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インタビュー
26
May.2016
インタビュー

YAMAHA MONTAGE 開発者インタビュー 〜キーワードは「多次元」と「リズム同期」〜(前編)

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Rock oNがNAMM2016での発表タイミングから大きな期待を持ち、レポートを重ねてきたYAMAHA MONTAGE

長い間、同社のフラッグシップモデルとして数え切れないほどのユーザーに愛されてきたMOTIFシリーズに置き換わる新製品として、2016年以降のワークステーションシンセサイザーのあり方を示す製品であることは間違いないでしょう。

YAMAHAが総力をあげて生み出したこのMONTAGE。Rock oNでは、開発の背景に隠れる開発者のみなさんの熱い思いや苦労をお届けすべく、開発者インタビューを実施。シンセファンのみならず、「もの作り」に対する作り手の姿勢を垣間見れる内容になっています。前半・後半に分けてお届けします。

製品概要

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出席者

ヤマハ株式会社 楽器・音響開発本部
楽器開発統括部 電子楽器開発部 DE開発グループ 技師補
大田 慎一

ヤマハ株式会社 楽器・音響営業本部
楽器営業統括部 ProMusic営業部 シンセマーケティング課 課長代理
伊藤 章悟

開発者インタビュー

時代との対峙。MONTAGE開発の原点思想とは?

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Rock oN (以下略 R):かなり期待が大きいMONTAGEですが、NAMMでの発表タイミングから大きな期待を持っていまして、弊社でもレポートを重ねてきました! 御社には脈々と繋がるシンセサイザーの歴史がある訳ですが、何故、このタイミングでフラッグシップモデルをリファインしようとなったのか、そのきっかけをお伺いできればと思います。

_DSC5668大田 慎一氏 (以下略 大):はい、よろしくお願いします! 時間をさかのぼりますが、ご存知の通りリーマンショックの時期に世の中が全体的に不景気になり、電子楽器の売り上げにも影響がありました。また2000年前後から、DAWがどんどん進化し高機能で扱いやすくなってきたこともあり、相対的に、1台で完結して曲を制作できるというスタンスを持ったワークステーションシンセサイザーの立ち位置に変化が出てきたのは事実です。

また、ハードシンセにも、ソフトシンセに負けじと大量のコンテンツを抱え込むことになり、ハードシンセがいわゆるロンプラー(ROMPLER)という形で多機能化を重ねました。その結果、お客さんから見たワークステーションシンセサイザーとしての魅力が下がってしまったのではないでしょうか。

そういったことを受け、我々は「元々ハードシンセって何が良かったんだろう?」という所に立ち返り、「ツマミを触り音が変わるその気持ち良さ」、そういう所が本来のハードシンセの価値ではないかという観点から、コントローラビリティによる新しい音表現を持った「ハードシンセならではの魅力」をアピールして行かないと時代に立ち向かっていけないと思い、MONTAGEの企画がスタートしました。それが4年くらい前です。

R:確かにその頃かもしれませんが、ワークステーションシンセのフラッグシップモデルを置き換えるという事に対して、現場の営業さんの中には少し消極的な雰囲気があった印象があります。置き換えにかかる大幅なコストと、当時の売り上げのバランスを鑑みたゆえのことだと思いますが。でも、そういった空気の中でも、フラッグシップを置き換えたいという考えはあったんですか?

大:ありましたね。当時、否定的な方向に寄っていたのは、経済的な不況の中での大きな投資になるので「やりたいんだけど難しい。」という意味合いだったんだと思います。

R:そうですね。まさにそういった理由だったと思います。

_DSC5672伊藤 章悟氏 (以下略 伊):メーカーとして新しい物を作りたい気持ちは常にあるんですが、一方、「15年間築き上げて来たMOTIFブランドを何故リセットするのか?」という声も現場からあり、置き換えは大きな決断でした。

R:DAWを中心とするパソコン環境との親和性という意味で、MOTIFとMONTAGEに違いはありますか?

伊:MOTIFはライブでも制作でも使えるし、DAWリモートなどの連携機能を充実させ、コンピューターベース制作環境の中心に位置することを目指していました。一方、MONTAGEは、楽器としてプレイヤーの方に軸を振っています。その現れとして、MOTIFには「ミュージックプロダクションシンセサイザー」という名を冠してましたが、MONTAGEではプロダクションを取り「ミュージックシンセサイザー」と品番を変えています。

大:勿論、音楽制作に向いていないという訳では全くないです。シンセを使った音楽制作手法にも色々なやり方がありますが、なんとなく弾きながらモチーフが浮かんで、そこから徐々に曲にしていくという場合、これだけDAWが主流な訳ですから、無理にワークステーションシンセに制作過程全てを詰め込んでも、使う側にとって喜ばしい世界じゃないよね、というのが我々の結論です。ただ、ミュージックプロダクションシンセサイザーの利点として、弾くことをきっかけとして得られたひらめきを瞬時に録ってキープし、楽曲制作のモチーフとして利用する部分がすごく重要だと思うんです。マウスに持ち変えることなく、シンセ内の簡易シーケンサーを使ってモチーフをどんどん録り溜める。その後、パソコンに送り本格制作はDAWで行う。そういう世界ですね。

R:制作時におけるキーボードのあり方についてですが、楽曲の発想を手助けするといった視点から、その立ち位置が見えてきたということですか?

