NEUMANN NDH 20
YAB様の普段の作業の中で、ヘッドフォンはどういった場合に使用していますか?
YAB氏 (以下 敬称略):私がヘッドフォンを最も使うのは、レコーディングのモニター、ミキシング前の整音でノイズに集中したい時、そして最終チェック時です。
特に重宝するのは最終チェックの時で、ミキシングとマスタリングの作業自体は全てスピーカーで行うのですが、マスタリングをスピーカーで詰めきった後、最後にヘッドフォンでチェックを行います。
理由は2つあって、1つは楽曲を聴いてくださるリスナーさんに近い環境での音を把握したいというのと、もう1つはスピーカーを通して自分が気持ちいいと感じる音を作ってきたという作業に対し、一度リセットして客観的に楽曲を見直したいという理由です。
最終チェックではフレッシュな気持ちでヘッドフォンを通して聴き、周波数バランス、ラウド感、パンニング、レンジ感、オートメーションなど、とにかく少しでも気になった部分を必ず調整しなおします。
スピーカーではもう合格点を出した上で、更にヘッドフォンで微細なチューニングをし、もう一度スピーカーで聴き、両方でバチッとキマる部分を探るイメージでしょうか。
なので、ヘッドフォンは価格帯別に5機種ほど使っています。大きなモニタースピーカーと違って、プラグを挿し替えるだけで気軽に音の違いをチェック出来るのがヘッドフォンの強みですよね(笑)
その際、ヘッドフォンに求めることはどういったことがありますか?
YAB:前述の通り、主にマスター最終チェックで使うことが多いので、モニターとしての正確性はもちろん、空間表現の精密さなども重視しています。
また、音自体の脚色の無さやトランジェントに対してのスピード感ももちろん重要だと思っています。
更に、私の場合はエンジニアとしてだけではなく、楽曲のプロデュースなどもしているため、作家さんから来るデモソングなどを外で聴くことも多いです。
その際、必ずしも静かな環境で聴けるわけではないので、遮音性もかなり気を使っています。
表現が難しいのですが、スピーカーと同じ感覚でシビアに音と向き合えるヘッドフォンというのを常に求めていますね。
今回、Neumann NDH 20を使ってみて、製品の第一印象をお聞かせください。
・音質について
・装着感について
・他のメーカーのヘッドフォンと比べての違い(長所/短所)
YAB:
実は、このヘッドフォンが発売された2019年春ごろから気になっていて、たしか夏ぐらいに一度ロックオン渋谷店さんまで試聴しに行ったことがあります(笑)
当時、Neumannがヘッドフォンを?!と周囲で話題になり、興味本位といいますか、どれどれ〜聴いてみようかくらいの気持ちで聴きに行ったのですが、あまりのクオリティの高さに驚いた記憶があります。
まず音質なのですが、ハイからローまで嫌な癖や歪みが全く感じられず、特にハイミッドの解像感とローエンドの広がりは素晴らしいの一言に尽きます。
私の仕事の9割以上は歌モノなのですが、ボーカルの空気感や定位感をハッキリとした輪郭をもって正確に頭の真ん中で再現してくれるヘッドフォンは他にないかもしれません。
また、これは装着感にも繋がる話になるのですが、すっぽりと耳を覆う形で装着できる分厚いイヤーパッドのおかげで、他のヘッドフォンと比較するとドライバーと耳の間に距離が生まれるんですね。
この距離感がすごくいい仕事をしていて、非常に音場が広く感じられます。
リバーブを掛ければふわっと広がる瞬間からテイルまでが手に取るようにわかりますし、ヘッドフォンでミキシングを完結させた時になりがちな平面的な音にもなりづらいです。
そのまま装着感でいうと、このイヤーパッドが形状記憶してくれるお陰で長時間作業時にも耳が疲れにくく、かつ密閉度も高いので外で音漏れにもそこまで気を使わなくて済みます。
NDH 20単体に対しての感想だけですと、この記事を見てくださる方に伝えきれないと思いますので、他機種とどう違うかを少々…。の前に、私のヘッドフォン遍歴を紹介させてください(笑)
私が最初に入社したスタジオでは、業務用にMDR-CD900STがメインで置いてありましたので、当然会社ではそちらを使い、また、その音に慣れていたので自宅などでの作業も同機種でチェックしていました。
900STは歴史も長いので、インターネットで少し検索するだけで色んな意見を目にできますが、私は今でも900STは良いヘッドフォンだと思っています。
その後、同じくSONY製のMDR-M1STをメイン機に変更し、しばらく使っていました。
こちらは900STに比べ音の重心がかなり低く、高域も緩やかに丸まっている印象で、打ち出してきた新しい音ってこんな感じか〜!と感じたことを覚えています。
