2019年3月にマスタリング・エンジニアの森﨑雅人氏がスタジオを新しくオープンされたということで取材させていただきました。
マスタリングにおいて重要な機材の1つであるモニタースピーカー。時には「磨かれた鏡」にも例えられ、エンジニアの作業結果を1点の曇りなく映し出すことが求められる大事な機材ですが、森崎氏がチョイスしたモニタースピーカーはADAM A7Xでした。A7Xは音楽制作やミックスダウンを主目的にした人気のニアフィールドモニターで、弊店では発売以来コンスタンスに売れ続けているモデルですが、さらに微細な再現性が要求されるマスタリング作業に置いて、森崎氏がA7Xをチョイスしたことは、正直、少し意外な印象を持ちました。「もっと大きなサイズで、高価なハイエンドモデル」じゃなくても大丈夫? そういった疑問を確認するため、森崎氏にA7Xを選んだ訳をお伺いしてみました。
1970年6月生まれ
音響技術専門学校を卒業後、1995年音響ハウスに入社。バンドもの、アーティストもの、劇伴、CM音楽など、あらゆる録音現場を体験し、スタジオワークを習得する。そのレコーディング・エンジニアの修行中、運命的に出会ったのがトム・コイン氏のマスタリングだった。その音を初めて体感した時の感動が抑えきれず、マスタリング・エンジニアへの転向を決意する。
2000年にサイデラ・マスタリング入社し、マスタリング・エンジニアとしてのキャリアをスタートさせる。サイデラ・マスタリングでは17年間チーフ・エンジニアを務め、2018年10月からタイニーボイスプロダクションに所属する。トム・コイン氏がマスタリングを担当したDOUBLEのアルバムcrystalを10万回以上聴きこみ、独学でマスタリングの技術を習得した異色の経歴の持ち主。
[過去のマスタリング参加アーティスト]AI / BIGBANG / BlueVintage / CHARA / Creepy Nuts (R-指定&DJ松永) / Crystal Kay / CYBERJAPAN DANCERS / Da-iCE / Def Tech / DJ EMMA / iKON / MACO / MADE IN ABYSS / mihimaruGT / Ms.OOJA / Nissy(西島隆弘) / Psycho le Cému / RIP SLYME / SOIL & “PIMP” SESSIONS / TEE / Tommy february6 / TOWA TEI / 大原櫻子 / シェネル / ナオトインティライミ / やなぎなぎ / 玉置浩二 / 三浦大知 / 松崎しげる / 湘南乃風 / 水曜日のカンパネラ / 難波章浩 / 和田アキ子 / 槇原敬之 (敬称略)
Rock oN : 森崎さんが普段マスタリング作業を行なっているスタジオ 「ARTISANS MASTERING」( https://artisansmastering.com/ )のメインモニターとしてADAM A7X導入を決められた経緯とその理由をお聞かせください。
森﨑雅人 氏 : スタジオの新設に伴い、どのようなモニタースピーカーを導入すべきかを色々検討していました。このスタジオはほんの少し初期反射がある心地よい響の部屋なので「もしかしたらラージモニターは必要ないかも」と内心思っていました。スモールモニターにはYAMAHA NS-10Mを導入しようかと検討してましたが、昨今、ハイレゾ音源が多い中、高域再生周波数の上限が20kHzの製品を使うことには少々懸念がありました。そんな中で私が所属するTinyVoice Production( http://www.tinyvoice.com/ )の代表・今井了介が「試しにこのスピーカーをスタジオで聴いてみてください!」と持って来て下さったのがADAM A3Xでした。実際に鳴らしてみたらとても印象が良かったんです。私は「この出音ならマスタリングで使える」と直感しましたが、後方のクライアント席での試聴環境を考慮し、もう少しパワーがあるA7Xに決定しました。
Rock oN : ADAMの製品について、一番評価した点は何でしたか?
