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光テルミン、リングモジュレーターにオートワウ。そしてブザーや電球、扇風機…?果てはアロマランプにホワイトボードに自走するものまで。音大の非常勤講師なども勤める電気音楽家 米本 実氏が開発を進める「SYSTEM-Y」とは一体何なのか?
※本記事はProceed Magazine 2017 Spring 号に掲載されたものです。
奇想天外こそがSYSTEM-Yの魅力
「SYSTEM-Y」とは一体何なのか?この問いに一言で答えるのは難しいが、SYSTEM-Yは紛れもなくモジュラー式シンセサイザーである。
アナログ電子楽器を同期させるCV等の電気信号パルスを引き伸ばす【001: パルス・ストレッチャー】から始まったSYSTEM-Yのモジュールは、ゲルマニウムダイオード4本の整流回路を使ったパッシブの歪みエフェクター【014: ぜんぱりん & はんぱりん】や8チャンネル、8ステップのゲート・シーケンサー【110: TACHO 8】など楽器として使えるものももちろんある。しかし、開発初期の段階から増えているのが奇想天外ともいえるモジュールたち。
例えば、ソーラーパネルで2v 250mAの電源を生む【005: Mr.ソーラー】や、マブチモーターを搭載したプロペラユニット【007: MOちゃん】など、今では167あるモジュールのほとんどがいわゆる楽器的なものではない。ただし、アンプ内蔵スピーカーと繋いだMOちゃんのモーターを手で回すとその電力を受けてスピーカーが鳴る。つまりこのプロペラは音源にもなるということだ。このように、SYSTEM-Yはいわゆる楽器としての役割以外に、ケーブルでモジュール同士を繋ぐことで電子回路の実験ツールとなるのだ。
米本氏はSYSTEM-Y 他の自作電子楽器を使って音楽イベントでライブを行うかたわら、子供を対象としたワークショップを精力的に行っている。AI時代に求められるクリエイティブな人材を育成する方法として、2012年頃から「アクティブラーニング」という言葉を聞くようになったが、SYSTEM-Yの秘めた力をこのアクティブラーニングというキーワードで解いていきたい。
? と !が生まれる遊びの場
TVのリモコンのボタンをスピーカーにつながった【046: リモコンキャッチャー(赤外線リモコン受信モジュール)】に向けて押す。するとリモコンの赤外線信号のパルスを音で表現することができる。「押すボタンやメーカーによって音が違う!」「赤外線はどこまで届くの?」子供達は不思議を感じそこから好奇心を生み出す。そうなれば次はモジュールを繋ぎ替 え、リモコンで豆電球を光らせたりモーターを回してみたくもなるだろう。この好奇心が「アクティブ・ラーニング」。つまり学ぶ者が自ら学びを深めていく能動的学修の始まりである。
不可視の赤外線や電気の存在を光、音、モーターを使った動力として見せてくれるSYSTEM-Yは、タッチパネルで楽しむ教育アプリと比べて圧倒的に「生」な実体験を提供することができる。この実体験が経験をより豊かなものにし、豊かな思考に変えてくれる。
例えば、モジュールの一つに【077: マイコンゲーム “BLUEFORMURA”】というものがある。縦横 5 × 3 個のLEDの光で遊ぶレーシングゲームなのだが、走行中は常に「走行音トリガー」から信号が供給されている。この信号を音源ではなくモーター & プロペラユニットの【007:MOちゃん】につなぎ、そこから分岐させてスピーカーに繋げば、プレイ中はオープンカーのごとくプロペラからの風を受け、エンジンに似たモーターの回転音をスピーカーから聞きながら走ることができる。ローテクでアナログ感極まりない遊びだが、視覚(Visual)/聴覚(Auditory)/触覚(Kinestic)といった心理学ではVAKモデルと言われる「五感を3つの代表的なモデルに分類したもの」を全て満たした体感を得ることができるのだ。
抽象度の高い学び
2020年から小学校で必修科目となったプログラミングの教室や、それと併せてメカトロ入門のロボット教室といったワークショップはすでに多く存在しているが、SYSTEM-Yもそれらと同じ教材なのかというとそれは違う。塾の教材は学習のための材料だが、SYSTEM-Yで遊んだ結果に正解 / 不正解はない。
タッチパネルの教材で、仮想モジュールの命令を実行してキャラクターを動かすのもいいが、SYSTEM-Yのシーケンサーでジューサーミキサーをリズミカルに回して楽しくジュースを作ってみたらどうだろうか。SYSTEM-Yのモジュラーシステム自体がプログラミングやロボットを包括しているため、子供たちは一つ高い抽象度の学びができるのだ。この高い抽象度での好奇心や発想がアクティブラーニングでしか得られないものなのである。
好奇心のDNA
米本 氏は幼少期、物心つく前からものを作ったり音を鳴らすことが大好きだったという。その人となりはレコードプレイヤーで音を楽しみながら回転するターンテーブルの動きにも魅了されていたというエピソードに現れている。小学3年生の頃からスターウォーズ→インベーダーゲーム→ディスコ→YMOという流れで電子音と近未来なメカの世界観にどっぷり浸かっていった米本少年。そこに家電修理人”山内さん”との出会いが加わり自作シンセサイザーの道を開く。
このエピソードを知り、私はSYSTEM-Yはかつて米本少年が抱いた好奇心が具現したものなのだと気付いた。銀色に輝く奇妙でワクワクする電子メカこそが米本 氏のアクティブラーニングの賜物なのだ。
SYSTEM-Yのモジュールは今後も増えていくとのこと。仲間の二見信洋氏、熊秀創吉氏と共に開発は続く。米本氏の止まらない好奇心や遊び心は形を変え子供達に伝わりさらに進化する。「労働よりも創造が求められる」と言われるAI時代に必要とされるクリエイティビティを彼らが育んでくれることを祈っている。
Writer. IH富田
記事内に掲載されている価格は 2017年5月5日 時点での価格となります。
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