伊:そうですね。MONTAGEには弊社で一番グレードの高い鍵盤を使っていますし、Super Knobをはじめ、創作意欲を搔き立てるパーツを随所に盛り込んでいます。ぜひ、マスターキーボードとしてもお薦めしたいです。

プレイヤービリティーを重視する新機能たち。多次元な音変化とは?

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R:MONTAGEにはSuper Knobをはじめ、プレイヤービリティーに訴える新しい試みが色々入っていますが、そのあたりを詳しく教えて頂けますか?

大:音楽的に使える「新しい音表現」が出来ることを目指しました。私たちはまず、現在の音楽トレンドや、過去の楽曲がどういう音楽表現で作られていたかという分析からスタートしました。営業チームとも一緒に時間をかけ分析を試みましたが、その結果、キーワードとして「多次元」な音変化と「リズム同期する」音変化、この2つのキーワードで音表現のほとんどが作られているという結論に至りました。その2つの音変化をどう作るかについては、段階を経ながら考えて行った訳ですが、単純に今の音楽だけを作るためだけで終わるなら、それはMONTAGEには適さないと思っていました。最近の音楽のトレンドってすぐ廃れてしまうので、その時期にしか使えない楽器というのは私達の本意じゃないんですね。やはり、楽器って長く使って頂きたい物なんです。

楽器は、奏者が込めた想いを音で表現する物だと思っていますが、込められた想いには色んなベクトルがあると思います。多次元的に音を変化させること自体が「音楽で何かを表現する」という、まさにそのものですので、1次元のパラメーターでは絶対に表現出来ません。「多次元」な音変化が重要になるんです。

R:「多次元」の説明をもう少し詳しくお願いします!

大:シンプルな例で言うと、ディストーションの歪み量を上げると音量が上がるんですが、場合によっては好ましくない場合もあると思うんですね。歪みだけ上げたい、だけど音量はキープしたいという場合、歪みを上げるのと同時に音量を下げてやると、音楽的に使える歪み量のコントロールが実現する。多次元的な音変化の一例です。動的に複数のパラメーターをコントロールするというのがポイントで、あるパラメーターがこちらに動いた時に、別のパラメーターはその動きに従ってこう動くというふうに相関していることが多いんです。その動きが噛み合い、音楽的な音が作られる瞬間が本当に気持ちいいんですよね!

一方の「リズム同期する」音変化ですが、リズムに関しては鍵盤楽器ではちょっと作りにくい面がありますので、その部分を補完しサポートしてあげられると、シンセとしての音表現がより確固とした物になります。
「多次元」な音変化と「リズム同期する」音変化。この実現方法を一つ一つ積み上げながら考え、その結果的として、Super KnobやMotion Sequencer、Envelope Followerとして結実しました。

R:表層的な目立つ部分だけに目が行ってましたが、こうやって解説して頂くと凄く納得出来ますね!

大:Envelope Followerは、MONTAGEに入力した音の振幅包絡をリアルタイムで抽出し、その包絡情報でパラメーターをコントロールします。振幅包絡でコントロールすると、入力した音源自体が持っているビート感が音の変化として反映されます。例えば、ドンドンとキックを入力すると、そのビートで音変化を生じさせる事ができます。

音表現を拡大するSuper Knobのポテンシャル

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R:演奏者が多次元なコントロールを直感的に操作出来るように作られていますか?

