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インタビュー
09
Mar.2020
インタビュー

u-he CEO / Urs Heckmann氏 Interview

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予想外の結果をもたらした「幸運」を裏付けるのは

SUPERBOOTH19 の閉会後の昼下がり、西ベルリン屈指のハイソなエリアWilmersdorfer str にオフィスを構えるU-he 社を訪問した。高級アパートの大きな2 部屋を繋げたオフィスにはおびただしい量のヴィンテージシンセサイザーや最新のモジュラーシンセだけでなく、社員用のキッチンやサウナにトレーニングマシンも完備。着いた瞬間に「ここに住みたい…」と思わせてしまうそんな夢の空間にて、明晰な頭脳とチャーミングな人柄で社員に愛されるCEO のUrs Heckmann 氏にインタビューを行った。

始まりはJean-Michel Jarre – Oxygen2。


Rock oN(以下R):シンセサイザーに興味を持ったきっかけを教えてください。

Urs Heckmann(以下U): 最初はシンセサイザーそのものよりもシンセサイザーを使った音楽に興味を持ちました。それはSPACE1999 というTV 番組で流れたJean-Michel Jarre のOxygen2という曲でした。SPACE1999 はMartin Landau という有名な俳優が出演していたんですが、放映していたのは1975 年くらいで私は当時 6 歳だっと思います。その音楽を聴いた時に非常に心惹かれるものがあり、その時からジャンミセルジャールの音楽のファンになりました。ただ当時はもちろんそれがシンセサイザーで作られているということやシンセサイザー自体が何なのかも知りませんでした。

13 歳になった時に誕生日プレゼントとして楽器かコンピューターを買ってやると言われました。結果私はコンピューターを選びました。それがCommodore 64 です。Commodore 64 にはシンセサイザーチップが入っていたので、結果として楽器も兼ねることを私は知っていたんです(笑)。それがシンセサイザー音楽にのめり込むキッカケとなりました。それから私はコンピューターでシンセを使うためのプログラミングを学びました。プログラミングにのめり込むうちに私はコンピューターゲームの音楽を作るようになり、十代の頃からそれで少しお金を稼ぐようになっていました。貯めたお金で私にとって初めてのシンセサイザーであるCASIO CZ-1000 を買いました。また当時私の通っていた学校にもRoland SYSTEM-100M Sequencial Circuits Pro-One が置いてあったのでそれも良く触ってハードシンセに馴染んでいきました。

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U-he のオフィスがあるのは西ベルリン・Wilmersdorfer str、その内部もデザインされた空間だ。

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R:CZ-1000 はPD 音源でデジタル、そしてSYSTEM-100M とPro-One はアナログでしたが、当時から違いは認識していましたか?
U: 違うとうことは分かっていましたが、具体的にどう違うのかは分かりませんでした。実は今もアナログとデジタルの違いには頓着していません。数年前にアナログブームがありましたがその時もデジタルのモジュラーシンセなど面白いものが沢山ありましたので、私の中で特に区別していませんでした。私のシンセサイザーの原体験はCommodore 64 によるプログラミングでしたし、いまにつながるソフトウェア開発のプログラミングもその時に学んでいきました。音楽にも没頭していましたが私はピアノを弾いたことも学んだこともありませんでした。キーボードは持っていましたが私は怠け者だったので練習したことはありませんでしたね(笑)。

人生の選択が偶然音楽につながる


R:音楽の道に進むことも考えていましたか?

