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昨年12月に発表されたRock oN Award2022で、Instruments HARDWARE AWARDを受賞したRoland SP-404MKII。
その受賞の報告を受けて、開発担当者である白土健生氏とPeter Brown氏より、コメントを頂きました。
SP-404MKII 開発ヒストリー
ローランド株式会社
この度はRock oN AWARD 2022 受賞、ありがとうございます。
良い機会ですので、SP-404MKIIの開発に関わるお話をしたいと思います。
開発担当者 白土健生 氏「SPシリーズのように既に多くのファンを持つ製品の新機種開発に取り組むことはとても難しいことです。白土健生、Peter Brownを中心としたSP-404MKIIの開発チームは、世界的な広がりを持つSPコミュニティとの革新的な融合を経てSP-404MKIIを実現しました。」
現在もDJとしての活動を続ける開発担当者の白土氏は、学生時代から熱狂的なSPユーザーでもありました。
MadlibやJ Dillaらのレコードを収集し、自らもSPでのビートメイクにのめり込んでいきます。そしてFlying Lotus, RAS G, DIBIA$EらLAビートシーンの実験的で革新的なビートに大きな影響を受けることになります。
こうしたビートシーンがサブカルチャーからメインストリームへと移り変わっていく過程で、SNSでの「#SP」が劇的に増加し、SPコミュニティが形成されていきました。
白土 氏「SP-404MKII開発にあたり、私の使命は機能を追加し、使いやすさを向上させることだけではありませんでした。SPが培ってきたカルチャーを尊重し、私自身の経験も活かして次世代のビートカルチャーに向けて成長できるようにしたいと考えました。」
SP-404の発売から16年が経過し、コミュニティには膨大な情報が存在していました。白土 氏を中心とした開発チームは初期段階でコミュニティにあるほとんど全ての投稿をチェックし、ユーザーが求める機能改善やアイデアをまとめ、分析しSP-404MKIIに組み込んでいったのです。
白土 氏「最も難しかったのは、SP-404の基本的なUIとワークフローを維持することでした。機能を大幅に拡張しつつ、ワークフローをこれまでのSPシリーズ同様に直感的にするには多くの課題がありましたが、改善を重ねながら、シンプルさを犠牲にすることなく一つ一つ解決していきました。」
OLEDディスプレイ
白土 氏「SP-404SX/Aのサンプリングワークフローは非常に簡単で、ユーザーから高い評価を受けていました。ただし、インポート後にサンプルを編集するのは簡単ではありませんでした。SP-404MKIIではOLEDを採用することで波形の編集、エンベロープポイントとチョップポイントの設定、パターンの編集が視覚的に可能になりました。これにより多くのユーザーが高度なスキルを必要とせずに、SPを楽しむことができるようになりました。
また、これによりユーザーは最大16のプロジェクトの、オープニングスクリーンとスクリーンセーバーをカスタマイズできます。アーティストの名前やロゴをカスタマイズすることで、製品にオリジナリティを与え、愛着も感じると考えました。この機能は、長年培われてきたSPのカスタマイズ・カルチャーに貢献できると考えています。」
新たなエフェクト
白土 氏「新しいエフェクトには、Peterのアイデアが多く含まれています。私たちはエフェクト開発にあたり、それがどのような音楽ジャンルに適し、どのような効果を生み出すかについて議論します。
例えば、現代のヒップホップにおいて、Lo-FiやCassette Simulatorなどの暖かみを与えるエフェクトは欠かせません。そこでSP-303で人気だった303 Vinyl Simulatorを復活させました。
2000年代半ば、エレクトロニカとヒップホップが融合し、Prefuse 73のようなIDMヒップホップが生まれました。こうした実験的なビートを作り出すエフェクトとしてResonator、To-Gu-Ro、Ha-Douなどがあります。」
開発担当者 Peter Brown 氏
「DJFX Looperのように、ほとんどすべての人が使用する傑出したエフェクトもあります。私たちは、新しいアイデアと以前のアイデアを組み合わせてブラッシュアップし、さらにローランドの他の楽器からも優れたエフェクトを追加しました。