森﨑雅人 氏 : 音の立ち上がりの早さですね。私はマスタリングの時にトランジェントの聴こえ方をとても重要視していますので。生演奏の柔らかく、抜けがいい音を正確に再現するためにはとても大切な要素です。J-POP、ヒップホップ、R&Bだけでなく、クラシックやアコースティックな弾き語りのような音楽でも、トランジェントが聴こえないと音が鳴る瞬間と消え際の細かいニュアンスまで分かりません。また高域の聴こえ方も嫌なピークがなくとてもスムーズです。シンバルなど痛くなくハイエンドまでスッと抜けてきます。A7Xは2Wayですが、ウーハーとツイーターのつながりがとても良く、まるでフルレンジのスピーカーを聴いているような印象を受けました。他にもいくつかのスピーカーを聴き比べてみましたが意外にも鳴りが地味だったりして、この部屋との相性も考慮した結果、最終的にA7Xに決めました。
Rock oN : A7Xには「X-ARTツイーター」が搭載されていることが特徴ですが、以前使われていたスピーカーと比べてみて、高域の印象はどうですか?
森﨑雅人 氏 : 素晴らしい再生能力を持っていると思いました。EQの0.01dB、0.1Hzの違いまで、聴き分けられるぐらい解像度が高いです。特に歪みについては抜群に分かりやすいです。あくまでも僕のイメージですが、音楽における「歪みの具合」は料理に例えるなら火加減」と似ています。焼きすぎると料理が焦げてしまうので一番美味しいタイミングで火を止めないといけません。音も同じく、ジャンルによっては歪むギリギリのところが躍動感ある魅力的な音になるのですが、A7Xはこの微妙なタイミングを正確に判断できます。スピーカー自体の歪みが少ないので、音楽的に意図して付加したハーモニックディストーションを正しく再現してくれます。だから安心して限界まで攻められるスピーカーですね。
Rock oN : サブウーファーは必要ないですか?
森﨑雅人 氏 : 結論からお話ししますとサブウーファーは必要ありませんでした。このスタジオはスピーカー後方のクロスの裏側にブロックが積んであり、低域を上手に反射するように設計されています。そのため低域については通常の吸音処理を施されたスタジオのA7Xより、おそらく2割から3割増しぐらいに聴こえると思います。初めてこのスタジオを訪れた皆さんはローエンドの鳴りにビックリされますよ。
Rock oN : 確かにこのスタジオのA7Xの鳴りは最高ですね! A7Xの持つポテンシャルが最大限に引き出されていると思います。
森﨑雅人 氏 : ありがとうございます。特にボーカルとローエンドの分かりやすさには自信があります。マスタリングの作業では声の質感とキック、ベースなどローエンドの調整が特に大切です。この二つがハッキリ聴き分けられなければ、確認と調整に時間がかかりスムーズに作業が行えません。音の違いが分かりにくいと、どうしても音量を上げてしまい、直ぐに耳が疲れてしまいますので。A7Xを導入してから、今までならミリ単位までしか追い込めなかったのがマイクロ単位まで追い込めるような、より精度の高いマスタリングが出来るようになりました。
Rock oN : 自宅スタジオ用にA7Xを導入する場合、オススメの使い方を教えて下さい。
森﨑雅人 氏 : ADAM A7Xに限ったことでなく、すべてのモニタースピーカーに当てはまることですが、スピーカーケーブル、ラインケーブル、電源ケーブルの長さやブランドは必ず左右で揃えます。またスピーカーの間隔や壁からの距離、高さをメジャーなどできちんと計測しながらセッティングすることをお勧めします。またA7Xはフロントにバスレフポートが付いていますので比較的壁に近づけても大丈夫なので、使いこなしは楽だと思います。さらにスピーカー背面には低域/高域、ツイーターレベルを調整出来るツマミが付いていますので、音のバランスが気になったらこちらを使って微調整をしてみて下さい。最後に、私が一番効果があると思ったことはツイーター、ウーファーのネジ締めです。A7Xを導入して2ヶ月くらい経ったら音のフォーカスが少しぼやけてきましたが、きちんとネジを締め直したら輪郭がはっきりした音に戻りました。長い間、そのまま使っている場合には、ぜひネジの締め具合を確認してみてください。
メーカーHP
ADAM AUDIO / 総輸入代理店 SONIC Agency Inc.
https://www.adam-audio.jp/
ARTISANS MASTERING
https://artisansmastering.com/
記事内に掲載されている価格は 2019年12月6日 時点での価格となります。
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