U: いえ、まったく。しばらくして進路を決める時期になりました。私は音楽ではなくコンピューターサイエンスか、もしくは絵を描くのが好きだったのでアートにしようと思いました。どっちにしようか考えた結果、中間をとってインダストリアルデザインの道に進むことに決め、美大のインダストリアルデザイン専攻に進みました。当時私が通っていた学校には広告系の企業がインターンを募集しに来たりしていて、そういった企業と接触がありました。私の周りにも広告系に進みたい友人が何人かいて、彼らはビデオアートやCM を作っていました。私は彼らに頼まれて音楽を作っていたら、いつの間にか美大の中で音楽担当のようになっていました。

なおかつ90 年代のデザインの勉強はインターネットのデザインが重要視されており、Web デザインの授業も多くありました。私は元々プログラミングを学んでいたので、ほかの学生よりも初めから知識があったため周りの友人からWeb 開発をやってくれと頼まれるようになりました。こうして私は音楽とプログラミングから離れて美大に来ましたが、結局音楽とプログラミングに明け暮れたのです(笑)。

その活動が嵩じて2000 年にポツダム広場にSONY センターがオープンする時に行われた、musicbox というアートインスタレーションに参加することになりました。

musicbox というのは楽器が集まった小さなテーマパークのようなものでした。たとえば流れている水に来場者が手をかざすとそれがトリガーになってシンセサイザーが鳴ったりというような、色々な音楽にまつわるインタラクティブな作品が展示されていました。私たちが作ったのは、スタイル、質感、密度、テンポなどの5 つのパラメーターを持ったスライダーを動かすことで自動的にPOP ミュージックを生成するプログラムでした。プログラムはmac 上で動作し、YAMAHA のMU128 か何かのシンセサイザーを鳴らす仕組みになっていました。

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ELKA SYNTHEX
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MINI-KORG 700, System-100M
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MEMORYMOOG

乗れ、Audio Unit のビッグウェーブ!!


学校を卒業するころには私はインダストリアルデザイン、プログラミング、そして音楽を学んだことで、自分のソフトウェアを作れるようになっていました。そして同じ時期にSteinberg のVST が進化してきていたことで、私はこのVST フォーマットに則れば大きな会社じゃなくても自分だけでシンセサイザーソフトウェアが作れると感じました。そこから2 年間にわたる最初のVST フォーマットのシンセサイザー作りが始まりました。

そしてこの最初のVST シンセが完成する前に、市場ではさらに重要な動きが起こります。2002 年にmac OSX が登場し、AU(Audio Units) が発表されます。その時に私はAU にとても興味を持ったので、自分で作っていたシンセをAU 対応にすることにしました。

当時市場ではAU についてあれこれ議論がありましたが、私はいち早くGUI ツールキットを開発しました。そうして完成したのがZOYDというシンプルなモノフォニックのシンセサイザープラグインでした。

これはフリーでリリースしました。その当時、Native Instruments や Arturira といった企業もまだAU 対応のシンセを出していなかったので、巷ではZOYD が唯一のAU 対応のシンセの一つになりました。他にNovation なども作っていたと思います。ZOYD は反応が良かったので、ポリフォニック版に改良してZebra というシンセをすぐに作ったところApple がこれを気に入り、オフィシャルのプロモーションを掛けてくれたんです。

Zebra がOSX ユーザーの唯一のポリシンセだったこともあり非常にヒットしました。この時私はポツダムの大学でアシスタントの仕事をしていましたがそれを辞めて、シンセ開発に本気で取り組むことを決意しました。

R:ZOYD 作成時にすでにU-he という名前でリリースしたんですか?

U: そうです。2001 年に自分のweb サイトを作った時に短いドメインを考えていたんですが、私の名前であるUrs Heckmann をただ単に略してU-he と記載したのがそのまま定着してしまった感じです。

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廊下に飾られていたのはHans Zimmer から贈られたというmini moog model D。