大:はい、Super Knobをひねるだけで、十分に表現出来るように作り込んでいます。MOTIFがそうでしたが、ノブを8個装備し、それらを1人でコントロールすることを想定していた訳ですが、かなり試行錯誤して操作しないと、なかなか気持ち良いポイントが見つからなかったんですが、Super Knobは1個で解決しているんです。1個のノブをひねれば、複数のパラメータを相関させてコントロールし、最適な音変化が作れるようになっています。

伊:プレイヤーが演奏し、かつリアルタイムに音色表現するために両手でツマミをいじったら、その間、鍵盤演奏ができないので演奏が止まってしまいます。そうならないよう、音色をコントロールしながら演奏も実現するというのがSuper Knobの根本にある発想です。Super Knobは1つで複数のパラメーターを動かせるので、片手で演奏しながら複数パラメーターを同時に動かせることができます。ピアノ系の音色では、フットペダルでSuper Knobをコントロール出来るのですが、従来、レイヤーバランスを変更して音色を変えるには演奏を止めてからでないと出来なかったんですが、MONTAGEであれば、フットペダルの操作で演奏を止めることなく実現できます。

R:先ほどMONTAGEを弾いてた時に、最初はAWM2音源でピアノとパッドの豪華な音色を選び、途中からSuper Knobをコントロールし、DXエレピに次第に変化させるということができました。

伊:その変化はモーフィングのように自然に繋がるようになっているので、奇をてらった表現だけでなく、割と王道的な変化にも応用可能です。Aメロはこういうバランスで、Bメロはこういうバランスで、サビだったらボーカルが出て来るのでキーボードを抑えめに、そしてソロの時には少し盛り上がる音色、というのを1音色の中でどう実現して行くかということにも対応できます。

R:複数ノブを操作するのは、車で言うとアクセルとクラッチみたいな関係があると思います。いくらアクセルをふかしてもクラッチを繋がないと進まない。代表例として、カットオフとレゾナンスの関係がそうですが、それらをどう調節したら一番気持ち良くなるか試した結果のバランスがSuper Knobに込められているような気がしました。

AWM2音源とFM音源のハイブリッド。FMオリジネーターとしてのこだわり

R:今回、FM音源が融合していますが、どういった経緯ですか?

大:単純にサンプリングした音を並べて鳴らしても面白く無く、やっぱり「音変化」がキーワードになります。FM音源の音変化のダイナミックレンジはすごく大きいんです。元のサイン波からベルになったりエレピになったりブラスになったり、もの凄い変化の幅ですが、それがノブ1つで出来る。そこが我々が持っているアドバンテージです。

R:やはり、御社にとって「FMは俺たちの物だ!」っていう意識はありますよね?

大:そうですね。FMに関しては、いわゆる「ロンプラー」を求めていた時代があって、その裏でいろいろ地味には出していたりしたんですけど(笑)。久々にシンセとして出したのはreface DXですね。

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R:MONTAGEのチップにはどういった物が使われているんですか?

伊:ヤマハは伝統的に汎用DSPでなく、自社開発のLSIを使います。MONTAGEには、新世代のLSIを使っています。

R:最近、モジュラーシンセの波が来ているじゃないですか。ご自身として、この流れは感覚的にどうですか?

大:あくまで私の見方ですけど、最近PCMシンセが面白くないといった事に関連してるような気がします。直感的なインターフェース、ノブを触った時の気持ち良さ、「来る来る来るー!」みたいな(笑)感触。そこが、多くの人がはまっている原因だと思います。直感的で、触って面白いという所に飛びついているのではないかと思います。

R:なるほど、MONTAGEの感覚と割と近い部分もありそうですね?

大:モジューラーシンセとユーザーと MONTAGE のようなシンセのユーザーは異なると考えているのですが、その音に期待していることは MONTAGE と「ピッタリ!」と僕は思っています。今の時代にミートしてくれるんじゃないかと期待しています。

ユーザーインターフェースに隠された秘話?教会需要

R:デザインについてお伺いしますね。MONTAGEとしてのコントローラビリティで工夫された部分、また、従来のMOTIFユーザーの声を反映した部分などはありますか?

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大:スライダー系のコントローラーは特に北米を中心とした教会演奏での需要からです。各パートのバランスをダイナミックに変えられますが、これがないと教会では使い物にならないそうです。でも、ただ単にスライダーを残すだけじゃなくて、FMのオペレーターレベルをダイナミックに変えられようにしたり、モーションシークの各ステップの変調の幅をシーケンス再生中に変える事が出来るようにしたりと、他にも応用が効くように設計しています。

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R:タッチスクリーンのブラウジングは、基本的に従来のイメージで使えるようになっていますか?

大:基本はそうですね。今回、Live Set機能を搭載したので、従来の8×2からガラっと変え、音を選ぶ4×4のマトリクスが画面と一致するようにし、アクセスしやすいボタン配置になっています。

YAMAHA MONTAGE 開発者インタビュー前編はここまで。後半も間もなく公開予定です!開発者様しか語れないストーリーを紐解き、シンセサイザーの在りかた塗り替えるMONTAGEの実力にさらに深く迫ります。ご期待ください!

YAMAHA MONTAGE メーカーページ >>


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後編はこちらから
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    記事内に掲載されている価格は 2016年5月26日 時点での価格となります。

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