今も使用されているのでしょうか?
宮 氏:今はミックスで使うことはまずありませんが、音のフォーカスが中高域にあるのでボイス収録とかで1発目に喋ってもらった時の基準になるんです。このスピーカーでこう出ているなら大丈夫だという判断ができるので、いまだに外せないですね。
Rock oN:大谷さんもNS-10Mは使用されてたのでしょうか?
大谷 氏:私が入社した頃にもNS-10Mが置いてありました。そこからNS-10Mの印象は保ちつつ、よりローが出るスピーカーがいいと思って、FOSTEXのNFシリーズを個人的に使用していました。
Rock oN:当時FOSTEXのNFシリーズと言えば、NF-1Aとか人気が高かったですよね。
大谷 氏:私もあれは好きでしたね。
Rock oN:ではこちらのスタジオにYAMAHAのMSP3Aが置いてあるのは、NS-10Mの流れを汲んでいるからでしょうか?
宮 氏:そうですね、NS-10Mの代わりによく使っています。前機種のMSP3よりもお気に入りです。
ゼンハイザージャパン 真野 氏(以下、真野 氏):結構前機種よりも音が変わったという感じですか?
宮 氏:MSP3Aの方が割とフラットな印象ですね。ニアフィールドで小さな音量で聴くには最高だなと思っています。
Rock oN:メインではなく小さいスピーカーで聞き分けるとか、用途によって使い分けたりしているんですか?
宮 氏:基本的なレンジ、ローエンドの確認は、KH 150で全部やって、大体まとまってきたらMSP3Aやラジカセ、あとヘッドホンと切り替えながらチェックしていくという流れです。
KH 150を導入した経緯
Rock oN : 今回、Neumann KH 150を導入した経緯はどういったものだったのでしょう?
大谷:私としては宮がエンジニアとして戻ってきてくれたので、ぜひここのメインのニアフィールドモニターを選んでほしいと思いました。
Rock oN:宮さんはどういった基準で選んだんでしょう?
宮 氏:私はもともとNeumannのモニタースピーカーはKM 80 DSPを試聴したことがあって、とても気に入っていたんです。補正もDSP臭くはないし、非常によくできている、今までのスピーカーと全然違うと思ったんですよね。それで調べてみると音響ハウスのエンジニア櫻井(繁郎)さんもKH 310を使っていることを知りました。ただ当時KH 150はまだ出てなくて、2ウェイのモデルはKH 120のみでした。ただKH 120だとDSPは入っていないし、ちょっと出力が小さいかな・・という印象でした。
真野 氏:そうですね。当時KH 120はまだDSPが入っていないモデルです。
宮 氏:そして残念なことにKH 310は3ウェイなんですよね、私はもともと2ウェイか同軸が好きだったので・・そう思ってあれこれと検討していた時にちょうどKH 150が発売されて、これはもう最高!と思いました。そして偶然にもちょうどそのタイミングでセガに戻ることになったんです(笑)。それまでここの3スタではRL904(musikelectronic geithain)を使っていたんですが、自分としてはKH 150はサイズ感もいいし、キャリブレーションも取れるから音の調整や設置の追い込みとかもしなくて良さそうだし、それでもう導入することに決めました。
★櫻井 繁郎氏インタビュー記事はこちら
音響ハウス・エンジニア櫻井 繁郎氏が語る、NEUMANN KHシリーズの魅力
KH 150の音の印象
Rock oN:KHシリーズを最初に聴いてみた時の、音の印象はどうでしたか?
宮 氏:KH 80 DSPを聴いた時に、非常にフラットでローも出ているけどそれが別に暴れているわけでもない。締まっているというかすごく見切りが良くて、真ん中にピタッとくるし、定位も良いですよね。滲まないというかぼやけないので、逆にいうとそれだけ広がりがわかる印象でした。
Rock oN:大谷さんは、KH 150を聴いてどう思いました?