SPコミュニティの多くは、それをエフェクトボックスとしても考えているため、その期待に応えたいと思っています。SPチームは若くて冒険的で、常にユニークなことを試してみたいと思っています。」
SKIP BACK SAMPLING
白土 氏「Skip Back Sampling, Pattern Chainなどの機能は、ユーザーからの要求ではありませんでした。これらはアーティストからのフィードバックに基づいて、開発プロセスの後半で追加したものです。
SP-404MKIIのプロトタイプが完成すると、Flying Lotus, DIBIA$E, Just Blaze, Ski Beatz, Lightfoot,など世界中のアーティストからのフィードバックにより、MKIIはさらに進化しました。これらのアーティストはSPカルチャーに非常に影響力があり、私はとても感謝しています。彼らがいなければ、MKIIはこのレベルにまで進化しなかったでしょう。
アーティストからのフィードバックは非常に肯定的でしたが、よりカジュアルでPCを起動せずにアイデアを保存する機能の要求がありました。そこでサンプリングを簡素化し、さらにSPを使いやすくするために、SKIP BACK SAMPLINGを追加したのです。」
BUS FX
白土 氏「ユーザーの中には、複数のSPを使用している方もいます。SP-404SXの後にSP-303を接続して、複数のエフェクトを使用するというのが多いです。たとえば多くの場合、DJFX LooperなどのパフォーマンスにはSP-404SXを使用し、SP-303はVinyl Simulatorやコンプレッサーなどに使用されます。BUS FXにより、こうした組み合わせが1台のSP-404MKIIで可能になりました。最大 4系統のエフェクトを使用できますが、ノブは3個なので、Peterと私はワークフローの開発で試行錯誤を繰り返しました。
BUS FXの開発には、私自身のDJとしての経験も影響を与えました。私はDJのプレイ中にDUBエフェクトで、EQ、Filter、Delay、Reverbを組み合わせることがよくあります。私はDUBのレジェンドであるKing Tubby や Lee Perryを想い開発に取り組みました。複数のエフェクトを使用することで、パフォーマンスを広げ、オリジナル曲とは違うフィーリングを作り出すことができます。そしてこれは思いもよらない発見へとつながることが少なくありません。」
Peter Brown 氏「大きな課題は、一度に複数のエフェクトを使用する機能でした。私たちはこの方法を議論し、多くの時間を費やしました。エフェクトが多くのSPユーザーにとって重要な機能であることはわかっていましたから。そして、アナログ・ミキシングのデスクと技術者からインスピレーションを得て開発を進めました。BUS毎に異なるエフェクトをアサインしルーティンできるようにし、ユーザーが切り替えるにはBUS FXをタップするだけです。また、BUSのルーティングをシリアルからパラレルに変更することもできます。」
白土 氏「10代、20代の頃は毎日のようにレコード店に通い、週末にはクラブで踊ったりDJをしたり、音楽漬けで刺激を感じていました。その時の気持ちは今も脳に焼き付いています。
正直、年々感覚が鈍くなり、あの頃と同じ気持ちを体験するのは難しいですが、今まで経験したことのない新しい文化や音楽に出会うことのインパクトを感じたいという思いは、今も変わっていません。それは死ぬまで変わらないと思います。
SP-404MKIIという楽器を通して,お客様が,今まで経験したことのない新しい文化や音楽に出会うきっかけになれば,嬉しい限りです。」
いかがでしたか。
SP-404MKII誕生には、これまでのSPブランドを継承するだけでなく、白土氏をはじめとする開発スタッフの音楽体験が強く反映され、より使いやすく、同時代のアーティストのニーズに沿った製品にしたいという熱い想いが込められていることを改めて知りました。
今なお世界中にいる多くのユーザーにSP-404MKIIが支持され、愛され続けているのもそうしたユーザーフレンドリーな視点が盛り込まれ、誰でもどこでも気軽にサンプリングによる音楽制作を楽しめる製品であるからでしょう。
さらに進化したSP-404MKIIが、新たな音楽やムーブメントを生み出していくことを祈念してやみません。
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記事内に掲載されている価格は 2022年2月10日 時点での価格となります。
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