全国で様々な倉庫ビジネスを展開する寺田倉庫は、ワイン/アート/メディアの保管を主に手がける、日本屈指の「保管」のプロだ。一見意外に思えるこの3つの保管事業の共通点は「完璧な湿度と温度管理技術」そして「モノだけではなく、価値をお預かりする」というマインドだ。
今回のPower of Musicは、寺田倉庫の事業の中で特に制作者と深く関係する、歴史的データ資産を預かる「映像・音楽メディア保管センター」をご紹介しよう。
映像・音楽メディア保管センター
1950年の創業当時からトランクルームとして事業を展開していた寺田倉庫は、1975年より湿度と温度をコントロールしたトランクルーム事業を始める。後にその空調ノウハウを活かし、ワインセラーや絵画を初めとしたアート作品の保管やアトリエのレンタルへと事業を拡大する。 そしてこの技術をさらに進化させ、1983年に音楽や映像の資産を保管するサービスを開始。2003年に専用の「映像・音楽メディア保管センター」(以下 : 保管センター)を建設し、今に至る。
ここでは500社を超える法人から託された1200万点以上の様々なメディアが保管されている。 建物は大地震が起きてもその揺れを1/3~1/5にまで軽減させる基礎免震構造。さらにメディアを陳列する専用棚が免震機能を有しており、地震の動きを吸収する仕組みを持っている。3.11の東日本大地震でも棚から落ちたメディアは1本も無かったというから驚きだ。
この保管センターには、まさしく多種多様なメディアがそれぞれに最適な湿度 /温度で守られている。特に古い映画などで使用されたTACベースフィルム(三酢酸セルロースベースフィルム)は、保存に適した環境でないと加水分解を起こしフィルムそのものが崩壊するという難しい性質から、寺田倉庫のような保管のプロフェッショナルの力を頼らざるを得ない。
このために作られた保管庫は、二重扉や高精度の温湿度センサーを備え、「ISO規格でカラー、モノクロフィルム双方に最適な保存環境範囲に定められている最高温度2度、相対湿度30%程度」で管理が徹底されている。(約36.0度の体温と湿度95%の息を吐く人間が出入りするだけでも庫内のコンディションは変わってしまう。それを極力一定に保つためには高い技術とノウハウが必要。)
物から情報へ。保管ビジネスの過渡期
保管センターには、このようにビネガーシンドロームで朽ち果てたTACベースフィルムも持ち込まれる。ここではデジタイズの専門部署が設けられ、修復と共に「データ」の保管も行われているからだ。 担当の緒方 氏によると、この保管センターには映像関連のフィルムや映像テープが主に寄せられるが、その姿はメディアからデータに移り変わってきているということだ。
2010年頃からテープのほかにHDDを保管して欲しいという需要が増え始めた。1時間で100GBにも及ぶ映像データを格納するため、寺田倉庫は保管センター内に理想的な保管場所を作ることになった。それが倉庫内に鎮座するオフラインストレージの装置だ。
有事の際もデータを守る冗長性
顧客から預かったデジタルデータは、LTOなどエンタープライズテープを記録メディアとする総容量40ペタバイトのオフラインストレージに格納される。これは社外のネットワークに一切繋がれていないため、外部からの攻撃に対して鉄壁の防御力を持つ。さらに関西地方にミラーリングデータが置かれた同様のバックアップを持つため、仮に保管センターが大打撃を受けたとしてもデータの復旧が可能。物理的にも極めて高い冗長性を持っているのだ。
ちなみにこのストレージは、テープメディアでの運用のためHDDのように運転させ続ける必要がない。必要な時だけロボットがテープを取り出し再生ドライブまで移動させ必要ファイルを読み取るため、サーバー運用の電気代や熱処理のための空調コストが、一般的なデータセンターと比較して極めて低いということだ。
膨大なデジタルデータは独自アプリで運用
ここで疑問が出てくる。
預けたものが必要な際はそれを取り出さねばいけない。オフラインストレージの中に保管されたLTOの中から制作者が求めるデータを見つけるには、気が遠くなる検索作業を行わねばならないのか?
この問題を寺田倉庫は、独自アプリ「Terra sight(テラサイト)」を開発することで解決した。 Terra sightはサーバー内のコンテンツをフルプレビューできるアプリである。顧客は保管センターにデータを預ける際、Terra sightへのアクセス権限と個人アカウントが発行され、預けているデータのプロキシ動画を自分のPCでプレビューできるようになる。
預けているデータはTerra sightの管理画面でタグと日付を付けて管理する。この日付も様々な業界で活用できるよう、放送日、初回放送日、収録日、公演日など顧客が最もキーと考える項目を設定できる。さらにこのプロキシ動画はH.264などの動画圧縮方式で大幅に圧縮されており、一般的な無線LANでもサクサクと視聴ができるなど、非常に実用性が高い。
ユーザーが欲しいデータをアプリ上で選び取り寄せ依頼をすると、約3時間で配信される。配信が不可能な大型のデータはテープデリバリーのサービスなどで、通い用のHDDに格納して物理デリバリーされる仕組みだ。HDDやSSDと比較すればデータの取り出しに時間がかかってしまうが、冗長性やセキュリティ性を考えると非常にうまくできたシステムだ。
時代でメディアは変わっても価値は変わらない
ワイン・アート作品の保管から得た湿度 温度管理技術を活かしたメディア保管事業。それが時代と共に物理的なテープの保管からデータ化していった。しかし「時代によって預かる物が変わったとしても、お客様の宝ものであるという価値は変わらない」と担当の緒方氏は語る。ましてや保管センターで守られているメディアは、人類の資産とも言える歴史的な映像や音声ばかりだ。この重責を担う 映像・音楽メディア保管センターは、どのような時代のニーズにも最高水準のクオリティで応えていくことが求められている。
Writer. IH富田
記事内に掲載されている価格は 2016年12月7日 時点での価格となります。
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