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12
Dec.2016
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SHUREイヤホンのサウンドを支えるのはこの2人の確かな耳! 〜 マット & ショーン from SHURE 特別インタビュー 〜

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通勤電車の中、カフェ、またはトレーニングジムで。音楽リスニングのパーソナル化に伴い、日常の風景に溶け込み、今では無くてはならないものになった「イヤホン」。中でもSHUREはサウンド、装着性、耐久性といったあらゆる観点から最高品質の製品を生み出し、マーケットの中でもファーストチョイスの中に入るトップブランドです。

今回、本国からSHUREイヤホン開発の鍵を握る2人が来日。特別にお話を聞く機会をいただきました!

プロフィール
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マット・エングストローム (写真左)
シニア・カテゴリー・ディレクター

イヤホン、ヘッドホン、パーソナルモニターシステムのプロダクトマネージャーを指揮。1998年より17年間Shureに貢献し、過去にはE2, E3, E4, E500, SE530の開発に携わった。Shureの新製品開発における戦略プランを指揮し、グローバル・マーケティングチームやプロダクトマネージャーと共にマイクロホン、イヤホン/ヘッドホン、フォノ製品の顧客ニーズの分析と定義づけを行う。SE310、SE420、E500、SE530のデザインパテントを保持している。

ショーン・サリバン (写真右)
シニア・プロダクト・マネージャー

イヤホン製品のデザイン・開発チームに従事。10年間Shureに貢献し、2006年から現在まで発売されているShureイヤホン、SE215, SE215 Special Edition, SE315, SE425, SE535, SE535 Special EditionとSE846、そして今回の新製品KSE1500およびSHA900の開発に携わった。Shureのイヤホン/ヘッドホン製品開発で、グローバル・マーケティングチームと共に顧客ニーズの分析と製品特性の定義づけを行う。グローバル・マーケティング製品開発のローンチ・プランとコミュ二ケーション活動をサポートしている。

「祝 SM58 50周年!」

Rock oN(以下 R):今回は貴重なインタビュー機会をいただきありがとうございます!

Shure マット・エングストローム氏(以下 マット氏):今の時期、アジアではオーディオ機器関連のイベントが多いタイミングで、香港〜上海をまわる予定です。丁度「秋のヘッドフォン祭」のタイミングで来日することができました。私たちも今回の取材機会をいただき大変嬉しいです!

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R:そういえばSM58が発売開始から50周年ということですね。おめでとうございます!

マット氏:ありがとうございます!50年で初めての試みとして、初めてシルバーのモデルを出す予定です。この他にも色々企画が進行中ですので楽しみにしてください。あるビッグアーティストの特別モデルもありますよ!ファンにとってもエキサイティングなニュースになると思います。

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R:では、話をイヤホンに移しましょう(笑)!今取り組んでいらっしゃるのはどんなことですか?

マット氏:コンデンサー型イヤホン KSE1500を発売し約1年経ちましたが、SHUREとして初めての試みで、かつ、やや高めの価格設定をした製品にもかかわらず、市場からは予想を超えた関心を集めることができました。現在の課題は、品質を高めることを念頭に置きつつも、市場の需要に応え、生産数を安定させる対応をしているところです。

KSE1500_BLACK

KSE1500コンデンサー型高遮音性イヤホンシステム

R:高い技術を要するということで、量産することが難しい製品なのでしょうか?

マット氏:SE846は4年、KSE1500は8年の開発期間がかかりました。量産化プロセスについても成熟化させるのに時間がかかったのは事実です。工場でのライン生産でなくハンドメイドによる生産のため、製品の設計・開発と同様、製造プロセスについてもかなり詰めた工夫を行っています。ダイナミックマイクロフォンKSM8についても同様で、トランスデューサーへの蓄積してきた技術の投入に加え、パーツ調達、設計、製造でも新しい試みにチャレンジするため時間をかけています。

SHURE
KSE1500SYS-J-P
¥360,000
本体価格:¥327,273
3600ポイント還元

SE112、SE215が備える普遍性の魅力

R:イヤホンについて、現時点で一番新しい製品というと…

マット氏:SE215m+ Special Editionというホワイトカラーのモデルですね。製品仕様は既に発売されていたブルーのSpecial Editionと同じですが、これを出した時自分たちの想定以上に市場に受け入れられたので、新たなカラーでケーブルにマイクとリモートコントローラーがついたモデルを出しました。

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トランスルーセントブルーのSE215 Special Edition

R:SE215ですが、一番ユーザーに手に取ってもらいやすいモデルになりますか?