他にも、Focalやaudio-technicaを使っていた時期もありました。
というわけで今回は、900STとM1STという、恐らく誰でも知っているであろうヘッドフォンと比較させていただきたいと思います。
まず、この2機種と比べると、NDH 20は圧倒的に重量を感じます(笑)
さきほど、長時間作業でも耳が疲れにくいと述べましたが、頭と首に来る重さは別です。
900STが約200g、M1STが約215gに対し、NDH 20は388g(それぞれ公式HPより引用)ということで、900STのほぼ2倍くらいの重量があります。
さっきまでたくさん良い事を述べましたが、NDH 20唯一の短所はこの重量感でしょうか。
ただ、これもイイ音の為なら…と割り切れるくらい音は良いので、強いて短所を挙げるとしたらという程度ではあります。
次に、M1STとNDH 20は容易にリケーブルが可能となっており、NDH 20については購入時にカールケーブルとストレートケーブルが1本ずつついてきますので、こちらは評価ポイントかなと思います。
音質に関しては、それぞれのキャラクターが違いすぎますので、個人的な感想にはなりますが、NDH 20は圧倒的に空間表現や定位感、バランス感覚が優れていると感じます。
900STはレスポンスの良さが素晴らしく、ノイズ等のモニターにはピッタリです。M1STは900STに比べて柔らかい音のイメージで、慣れると非常にモニターしやすい様にチューニングされているのが分かります。
低域を非常に豊かに再生してくれるので、NDH 20と交互に聴いて低域のパワー感覚を調整することもあります。
今回、改めてそれぞれのヘッドフォンと真剣に向き合ってみましたが、どれも素晴らしいヘッドフォンだなと感じました。
その中でもNDH 20は、歪みの無さ、周波数特性のフラットさ、レンジの広さなどのモニタリング性能で非常にバランスが良いことがよりわかりました。
ただ、Rec中に激しく頭を揺らして足の指に落ちたときのダメージはスゴいのでそこだけ気をつけてください(笑)
もし、Neumann NDH 20をミキシングに使うとするなら、注意点などありますか?
YAB:NDH 20をミキシングに使う時ですが、まず密閉性が高いので時々耳を休めてあげてください。
再生できる周波数もかなり上下に広いので、気持ちいいからといって音量を上げすぎるのにも注意です。
今は、周囲の環境に関係なく正確なモニター出来るヘッドフォンでミキシングをする方がかなり多いと思います。
NDH 20はフラットな特性で変な誇張が無いので、例えばもっともっと低域を気持ちよく出したい!と思って出しすぎると、他の環境で聴いた時に想像以上に低域が強調されて聴こえることがあります。
NDH 20でミキシングをする際は、100%気持ちいい部分から一歩引いて90%くらいの気持ち良さで止めておくと良いかなと個人的には思います。
Neumann NDH 20を他の人に勧めるなら、どういったユーザー、または用途ですか?
YAB:このヘッドフォンをオススメしたいのは、やはり私と同じ様にミキシング、マスタリングをメインでやっている方でしょうか。
また、遮音性の高さから、集中したい編集室やライブ会場でもかなりの実力を発揮しそうです。
また、音の分離感と解像度も素晴らしいので、ボーカリストさんがRecをする時のモニターにも良いですね。
定位感を掴みやすいので、楽曲制作をする方にももちろんオススメです。
音自体のクオリティが非常に高いので、リスニングでも気持ちよく使えると思います。
とかいってると、逆にオススメできない人がいないのではとなってきますねこれ(笑)
その他、Neumann NDH 20についてあれば、自由にお書きください。
YAB:このヘッドフォン、眼鏡のように折り畳めるようになっていまして、ポーチに入れてコンパクトに持ち運べるんです。
音質には関係ありませんが、気軽に持ち運べるヘッドフォンというのは実は結構評価ポイントとして高いと思います。
その他、プラグの変換アダプターが付属しており、3.5mmと6.3mmの両方に対応しているので、スマートフォンにも直接挿して音楽を聴くことができます。
このあたりの配慮も、現代の事情に合わせて様々な用途を想定し設計されたヘッドフォンなんだなぁと感心しました。
これで更にBluetooth対応キットみたいなのが出たら多分買っちゃいます(笑)
と冗談は程々に、この度は随分と語らせていただきありがとうございました!
記事内に掲載されている価格は 2021年9月6日 時点での価格となります。
最新記事ピックアップ