大谷 氏: 私はこのスタジオで聴くより先に音響ハウスにダビングに行った時、KH 310をまず聴いていたんです。それまでは櫻井さんもAmphionを置いていたと思うんですが、その日に行ったらなんか見たことないのが置いてあるぞと思って。私も新しいスピーカーがあると違いが気になったり録り音が気になったりで、判断に迷いが出たりする可能性があったら怖いなと思う方なんです。
真野 氏:そうですね。状況が変わると変な話、スピーカーの顔で見るようなところがありますよね。
大谷 氏:ですがその日のダビングでは何も気にならずというか、すっと聴けたというのがKH 310の第一印象ですね。 長丁場のレコーディングでブラスセクションから木管楽器、エレキベースなどを録っていたのですが、1日中ずっといろんな楽器をモニターさせてもらったなかで、とても良かったなという感じでした。
Rock oN:そういう意味では宮さんがKH 150を検討していますとなった時、音響ハウスで知っていたので、そんなに違和感もなかった印象ですかね。
大谷 氏:いいんじゃないっていうか、選んでほしかったというか(笑)安心感がありました。
Rock oN:それではKH 150をMA 1でキャリブレーションした印象はいかがでしたか?
宮 氏:前評判で聞いていた通り、もう最高でした(笑)。もちろんそのままでもとてもいいんですけど、やっぱりやると一味違うなと思うくらい、見切りが良くなりました。 一回目は自分で測定をやったんですけど、ちょっと信用できないなということで、櫻井さんの紹介で真野さんに来ていただいて。
Rock oN:こういうきちんと施工されているスタジオですから、MA 1で補正しなくてもある程度きちんとした音を再現できるかなと思うんですけど、やっぱり補正すると変わりますか?
宮 氏:いや、だいぶ変わりますね。
Rock oN:具体的にどういった印象になるとかありますか? 言葉で言うとちょっと難しいかもしれませんが。
宮 氏:さらに音が一皮剥けるというんでしょうか。あとは測定結果がグラフで見えるじゃないですか。 それを見て、ここはちょっとモタっていたんだなとか発見がありますね。
Rock oN:たしかに自宅やスタジオに導入してもその場所の特性に合わせて補正できるというのは、すごく大きいですよね。最近スピーカーにDSP補正を導入するメーカーがどんどん増えてきていますが、今は必須になりつつあるかなという印象です。
Rock oN:ゲームだと、先ほど言っていたフォーリーとかダイアログもあって音楽もありますけど、どれも気にならず使えるという感じですか?
宮 氏:そうですね。以前使っていたモニタースピーカーだと、ちょっとジャンルを選ぶなと思ってたんです。耐久力もそんなに大きくないイメージがあって、当たりが柔らかいというかちょっとローのスピードが遅いっていう気がして、いつも聴いている感じよりもワンノッチ上げたくなる印象だったんです。KHシリーズは大きくても小さくても印象が変わらないし、小さな音量にしても聴こえるので耳も疲れずにとても楽に作業できる印象です。
Rock oN:耐久力が高いというのはエンジニアさん側から結構挙げられる感想ですね。ガーッと音を突っ込んでも、丈夫さがあるみたいな。
宮 氏:そうなんですよ。ドラムとかを録る時に、基本ノーコンプで録ったりするんですけど、結構低音とかが暴れるじゃないですか。その暴れた素材をそこそこのボリュームで聴こうとすると、以前のスピーカーだと割とすぐ赤いランプが付いちゃうことあったのですが、KH150ではそれが全然ないですね。
自宅で使用するヘッドホンは・・・!?
Rock oN:ちなみに宮さんは自宅ではお使いのヘッドホンはどんなモデルですか?
宮 氏:実は、NeumannのNDH 30を使ってるんです。
真野 氏:ありがとうございます!