マット氏:一番低価格の製品ということですとSE112ですが、SE215は通常のリスニングに加え、ステージ上のインイヤモニター用としても適しています。ここまで売れることは正直なところ想定していなかったので、新たな自信を得ることができた製品です。

マイクだとSM58が一番導入しやすいモデルですが、1966年の発売後50年間、アップデートを繰り返しながらも、ずっと同じデザインで発売し続けてきました。SE215がイヤホンのSM58版という感じになり、これから多くの人達に長く信頼される製品になればと思ってます。

R:20年後になって、私の愛用してるSE215が壊れたとしても、すぐに同じ製品が手に入ればすごいことですね!

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マット氏:私たち作り手にとって究極のゴールですね(笑)! SE215のようなデザインは将来的に残していきたいですね。ここまで細いノズルを使っている製品は他にないのですが、フィット感の良さと音質の良さを犠牲にすることなく、質量の大きなダイナミック型で細いノズルを用いるという課題について、長い時間をかけて解決した製品です。SE215とSE112は、形状やアクセサリーについて若干の手直しは生じるかもしれませんが、サウンドクオリティーとフィット感については長期に渡り持続させ、息の長い製品にしていきたいと思ってます。

SHURE
SE112GR-A
¥9,350
本体価格:¥8,500
140ポイント還元
SHURE
SE215-CL-A
¥14,630
本体価格:¥13,300
146ポイント還元
SHURE
SE215SPE-A
¥14,630
本体価格:¥13,300
146ポイント還元

トップクラスを誇る遮音性の秘密

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SE535 Special Edition

R:遮音性を維持しながらダイナミック型ドライバーを使うのは難しいと聞きますが、その点でSHUREはトップクラスを維持していると思います。その点についていかがですか?

マット氏:おっしゃるとおり難しいです!ダイナミック型として最初に発売した製品は2002年のE2Cでした。ダイナミック型でノズルを細くし、遮音性を上げることは大きな挑戦でかなりの時間を費やしました。SE215が出るまではE2Cが1番売れた製品でしたが、ダイナミック型でありながら遮音性を保つE2Cのいいところを残しつつ、フィット感や着け心地の良さを向上させたSE215を開発しました。

R:ベント(空気穴)を設けると音のバランスを取ることができるようになりますが、遮音性にこだわるとそれが出来なくなりますよね?

マット氏:SE215はE2Cと同じサウンドクオリティーを目指しましたが、かなり形状が違うのでデザインを最初からやり直しました。一例を言うと、E2Cはノズルが3mm強くらいでしたが、SE215は1mmくらいになり、かなり仕様を変えています。低音はどれだけエアボリュームを取るかで違いを作れますが、中音と高音はドライバーのフロントがセンシティブな部分となるので、SE215ではノズルをできるだけ耳に近付けた設計としました。

SE315、SE535、SE846も小さなベント穴を設けていますが、これは小さすぎても、大きすぎても良い結果が得られないので、適切な大きさになるように絶妙なチューニングをしています。KSE1500になると調整するパラメーターがかなり多くなり、ベントをより精密にしつつ、フィルター部のアコースティックスクリーンも最適化しています。

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2人の耳がSHUREサウンドを作る

R:チューニングの最終的な決定権について興味があるんですが、誰かの耳ですか?それとも、例えば流体力学的なシミュレーションによるものとか?

マット氏:私とショーン、その他スタッフ、また社外にも協力者がいます。ショーンは入社して11年、私は18年になりますが、我々が承認しないとダメなんですよ!

R:なるほど、興味深い事実ですね!では、そのお二人に質問です。お二人にとって、いわゆる周波数特性がフラットというのは数字的にフラットを指しますか?それとも経験による、パーソナルな感覚でのフラットを指しますか?

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ショーン・サリバン氏(以下 ショーン氏):マットといつも話してることですが、まずフラットの状態から始め、そこから調整を始めていくのがいい結果を生むやり方です。

ただし本当に数字的にフラットな音にしてしまうとサウンドは心地良くない退屈なものになってしまうので、バランスを取ることで透明感を出すといった工夫をします。そこは僕らの経験と感性によるものですね!フラットというより、アキュレート(正確)なサウンドを目指しています。そもそも耳の形状は人それぞれ違うので、フラットというのはまずあり得ません。

イヤホンよりマイクの方がフラットなものを作りやすいですが、それにしても室内の状況やソースも全部違うので、全てが均一なフラットということにはなりませんよね。フラットというのは、あくまでも参照ポイントとしてのもので、ゴールではないということです。

R:サウンドチューニングにおいては、まだまだ奥深い話がありそうですね!

ショーン氏:例えば、BETA 52Aはキックドラムに特化した製品です。中身のテクノロジーはSM58などのボーカルマイクと変わらないのですが、形やサウンドシェイプを変え、低音の収音にシフトさせた設計とチューニングを施しています。

一方、イヤホンの場合は、中域はできるだけパーフェクトに、高音と低音でどう違いを出すかが工夫するポイントになります。構造上、一般的にダイナミック型は高音部分のチューニングが難しく、バランスド・アーマチュア型は低域部分が難しくなりますが、バランスド・アーマチュア型の方がより課題が多くなり、SE425はドライバーを2基、SE535は3基、SE846は4基積むことでバランスを取っています。しかし、単にドライバーの数を増やしたかったという訳でなく、それしか解決手法がなかったからです。ですので、コンデンサー型になり、ドライバー1基に戻ることができ、とても嬉しいんですよ。

R:他社の製品ですが、ドライバーを多数搭載する製品が発売されていますが、そういうアプローチはどう思いますか?