まさかのゴッサムシティ!! Hans Zimmer との出会い


U: Zebra は大きな成功を収めて、のちにWindows 版やVST 版も開発しました。そして2006 年ごろに私はZebra2 を開発しました。Zebra はワイヤレスモジュラーシンセをコンセプトにして作り上げていたんですが、ここで二度目の幸運が訪れます。ある時作曲家の Hans Zimmer から突然メールが届きました。それは彼が次回の作品でシンセはZebra2 のみを使うという内容でした。もちろんストリングスなどのオーケストレーションは使うのですが、作曲やポストプロダクションではひとつのシンセに集中して作りたい、そしてそれが Zebra2 だというのです。またそれにあたり、Zebra2 を使いこなすサウンドデザイナーを紹介して欲しいと言われたので、Zebra2 のサウンドを作っていたHoward Scarr を紹介しました。すぐにHowardはLA に飛び、Hans Zimmer との共同作業がスタートしました。そうして完成したのがDARK KNIGHT のサウンドトラックなのです。あれは100%Zebra2 で作られています。
Zebra2詳細はこちら

その後Hans Zimmer からまた連絡があり、Zebra2 はアナログのエッセンスを取り入れたらもっと良くなると言われ、これで研究しろとばかりにいきなり彼が所有するMOOG minimoog model D が送られてきたんです。実はいまだに返しておらず今後も絶対返す気はありません(笑)。私は冒頭に言いましたがアナログとデジタルを大して区別していなかったのでアナログエミュレーションに興味はありませんでしたが、実際にminimoog の音を聞いて研究したところ、確かにソフトウェアシンセサイザーはまだまだこの域には達していないと感じました。そこで今ここに置いてあるような様々なアナログシンセを買い漁り研究を重ね、Diva を開発しました。Diva はminimoog やJupiter、Oberheim をインスピレーションにしています。

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R:確かにDiva のサウンドは衝撃でした。プリセット一つ目のシンセブラスでみんな度肝を抜かれたと思います。Diva と実機のブラインドテストの動画が一時期話題でしたが、ほとんど誰も答えが分からなかったと思います。

U: ありがとうございます。Hans はDiva のサウンドを気に入ったようで、すぐにZebra2 を使ってDiva のサウンドを使いたいという新しいリクエストが来ました。なので私はある提案を持ち掛けました。それはHans の為にZebra2 にDiva のフィルターを組み合わせた特別バージョンを作るので、Dark Knight で作成したサウンドを提供して欲しいと言ったんです。彼は快諾し、Dark Knight の続編であるDark Knight Rises(Dark Knight Rising)はZebra2 のスペシャルバージョン(ZebraHZ)で制作されました。Dark Knight で使われた400ものサウンドが彼から提供されたので、私たちはそれをZebra2 の追加サウンドセット「Dark Zebra」として発売しました。映画音楽のプロデューサーを中心に非常に受け入れられました。
Diva詳細はこちら

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プロダクトのインスピレーションとなるソフトウェア研究開発用のモジュラーラック。

モンスター級アナログサウンドの秘密に迫る!!


R:アナログサウンドへの造詣が深まったあなたは次にどこに向かったんですか?

U: はい、Divaを作った時はHans の要望であったアナログ特有のオーガニックなフィーリングや温かみ、スムースさ等の魅力をデジタルシンセに加えるという目的でしたが、Diva が普及するにつれてコアなユーザーから「アナログシンセの魅力はメロウな質感だけではない。もっとハーシュな音や破綻したような極端なサウンドもアナログシンセの魅力なんだ」という意見が出てきました。これはDiva のコンセプトとは異なるものだったので、新たな製品を開発することにしました。そうして生まれたのがRepro です。

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R:DIVA やRepro はコンポーネント・レベル・モデリングのシンセサイザーですが、モデリングの技術はどのように開発したんですか?

U: アイディア自体は特に新しいものではないんです。1970 年代からあるサーキットエミュレーターの一種です。特に違いがあるのはフィルターとオシレーターだと思います。デジタルフィルターというのは1980 年代から2000 年代初頭に掛けてコンポーネント・モデリングではなくてアブストラクト・モデリングを使っていました。電子回路をそのまま変化させるのではなく、フィルターに似た数学モデルを作ることで理論的に動かしていたんです。デジタルローパスフィルターのアイディアは低い周波数を通して高い周波数は通さないというものですよね。コンポーネント・モデリングはレジスターとキャパシター 一つ一つを模して動作させている。昔はこの動作をリアルタイムにできませんでしたが、今はコンピューターの処理速度が上がりできるようになりました。