宮 氏:本当は自宅にはKH 80 DSPを導入しようと思ったんですよ。けれど住宅事情もあって断念せざるを得なくなり・・だったらヘッドホンならどうだろうと思ってNDH 30を試聴したらKH 80 DSPと印象がほぼ変わらないじゃないですか。これはいい!と思ってNDH 30を導入しました。
真野 氏:それは嬉しい話ですね。レコーディングスタジオのエンジニアさんでも、スタジオでKHシリーズを使っている方がNDH 30を試聴してみたところ、「これだったら自宅用でいける!」という印象を持って頂いて、自宅作業用にNDH 30を導入して下さった方がいました。今まではスピーカーじゃないとミックスをしないと言っていた方だったんですけれど。
大谷:うちのコンポーザーでリモートワークしているスタッフでも導入している者がいますね。自宅でNDH 30を使って、このスタジオではNeumannのKHスピーカーでミックスチェックをしています。
真野 氏:元々は宮さんもコンポーザーさんも、KHスピーカーの音が作業に馴染んできたところでのNDH導入みたいな流れなんですか?
宮 氏:NDH 30はスピーカー代わりですね。以前は別のヘッドホンを持ち出してずっと使っていたんです。ただヘッドホンでミックスを詰めるとスピーカーと全然バランスが違うじゃないですか。だからやっぱりスピーカーで最終的に聴くことにしていたのですが、NDH 30だと外しがないというか違和感がないんです。
大谷 氏:我々の働き方の影響もあるのですが、コロナ後に我々はハイブリッド・ワークが会社的に認められて、出社しているスタッフもいれば、在宅で制作してダビングやトラックダウンの時だけスタジオに来るというスタッフもいるんです。トラックダウンのミックスチェック時にエンジニアからファイルを送ってもらい、自宅の作業環境でチェックしてから最終工程でスタジオに来て一緒に聴いて、調整して完成というのがよくあるフローなんです。そのワークフローだと自宅で聴いた音とスタジオで聴いたミックスに誤差がなく、可能な限り印象が近い方がいいですよね。そういう時にNeumannのヘッドホンNDH 30と、KH 150のセットで導入するというのはありなんじゃないかと思います。
こんなユーザーにおすすめ!
Rock oN : 最後にKHシリーズのスピーカーをどんなユーザーにおすすめしますか?
宮 氏:KH 80 DSPは自宅で作業している人には、ちょうど良いサイズ感で手軽に導入しやすいなと思います。
Rock oN:スタジオだったら、もうちょっとパワーがあったりするモデルが良いと。
宮 氏:そうですね。 ただ2.1じゃなくてもローは十分出ていると思っているので、スタジオにある程度広さがあってコンパクトだけどパワーが欲しいならKH 150は非常に良いと思います。
大谷:私も色々とKHスピーカー聴いてみた印象で、自宅にKH 80 DSPを入れたいなと思いました。自宅でKH 80 DSPでミックスのチェックとフィードバックをして、最後にオフィスのスタジオでKH 150で仕上げたら、とてもスムーズなのではないかと。Neumannのヘッドホンを導入したスタッフもいるので、同じようにNeumannのヘッドホンにするかKH 80 DSPを入れるか、どっちもありだなと思っています。
Rock oN:本日は貴重なお話、どうもありがとうございました!
今回の取材ではKH 150のスタジオ導入経緯だけでなく、NDH 30を使っての自宅作業の利便性というところまで話が及びました。たしかに多くのコンポーザーやエンジニアが様々な場所で制作を行なっている環境では、ミックスチェックなどでスピーカー/ヘッドホンで確認した際の誤差が少ないというのは大きなメリットです。
先頃RIMEプラグインも発表され注目を集めているNDM 20/NDH 30だけに、今後はKHシリーズのモニタースピーカーとNDHシリーズのヘッドホン、これらを組み合わせた導入事例も増えてくる可能性は高いです。
今後もこうしたNeumann製品の導入事例を色々とご紹介していけたらと考えています。
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★メーカーHP
NEUMANN
https://www.neumann.com/ja-jp/products/monitors/kh-150/
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