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マット氏:カスタムイヤホンの場合、構造上、遮音性のために仕方なくやっているところがあるのではないかと思います。SHUREの場合は、フォーム材が耳にフィットした状態での遮音性能は37dBくらいですが、他社の場合だと15~25dBくらい。その多くがプラスティック製なので柔軟性についても良好だとは言えないですよね。遮音性がないと犠牲になるのが低域の再現性で、その対応としてサブウーファーのドライバーを1基入れててしまうケースもあるんじゃないでしょうか。遮音がしっかり出来なく、耳の中でクローズドシステムを形成できないプラスティック製カスタム型の場合、多くのドライバーを積みたくなる気持ちもわかりますが...ロー、ミッド、ハイの3WAYシステムで、それぞれ用に3つドライバーを使っても出力は、わずか3dBくらい上がるだけ。サウンドにそんなに変化はありませんし、逆にインピーダンスが増えたり電流消費が増えたりするので、別の問題が発生してしまいます。仮にドライバーを20基入れるのが良い結果を生むなら、なぜヘッドホンに採用されないのでしょうか? ベターな解決ではないからだと思いますよ!

R:う〜ん、なかなか面白いお話ですね!では、出音のアタックについて。SHUREとしてこだわっているポイントはありますか?

ショーン氏:「各ポイントのコリレーション(相関性)を可能な限り高く目指す」ということでしょうか。アタックを均一にしつつも、帯域のバランスを保つというのが難しいんです。この解決手法にについては、コンデンサーマイク/イヤホンの調整手法の経験が活きてきます。そういう意味で、KSE1500はかなりパーフェクトに近い製品だと思いますよ!

R:アタックの均一化については、ダイヤフラムがより軽やかに動くものが有利?

ショーン氏:そのとおりです。ダイナミックの場合は振動系部分の質量が大きいため振動が制限されますが、コンデンサー型は質量が小さいので早く振動することが可能です。ヘッドホンでもスピーカーでも同じことが言えますが、トランジェントレスポンスの速さはコンデンサー型の製品が優れています。

R:以前では見られなかった風景ですが、レコーディングの現場で、録音した音のチェックにイヤーモニターを使うエンジニアさんがいます。イヤーモニター自体がハイスペック化し、フラットな音を再現できるようになったためだと思います。

マット氏:そうですね。再現性、遮音性共にいいので、レコーディングスタジオでも使いやすいと思いますよ。これからもっとそういう方は増えるでしょうね!

カスタム製に対するスタンス

R:ところで、SHUREがカスタム製をやらないのは、ブラックフォームイヤパッドを使うことで、カスタム製より遮音性を確保できているのでやらないということですか?

マット氏:重要なのは、製品の質に均一した一貫性を出せるかということ。SHUREでは製造にあたり厳しい要件をクリアする必要があります。ただカスタム製になると、耳の形状を筆頭に条件がかなりローカライズされるので、今の状況だとユニバーサル製のような一貫性を出せません。ブラックフォームイヤパッドの開発には2年かかりましたが、その前のイエローフォームイヤパッドは、遮音性は良かったのですがバラつきがあり、ブラックフォームイヤパッドほどの一貫性がありませんでした。ちなみにブラックフォームイヤパッドは、最初は「オリーブ」と呼ばれてたんですよ。「ブラックオリーブ」に似ているということで(笑)。

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歴代のフォームイヤパッドは出張先でも携帯中とのこと!

R:ここ何年かでフィルターが追加されたりしましたが、こうした細かい改良は他のアクセサリーでも行われているのでしょうか?

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ジャック部分にも、接触性/耐久性において絶え間ないアップデートが施されている

マット氏:改良の努力は市場の声を聞いてコンスタントに続けています。ブラックフォームイヤパッドの場合はここ10年間で、内側の部分を7回ほど改良してます。SE215の場合、サウンドクオリティーや心地良さを維持していくことが大切なので、持続的に製品を提供しつつも、耐久性を中心に改良していますよ。そう、SHUREにはSHURE AUDIO INSTITUTE( https://www.shure.co.uk/support/shure_audio_institute )というプログラムがあり、イヤホンに限らずオーディオ技術に関して様々な啓蒙や教育プログラムを実施しています。ぜひ、チェックしてみて下さい!

R:今日は大変ありがとうございました!

Shure Incorporated
www.shure.com

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    記事内に掲載されている価格は 2016年12月12日 時点での価格となります。

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