簡単に言うと、デジタルフィルターというのは動きが決まっていて数式、理論の通りに動作します。しかし本物のシンセサイザーを目指して作るアナログフィルターは、部品の状態やその時の状況によって動作が異なり理論通りには動作しません。なのでコンポーネント・モデリングはその振る舞い(不完全性)を再現する為に複雑な処理が必要になり、コンピューターのパワーが必要だったのです。実はアナログの音を再現する際には数字上のことや理論上のことはあまり重要ではなく、実際のユニットがその時々でどう振る舞うかがもっとも重要です。
R:REPRO と言えばカーティスチップのモデリングはどのように?

U: カーティスチップの特許はもう期限が切れていたのでチップそのものがどのような構造なのかは情報が公開されており、大変ではありませんでした。

REPRO詳細はこちら

U-he の最新作となるHIVE 2

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R:なるほど、ではワイヤレスモジュラーシンセのZEBRA、アナログモデリングのDIVA やREPRO に並ぶU-he の代表作、ウェーブテーブルシンセのHIVE について伺います。

U: HIVE はDIVA とREPRO の間に開発した製品ですが、実はDIVA開発後の気分転換のつもりでHIVE を作りました。どういうことかというと、DIVA はご存知の通り非常にパワフルでCPU 消費量も多いシンセでしたが、同時に開発にあたる我々の想像力の消費量も非常に大きかったので、完成後にブレイクが必要でした。なのでHIVE は完全なるデジタルシンセで、マニアック過ぎずに気軽に扱えるシンセを目指しました。HIVE 完成後にはREPRO を2 年間かけて開発し、その次にHIVE2 作ったのでアナログ物とデジタル物を交互にリリースしている感じですね。次のプロダクトは、、秘密です(笑)。

R:そうですか!次回のプロダクトを聞きたいところでしたが!(笑)、では将来の展望を教えて下さい。

U: このインタビューで一番難しい質問が来ましたね!う〜ん、そうですね、正しい答えになっているか分かりませんが、私たちはマーケティング・ドリヴンの会社ではなくデヴェロッピング・ドリヴンの会社だということにプライドを持っています。ただ売るための商品ではなく自分たちが本当に良いと思ったものを作っているので、商品を世に出すときは社員が全員が100% 納得した状態でリリースしています。世の中でこういうものが流行っているとかそういう動機では商品を作っていません。それがありがたいことに皆さんに受け入れられて使っていただけるのが嬉しいです。この状態を維持したいと思っています。

R:最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

U: アリガトウ(日本語)。ソフトウェアが日本語対応になっていなくてごめんなさい!自分が始めた時にはまさか日本の皆さんにこんなに受け入れて貰えるなんて夢にも思っていませんでした。Unicode 対応を今急いでいますので待っていてくださいね。

R:ありがとうございました!

HIVE2詳細はこちら

Jean-Michel Jarre は計り知れない影響を音楽産業にもたらした。U-he もその一つだ。ある時はAudio Unit プラグインの一線に躍り出たり、またある時はHans Zimmerとの出会いから映画音楽やアナログサウンドに接近したり。Urs Heckmann がキャリアの分岐点で下した様々な選択は常に予想外の結果をもたらした。本人は「幸運」と言う言葉を頻繁に使っていたが、その裏には純粋な好奇心で始めたCommodore 64 のプログラミングやアートの原体験とそれを習得した努力があった。Urs Heckmann が開発主導の精神を貫く限り、この先も新たなセンセーションが起こるべくして起こるだろう。

Interview by ACID渋谷

※この記事の内容は2019年に行われたインタビューで、Proceed Magazine 2019-2020 NO.21号に掲載されたインタビューより抜粋しました。

記事内に掲載されている価格は 2020年3月9日 時点での価格となります。

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